ようこそ一之瀬に愛される教室へ 作:クイヤ
【白波千尋】
私には今、気になる人がいる。
それは、同じクラスの一之瀬さんだ。
気になる人……と言ってしまったけれど、私は一之瀬さんのことが好きなんだと思う。
同じ女同士だなんておかしいって思う人もいるかもしれないけれど、それでも私は一之瀬さんのことが好きだ。
だって、私の事はなんでも知ってるみたいに気遣ってくれるし、何より可愛いんだもん。
私が少し落ち込んでたとき、すぐに気づいてくれた。
何気なくした話も覚えていてくれた。
誰かが困っていれば、迷うことなく手を差し伸べる。
しかも、それを特別なことだと思っていないみたいに、当たり前のようにやってしまう。
最初は、ただ優しい人なんだと思っていた。
でも、一緒に過ごす時間が増えるにつれて、どんどん惹かれていった。
あの長いピンクブロンドの髪を見たり、シトラスのような香りがしたりするだけで、私は一之瀬さんのことしか考えられなくなってしまう。
だけど、一之瀬さんは誰にでも優しい。
私だけが特別なわけじゃない。
そう考えると、少しだけ寂しくなる。
一之瀬さんにとって私は、大切な友達ですらなく、クラスメイトの一人なのかもしれない。
でも、それでも良い。
そう思おうとした。
友達として一緒にいられるだけでも幸せなのだから。
そう思っていたはずだった。
だけど、最近は少しだけ欲が出てきた。
もっと一之瀬さんの近くにいたい。
もっと私だけを見てほしい。
もっと私のことを知ってほしい。
そんなことを考えてしまう。
一之瀬さんが他の誰かと楽しそうにしているだけで、胸の奥がざわつく。
自分でも嫌になるくらい、小さな嫉妬をしてしまう。
もちろん、一之瀬さんには何も悪いことなんてない。
悪いのは、私の方だ。
そして、私には目の上のたんこぶがいる。
Dクラスの綾小路という生徒だ。
その生徒は一之瀬さんと仲がいいどころか、腕を組んで登校しているのだ。
付き合っているのかどうか聞いてみたところ付き合ってはいないらしいが、あれは何も無い男女の距離感ではないだろう。
私は日々悶々としていた。
そんなある日の休日、ケヤキモールの外れにあるベンチの近くを通りかかった。
そこで、一之瀬さんを見つけた。
隣にいるのは、忌々しい綾小路だった。
2人は何かを話していたが、ここからじゃ聞き取れない。
私は嫌なものを見たと思いながら、そのまま通り過ぎようとした。
その時、一之瀬さんが、彼に顔を近づけた。
そして二人の顔が、一瞬だけ重なった。
足が止まった。
何が起きたのか理解するまで、ほんの少し時間がかかった。
理解した瞬間、胸の奥が強く締めつけられた。
見てはいけないものを見てしまった。
私は、逃げるようにその場から離れた。
頭の中は真っ白だった。
さっき見た光景だけが、何度も頭の中に浮かんでくる。
一之瀬さんが特別に思っている人はあの人なんだと、嫌でも理解させられる。
そう考えた途端、胸の奥に嫌な感情が広がった。
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【綾小路清隆】
5月1日。
入学してから1ヶ月が経った。
相変わらず一之瀬との関係は続いている。
今日、ポイントが振り込まれるはずなのだが、残高のポイントは増えていない。
教室に入ると茶柱先生からこの学校の本当のシステムについて説明がされた。
端的に言うと、この学校は生徒を実力で測り、オレたちDクラスポイントは0ポイントだったこと。
クラスは実力順に配属され、オレたちは不良品の集まるDクラスだということ。
これらが説明された。
同じDクラスの連中からしたらこれは死刑宣告のようなものだろう。
これから0ポイントで生活していくのだ。
少なくともオレは昼と夜ご飯は当てがあるからいいが……
茶柱先生が、各クラスのポイントを張り出した。
Aクラス・940ポイント
Bクラス・980ポイント
Cクラス・490ポイント
Dクラス・0ポイント
「ど、どうしてBクラスは980ポイントも残ってんだよ!」
「ふむ。どうやらBクラスには初日にしてシステムに気づいた優秀な生徒がいるらしいぞ」
「な……!そんなのズルでしょ!」
「全くもってズルではない」
初日にシステムに気づいた生徒……恐らく一之瀬だろう。全く、恐ろしい程に優秀だな。
昼休み、オレは今日も一之瀬と屋上で食事を取っていた。
「Dはやっぱり0ポイントだったんだ……」
一之瀬の反応を見る限り、かなり早い段階から今回の結果を予想していたらしい。
「やっぱりて……そんなにうちのクラスが酷く見えたのか?」
「まあ、うん……。綾小路くんはポイント大丈夫?」
自分の残高を確認する。
今のところ、生活に困るほどではない。
何より、食事については一之瀬に頼っている部分が大きい。
昼食も夕食も用意してくれているため、食費について考える必要がほとんどない。
「まあ、あまりポイントを使うほうではないからな。他の連中に比べたらマシだろう。厳しいのは事実だが」
「良かったらだけど、ポイント送ろっか?私はポイントに余裕があるし」
「いや、大丈夫だ。既にお弁当に夜ご飯も作ってもらっているからな。これ以上貰ったらバチが当たりそうだ」
食費は何度か出そうとしたがいずれも断られている。
「そっかあ。困ったら言ってね?いつでもポイントなら送れるから」
「その時はよろしく頼む。それにしても、一之瀬は凄いな。初日からこの学校のシステムに気づくとは」
改めて考えてみても、やはり凄い。
オレ自身、この学校のシステムについて把握したのは入学初日ではなかった。
にもかかわらず、一之瀬はクラス全体をまとめながら、最初からポイントを減らさないように行動していた。
「いや、全然そんなことないよ……本当に」
どうして謙遜するのだろうか。
「オレは凄いと思うけどな。何より凄いのは、気づいてそれをクラスに広められた所だと思う。オレがもしクラスで同じことを言っても一蹴されるのがオチだっただろうからな」
「そうかな。ありがとうね」
一之瀬は少し照れたように笑った。
「感謝したいのはこっちの方だ」
「にゃはは、綾小路くん。本当にありがとう」
弁当を口に運び、一之瀬は箸を置いた。
そして、一之瀬の表情は真剣なものになる。
「綾小路くん。結構重要な話、というか提案があるんだけど、聞いてくれる?」
「ああ、なんだ?」
「良かったら、私のクラスに来ない?」
クラスを移動する?
