あの通信から少し後、相手側より正式な返答があった。
協議の場を設けたいとのことで、艦隊司令ストールと参謀カイル、さらに他文明との接触時に備えて同乗していた外交官のブロアを加えた計3名が、武装解除の確認を受けた上で空母『天城』へ招かれることとなった。
近くで見るとその大きさに圧倒され、ストールは祖国が運用する世界最大最強の戦艦すら、大きさという面では比較対象にもないだろうと考えていた。
タラップを昇りながら、ストールは妙な緊張と、それに勝るとも劣らない好奇心を抱いていた。
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空母『天城』飛行甲板
「ようこそ、グラ・バルカス帝国の皆様。空母『天城』へ」
甲板に降り立った3人を出迎えたのは、先の通信で名乗った艦長・永山ではなく、より落ち着いた物腰の壮年の男だった。軍服の意匠はどこか簡素で、しかしその立ち姿には隠しきれない威厳がある。
「日本連邦海軍、第三艦隊司令官を務めております、朝倉と申します。急な招待にも関わらず、快くお越しいただき感謝いたします」
「グラ・バルカス帝国海軍、艦隊司令のストールだ。こちらこそ招待に感謝する。……立派な艦だな」
短く、それだけを返した。
本音を言えば胸中は穏やかではなかった。目に映る飛行甲板の広さと、整然と並ぶ見慣れない形状の航空機。
甲板上を見ただけでも、帝国の技術水準を軽々と置き去りにしているのが理解できる。だが軍人として、この場で驚きを面に出すわけにはいかない。
舐められればその分交渉は不利になるのだから。
ストールは腹の底に力を込め、表情を動かさぬよう努めた。
隣を歩くカイルもそれは同様だった。
「我々の航空機と接触したのは、あちらに置いてある機体ですか?」
当然ブロアも外交官としての能力はあるのだが、前惑星「ユグド」においてグラ・バルカス帝国は世界最強の国。格上の国家に対応した経験がない彼には、その驚きを隠す余裕はなかったようだ。
ストールとカイルは一瞬眉をひそめたが、二人とて知りたいことではあったため沈黙を選んだ。
「ええ、ご推察の通りです。あれは我が国が運用する主力戦闘機『夜霧』です。確か初飛行は30年近く前ですが、我が国の主力の一つですよ」
「ほう……我が国の航空機と比べて随分と大きいですな。これだけ巨大な航空機を運用するのであれば、空母がこの大きさになるのも納得です」
ブロアが感心している横で、ストールは軍人としての思考に没頭していた。
(同じ形状の航空機しか見当たらない……爆撃機や雷撃機は艦内か。しかし戦闘機がこれだけ大型となると、爆撃機もそれ相応の巨体だろう。艦の大きさの割に、搭載機数はそこまで多くなさそうだな)
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「こちらです」
案内されたのは、艦内深部の一室だった。
扉の先には簡素ながら整然とした会議室が姿を現す。長机を挟んで、既に連邦側の将校だろう数人が立って待っていた。
「どうぞ、お掛けください」
朝倉に促され、3人はは席に着く。
向かいに座る朝倉が、静かに口火を切った。
「改めて、第三艦隊司令官の朝倉です」
「開拓艦隊司令官、ストールだ」
「艦隊参謀のカイルです」
「私は外交官のブロアと申します」
「ありがとうございます。では、貴艦隊の目的についてお聞かせ願います」
「ああ、承知した」
ストールは一つ息を吸い、話し始めた。
「我が艦隊の目的は、周辺海域の調査だ。我が国の周辺に他の国や文明がないかを確かめるために派遣された」
「国や文明の有無の調査、ですか。失礼ですが、このあたりの地理についてはご存じないのですか?」
その質問に対し、外交官であるブロアが返答した。
「私から説明いたします。」
「我が国は今より2週間ほど前、突然国外との連絡が一斉に途絶えました。本土より航空機を飛ばして確認したところ、存在するはずの大地は確認できず、国内は混乱に見舞われました」
朝倉を筆頭とした連邦側の人間は、「まさか」と言う顔をしている。
「調査の結果、信じがたい事ですが我が国は『本土が全く別の土地に転移した』と結論づけました。水平線や星座の変化なども、その根拠の1つとなりました」
艦内は驚愕の空気に包まれている。しかしそれは「国土の転移」と言う耳を疑う話に対する驚愕というよりは、何か別のものに感じられた。
ストールはその雰囲気に奇妙な違和感を覚え始める。
「故に我が国は国家の存続のためにも、一国も早い他国との国交開設と貿易の再開を求めているのです」
「そして転移直後の混乱もある程度収束したため、周辺海域に調査のため艦隊を派遣したところ………」
「我々と接触した、ということですか」
「おっしゃる通りです」
少しの間沈黙が続く。
この交渉が上手くいくかは国家の命運を左右する。
カイルとブロアは緊張の面持ちで朝倉が話始めるのを待ち、ストールは内心の違和感が形になり始めていた。
(そもそも………この艦隊は何故ここにいたんだ?空母まで保有する大規模な艦隊が、哨戒任務の最中というわけでもないだろう。我々と同じような艦隊と偶然出くわすなど………………同じ?いやまて、そんな事があり得るのか?まさか、同じなのか!?)
