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ありがたい話ですね。日本国召喚というブランドの強さをひしひしと感じています。
第九話
「あの、何故また私なのでしょうか」
「そりゃ、実績があるからでしょう」
外交官ブロアは、東にある島国との接触における帝国側の代表としてやって来ていた。
実はこの質問も既に五度目であり、本人は新国家との接触の代表となることを嫌がっていたのである。
「シエリアさんじゃダメなんですか。連邦との交渉で大活躍だったと耳にしましたよ」
「彼女はその連邦との新しい交渉に掛かり切りです。他の候補といえば、格上の国家にも物怖じしなかった貴方ですよ」
ブロアはガクッと肩を落とした。現在シエリアは連邦との新たな交渉に乗り出しており、別の仕事をしている余裕はない。彼女に余裕があればそちらに話がいったのだろうが、現実は無情だ。
「正直憂鬱です。相手は前時代的な木造船を運用しているとの事ですし、倫理観や価値観も時代相応でしょう。それに帝国は既に立ち直ってますから、この交渉が帝国の命運を左右するという事もない。何か、やりがいがないというか……」
「そう言わないでくださいよ。初の新世界国家との交渉じゃないですか。それに、私だって同じように駆り出されているんです。まぁこちとら軍人なんで、戦の心構えは出来ていますがね」
彼と話している艦隊参謀カイルは、連邦との初接触にもブロアと共に参加していたため、ある程度お互いの苦労を分かち合える関係性を築いていた。
カイルはそれなりに地位の高い参謀のため、通常はこの程度の規模の外交艦隊に同行することはない。
しかし新世界国家との初接触ということで、これまた連邦との接触で経験のあるカイルが選ばれていた。
なお、ストールは艦隊司令官であるため、流石に本土に残っている。
「嫌な事言わないでくださいよ。それで本当に戦争になったらどうするんですか?」
「木造船程度の相手であれば、まともな戦いにはなりませんよ」
「そういう事を言ってるんじゃないんです。私の仕事が増えるでしょうが……!」
「ついでに領土も増えますな。今更低文明の島国を支配して得をするかといえば、また話は変わりますがね」
彼らは連邦という巨大国家を知ったからか、"あれを超える相手はいない"と高を括っているため、緊張感は皆無だ。いや、ブロアはある意味緊張しているのかもしれないが。
「そんなことより、向こうに到着するまで連邦の艦でも眺めていましょうよ。戦艦………いや、連邦ではあれは巡洋艦なんでしたっけ?とにかく巨艦を引っ張ってきたようですし」
「あれは軽巡洋艦だとお聞きしましたよ。相変わらず連邦の艦種区分はよくわかりませんが、まぁ巡洋艦が総じて重武装の水上艦である事に変わりはないので、良いんじゃないですか」
「私も別に気にしませんが、あれでこちらと同じ区分なんですね……」
帝国外交艦隊は今回、相手の文明レベルを考慮して規模を抑えることにした。護衛はごく少数で、最大の艦艇も巡洋艦である。
どうやら連邦も軽巡洋艦と呼ばれる、帝国で一般的に巡洋艦と呼ばれる艦に相当する艦を引き連れてきたようだが、こちらの艦より随分と大きい。
今回連邦が帝国と比べて大型の艦艇を用意してきたのは、目的の島国が帝国の真東にあり、帝国の南にある連邦からだと距離が長くなるため、乗務員や外交官の居住性を考慮した結果である。
帝国の港湾はまだ完全に拡張が済んでおらず、特に食糧や資源などの輸送のためタンカー用の港湾が優先して整備された。そういう事情もあり、軍艦の補給はまだ不可能だった。
特に今回は素早い接触のために事前用意もあまりできず、連邦が自前で大型艦を使ったほうが早いという事で巡洋艦を引き連れてきたのだ。
「あれ、でもこの大型艦、どちらにしろ中世文明の港湾には泊まれませんよね。小型のボートか何かを使うんですか?」
「私はそう聞いています。大型艦で相手を刺激しないためにも、離れたところから乗り換えつつ向かうんだとか」
ここで、乗員たちが忙しく動き出す。
「参謀!不明航空機を探知しました!司令官がお呼びです」
「不明航空機………?わかった。向かおう」
話によると、不明航空機は190km/hほどで飛行しているらしい。
「司令、艦隊参謀カイル、参上しました」
「司令、歓談中のところすみません。不明航空機を探知したようで」
「聞いております」
「我々からすれば随分と低速ですが、重要なのはそこではありません。中世規模の文明が、航空戦力を運用している事になります」
それは、帝国の歴史上あり得ない、連邦とは別の意味で常識を覆す事実だった。
「どうしましょう……まさか航空戦力があるなどとは思わず、空母も引き連れてきていません。万が一の場合は対空砲で対処するしかありませんね」
「帝国軍の沽券に関わる話ではありますが、連邦の誘導弾があるので最悪何とかなります」
「背に腹は代えられませんか。いや、というか190km/h程度なら対空砲で十分落とせるのでは?」
