日本連邦 首都東京
連邦機巧技術研究室
「我々は今、大きな壁に直面している」
ここは国内に存在する技術研究室。
中でも総合的な技術を研究する、国防省の隷下にある組織だ。
「国家転移災害によって、我々は他国と切り離された。機巧技術の輸出先を失ったんだ」
「機巧技術・機巧兵器の輸出は我が国の大きな財源であり、それは巡り巡って我々の予算にもなっていた。そして同時に、我々の存在意義の一つでもあった」
研究主任である滝沢は、国内でも屈指の有能な機巧技術者だ。彼の率いたプロジェクトは常に科学技術を進歩させ、他の技術の道標となるものを数多く生み出していた。
「我々は機巧技術の保存のためにも、これを開発し続ける必要がある。今後もそれは続くだろう。しかし輸出先を失った影響で、予算が減らされる可能性は十分にある」
滝沢を含め、この場にいる研究員は多くが深刻な表情で会議に臨んでいた。
機巧技術をこよなく愛する彼らにとって、それら研究の根幹部分を一任されている事実は大きな誇りであったからだ。その研究が、僅かとは言え想定外の事態によって縮小されてしまうかもしれない。
「とはいえですよ滝沢主任。我々はともかく、国内の大多数にとって機巧技術は必要不可欠です。国としても、その発展を疎かにする様な真似を簡単にするでしょうか?」
勿論、中には慎重派というべきか、事態の推移を見守るべきだという人間もいる。しかし滝沢は、まるでこの先を予見しているかのように言う。
「機巧技術は国家の維持のために、確かに必要とされている。だが軍事技術はどうだ?今は組み合わせが主流となっているが故に、我々の側も重視されている。しかし何かしらの技術革新が起き、もう片方単独であり得ない成果を生み出したらどうなる?私は、それを常に危惧していたんだ」
滝沢は一人椅子から立ち上がり、演説をするように言う。そこには、"絶対にあきらめない"という圧力があった。
「何よりだ。ここは異世界。我々と同じ人種が存在したら、それだけで我々の優位は崩れ去るぞ。その時こそ、機巧技術が活かされるんだ!」
「しかし滝沢主任、ついこの間接触したっていう国家勢力は、軍人さんがカマをかけたところ"恐らくないだろう"とのことでしたよ。少なくとも彼ら相手には絶対的優位が取れましたし、純粋な技術力でも我々が遥かに上回っています」
興奮した滝沢を宥めるように言う。
「軍人さん達も、なんか随分秘密主義になってるって聞きました。そんなに秘匿する必要もないと思いますけどね。国交を結ぶときにどうせ説明するでしょう」
「少なくとも、最初に確認しておけば対応の取り方も変わる。最悪の場合突き放せばいいんだからな。今回はそうなりそうにないし、新たな輸出先になってくれるんじゃないか?」
「おいおい、さっき技術力差が大きいって話をしただろ。最新技術は当然売れないが、二世代古いのでも多分売らせてくれないと思うぞ。相手にそれを運用する能力があるとは思えない。そういうのも含めて、主任は即座の解決が見込めないと判断したんだ」
「それに、主任だって自分の事だけ考えて言ってるわけじゃない。俺達にも影響する話だから、ここまで真剣になってくれてるんだよ」
「分かってますって主任。でも一旦落ち着きましょう?」
「………あぁ、そうだな。すまない、少し早まってしまったようだ」
彼の危惧は正しい。この世界において、連邦の優位は一度崩れることになる。しかし同時に、滝沢の思考は確かに"考えすぎ"だったのである。
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中央暦1638年12月7日
グラ・バルカス帝国 南方海域
「まもなく目標海域に侵入します。エスコートと思われる艦艇の反応は正面。フリゲートクラスの反応が4隻……のみです。」
グラ・バルカス帝国外交団、もといその護衛艦隊は日本連邦との国交開設のため、1週間前の会合の時に決められた指定海域を目指して進んでいた。
「恐らくそれは巡洋艦だろうな。前回も、レーダーの反応が実際の艦より随分と小さかった。分析によれば、角度をつけた構造にすることでレーダー波を受け流せるのだそうだ」
「それを聞いてもなお不思議でなりません……レーダーに映りにくくなるなど……というか、仮に巡洋艦4隻だとしても、我々の艦隊では相手の面子を潰してしまいませんか?」
彼がそういう理由は、護衛艦隊にあった。
今回派遣されている艦隊は、戦艦を含む強力な水上艦部隊だ。燃料事情が国内全体で厳しくなりつつある帝国にとって、重油を大量に消費する戦艦の運用には慎重にならなければならない。
実際、本来派遣されるはずの艦隊もそう大規模なものではなかった。では何故突然艦隊が増強されたのか。
「仕方がないだろう。今回は殿下もご同行されている。万が一のことがあっては困るのだ。皇族がいるとなれば、相手の理解も得られるだろう」
そう、今回の外交団にはグラ・バルカス帝国の皇族も含まれているのだ。
そして、その影響は艦隊の増強以外に、こんなところにも出ていた。
(胃が、胃が痛い…………帰りたい……!)