オレの頭には無い考えだった。
「どういうことだ?」
「2000万プライベートポイントでクラス移籍ができるんだって。先の話にはなるけど、来てくれないかな?」
「それは魅力的な提案だが……2000万ポイントも溜まるのか?」
「うん。私たちのクラスはクラス貯金で月5万ポイントを集めてるからこれからポイントも増えていったらすぐにでも移籍できるよ」
一之瀬の言葉には迷いがない。
おそらく、この先のことまで考えた上での提案なのだろう。
「……そうなのか」
クラス移動……
今のクラスは友達が少なくて正直居心地が悪いし、とても魅力的な提案ではある。
ただ、ひとつ懸念点がある。
「それ、クラスのみんなは納得するのか?」
「うん、私が言うんだもん。それに、綾小路くんが凄く優秀な所を見せてくれたらみんなもすぐに納得してくれるはずだよ?」
一之瀬の言っていることは本当だろう。
人伝てに聞いても、一之瀬の求心力は物凄いらしいからな。
「それは助かるが、オレはそこまで優秀な生徒じゃないぞ」
一之瀬はオレのどこをそこまで買っているのだろうか。
「ううん。私は知ってるよ。綾小路くんが凄い人だってこと。だって、綾小路くんもこの学校のシステムの事は気づいてたしね」
「まあ、それはそうだが……」
「だから、これからは本気を出してね?綾小路くん」
「……ああ、分かった。その提案、受けさせてもらう」
そう答えると、一之瀬は嬉しそうに言う。
「本当?じゃあ、これからもっと頑張らないとね」
「ああ。2000万ポイントはかなりの大金だからな」
「うん。でも、綾小路くんなら大丈夫だよ」
「随分と信頼されているな」
「だって、綾小路くんだもん」
迷いのない返事だった。
「ああ、早く移籍してくれないかなあ。そうしたら毎日綾小路くんと一緒にいれるのに」
一之瀬はお弁当をつまみながらそう言う。
「いや、もうほぼ毎日一緒にいると思うんだが」
「えぇ、クラスが同じと違うとじゃ全然違うよー。だって、授業中はずっと綾小路くんのこと考えてるんだよ?」
「……よくそれで授業の内容が頭に入るな」
「そこは大丈夫。ちゃんと授業も聞いてるから」
「それならいいが……。程々にしておけよ?」
「えぇ、ちょっとくらい考えててもいいでしょ?」
「まあ、好きにすればいいんじゃないか」
「にゃはは。じゃあ、好きにするね」
一之瀬は楽しそうに笑った。
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その放課後、俺は茶柱先生に呼び出され、教員室まで来ていた。
そして今、オレはBクラスの担任らしい教師に絡まれている最中だ。
「ねえねえ綾小路くん。一之瀬さんとは付き合ってるの〜?」
オレの頬をつつきなながら星乃宮という先生は絡んでくる。
「いや、オレと一之瀬は付き合って……ないです」
「えぇー、なになにその間。もしかして付き合うまで秒読みなの?」
「まあ、そうかもしれないですね」
「否定しないんだー?」
「否定はしません」
「でもでもー。毎日腕を組んで登校してるなんて付き合ってるとしか思えないんだけど?」
確かに、客観的に見て付き合ってない方がおかしいのだろうか。
「でも、付き合ってないんで」
「へぇ〜、毎日部屋にも行ってるのに?」
「いや、なんで知ってるんですか」
「あ、やっぱり行ってるんだぁ」
どうやらカマをかけられたらしい。
このオレがなんという失態だ。
その後、茶柱先生にオレは連行され、堀北の訴えを聞かされた。
堀北にAクラスを目指すように協力するように言われたオレだったが、一之瀬のクラスに移籍する予定があるので正直どうでも良い。