魔法生物飼育員は今日もかわいいに忙しい ~大学教授に紹介された最初の担当は、手のひらサイズの小竜でした~ 作:パラレル・ゲーマー
火曜日の夕方。
大学からアパートへ帰宅した水野拓海は、自室のドアを開けて真っ先にケージの方を見た。
高所休息棚の屋根。
ルリはいつものようにそこで丸くなっている。
そしてその横には、三つの『宝物』が並んでいた。
いびつなコルク片。
白い丸石。
どんぐりの帽子(殻斗)。
「…………増えたままだな」
もちろん、屋根の上のアイテムが三個に増えたのは、二回目の屋外馴化を行った先週の土曜日のことだ。それ以来、この三点は多少位置を変えながらも、ずっと屋根の上に存在し続けている。
日曜日の朝は、コルク、白石、どんぐり帽子の順に並んでいた。月曜日の夜には、白石が少し手前に来て、コルクが奥へ移動し、どんぐり帽子が数センチ横へずれていた。
ルリが鼻先や前脚を使って位置を変更している様子も数回確認されている。
だが、拓海はそれを「ルリが綺麗に並べ直している」とか「整理整頓している」とは言わない。『特定物体に対する位置変更の行動を観察』とだけ事実を記録する。
問題なのは、その数だ。
高所休息棚の屋根は、もともとルリが休むためだけに設計したもので、面積は約十二センチ×十五センチ程度しかない。
ルリ自身の全長が十から十二センチ。
今はまだアイテムが三つ程度なので、ルリが身体を休める空間は確保されている。
しかし。
もし今後、外へ行くたびにルリが一個ずつ新しい『お気に入り』を拾ってきたらどうなるか。
拓海は屋根を見つめて呟いた。
「…………これ、本当に五個、十個ってなったら、確実にお前の寝る場所なくなるだろ」
「きゅ?」
「お前が毎晩寝てる場所の話だよ」
ルリは不思議そうに首を傾げた。意味は伝わっていないだろう。
***
拓海は机に向かい、レポート用紙に簡単なスケッチを描き始めた。
最初は単純に、「屋根の上に収納用の小箱を置こう」と考えた。
しかし、すぐにその案を却下する。屋根の上に箱を置けば、それ自体が屋根の面積をさらに奪ってしまう。ルリが休むためのスペースを狭めるのは本末転倒だ。
そこで拓海は、高所休息棚のすぐ横の側面に、別の小さな収納スペースを増設する案を考えた。
既存のケージは高さ九十センチの縦型。側面にはまだ十分な空間の余裕がある。
現在の休息棚とほぼ同じ高さに、ケージのフレームに固定する形で、小さな補助棚と浅型の箱を追加するのだ。
拓海はスマートフォンを取り出し、指定アプリを開いた。
『先生。宝物用の収納を作ろうと思うんですけど』
榊原教授からの返信は早かった。
『もう収納が必要になったの?』
『まだ三つしかないですけど、屋根の面積がそもそも小さいんですよ。増え続けたら彼自身の寝る場所がなくなると思って』
アプリのセキュリティ上、個人のスマホで撮影した写真を直接送ることはできない。拓海は、認可撮影端末で撮った最新の屋根の状況写真のシステム記録番号を伝え、榊原に確認してもらった。
『なるほど。確かに現状でも少し手狭に見えるね。補助棚と浅い箱の増設は許可する』
しかし、榊原からすぐに重要な指摘が飛んできた。
『ただし。ルリがその小さな箱に、素直に宝物を入れてくれるとは限らないよ』
拓海はキーを叩く手を止めた。
『……ですよね』
言われるまでもない。これまでの経験で嫌というほど学習している。
『前に寝床を作った時、どうなったっけ?』
拓海はケージの屋根を見た。
『……俺が一生懸命作った「中」じゃなくて、屋根の上で寝ましたね』
『そういうこと』
榊原のメッセージは続く。
