ようこそ一之瀬に愛される教室へ 作:クイヤ
中間テストが迫る中、オレは堀北から須藤たち3人を勉強会に誘ってくるように命令されていた。
オレとしては、自分の成績さえ取れれば特に問題はないのだが、どうやらそういうわけにもいかないらしい。
面倒なことになったものだ。
「ということで、勉強会に参加しないか?」
「けっ!だれが彼女持ちの言うことなんて聞くかよ!」
「そうだ!冷やかしなら帰れ!」
と、こんな感じで池と山内には断られてしまった。
須藤にもすげなく断られ、オレはとぼとぼと堀北の元へ向かった。
「あなた、本当に役に立たないわね」
「いや、しょうがないだろう。あいつらにやる気が無さすぎる」
「そこをどうにかするのがあなたの仕事でしょう?」
「いや、まあそうなんだが……。今更だが、自分の勉強は自分でするし、オレを巻き込まないでくれないか?」
「あなた、Aクラスになるのに協力するって言ったじゃない」
「一言も言った覚えはないぞ。幻聴はよせ」
「あなたねえ……。とにかく、拒否権はあなたにはないから、どうにかしてあの人たちを勉強会に連れてきてちょうだい」
「……はい」
その後、オレはあいつらを勉強会に誘ういい作戦を考えついた。
櫛田を誘い、それをダシにして勉強会に誘うのだ。
我ながらなかなかいい作戦だろう。
この作戦は的確だったようで、見事全員が参加してくれる事になった。
しかし、勉強会は失敗してしまった。
何故かって?堀北が真面目にやらない須藤に暴言を吐いてしまい、その後キレる須藤たちを見限ってしまったからだ。
おい、せっかく集めたのに失敗させるなよ……
勉強会が失敗した後、櫛田がどこかへと向かっていった。
どこに向かうのか気になったオレは、櫛田を追いかけることにした。
ストーカーとは言うなよ。
櫛田は屋上へと向かっていった。
屋上に何か用事があるのだろうか?
「あー、ウザい」
櫛田の声とは思えないほど低音で冷たい声が屋上に響き渡った。
嘘だろ、これがあの櫛田なのか?
「マジでウザい、ムカつく。死ねば良いのに……自分が可愛いと思ってお高く止まりやがって。あんたみたいな性格の女が、勉強なんて教えられるわけないっつーの」
櫛田とは思えない暴言の数々が屋上に響く。
見られてたと知ったら大変なことになりそうなので、音を立てずに帰ろうとする。
だが、タイミング悪く櫛田はオレの方を振り返ってしまった。
「綾小路くん?聞いてたの?」
「悪い、最初からな」
「チッ。まじ最悪……誰かに話したら容赦しないからね」
「話したらどうなるんだ?」
「あんたにレイプされたって言いふらしてやる」
「冤罪だぞ、それ」
「大丈夫、冤罪じゃなくなるから」
そう言って櫛田はオレの腕を掴み、自分の胸へと押し当てる。
危ない危ない、一之瀬の胸で慣れていなければ動揺していたところだった。
……いや、変な意味じゃないぞ?
腕を組む時に当たるからな、それだけだ。
「これであんたの指紋べっとり付いたから」
「……分かった。誰にもこのことは言わない」
その後、オレは逃げるように帰って行った。
───────────────────────
「綾小路くん、今日もしかして何かあった?」
一之瀬の部屋で夜ご飯を食べていると、そう一之瀬に問いかけられた。
「分かるか?」
「うん、なんか女の子の匂いもするし……誰?」
匂いなんて分かるものだろうか……
オレには感じ取れないが。
「一之瀬には言ってもいいか……櫛田だ」
「櫛田さん?何があったの?」
オレは屋上であったことを一之瀬に話すか迷う。
誰にも話さないと言った手前気が引けるが、もしものために一之瀬に相談するのも手だろう。
それに、一之瀬なら誰にも言わないだろうしな。
「実はこういうことがあってな……」
オレは事の経緯を説明する。
「待って、胸、触ったの?櫛田さんの?」
1番に反応するのがそこなのか?