外交官であるシエリアは、同じ外交団に皇族がいるという状況に胃を痛めていた。
(どうして私がこんな事に………帝国を上回る軍事大国の相手など、したこともない!その上この交渉が帝国の命運を左右する!?しかも殿下がご一緒!?…………あぁ、私はここで死ぬのか)
「最後に映画、観たかったなぁ…………」
「なんか変な事言ってるぞ」
「優秀な彼女にしては珍しいな」
「死ぬのか………?あいつ……」
艦内は混沌としている。
そこへ、艦隊司令ストールがやって来た。
「シエリア殿、もうすぐ日本艦隊と接触します。エスコート相手であれば私が話すことになるでしょうが、シエリア殿も外交官として………シエリア殿?」
「………え?……っああ、済まない。すこし酔ってしまったが、それももう収まった。準備をしておこう」
「………?そうですか」
最初は彼女の様子を見て困惑していたストールだが、大丈夫だと判断したのか日本艦隊との通信に備えて待機している。
(映画が見たい………)
大丈夫では無さそうだ。
「艦影を確認しました。巡洋艦4隻です」
見張り員から艦影確認の報告が来た直後、通信が繋がる。
「こちらは日本連邦海軍です。所属と航海目的をお聞かせください」
ストールが無線を取り、反応する。
「こちらはグラ・バルカス帝国所属の護衛艦隊だ。目的は日本連邦本土への外交団の輸送、および護衛である」
すると、相手側は少し固まった後、別の声で返答が返ってきた。
「その声は、ストール殿でお間違いございませんか?」
ストールは聞き覚えのある声に、嬉しそうな顔をする。
「ああ、私は護衛艦隊司令官のストールだ。そういうそちらは朝倉殿で間違いないかな?」
「ええ、朝倉です。お待ちしておりましたよ、グラ・バルカス帝国の皆様」
7日前の会合と同じ司令官同士が、ここで再び相見えた。
「本日は皆様に安全な旅をご案内すべく、護衛としてやって参りました。しかし………過ぎた心配でしたかね?」
朝倉は、帝国側の艦隊を見てそう言ったようだった。
「今回は尊き御方がご同乗しておられてな。我々の威信にかけてお守りするべく、このような形にさせてもらった」
「そういう事でしたか。それならば、我々もより盛大に歓迎せねばなりませんね」
2人は旧来の友人のように言葉を交わし合っている。
「つきましては、ストール殿を含む皆様にぜひご覧いただきたいものがございます。航空隊の連中が駄々をこねましてな。皆様方も先日気になっておられましたし丁度いいということで、結局執り行うこととなりました」
ストールは疑問符を浮かべるが、すぐに思い至る。
「もしや、先日のアレを見られるのか?」
「ええ。直前にもご連絡致しますので、もうしばらくお待ちください。では、我々の後に続くようお願いいたします」
その言葉に通信は切れたが、ストールの口角は上がったままだ。
「司令、先日のアレというのは?」
「ああ、そう言えば君はいなかったな。彼らが保有する戦闘機を観たんだが、その時は空母の甲板に泊まっていてな」
「戦闘機、というととんでもない速度で飛行していたという、あの?」
「ああ、それだよ。実際に飛んでくるんだろう。恐らくな」
"前回は飛んでいるところを見れなかったからな"と続けたストールは、少し興奮しているように見えた。
しかしそんなストールとは対照的に、周囲は日本の巡洋艦の方を気にしているようだ。
「なんか、砲が小さくないか?」
「ああ、それは俺も思っていたんだ。しかも1門しかない。あれじゃそう当たらんぞ」
「船体の大きさとどうにもかみ合わないんだよなぁ……」
「戦闘機がとんでもないって話は有名だし、航空技術が発達した代わりに艦艇はそう進化しなかった、とかか?」
「異世界の国家ならあり得るな」
「前回の時はどうだったんだよ」
「それが、空母が大きすぎてそっちに目がいっちまってたんだよ。ペガスス級の1.2〜1.3倍あったんだぞ?」
「そんなに大きいのか!?」
「というか、大型艦艇を建造する技術があるならなおさら大口径砲を積むべきだろう………」
