「なるほど……外の世界にはそんな行事があるのですか」
紫から細かく説明された文は、大きく首を縦に振る。
2月14日に外の世界で行われるイベントといえば、想像できるのは1つ、バレンタインデーである。いろいろな人に感謝の気持ちを込めてチョコレートを贈る、人によって好き嫌いが分かれるイベントだ。
ちなみにチョコがもらえない人が嫌いであることが多い。
「そして一番大事なのが……」
「本命チョコ、というわけね~」
自分が思いを寄せる人にチョコレートを渡す、いわゆる本命チョコが一番ネタになると文は判断した。
少し考えるだけで、本命チョコを渡しそうな顔がすらすらと頭に浮かんでくる。文はその人たちに、集中的に取材しようと決めた。
――よしよし、これはもらった。
自分の顔がゆるむのを止めることもなく、文は素早くメモ帳を取り出した。すばやく効率よい取材計画を立てていく。その気迫は天狗の本気を垣間見せた。
「ありがとうございました!」
手帳を固く握りしめ、廊下へと駈け出して行った。
「よしよし……いい感じになってきたわね」
紫がとてもいい笑顔になっていることにも気付かずに。
夜の竹林はなかなかに不気味な場所だ。油断していたら、即捕食されてしまいそうな空気が流れている。
ガサッガサッ
そんな中、文は茂みに潜んでいた。ご丁寧にも、頭に木の葉をかぶせて迷彩をしている。カメラを向けているのは、ある人物の家の中。先ほどからキッチンにじっとレンズを構えている。
(ふむ……そろそろですかね)
キッチンにその人物がやってきた。手には、香霖堂で買ったであろうチョコを持っている。ルンルンととても気分がよさそうだった。その人物は、
(しっかし、自分の担任を盗撮するのもなかなか緊張しますね)
文の担任の慧音であった。見つかったら頭突き間違いなしであろう。
「さって、作るか~♪」
窓越しに慧音の上ずんだ声が聞こえてくる。それは、普段は絶対見せないであろう甘ったるい声を聴いた文は思わず歯噛みした。
(録音できる機械があればっ……)
文の手元にあるのには、一眼レフに見える、旧式のカメラのみ。そもそも録音機は幻想郷にはほとんどない。
文の知り合いで持っているのは小悪魔くらいだろうが、文はそれを知るはずもない。
「ふむふむ……まずチョコレートを溶かすのか。それでもう一回形を作り直す……なるほど、これで……」
本を読みながらチョコを作っている慧音の顔がどんどんとろけていく。読んでいるのは、チョコレートと一緒に買った、「これで完璧チョコの完成できるスーパーマニュアル!」という解説書。香霖堂ではこれが飛ぶように売れた。
(でもあの顔はレアですね! 新聞に載せたら命が危なそうですが……)
普段ならば、慧音は一発で文に気付くだろう。ただ、今の慧音は目の前のチョコに集中しすぎていた。完全に脇が甘い。
珍しい写真が撮れてご満悦の文は、竹林を抜け出した後、自身の家へと帰っていた。バレンタインデーまであと2週間ほど。取材先はまだまだいくらでもある。
第四十四話でした。慧音先生ナイスです!
これから文が少女たちをどう料理していくのでしょうか。ただただ怖いですね……
では!