『それと、箱を付けるなら「物だけが入る小さなサイズ」を前提で作らないこと』
『というと?』
『ルリ本人が入ってしまっても安全な構造にすることだよ』
拓海の指が完全に止まった。
『…………ルリが、入ります?』
『俺は知らないよ。ただ、そういうことも想定して作るのが飼育設備だ』
***
設計開始。
拓海の個人的な呼称としては《宝物箱》だが、正式な飼育記録や図面上の名称は《新設浅型収納容器》とする。
外寸、約十五センチ×十一センチ。
内寸、約十三センチ×九センチ。
高さ、約三センチ。
ルリが身体を少し曲げれば、ちょうど全身が入るサイズだ。
深すぎないように設定し、ルリが中に飛び込んでも容易に出られる高さを確保する。
そして、絶対に『蓋』は付けない。
閉じ込め事故の防止、換気、観察性の確保、そしてルリが自由に出入りできるようにするためだ。
材質は無塗装の安全確認済み木材。角はすべてヤスリで丸め、毛羽立ちは完全になくす。ルリが口にする可能性を考慮し、接着剤の露出や金属部品の突出も排除する。
底面は、細かな滑り止め加工を施した木面のままとした。あえてコルクを敷くことはしない。なぜなら、「コルクの感触があるから入った」という新しい行動条件を増やして、観察を複雑にしたくなかったからだ。
固定方法。
宝物箱そのものを屋根へ置くのではなく、高所休息棚の横側、ケージのフレームに専用の着脱可能な固定具を使って小型の補助棚を設置し、その上に箱をしっかりと固定する。
揺れない、傾かない、ルリが縁に乗っても絶対に転倒しない強度。
そして、休息棚の屋根から直接ジャンプしなくても、既存の枝を伝ってスムーズに行き来できる位置を計算した。
拓海は完成した設計図を見て、ため息をついた。
「……たかが宝物三個しまうだけなのに、なんか大工事の図面になってないか?」
***
午後六時。
大学帰りに必要な材料を揃えて帰宅した拓海は、すぐに工作に取り掛かった。
工作時は、ルリを近くへ出さないのが鉄則だ。工具、飛び散る木屑、微細な粉塵。すべてが小さな魔法生物にとっては危険要素だ。
拓海はルリを指定キャリーへ自発入室させ、扉を閉めて安全を確保してから、ケージの横で作業を開始した。
木材のカット、ヤスリがけ、角の丸め処理。
念入りに清掃し、粉を完全に除去する。
補助棚をケージのフレームに固定し、その上に浅型容器を固定する。
指で押す。動かない。少し体重をかけて荷重をチェックする。全く問題なし。
「よし。完成だ」
ここで、拓海にとって最大のルールがあった。
屋根の上にある既存の三つのアイテム――コルク片、白石、どんぐりの帽子は、全部そのまま屋根の上に残しておくこと。
拓海の手で一個たりとも箱の中へ移動させたりはしない。
「俺が勝手に入れたら、観察の意味がないからな」
ルリが自発的にどう行動するか。それがすべてだ。
***
拓海はキャリーの扉を開けた。
ルリが自分でキャリーから出て、ケージの中へ。
枝を伝い、いつもの屋根の方向へと登っていく。
その途中。
ルリは、自分がいつも寝ている場所のすぐ横に、新しい『箱』があることに気づいた。
ルリの頭の動きがピタッと止まる。
「気づいた」
拓海は少し離れた場所で息を潜めた。
ルリは既存の枝を伝い、新しい箱のすぐ近くへと移動した。
鼻先を近づけ。
すん。
箱の縁の匂いを嗅ぐ。
そして、右の前脚を上げて。
ちょい。
箱を軽く叩いた。当然、ガッチリと固定されているのでほぼ動かない。
もう一度。
ちょい。
安全を確認したのか、ルリはさらに一歩前へ出た。
右前脚を、箱の中へ。
ぺた。
続いて、左前脚も箱の中へ。
(お、宝物箱、使うか?)