「………では、こちらの事情もお話いたしましょう」
「実のところ我々も、周辺海域の調査のために派遣されました」
「外洋へ派遣されていた艦艇や周辺国との連絡が突如として途絶え、多くの衛星とも通信が不能に」
「数日調査が続けられましたが、我が国でも同じように『国土が転移した』ものとして結論づけられました」
先ほどとは別種の沈黙が室内を支配する。
「つまり我々は………同じ状況にある、ということでしょうか」
「ええ、どうやらそのようです」
(やっぱりか………2つの国が同時に、別の世界から転移してきた。なんともまぁ、空想科学じみた話だな……)
「全く奇妙な話ですな」
「同感です。きっと魔法使いでもないと国土の転移なんて不可能でしょう」
「おや、貴国の想像する魔法とは、随分と大層なもののようだ!」
お互いに笑いながら、力が抜けたように話す。
「さて、では当初の目的について話し合いましょう。我が国は貴国との国交開設と、対等な通商を望みます」
「なるほど。私としては受け入れたいところですが、生憎我が艦隊には外交官が同乗しておりません。先ほど本国にスケジュールについては問い合わせましたので、我々の提示する期間にこの海域に外交艦隊を派遣していただければ、我が国までご案内させていただきますよ。」
「承知した。我々としても正式な外交団となると本国での準備が必要なのでな。一度本土と連絡を取らせてもらうが、良いだろうか」
「ええ、構いませんよ」
ストールは無線機で"ペガスス"と連絡を取り、ペガススから本土と通信を取ってもらう。
「許可が出た。いつ派遣すればいい?」
「本日より丁度1週間後はいかがでしょうか」
「わかった。ではそのようにしよう」
ストールと朝倉は固い握手を交わし、ブロアとカイルも立ち上がって他の者と手を握った。
皆で再び甲板へ上がる。
「非常に実りある話ができた。同じく転移災害にさらされ危機に陥った者として、協力し合えることを願う」
「ええ、我々も理性ある方と接触出来たことを喜ばしく思います。どうかお気をつけて」
3人は連絡艇で"ペガスス"へ帰還した。
(彼らとの会話の中で分かったこともいくつかある。あの超高性能な航空機を数十年前から保有していたこと、"衛星"という軍人には聞き慣れない単語。彼らの技術力は想像以上に高い。如何に頭の硬い強硬派とて、あれをしれば黙らざるを得まい)
「彼ら相手であれば、さすがに強気には出れんだろう。これを機に大人しくなってくれると良いがな」
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「行ったか」
「思っていたよりずっと理性的で、誠実な方達でしたね、朝倉司令官」
「ああ。しかも我々と同じ転移国家とはな。驚きだ」
「軍艦から推察できる文明レベルからして、ここが帝国主義が蔓延る世界である可能性も考えましたが、彼らも転移してきたのであれば一度振り出しに戻ることになりますね」
「この世界の調査に関してはな。だが我が国と同じ過去を持つ国がいるのは大きい。国民も仲間意識を持つだろうし、友好的な感情も抱きやすいだろう。いや、この場合同情的というべきか?」
「それに、"危機"や"一刻も早い貿易の再開"という発言もありました。経済の立て直しという意味では間違っていませんが、それとは別種の焦りです。恐らく重要資源か食料、もしくはその両方の自給率があまり高くはない国なのでしょう。一部資源が足りない、という程度の緊張具合ではありませんでした。彼の国の生命線を握れれば、いざという時の備えになります」
「よくそこまで読み取るものだ。だが、それは役人達の仕事であって俺達の仕事ではない。
それに……………
技術や資源以外にも、我々の有利は1つ確定しただろう?
いざという時の話は、いざという時にすれば良い。その余裕が許されるだけの備えを、我々は持っているのだから」
「軍人が油断してはまずいでしょう………」
「余裕だと言っただろう。それに私とて、彼らと出会えた事には感謝しているんだよ」
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兵器性能紹介
「五六式機巧戦闘機『夜霧』」
[現在、詳細は非公開となっています]