中央暦1638年12月15日
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「今回の外交団、護衛はこれでいいんですか?」
「ああ、国内の石油事情も逼迫している。それに相手側も転移国家だったんだ。もしお互いが石油輸入国だったら、例え友好関係を構築できてもいずれ共倒れだ。いざという時のためにも、なるべく備蓄を残しておくべきという判断だ」
「でも、帰還した奴らの話では相手は帝国より高度な文明なんでしょう?『我々の国威を示すべきだ』とか、強硬派議員が駄々をこねそうなもんですけどね……」
「だからこそ、だそうだ。例の戦闘機の話が出たらしくてな。甲板にも上がってて割と近くで見れたって言うから特徴を話したら、なんでも技術陣が騒ぎ出したらしい。まぁ俺には難しい事は分からんが、"自分達より高度な技術を持つ相手にわざわざ自国の技術力を示す必要はない"って理屈だそうだ。あとケンカ売りに行くわけじゃないって理由もあるな」
日本との会合から5日、グラ・バルカス帝国内では、2日後に派遣する外交団とその護衛艦隊の準備が行われていた。
軍上層部の間では、「接触相手が超高速の戦闘機を飛ばしていた」という話題で持ちきりである。
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グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ
帝王府所有 会議場内
「さて、陛下のご許可もいただけた。この前の話を聞いて分かった事を、我々にも分かるように話してくれ」
転移直後に緊急で帝前会議が行われていた会議場では、再び同じ顔ぶれが集まっていた。しかしその中には、前回はいなかった白衣の男が立っていた。
「はい。改めまして陛下、本日は機会を賜り光栄に存じます。先進技術実験室のカンダルと申します」
件の日本連邦との接触において、帝国の軍事的常識では考えられないものがいくつか確認された。
それに関して情報局技術部が報告された情報をもとに分析を行っていたのだが、彼らにも理解できない部分が多いとして先進技術実験室がそれに協力した。
結果としてある程度の予想がつき、将来的には帝国で実用化できるかもしれないものがあったため、その詳しい説明のためにカンダルが召喚されたのだ。
「ではご説明いたします。まず最初の不明機との接触ですが、より詳細な情報を艦隊の者から伺ったところ、どうやら相手側の航空機はアンタレスの最高速度が失速域に近いという、非常に高性能なものだったようです」
カンダルは、あまり知識のない者でもなるべく理解できるよう意識して説明を始める。
「最高速度と言うのは文字通り、その機体が発揮できる最も速い速度のことです。しかしこれはエンジンや機体に大きな負担がかかるため、基本は巡航速度と呼ばれるエンジンや機体への負担が少なく燃料を効率的に燃やせる速度で運用します」
「アンタレスの最高速度はおよそ550km/hほどになります。いくら高性能とはいえこの速度で失速するというのは現実的に考えにくいので、恐らく"正体不明の航空機と接触する際に即座に回避行動を取れる最低ライン"が550km/h前後、ということなのでしょう」
その説明に、カイザルが返す。
「なるほど。技術的に発揮できる最低速度ではなく、現実的なラインがそこ、ということか」
「はい。相手にとってはアンタレスが不明航空機ですので、警戒していたんでしょうね」
その二人の会話を聞きながら頷いていた皇帝が、質問を投げかける。
「して、その航空機は実際どのくらいの性能なのだ?」
「恐らく技術的な最低速度はもう少し下の300km/hあたりで、最高速度は恐らく音速近くなると思います」
会議場は驚愕に包まれる。
「音速……だと?そんなにも違うものなのか?」
「実際の速度は分かりませんが、そのくらいは出るはずです。むしろ先進技術実験室では、もっと高い速度を発揮するだろうという予想が大半ですよ」
皆は聞かされたその性能に混乱しつつも、興味深い話であるためか耳を傾け続ける。
「実際にそれを間近で見たお三方に特徴を聞いたのですが、どうも我々が研究中の"後退翼"と呼ばれる形状を採用しているようなのです」
「後退翼と言うのは名前から分かる通り、後ろに少しひいた形状の翼です。原理の説明は省きますが、この後退翼と言うのは音速付近でも安定した飛行が可能であるという特徴を持ちます。これをわざわざ採用していると言うことは、実際に音速を発揮できるのでしょう」
始めに艦隊からの報告が届いた時点では、この会議場内の人間はカイザルを除いて相手国家の技術をあまり理解していなかった。
グラ・バルカス帝国は戦争が身近な国だ。前世界ではケイン神王国と惑星の覇権を巡って争っていたし、資源や食料の供給を担っていた植民地や属国も、その殆どが戦争での勝利によって得たもの。そんなお国柄故か、国の上層部は相手との軍事技術差、戦力差に敏感なところがある。
転移という混乱に見舞われた中、新たに発見した供給元(となる可能性がある国家)に舞い上がっていたが、本来は皆そういった部分を重視する人間だ。だからこそ、その衝撃は大きい。
皇帝自身も前線に出て戦争に参加していた過去があり、そういった部分に関する知識はそれなりにある。
「我が国がそれだけの高速を発揮する戦闘機を実用化するには、あと何年ほどかかる?」
「正直なところ、"分からない"としかお答えできません」
「分からない?」
帝国でも最先端の技術を扱うはずの先進技術実験室の人間の"分からない"という発言に、参加していた帝国の三将の一人"ミレケネス"は疑問符を浮かべる。
「お三方から聞いた特徴の中に、"プロペラがなかった"というものがありました。我々の常識では、航空機はプロペラを回して飛ぶ物です。少なくとも今現在帝国で実用化されている航空機はすべて、プロペラを回すことで飛んでいます」