普通、櫛田の本性に驚くところではないのだろうか
「いや、まあ不可抗力というか……」
「綾小路くんの身体能力だったら絶対避けれたよね?」
「……」
「だよね?触りたかったの?私の胸の方が大きいのに?」
「……まあ、避けれなかったと言ったら嘘になるな」
「綾小路くん、こっちを見て」
一之瀬の方を見ると顔は笑っている。
が、目は笑っていない。
正直怖い。
「私の胸も触ってよ」
「え?」
「だから、私の胸も触ってって言ってるの」
「いや、まだ付き合ってないのにそれはなんというか……」
「いや、もうキスもしたじゃん。それに、櫛田さんの胸は触ったんでしょ?」
「まあ、それはそうだが……」
「じゃあ、触って?」
「はい……」
オレは恐る恐る一之瀬の胸へ手を伸ばす。
「んっ」
手の平に柔らかな感触が伝わる。
……なるほど、櫛田とはまた違うな。
っていやいや、オレは何を考えているんだ。
「これで良いか?」
「うん、良いよ。今度もしこういうことがあったら私に許可をとってよね?」
オレは頷いて肯定の意思を表す。
逆に許可をとったら良いのか……
「それにしても、櫛田さんにそんな一面があっただなんて、びっくりだね」
「ああ、そうだな。オレも驚いた。しかし、脅されるのは流石に計算外だった」
「大丈夫だよ、綾小路くん。もし櫛田さんに陥れらても、絶対に私が助けてあげるからね」
「そうか。それは助かる」
実際、こういう脅しは女性である一之瀬に対処してもらった方が良いだろう。
「あと、いつでも触っていいんだからね?」
「……そうか」
どこをだろうか、オレ分かんない。
───────────────────────
晩御飯を食べ終え、一之瀬とたわいもない話をしていると中々遅い時間になってしまった。
「綾小路くん、外に散歩しに行かない?」
「今からか?」
「うん、夜の散歩っていいじゃん」
「確かにな。分からなくもない」
ということで、夜の散歩に行くことになった。
夜の敷地内は昼間の喧騒が嘘のように静まり返っており、雰囲気があった。
一通り話をしながら回った後、寮に戻る。
「綾小路くん、なにか声聞こえない?」
「そうだな。オレたちみたいに起きている生徒がいるのかもな」
「……必ずたどり着きます、Aクラスに」
「無理だ。お前は何も変わっていない」
聞こえてくるのは、緊張感のある声で喋っている女子生徒の声と男子生徒の声だ。
この声……堀北か?
「違います。もう兄さんの知っている頃のダメな私とは違うんです」
兄さん……相手は生徒会長の堀北学か?
「なんども言わせるな、お前にはAクラスに上がることは無理だ。お前のことが周囲に知られれば、恥をかくのはこの俺だ。今すぐこの学校を去れ」
「……出来ません、私は絶対にAクラスに上がってみせます」
「お前には上を目指す力も資格もない。それを知れ」
堀北の体が捕まれ、宙に浮く。
オレはとっさに飛び出し、堀北学の腕を掴む。
「……何だ?お前は?」
「あんた、今堀北を投げ飛ばそうとしただろ、ここの下はコンクリだぞ?どんな怪我をするか分かったもんじゃない」
「盗み聞きとは感心しないな」
「とにかく、その手を離せ」
次の瞬間、凄い勢いで裏拳が飛んできた。
オレは体を半身にしてのけぞるようにして避ける。
次に、急所を狙った蹴りが飛んでくる。
「あっぶね!」
この勢い、当たればオレでさえ意識を失ってしまうだろう。殺す気か。
「ほう?今のを避けるか、中々いい動きだな、何か習っていたのか?」
「ピアノと茶道なら」
「驚いた。鈴音にこんな友人がいるとはな」
「……彼は友人ではありません」
「未だに孤高と孤独を履き違えているようだな、鈴音。Aクラスに上がりたかったら、死に物狂いで足掻け。それしか方法はない」
そして、堀北学は去っていった。
「あなた……いつから聞いていたの?それに、そこにいるのは……一之瀬さん?」
「流石綾小路くん!凄くかっこよかったよ!堀北会長って強いって有名なのに!」
「まあ、それほどでもないけどな」
「あ、あなたたちね……」
「ねえ、綾小路くん、後で今の動画見る?」
「おい、いつの間に動画を撮っていたんだ」
「最初からだよ?この動画はどうやって使おうかなー」
一之瀬は楽しそうにニコニコと笑っている。
どうやって使うって……
「まさか、生徒会長を脅すつもりじゃないだろうな」
「そのまさかだよ?生徒会長なら沢山ポイント持ってるだろうし、綾小路くんも嬉しいでしょ?」
「まあ、確かにそうだな」
「あなたたち……何を言ってるか分かってるの?そんなことは今すぐやめなさい」
「えっと、堀北さんは止めれる立場にないよ?綾小路くんに助けてもらったんだし」
「私は別に助けて貰わなくても……」
「大怪我してたかもしれないのによくそんなこと言えるね。とりあえず綾小路くんに感謝したら?」
「……いや、いいわ」
「そっか、じゃあまたね。堀北さん。行こっか?綾小路くん」
「ああ、そうだな」
そうしてオレたちは帰路に着いた。