「司令はどうお考えですか?」
「彼らにその意思があれば、きっと出来なくはないんだろうな。そう考えておくべきだ」
皆が思い思いに話し、ストールもそこに混ざっている。
そんな中、再び通信が繋がる。
「日本連邦海軍の朝倉です。聞こえておりますか?」
「ああ。変わらず透き通った音声だよ」
「ありがとうございます。そろそろ艦隊上空に到着するようですので、もし宜しければ見えやすいところに移動なされてはどうかと思いまして」
「大丈夫だ。しっかり見えているぞ。」
艦橋にいる彼らは、先を進む朝倉が乗っているだろう艦と、晴れた空を見ながらそういった。
「私にも見せてくれ」
そこに、新たな人物が加わる。
「っ殿下!?総員敬礼!!」
ストールは突然の彼の登場に、慌てたように敬礼した。
周囲の者も同じように敬礼している。
"グラ・ハイラス"、グラ・バルカス帝国の皇族の一人であり、国内穏健派の筆頭。今回は国家の命運を左右する極めて重要な外交であり、"相手に誠意を示すためには皇族が直接出向き話をするべき"という考えから同行を申し出たのだ。
「彼の国の戦闘機が見られるのであろう?その技術を、私も直接目にしたく思うてな」
彼の後ろには、随分とやつれたシエリアもついてきていた。
「殿下……万が一の事があっては危険です。重要防御区画に避難なさるべきかと存じます」
「万が一などない。彼の国に我々を害する意思があるのなら、それはとうになされている。他ならぬお前達が、そのような事を話しておったな?」
自分達の発言を引き合いに出されると、ストールも弱る。
「ご歓談のところ失礼いたします。すでに航空機は上空付近にいるようです。まもなく艦隊後方から前方にかけて通過します」
どうやら後ろから回って来たようだ。
「……?対空レーダーに反応がない?遠すぎる……?いや、まさか航空機にも……!?」
一部の者は疑問を抱いたものの、それに反応する者はいない。
そして、皆が集中して視線を向けている上空を鏃の様な形状の航空機が一瞬で通り過ぎていく。
遅れて、爆音が響いた。
「っ!!!!何ということだ!!!」
「音が凄い……少し耳が痛くなりますね」
「おい見たか!?今音が遅れて聞こえたぞ!!」
「例の話、本当だったのか……!」
「美しい………なんと美しい機体だ」
「殿下………」
「私はいたく感動したぞ。ストール司令、彼に感謝を伝えてはくれまいか」
「え、ええ………朝倉殿、非常に良いものをみれた。隣におわす殿下も、喜んでいらっしゃる」
「それは光栄でございます。私としても、祖国の物を皇族の方にお褒めいただいたとあっては鼻が高い」
艦橋内は興奮で溢れ、胃を痛めていたシエリアも目を見開いて、戦闘機が過ぎ去った空の先を見つめて呆けている。
「五六式機巧戦闘機『夜霧』。我らの誇り高き翼です」
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兵器性能紹介
[情報が公開されました]
「五六式機巧戦闘機『夜霧』」
乗員 1名
動力 機巧ターボファンエンジン 単発
最高速度 マッハ1.6 (約 1,700 km/h)
巡航速度 マッハ1.1 (約 1,170 km/h)
航続距離 約2,200km(フェリー)
主翼折りたたみ機構
第三者間接誘導システム
外部ハードポイントへの追加搭載可
兵装ーーーーーーーーーーーーー|
20mm 6連装機関砲 1門
中距離レーダー 誘導機巧弾 2発
短距離赤外線 誘導機巧弾 2発
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日本連邦海軍が運用する第五世代機巧戦闘機。
米国艦隊への太平洋上での有利を保つため、海上運用可能なステルス機が求められた結果開発された。
当時既に第五世代機を保有していたが、大型の機体だったため艦上型に改修するのが難しく、一からの設計となった。
早期に開発する必要性から艦上専用として作られたため、陸上型は存在しない。