拓海は期待で身を乗り出しかけた。
ルリが後脚を動かす。
そして。
すぽっ。
ルリの全身が、箱の中に入った。
「…………」
拓海は無言になった。
ルリは箱の中でくるりと一度向きを変えた。短い尻尾が、箱の内側に沿って綺麗に曲がる。
四脚を折りたたみ、身体を低くする。
内寸十三センチ×九センチの小さな箱に、ルリの身体が完璧に、ジャストサイズで収まっていた。
「…………お前が、入るの?」
一秒後。
「いや、俺が収納したいのはそっちじゃない」
拓海は突っ込んだ。
十五センチ程度の真新しい無地の小箱。
その中に、十から十二センチの赤銅色のルリがすっぽりと収まり、箱の縁から大きな瑠璃色の目だけを出してこちらを見ている。
完全に『箱入りドラゴン』だった。
拓海は顔を覆った。完全敗北だ。
「…………かわいい」
文句のつけようがない。
机の端に固定している認可撮影端末は、当然この一部始終を録画している。
小箱から顔を出すルリ。今日一番のベストショットになることは既に確定した。
ルリは箱の中で、すっかりくつろいでしまったようだった。
約三分程度、そのままの姿勢で滞在している。
途中、箱の縁にちょこんと顎を乗せるような仕草も見せた。反則級の破壊力だが、拓海は記録には「縁に顎を乗せた」とだけ書き、「くつろいでいる」と感情的な断定はしない。
「これ、宝物箱じゃなくて、ルリの二軒目の寝床になる可能性あるな……」
第4話の悪夢、再び。人間が用意した用途など、動物には一切関係ないのだ。
***
数分後。
ルリが立ち上がり、箱の縁に前脚をかけて、外の既存の枝へと自発的に退出した。
そして、そのまま高所休息棚の屋根の上へ。
そこには、三つの宝物(コルク、白石、どんぐり帽子)が、まだそのまま置かれている。
「……で、そっちはどうするんだ?」
拓海の問いかけに、ルリが答えるはずもない。
五分経過。
ルリは屋根の上で、白い石を、ちょい、と鼻先で触っただけ。
新しい箱へ運ぶような素振りは全く見せない。
「まあ、そう都合よくはいかないか」
拓海はため息をついた。新しい設備を設置した直後に、人間の期待通りの行動を全て完璧にやってのけることなどあり得ないのだ。
拓海は一旦観察を切り上げ、机に向かって大学の課題に取り掛かることにした。
紙バインダーを広げ、レポート用紙にペンを走らせる。
ルリはケージの中。新しい箱は、空っぽのままだ。
拓海は課題をしながらも、ついチラチラと箱の方を見てしまう。
「見るな俺。期待するな」
自分を戒めながら、ペンを動かす。
***
それから、十数分が経過した。
コトッ。
微かな音が、ケージの方向から聞こえた。
拓海はペンを止め、顔を上げた。
「ん?」
ケージの中を見る。
ルリが、屋根から既存の枝へと移動している最中だった。
そして。
ルリの小さな口には、あの『白い丸石』が咥えられていた。
拓海は完全に静止した。呼吸すら止める。
ルリは白石を咥えたまま枝を伝い、新しい箱のすぐ近くへ。
箱の縁で止まり、口を少し開く。
ころ。
白い丸石が、箱の中へと落ちた。
「…………入れた」
拓海の声は極限まで小さかった。
さらに一秒後。
「入れた!!」
今度は少し大きな声が出てしまった。
だが、拓海は喜びすぎないように自分を律した。
白石が一個入っただけだ。偶然、その位置まで咥えていって落とした可能性もまだ残っている。
急いでバインダーに記録する。
『既存白色小石を高所休息棚屋根から新設浅型容器内へ運搬』
ルリは、また屋根へと戻っていった。
そして。
どんぐりの帽子に鼻先を寄せ。
かぷ。
咥えた。
「…………」
拓海はもう、次に何が起きるか分かっていた。
枝を伝い。箱の縁へ。
ころ。
白石のすぐ横に、どんぐりの帽子が落ちた。
「二個目……」