「あ、そう言えばそうでした」
彼らにとって身近な相手は現状連邦しか存在しないため、航空機の性能は最低でもアンタレス、最高で連邦製というバイアスがかかっていたようだ。
「相手がどういう文明なのか、余計に分からなくなってきましたが、とりあえず"最初は穏便に"ですね」
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「あの、松前さん。後ろの方々は?」
小型船の臨検を受け、岸に案内されたブロアは、途中から気になっていたことを連邦の外交官に質問した。
「彼らは護衛ですよ。まぁ、あまり気にしないでください」
松前の後ろには、怪しげな格好をした男達が整列していた。
「いざという時には、皆さんのこともお守りしますよ」
「はぁ…そうですか。ではよろしくお願いします」
ブロアは特に気にしない事にした。
相手側の案内人は何処か見下すような表情でこちらを見ながらも、先導して歩いている。
先ほどワイバーンについて教えてもらってから、ずっとこの調子だ。
「お入りください」
合同外交団は、控室のような場所に通された。
何処となく華美な室内は、彼らにとって違和感のある場所だった。
「外交長が準備中のため、しばらくこちらでお待ちください」
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その違和感だらけというか、彼らの感性に合わない部屋で待たされる事数十分。
扉が開き、先ほどの案内人が出てくる。
「外交長の準備が出来ました。あちらの部屋に向かってください。それと、外交長は我が国の王族です。くれぐれも失礼のないようにお願いします」
冷たい目線と、"お待たせいたしました"の一言もない、舐めたような言葉遣い。
この時点で一行は嫌な予感がしていたが、護衛は待機させろという指示に従って外交団数人だけで室内へ入る。
すると信じられないことに、室内の外交長と思われる男は豪華な椅子に踏ん反り返ったまま待っていた。
旧世界においては傲慢な態度で外交をしていた帝国でさえ、ここまで常識外れではない。
室内に目を向ければ装飾はさらに悪化しており、数多の宝石がギラギラしている。この部屋に長時間いると目が痛くなりそうだ。
「来たか、蛮族ども」
絶句である。もはや外交上の常識どうこうという話ではない。
「失礼、初対面の相手にあまりに無礼ではないですか?まだ我々にはまともな交流すらないのです。何をもって蛮族と判断したのでしょう」
松前は口角が少し上がった優しい笑顔で、淡々と返す。しかしブロアには、その笑顔に見せかけた無機質な瞳に何が込められているか、よく分かった。
ブロア自身も同じ気持ちだったからだ。
「ワイバーンすら知らぬ辺境の民など、蛮族で十分だ。そら、座りたければ座れ。そして用件を話せ」
松前とブロアは"中世の外交官なら仕方がない"と無理やり自身を納得させ、椅子に座った。
「我々は此処より西からやってきた国の使節です。我が国日本連邦、そしてグラ・バルカス帝国は、貴国と国交を結ぶべくやって参りました」
松前の発言にブロアが続く。
「我々が望むのは対等な関係です。技術力や文明規模に関わらず、お互いを尊重し合える関係になれればと考えております」
ユグドの人間が聞いたら驚くことだろう。
しかし帝国は既に変わったのだ。
彼らは現代地球世界の外交常識に準じるほど、精神的・社会的に成長していた。
しかし、今回の相手に限ってはこの対応は悪手であった。
「対等?対等だと言ったのか貴様らは!!!」
男は立ち上がり、唾を飛ばしながら大声を上げる。
「我々は列強レイフォルの筆頭保護国、"パガンダ王国"ぞ!そして儂はその栄えある王族、ドグラス!断じて貴様らと対等などではないわぁ!!」
突然の相手の奇行に、外交団は固まる。
ドグラスという男は息を整えた後、座り直して1枚の紙を手に持ち、それをこちらに机を滑らせて渡してきた。
衝撃を受けていた外交団は今更書類を手渡ししない程度ではもはや驚かず、その内容に目を通していく。
「…………なんです、これは」
そこには複数の条項が書かれていたが、そのどれもが"パガンダ王国、ひいてはその王族ドグラスに莫大な金をよこせ"という内容だった。
これは両国が対等となるものではなく、当然受け入れられない内容である。
あまりの無礼の連続に、ブロアは流石に我慢ならなくなった。
そもそも相手が無礼に接してきているのだから、こちらが同様に相手を慮った対応をする必要はないのだ。
「さっきから下手に出ていれば、随分な態度だ。最初に松前殿が指摘した通り、相手に対する礼儀というものが一切感じられない。我々は国力や技術に関係なく対等であろうと、そう言っているのだぞ?それがどれほど先進的な事か分からないのか?」
「何だその口調は!我々は列強の庇護を受けているのだぞ!それがワイバーンも知らぬ蛮族と対等!?笑わせるのも大概にしろ!!」