「しかしプロペラを回す機体では、音速を超えられないという制限があるのです」
「ああ、確か衝撃波が理由だったか」
「博識ですね、カイザル将軍」
最初は丁寧だったカンダルの口調が技術屋らしいものに戻ってきた。
自身の専門分野の事を話している内に緊張が解けたようだ。
「音速を超えると衝撃波が発生するのですが、これが非常に厄介でして。先ほど説明した後退翼というのも、この衝撃波を減らすための形状です」
「プロペラ機の場合は機体が音速を超えるより先に、回っているプロペラの羽の先端が音速に達します。するとプロペラは衝撃波を発し始め、それがプロペラによって後ろへ送られる"機体が前に進むための空気"を邪魔してしまいます」
カンダルは片手をくるくるとプロペラをイメージして回しながら、もう片方の手でそこを通り抜ける空気を表した。
「しかし例の機体にはプロペラがない。恐らくウチで研究中のジェットエンジンと呼ばれる物で飛ばしているのでしょうな」
その両腕を使った何処となく変な動きと早口な説明口調に皆が引いていたが、"ウチで研究中"という言葉に集中を取り戻した。
「そのジェットエンジンというのを作る事は出来ないのでしょうか」
「現状は不可能ですね。構造が複雑なのもありますが、何より素材です。ジェットエンジンの熱に耐えられる素材が、我が国にはまだないんですよ。加工精度の問題もありますし、現状は先ほどお伝えしたように研究段階です。それに仮に実用化出来たとしても、初期型はアンタレスとそう変わらない速度しか発揮出来ませんよ」
「そもそも我が国は転移前の世界において最強を誇っていましたから、わざわざ新しいエンジンを開発する必要はありませんでした。何よりプロペラ機の可能性はまだあります。"音速を超えられない"というだけで、"音速近い速度を出す"ことは出来るはずなんです」
「我が国の主力であるアンタレスは、未だ音速の半分ほどしか出せません。まだ進化が残っている扱い慣れたプロペラ機と、実用化まで長く、その上初期型は苦労の割に大した速度も出ないジェット機じゃあ、そりゃ開発の優先度も偏るというものです」
「まぁそういう色々な理由が重なり合った結果、実用化出来るのは何年先になるか分からない、と結論づけました」
カンダルは一息ついて「そういえば、」と続ける。
「艦艇のレーダーでどうも反応が小さいという話もお聞きしました。こちらも原理はご説明できますよ」
「本当か?」
正直、皆は難しい話の連続と"とにかく自国では模倣できない"という結論に頭痛がしていたが、カンダルは気づいていないのか続けて話し出す。
技術方面に多少知識のあるカイザルが反応するが、同席していたミレケネスは「また話が長くなる…」と非難するような視線を送っていた。
「空母の反応だけそのままだったらしいので、向こう側が何らかの装置に能動的に干渉してきた可能性は低いです。となると受動的なものでしょう。我々がたどり着いた結論は"特殊な形状によってレーダーを騙している可能性"です」
「騙せるのか?そんな事が出来たら、戦場の常識が変わるぞ……」
少し面倒そうな表情をしていた他の者達も、戦慄したような表情に変わっている。
「レーダーというのは電波を送って、その跳ね返りから物体の位置を感知しています。電波の先に何かしら物があれば、そこで電波は跳ね返るはずですからね」
「しかし、形状によってはそれが受け流されることがあります。せっかく送った電波が明後日の方向に流されてしまえば、当然電波は帰ってきませんから探知できません。恐らく艦の形状が、ある程度電波を受け流せるように設計されているんでしょうね」
「空母はそのままの大きさでレーダーに映ったと聞いたが、そこはどう説明する」
「恐らく飛行甲板が原因でしょう。航空機を運用するためには平らで広い滑走路が必要です。それが、電波を受け流すのには適していないんでしょうね」
「なるほど……空母はともかく、他の戦闘艦に関しては相当反応が小さかったらしいからな。これではレーダーと連動させての砲撃も、効果を発揮しにくい………」
カンダルは話したいことは一通り話し終えたのか、口を閉じたまま動かず、カイザルは実戦での状況を想像するのに夢中なのか、顎に手を当てて何か呟いている。
そんな中、切り替えるために皇帝が手を叩いて音を響かせる。
「非常に有意義な時間であった。今日得た知識は、いずれ帝国の新たな力の礎となる事だろう。こういった知識の中には現場で応用を見いだせる物もある。皆、良く覚えておくようにな」
「「「承知いたしました。陛下」」」
「うむ。カンダルよ、説明ご苦労だった。下がって良いぞ」
「勿体なきお言葉でございます、陛下。では私はこれにて失礼いたします」
カンダルは好きな事を語れたからか、満足そうな表情で出ていった。
「さて、次の議題に移るとしよう。東方で発見された新たな国家だが、小さな島国らしいな。資源確保を望めないのなら外交団の派遣は一度保留にし、まずは日本との国交開設に全力を……………」
会議は続いていく。
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[日本連邦関連資料]
:兵器性能予想
「艦上戦闘機『ヨキリ』」
乗員 1名
動力 ジェットエンジン? 単発
最高速度 推定 マッハ1.0以上 (約 1,062 km/h)
巡航速度 最低 700km/h付近
航続距離 不明
兵装ーーーーーーーーーーーー|
6連装機関砲らしきもの 1門
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………その他未確認の武装複数と推定
ー注記ー
[我々を上回る技術を持つ国家との遭遇は初めてのことだが、こうまで非現実的な性能を示されると頭を抱えたくもなる。一人の軍人として、彼らと戦うことがないようにと願うばかりだ]