高坂穂乃果は勇者である(再編版)   作:ZENSUN

18 / 18
第十八話

 その日の勇者部の活動は、いつもと変わらないところから始まっていた。

 

「じゃあ、今日はこっちを片付けよう!」

 

 穂乃果が手にした紙を広げると、海未とことり、そしてにこがその周りに集まる。今日の活動内容は、学校近くの小さな公園の整理だった。前回の活動を知った地域の人から、今度はこちらも手伝ってほしいと声をかけられたらしい。

 

「なんだか最近、こういうお願い増えたね」

 

「それだけ私たちの活動が知られてきたということでしょう」

 

 海未はそう言いながら、持ってきた道具を確認する。

 

「まあ、頼られるのは悪いことじゃないわね」

 

 にこも腕まくりをしていた。

 

「それに、こういう地道な活動も大事なのよ。アイドルだって、見えないところで努力してるんだから」

 

「にこちゃん、なんか今日はすごくそれっぽい!」

 

「いつもそれっぽいわよ!」

 

 そんなやり取りをしながら作業を始める。

 

 穂乃果が落ち葉を集め、ことりが散らばった枝を拾い、海未が伸びた草を整理する。にこは少し離れた場所で、壊れかけていた柵の周りを片付けていた。

 

 特別なことは何もない。

 

 ただ、四人で同じ場所にいて、同じことをしている。

 

 それだけの時間だった。

 

「穂乃果ちゃん」

 

 しばらくして、ことりが声をかけた。

 

「ん?」

 

「ごめんね。私、ちょっと行かなくちゃ」

 

「え?」

 

 穂乃果が顔を上げる。

 

「お母さんから連絡があって……ちょっと来てほしいって」

 

「今日?」

 

「うん。そんなに時間はかからないと思うんだけど」

 

 ことりは申し訳なさそうに笑った。

 

「じゃあ、私たちだけでやっておくよ!」

 

「でも……」

 

「大丈夫、大丈夫!」

 

 穂乃果が笑って手を振る。

 

「海未ちゃんもにこちゃんもいるし!」

 

「ええ。任せてください」

 

「まあ、三人でもどうにかなるでしょ」

 

 にこも頷く。

 

 ことりは少しだけ三人を見た。

 

「……うん。じゃあ、お願いね」

 

「任せて!」

 

 ことりは道具を片付けると、公園を出ていった。

 

 その背中を、穂乃果はしばらく見送っていた。

 

「お母さん、何の用だったんだろうね」

 

「南家のことですから、何か予定があったのでは?」

 

 海未はそう答えたものの、ことりが去っていった方向を一度だけ見た。

 

 にこも何か言いかけたが、結局何も言わずに作業へ戻る。

 

「ほら、まだ残ってるわよ」

 

「はーい!」

 

 穂乃果もすぐに作業へ戻った。

 

 それからしばらくは、本当に何も起こらなかった。

 

 ◇

 

 作業を終えて、公園から学校へ戻る途中だった。

 

 穂乃果が手にしたゴミ袋を持ち直した、そのとき。

 

 遠くから、聞き慣れない警報音が響いた。

 

「……え?」

 

 海未の足が止まる。

 

 にこも同時に顔を上げた。

 

 次の瞬間、周囲の景色が歪んだ。

 

「樹海化警報……?」

 

 穂乃果が呟く。

 

「穂乃果!」

 

 海未が咄嗟に穂乃果の腕を掴んだ。

 

 だが、間に合わない。

 

 視界を覆うように景色が変わり、三人の立っていた場所は一瞬にして異質な空間へと変貌した。

 

 見慣れた街並みは消え、巨大な植物に覆われた世界が広がる。

 

「……っ!」

 

 海未が息を呑んだ。

 

 にこも穂乃果を見る。

 

「……なんで」

 

 穂乃果は二人の間に立ったまま、周囲を見回していた。

 

「どうしたの?」

 

「どうしたのじゃないわよ!」

 

 にこの声が鋭くなる。

 

「穂乃果、あなた……」

 

 海未も言葉を失っていた。

 

 これまで何度も樹海を経験している二人だからこそ、分かる。

 

 ここは普通の場所ではない。

 

 そして、普通の人間がいるべき場所でもない。

 

「穂乃果、私の後ろへ!」

 

 海未が穂乃果の前へ出る。

 

「え?」

 

「いいから!」

 

「でも――」

 

 言い終わる前に、奥の植物が大きく揺れた。

 

 何かがいる。

 

 それを察した瞬間、海未の表情が変わった。

 

「……来ます」

 

 にこも身構える。

 

「穂乃果、絶対に動かないで」

 

「にこちゃん……?」

 

「説明は後!」

 

 植物の向こうから、異形の姿が現れた。

 

 人間とは明らかに異なる姿。

 

 こちらを認識した瞬間、まっすぐに三人へ向かってくる。

 

「止まらない……!」

 

 海未が弓を構えた。

 

「もうやるしかないわね」

 

 にこが一歩前へ出る。

 

「海未、穂乃果をお願い」

 

「分かっています」

 

 穂乃果が二人を見る。

 

「二人とも、何を――」

 

「穂乃果!」

 

 海未の声が飛ぶ。

 

「私たちから離れないでください!」

 

 その瞬間、二人の姿が光に包まれた。

 

 穂乃果は目を見開いた。

 

 海未の手に弓が現れ、にこの姿が戦うためのものへと変わっていく。

 

 これまで穂乃果が知らなかったもの。

 

 いや。

 

 知るはずのなかったものが、目の前にあった。

 

「……海未ちゃん?」

 

 呼びかけに、海未は振り返らない。

 

「穂乃果。私のそばに」

 

「う、うん……!」

 

 海未が穂乃果の前に立つ。

 

 その少し先では、にこが敵を正面から見据えていた。

 

「来なさい」

 

 にこの声には迷いがない。

 

「相手してあげるわ」

 

 敵が地面を蹴った。

 

 にこも同時に踏み込む。

 

 海未は穂乃果の横に立ったまま、弓を構えた。

 

 前に出るにこ。

 

 その背後を守る海未。

 

 そして、その二人の間にいる穂乃果。

 

 三人の戦いが、始まった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。