「ワイバーンの有無で国家の格を決めるのか?」
「そうだ!ワイバーンと高度な魔法の運用は、列強国とその庇護下にある属国にのみ許された特権!国家としての格の象徴なのだ!!」
「…………は」
松前が固まった。ブロアも同様に口を閉じている。
「……今、魔法と申したのですか?」
「ああ、そうだが。………もしや貴様ら、魔法も知らぬのか?…………クッ、ハッハハハハハハハ!!!これは滑稽だ!よもや、ワイバーンはおろか魔法も知らぬとは!それで対等だなんだと口にしておったのか!」
ブロアは激しい動揺に見舞われたが、すぐに正気を取り戻した。
しかし松前はそうでは無かったらしく、未だ独りで何か呟いている。
「魔法………確かにそうか。あのワイバーンとか言う飛竜は、どう考えても航空力学から外れた飛行を行っていた。あの大きさの翼で、あんな飛び方は普通出来ない。帝国との接触で油断していた、ここは異世界なんだ。何があったっておかしくない……」
松前はよほど衝撃的だったのか、青ざめた顔で冷や汗をかいている。
それを見たドグラスは嘲笑をこらえる事なく、部屋中に笑い声を響かせている。
「さて、どちらが"上"か、これでよく分かっただろう?」
「関係ない。むしろ私としては納得だ。魔法などというものに頼り切りになっているから、いつまで経ってもこんな低文明のままなのだ。少しはまともに文明を発展させる努力をしたらどうだ?」
「っき、貴様ぁぁぁ!!!衛兵、この蛮族を捕らえろ!儂に対する数々の無礼、絶対に許さんぞ!」
ドグラスの後ろの扉が勢いよく開き、彼には劣るものの、装飾のついた服装をした人間がなだれ込んでくる。
ブロアはとっさに立ち上がり逃げ出そうとするも、入り口の両側に立っていた二人の衛兵が長い棒のようなものを突きつけてきた。
「こんな事が許されると思っているのか!外交官を傷つけるなど、あってはならないぞ!」
「黙れ!貴様らには教育が必要だ!そうだな、広場で処刑してやろう!そしてそれを見た残りの蛮族どもは、自国に戻って我が国の偉大さと恐ろしさを伝え広めるが良い!」
松前はこの状況でもまだ呆然としている。ブロアは彼らに肩をつかまれながらも、叫んだ。
「松前殿、護衛の方はどうなさっているのですか!これは緊急事態のはずです!松前殿!」
ブロアの必死の叫びに、松前はようやく意識を取り戻した。
ハッとした松前は、ポケットに手を突っ込むと中で何かを押すような動作をした。
「申し訳ありませんブロア殿!もう少し耐えてください!」
「抵抗するな蛮族ども!今ここで死にたいか!!」
ドグラスの周りにいた衛兵の一人が、金属のついた少し形状の違う棒を持ってきた。
「そうだ、これがあったな。よく聞け蛮族ども。我が国には列強レイフォルから下賜されたものがいくつかある。これはその一つだ。さっきまでのただの棒とは違うぞ?内部で魔石を爆発させ、先端から鋼鉄の………」
「突入する!!!」
突然入り口側の扉が開き、先ほど見た変な服装の数人が勢い良く入ってきた。
「なんだ貴様ら!!ここを何処だと………」
次の瞬間、彼らの持つ黒い鉄の杖のようなものが輝き、大きな音とともに、パガンダ王国の衛兵の何人かが吹き飛ばされた。
「な、何が起きている!どうした貴様ら!」
「ご無事ですか、皆様!」
男達は松前とブロアを含む外交官達に駆け寄ると、そのまま入り口のほうへ誘導した。
「このような勝手な事をして、ただで済むと思うのか!!」
「それはこちらのセリフだ。先に手を出しておいて被害者面をするな。貴様らこそ、ただで済むとは思わないことだな」
男達は外交官全員の退出を確認すると、鉄の杖を向けたまま下がり、退出していった。
「すぐに艦隊を向かわせろ!奴らを逃がすな!儂を侮辱した蛮族どもの船を、一隻残らず沈めるのだ!!」
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兵器性能紹介
キャニス・メジャー級巡洋艦
全長 162m
最大幅 14m
基準排水量 5,700t
速力 最大33kt
兵装ーーーーーーーーーーーー+
40口径13cm連装高角砲 3基6門
61cm4連装魚雷発射管 2基8門
25mm3連装機銃 11基 33門
25mm単装機銃 5門
ーーーーーーーーーーーーーー+
同型艦ーーーーーーーーー+
1番艦 キャニス・メジャー
2番艦 ミルザム
3番艦 ムリフェイン
4番艦 ウェズン
5番艦 アダラ
6番艦 フルド
7番艦 アルドラ
8番艦 アスミディスケ
9番艦 メノクド
10番艦 サニ・アル・フルド
11番艦 ウヌルグニテ
12番艦 スクトゥラ
ーーーーーーーーーーーー+
グラ・バルカス帝国が運用する防空巡洋艦。
日本帝国海軍が大戦後期に運用した防空巡洋艦「五十鈴」に酷似した外見・性能を持つ。
元は14cmの主砲を持つ通常の巡洋艦であったが、航空主兵論が発達し始めたユグドにおいて、敵航空戦力の脅威から艦隊を守るため、従来の主砲を撤廃し対空用に改造された。