ようこそ一之瀬に愛される教室へ   作:クイヤ

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第6話

勉強会は失敗し、その当日に櫛田に脅され、そして生徒会長に暴力を振るわれる……

こうして書いてみるとこの前は散々な1日だったな。

一之瀬にメンタルケアして貰えなければどうなっていたことか……

 

オレは本当にこのクラスを助ける必要があるのか疑問に思えてきたぞ。

まあ、今まで同じ教室で学んできた奴らが退学になるのも目覚めが悪いし、最低限は助けてやるか。あくまで最低限な。

クラスそのものに思い入れがあるわけではない。

それでも、目の前で誰かが退学になるのを黙って見ているほど薄情でもないつもりだ。

結局のところ、オレが動く理由なんてその程度だ。

 

と、いうことで過去問を入手することにした。

勉強会をもう一度開くよりは効率が良いだろう。

自分で上級生から購入してもいいのだが、あの優秀な一之瀬ならもう入手しているだろうか。

 

 

「一之瀬、中間試験の過去問って持ってるか?」

 

一之瀬と話す機会はいくらでもあるので、すぐに聞いてみることにした。

 

「うん、持ってるよ。欲しいならあげようか?」

 

「そうか、助かる」

 

あっさりと手に入ってしまった。

やはり、一之瀬に頼んで正解だったな。

 

「でも、綾小路くんには必要ないと思うけどな。クラスの人に配るの?」

 

「まあな。クラスで退学者が出るのは流石にな」

 

「ふーん。まあ、いいよ。綾小路くんの頼みだしね」

 

こうして一之瀬から過去問を譲り受けたオレは、中間試験の一日前に過去問を配ることにした。

 

もっと早く配るという選択肢もあったが、あまり早く渡せば連中は安心して勉強をしなくなる可能性がある。

試験直前なら、さすがに危機感を持って取り組むだろう。

 

「みんな、ちょっと聞いてもらえるか」

 

「何かな?綾小路くん」

 

「これを見てくれ、中間試験の過去問だ。どうやら、中間試験はこれと全く同じ問題がでるらしい。そうでなくても、これは役に立つと思うから是非役立ててくれ」

 

「まじかよ!そんなのがあったらもっと早く教えてくれよー」

 

「だよね。勉強する意味なかったかも」

 

「まあまあ、ここは綾小路くんに感謝しようよ」

 

様々な声が飛び交うが、平田がそれを宥める。

確かに配るのが遅かったとはいえ、あまり感謝されないのはなぜなんだ……

 

「あなた、赤点組を助ける気があったのね」

 

席に戻ると、堀北に話しかけられた。

 

「退学になられても目覚めが悪いだけだ。あくまで最低限の助けしかしないと決めていたがな」

 

「そう。私には理解できないわ」

 

堀北、お前がちゃんと勉強会をできていれば俺が動く必要は無かったんだけどな……

 

そして、運命の結果発表の日。

 

中間試験は予想通り過去問と同じ問題が出たので全員が突破できると思っていたのだが、須藤が1点足りず赤点を取ってしまった。

 

ポイントを払えば点数を買えるかもしれないが……

オレにそこまでする義理はないだろう。

 

そうして、須藤は退学になった。

 

 

─────────‪──────────────

 

 

「まさか、Dクラスから退学者が出るなんてねー。過去問は配ったんでしょ?」

 

「ああ、切羽詰まって覚えるように前日に配ったんだが、それが裏目に出たみたいだ」

 

仮に3日前に渡していたら恐らく赤点は出なかっただろう。

 

「綾小路くんは悪くないよ……。悪いのは勉強をしてこなかった須藤君だしね」

 

一之瀬はオレを慰めるようにそう言う。

 

「それにしても、須藤くんが退学かあ……Dクラスは大変そうだね」

 

「まあ、そうだな。須藤の運動能力には目を見張るものがあった。それが無くなると考えるとDクラスにとっては痛手だな」

 

「いつかは綾小路くんもいなくなるって考えるとDクラスはだいぶ厳しそうだねぇ」

 

一之瀬は苦笑いを浮かべる。

 

「確かにそうだな」

 

オレは否定しなかった。

 

既に一之瀬のクラスへ移ることを決めている以上、Dクラスに肩入れはあまりすべきではない。

 

そもそも、オレがこのクラスに強い愛着を持っているわけでもない。

唯一の友達と思っていた櫛田には脅されたし、隣にはコンパスで刺してくる生徒もいるし、このクラスに愛着を持てというほうが難しい話だ。

 

「……綾小路くん」

 

「なんだ?」

 

「本当に、私のクラスに来てくれるんだよね?」

 

一之瀬の声が、ほんの少しだけ不安そうになる。

 

「当たり前だ。2000万ポイントが必要という問題はあるが、一之瀬が協力してくれるなら不可能ではないだろう」

 

「うん。それはもちろん。綾小路くんが来てくれるなら、私ももっと頑張れるし」

 

「そうか。……一之瀬がいるならAクラスはずっと維持できそうだな」

 

「まあ、そうだね。でも、綾小路くんがいたらもっと磐石になると思うんだけどなぁ」

 

いつもの一之瀬なら謙遜すると思ったが、自分の実力を素直に認めたな。

一之瀬にしては珍しい。

 

 

─────────‪──────────────

 

 

その日の放課後。

 

教室を出ようとしたところで、堀北に呼び止められた。

 

「綾小路くん、少し話があるわ」

 

「……なんだ?」

 

嫌な予感しかしない。

ここ最近、堀北から話しかけられるとろくなことがない。

 

「中間試験の件だけれど、須藤くんが退学になったことで、私たちが置かれている状況がより明確になったわ」

 

堀北は真剣な表情をしている。

 