拓海は両手で自分の口を押さえた。歓声が漏れそうになるのを必死に防ぐ。
そして、最後。
最も緊張する瞬間だった。
コルク片。
ルリが最初に見つけ、最も長く保持され、毎晩寝床の横に置かれている、最大の『お気に入り』。
ルリは屋根に戻り、コルク片の横でしばらく止まった。
拓海は、見ないふりをしながら視界の端で強烈に監視している。
ルリが、コルクに。
かぷ。
「来た」
コルク片は三〜四センチあり、白石やどんぐりよりも大きい。ルリの口にはかなりかさばるはずだ。
しかしルリは、見事なバランス感覚で枝を渡り、途中で落とすこともなく箱の縁へ。
ころ。
箱の中。
コルク片、白石、どんぐりの帽子。
三つのアイテムが、新設した浅型の箱の中にすべて収まった。
屋根の上は、完全に空いた。
「…………全部、移した」
拓海は震える手で記録を書いた。
ただし、正式な記録には「綺麗に片付けた」「収納した」とは書かない。
『既存三対象を順次、新設浅型容器内へ運搬』。あくまで行動の事実だけだ。
***
拓海は、三つのアイテムが収まった箱を見つめ、深く頷いた。
「よし。今度こそ、本当に宝物箱として――」
そう言いかけた時だった。
ルリが、アイテムが三つ入っている箱の縁に、再び前脚をかけたのだ。
「え」
後脚も。
すぽっ。
三つの宝物と一緒に。
ルリ本人も、箱の中へ入ってしまった。
「いや、お前も入るんかい!」
拓海の盛大なツッコミが部屋に響き渡った。
箱の中。
コルク。白石。どんぐりの帽子。
その真ん中で、ルリが身体を低くして丸まっている。
三点のアイテムは、ルリの身体のすぐ脇に並べられている。
見た目は完全に、『自分の宝物に囲まれて満足そうな小さなドラゴン』そのものだった。
ただ、その宝物が、金貨でも宝石でもなく、工作の端材、その辺の石ころ、空っぽのどんぐりの帽子、というのが、最高にこの作品らしくて拓海のツボに入った。
「ドラゴンの宝物って、普通もっと金貨の山とか、デカい宝石とかじゃないのか……?」
拓海は笑いながら呟き、すぐに言う。
「いや、お前には金の価値なんか関係ないか。それがお前の宝物なんだもんな」
「きゅ」
ルリが箱の中から短く鳴いた。
「もうこれ、完全に宝物箱でいいだろ」
拓海の中で、日常呼称が確定した瞬間だった。もちろん正式記録は『浅型容器』のままだが。
***
数分後。
ルリは箱から出た。
そして、屋根へ。いつもの定位置へ移動し、身体を低くして休息の姿勢に入った。
つまり、ルリの休息の本拠地は、今のところやはり屋根のままだった。
宝物は、箱の中。
ルリは、屋根の上。
収納システムとしては、見事に綺麗に機能している。ただし、時々本人も宝物と一緒に箱に入る、というオプション付きで。
拓海はバインダーに向かい、正式記録をまとめた。
【新設備】
『高所休息棚近傍へ新規浅型容器を増設』
『外寸約15×11cm、深さ約3cm』
『無塗装、安全確認済み木材。角部処理済み。ケージフレームへ固定。転倒・顕著な揺動なし』
【初回反応】
『個体、新設容器へ自発接近。鼻先接近・前肢接触後、全身で容器内へ進入』
『容器内で身体を低くした状態で数分滞在。その後、自発退出』
【宝物移動】
『既存白色小石を高所休息棚屋根から新設容器内へ運搬』
『続いて、どんぐり帽子を同容器内へ運搬。既存コルク片も同容器内へ運搬』
『担当者による対象移動・食物等による誘導は一切なし』
【再進入】
『三対象搬入後、個体が再び容器内へ全身進入』
『対象三点の近傍で短時間滞在。その後、自発退出し、高所休息棚屋根へ移動』
この記録は、ルリの行動理解において相当に強い意味を持つ。
拓海は認可端末から動画をアップロードし、スマホから榊原へテキストを送った。
『先生』
『今度は何?』
『宝物箱、作りました』
