高坂穂乃果は勇者である(再編版)   作:ZENSUN

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第十四話

 音ノ木祭りから数日が経った。

 

 その日の放課後、アイドル研究部の部室には、普段より少しだけ賑やかな空気が漂っていた。

 

 机の上には簡単な食べ物と飲み物が並べられている。

 

「それでは!」

 

 穂乃果が立ち上がった。

 

「ライブ、お疲れ様でした!」

 

「お疲れ様でした」

 

 ことりが続き、海未も小さく頭を下げる。

 

 その向かいでは、にこが腕を組んで座っていた。

 

「……なんでここで打ち上げなのよ」

 

「だって、ここが一番集まりやすいし」

 

「だからって、勝手に使っていい理由にはならないでしょうが」

 

「ちゃんと片付けるから大丈夫だよ」

 

「そういう問題じゃないの!」

 

 にこが言い返す。

 

 けれど、帰ろうとはしなかった。

 

 ライブが終わってから数日しか経っていない。

 

 あの日のステージで何を間違えたか、どこが上手くいったか。そんな話をしていると、自然とライブの話題が続いていく。

 

「穂乃果は途中で少し遅れましたね」

 

「えっ、あれ分かった?」

 

「分かりますよ」

 

「でも最後はちゃんと合わせられてたよね」

 

 ことりが助け船を出す。

 

「そうそう! 最後はばっちりだったよ!」

 

「まあ、最後まで止まらなかっただけでも上出来よ」

 

 にこが言う。

 

「にこちゃん、褒めてる?」

 

「褒めてない」

 

「絶対褒めてるよ」

 

「褒めてないったら!」

 

 穂乃果が笑う。

 

 そんなやり取りをしながら、四人は用意されたものを食べていった。

 

 やがて話題が一通り落ち着いたところで、穂乃果が何かを思い出したように口を開く。

 

「そういえば、真姫ちゃんも誘ったんだけどね」

 

「西木野さんを?」

 

 海未が尋ねる。

 

「うん。『一緒に打ち上げしよう』って言ったら、『行かない』って」

 

「……西木野さんらしいですね」

 

 海未が苦笑する。

 

「まあ、そうよね」

 

 にこも頷いた。

 

 あの曲を作ったのは真姫だ。

 

 けれど本人は、最後までステージには上がらなかった。

 

 穂乃果が頼んだから曲を作った。

 

 それ以上でも、それ以下でもない。

 

「でも、ちゃんと来てくれたらよかったのにね」

 

「穂乃果、無理に誘うものではありませんよ」

 

「分かってるよ」

 

 穂乃果は笑った。

 

「また今度誘えばいいし」

 

「……また誘うの?」

 

 にこが聞き返す。

 

「うん」

 

「断られるわよ」

 

「じゃあ、また誘う!」

 

「なんでよ……」

 

 にこは呆れたように息を吐いた。

 

 その後も他愛のない話を続け、やがて打ち上げは終わりに近づいた。

 

 机の上に残っていたものを片付け、使った食器をまとめる。

 

「今日は楽しかったね」

 

 穂乃果が言った。

 

「そうですね」

 

「うん」

 

 ことりと海未も頷く。

 

 にこは鞄を手に取った。

 

「まあ……悪くなかったんじゃない?」

 

「やっぱり楽しかったんだ」

 

「うるさい!」

 

 穂乃果が嬉しそうに笑う。

 

「じゃあ、今日はありがとう!」

 

「……別に」

 

 にこは顔を背けた。

 

「こっちもそれなりに楽しませてもらったし。お礼なんていらないわよ」

 

「うん!」

 

「だから、そこで素直に頷くな!」

 

 三人の笑い声が響く。

 

 やがて、それぞれ帰る時間になった。

 

 部室を出る前、穂乃果が振り返る。

 

「じゃあ、またね。にこちゃん!」

 

「はいはい。またね」

 

 扉が閉まる。

 

 にこは一人、部室に残った。

 

 静かになった室内を見回す。

 

 今日まで何度か、この三人と一緒にいた。

 

 ライブの練習をして、ステージに立って、こうして打ち上げまでした。

 

 けれど、それも今日で終わりだろう。

 

 そもそも、にこはアイドル研究部の部員ではない。

 

 今回のライブだって、たまたま一緒にやっただけだ。

 

「……まあ、そんなもんよね」

 

 にこは机の上を片付けた。

 

 いつもの部室。

 

 いつもの放課後。

 

 ただ、それだけに戻る。

 

 そう思っていた。

 

 翌日の放課後。

 

「にこちゃーん!」

 

 部室の扉が勢いよく開いた。

 

「こんにちは、にこ先輩」

 

「お邪魔します」

 

 穂乃果、ことり、海未が入ってくる。

 

 にこは手にしていた書類を持ったまま、固まった。

 

「…………」

 

 三人は何事もなかったように、それぞれいつもの場所へ向かっていく。

 

 穂乃果が机に荷物を置き、ことりが椅子を引く。

 

 海未は持ってきたものを整理している。

 

「……あんたたち」

 

「ん?」

 

「何しに来たのよ」

 

「何って、部活だけど?」

 

 穂乃果が不思議そうに答えた。

 

 にこは黙った。

 

「……そう」

 

 それだけ言って、手元の書類へ視線を戻す。

 

「そうだ、にこちゃん」

 

「何よ」

 

「昨日話してた勇者部の活動なんだけど――」

 

「私は勇者部じゃないからね!」

 

 即座に言い返した。

 

「え?」

 

「え?じゃないわよ! なんで当然みたいに私に話を振るのよ!」

 

「だって、にこちゃんも一緒にいたし」

 

「それはライブで一緒だっただけでしょうが!」

 

「でも、相談くらいならいい?」

 

「……」

 

 にこは穂乃果を見る。

 

 穂乃果はいつものように、何の疑いもなくこちらを見ている。

 

「……相談だけならね」

 

「ありがとう!」

 

「だから、私は勇者部じゃないって言ってるでしょ!」

 

 海未が苦笑し、ことりも楽しそうに笑う。

 

「では、まず今度の活動についてですが――」

 

「ちょっと待って。なんで本当に私が参加する前提で話が進んでるのよ」

 

 にこは文句を言いながらも、席を立つことはなかった。

 

 穂乃果が話す内容を聞き、海未の意見に耳を傾け、ことりが出した案についても考える。

 

「それなら、こっちの方がいいんじゃない?」

 

「なるほど……」

 

「でも、それだと穂乃果が大変じゃない?」

 

「私なら大丈夫!」

 

「あなたはそう言うと思ったわよ」

 

 呆れたように言いながら、にこは机の上のノートを覗き込む。

 

 昨日までなら、ここまで続くとは思っていなかった。

 

 ライブが終われば、それで終わり。

 

 そう思っていた。

 

 なのに、三人にとっては何も終わっていないらしい。

 

 今日も来る。

 

 明日もきっと来るのだろう。

 

「……まったく」

 

 にこは小さく息を吐いた。

 

「しょうがないわね」

 

 誰に聞かせるでもなく呟きながら、穂乃果のノートを自分の方へ引き寄せる。

 

「ここ、話が飛びすぎ。最初から整理しなさい」

 

「えっ、にこちゃんも考えてくれるの?」

 

「相談されたんだから、聞くくらいはするわよ」

 

 穂乃果が笑った。

 

 にこはそれを見て、少しだけ目を細める。

 

「……ほら、早く続けなさい」

 

 部室には、昨日までと同じように四人の声が響き始めた。

 

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