「このままではDクラスから上がることはできない」

 

「そうだな」

 

「だから、これからはもっと積極的に動く必要があると思うの」

 

「……オレはもう十分動いたと思うが」

 

過去問を手に入れ、クラス全員に配った。

それでも須藤は退学になった。

これ以上、何をしろというのだろう。

 

「あなたには、まだできることがあるはずよ」

 

「そう言われてもな」

 

「次の試験でも協力してもらうわ」

 

「断る。それに、今回協力してお前は失敗しただろう」

 

「……それは」

 

「オレはこのクラスをAクラスにあげるつもりはない」

 

「……あなた、本気でそう思っているの?」

 

「ああ、そうだ。このクラスに執着する理由もないしな」

 

堀北は何かを察したように目を細める。

 

「まさか……いや、そんなこと出来るはずもないわ」

 

オレは教室の外へ視線を向ける。

 

廊下の向こうでは、生徒たちがそれぞれの友人と話しながら歩いている。

入学したばかりの頃なら、オレもその輪の中に入りたいと思っていたかもしれない。

 

だが、今は違う。

オレには一之瀬がいる。

それだけで十分だと思えていた。

 

「じゃあな、堀北」

 

これ以上話す必要はない。

オレはそのまま教室を後にした。

 

 

─────────‪──────────────

 

 

教室を後にし、寮へと帰ろうとしていると、一之瀬が一人の男子生徒と歩いているところを見かけた。

 

一之瀬が男子生徒と二人きりで歩いているところを見るのはめったになかった。

いつもなら、クラスメイトの何人かと一緒にいることが多い。

それなのに今日は、なぜか二人だけだった。

 

少し気になった俺は、歩く速度を落として二人の様子を眺める。

 

男子生徒はどこか緊張しているように見えた。

 

一之瀬も普段とは少し違う。

いつものような明るい笑顔ではなく、少し真剣な表情だった。

 

二人はそのまま寮とは反対方向へ進み、校舎裏の人通りが少ない場所で足を止めた。

 

俺も少し離れた場所で立ち止まる。

盗み聞きをするつもりはなかった。

ただ、なんとなく気になっただけだ。

 

「一之瀬さん……」

 

男子生徒が意を決したように口を開く。

 

「好きです!付き合ってください!」

 

なるほど、告白か。

一之瀬はモテるからな。

ただ一之瀬が告白されていると言うだけなのだが、何か胸につっかえるようなものを感じる。

 

オレはこれを聞くべきではない。

そう思ったが、足は動かなかった。

 

「……ごめんなさい。あなたとは付き合えない」

 

やがて、一之瀬が静かに頭を下げた

その瞬間、何故か少しだけ安心している自分がいた。

 

「ど、どうして?好きな人がいるの?」

 

「うん。私、好きな人がいるんだ」

 

「もしかして、綾小路ってやつのことか?」

 

「うん、そうだよ。私は綾小路くんのことが好き」

 

「あんなやつよりオレの方が幸せにするから!ダメか?」

 

「ううん。綾小路くんはとっても素敵な人だから。ダメかな」

 

「そ、そうか。ごめんね。好きな人の悪口言っちゃって。そんなつもりはなかったんだけど」

 

男子生徒は残念そうな表情を浮かべながらも、それ以上は何も言わなかった。

 

男子生徒が去っていき、一之瀬はその場に一人で残った。

 

俺もそろそろ帰ろう。

 

そう思って歩き出そうとしたところで、一之瀬がこちらを振り返った。

 

「……あ」

 

目が合ってしまった。

 

「綾小路くん、盗み聞きとは感心しないな?」

 

「……気づいていたのか」

 

「うん。さっきからそこにいたよね?」

 

どうやら最初から気づかれていたらしい。

 

「悪い。盗み聞きするつもりはなかったんだが……」

 

「ううん。大丈夫だよ」

 

一之瀬はいつものように笑った。

 

ただ、その笑顔にはどこか嬉しそうなものが混じっている。

 

「もしかしなくても、今の……全部聞いてたよね?」

 

「悪い。最初から最後までな」

 

「そっか……」

 

一之瀬は少し恥ずかしそうに視線を逸らした。

 

「じゃあ、私が綾小路くんのことを好きって言ったのも聞いたんだね」

 

「まあな」

 

「……恥ずかしいなあ」

 

そう言いながらも、一之瀬はどこか嬉しそうだった。

 

「それにしても、綾小路くん、嫉妬してくれた?」

 

「嫉妬?」

 

「ほら、私が男の子から告白されてたから」

 

嫉妬、恋愛や人間関係において、大切な相手の愛情が他の人に向くのを恐れ、やきもちを焼くこと、か。

あの胸のつっかえはこれが原因だったのかもな。

 

「していた……かもしれない」

 

「えぇ!本当に!?」

 

「いや、そこまで驚くことか?」

 

「驚くよ……そうやって綾小路くんが言うの珍しいもん」

 

「オレは一之瀬のことは大切に思っているからな。嫉妬するのは当然だろう」

 

一之瀬は俯いてしまう。

その口元には、小さな笑みが浮かんでいた。

 

「えへへ……」

 

「何かおかしいか?」

 

「ううん。何でもないよ」

 

一之瀬はそう言って、俺の方へ近づいてくる。

そして、いつものように俺の腕へ自分の腕を絡めた。

 

腕を組んだ一之瀬の体温が伝わってくる。

いつものことのはずなのに、今日は妙に意識してしまう。

 

「帰ろっか、綾小路くん」

 

「ああ、そうだな」

 

寮へ向かう道を、俺たちは並んで歩く。

 

オレは今、一之瀬が隣で歩いていることに対して安心感を覚えている。

 

これが恋愛感情なのだろうか……

オレにはまだ分からない。

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