『使った?』
拓海は少し考えてから返信した。
『はい。最初にルリ本人が入りましたけど』
数秒の間。
『動画はどれ?』
榊原の食いつきが早すぎる。
数分後。
『…………これはかわいいね』
『でしょう?』
もう、このやり取りは完全に定番になっていた。
しかし、榊原はすぐに研究者モードの分析を返してきた。
『でも、面白いのは後半だね。既存の三つのアイテムすべてを、人間が手を触れることなく、新容器へ順次運搬した。そして最終的な休息場所は屋根』
『新しい容器が、少なくとも物体運搬の「到達点(集積場所)」として明確に使われたということだ』
『これは大きな進展だよ』
ただし、と榊原は付け加える。
『彼がそこを「宝物を保管するための箱」だと人間の言葉の概念で理解した、とは絶対に言わないこと』
『分かってます。新しい凹形状の場所へ運んでみたとか、位置が休息場所の近くだったからとか、物を置きやすい形状だったからとか、理由の可能性はいくらでもありますよね』
『その通り』
『ところで先生。日常会話では、あれは宝物箱って呼んでいいですよね?』
『それ、また俺に聞くの?』
『念のため』
『好きに呼びなよ』
***
榊原からのメッセージが続く。
『しかし水野君』
『はい』
『寝床を作った時は、屋根の上で寝られて』
拓海は嫌な予感がした。
『宝物箱を作ったら、一番に本人が中に入る』
『…………言わないでください』
『水野君が用途を決めると、ルリ君は必ず一回はその斜め上をいくね』
『偶然ですから!』
でも、それこそが、拓海がこの二週間で学んだ『飼育』の神髄だった。
昔の拓海なら、「せっかく箱を作ったのに、使い方が違う!」と焦ったかもしれない。
今は違う。「本人が入るなら、それも安全な使い方の一つとして記録しておけばいいか」と、極めて自然に思えるようになっている。
そして結果的に、宝物も収納されたのだから、問題は何も起きていない。
夜。
拓海はケージの中を確認した。
箱の中に、宝物三点。
拓海は一つ、重要な安全上の確認を行った。
箱内に宝物がある状態でルリが入っても、尖った部分で怪我をしないか。身体が圧迫されないか。翼膜が引っ掛からないか。出入口の動線は確保されているか。コルクやどんぐり帽子が下敷きになっても危険性は低いか。
今のところ、三点なら全く問題はない。ルリも余裕で入れている。
でも。
「やっぱ、容量(定員)決めないと駄目だな……」
新しい問題が浮上した。
内寸十三センチ×九センチ。今は三点だから余裕がある。でも、今後外へ行くたびに拾ってきて、これが五個、十個となったら?
安全管理上、物理的に箱に詰め込みすぎる前に対策が必要になる。
「宝物にも、定員ってあるのか……」
拓海は一人で苦笑した。
***
拓海はベッドに横になり、ケージの方を見た。
屋根の上にルリ。
隣の補助棚の上に、宝物箱。
箱の中には、三つの宝物。
「…………ちゃんと、入ってるな」
拓海は満足そうに呟いた。
その時。
ルリが屋根から箱の方を見た。
数分間、じっと動かない。
そして突然。
屋根から降りて、箱の中へ。
すぽっ。
「だから、お前も入るんかい!」
拓海は今日二回目のツッコミを入れた。
ただし今回は、数秒ですぐに出て、また屋根へと戻っていった。ただの確認作業だったのかもしれない。
拓海が作ったのは、ルリの宝物を置くための箱だった。
少なくとも、三つの宝物はちゃんとそこへ一つずつ運び込まれた。
だから、用途としては見事に成功している。
ただし、その宝物箱に、ときどき手のひらサイズの小竜本人まで一緒に収納されることを、設計者である拓海は全く想定していなかった。
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