「アリスさん、ご紹介しますね。
こちら、レーヴェ子爵家のご子息で王立騎士団にお勤めの、アデルバート=レーヴェ様です。
私の婚約者……に内定なさっている方です」
「アデルバートだ!
よろしくな‼」
明るい茶髪の騎士様の方が大きな声で挨拶してくれた。
そっかそっか、そっちだったか。
うんうん。
「バート様!
敬語! ……を、使ってください!」
「おっとすまんナタリア、そうだった!
アデルバートです‼
よろしくおねがいしまあす‼」
声がでかいなあ!
鼓膜がビリビリ震えてる。
それにしても、ほんとににっこにこだね。
「それからこちらは、王立薬学研究院で技官としてお勤めのアドリーノ=レーヴェ様です。
アデルバート様の弟君です」
「…………アドリーノです。
よろしくおねがいします……」
「なあなあ、俺たち、双子なんだぜ!
珍しくないか⁉」
「えっ、双子⁉」
「ええ、そうです」
へえ~、双子!
確かにあまり双子の知り合いっていないから、なかなか新鮮かも。
……あ、でも言われてみれば確かに。
二人の顔を見比べてみれば、その金色の目は形がそっくりだ。
髪の毛の色は違うけれど、それはご両親のそれぞれから遺伝したのかな?
それに、二人とも固そうな髪の毛がツンツンと跳ねているところはそっくりだね。
しかし、こう……なんていうか、印象が真逆だねぇ……。
兄弟お二人とも王立機関にお勤めだけど、それぞれ騎士団と薬学研究院、騎士様と技官様なのかぁ。
「バート様、リーノ様。
こちらは公爵邸で私とお仕事を一緒にしてくださっている、アリスさんです。
フィッシャー伯爵家のご令嬢です」
「アリス=フィッシャーです。
アデルバート様、アドリーノ様。
お二人とも、お会いできて光栄です」
「こちらこそ!
ナタリアがいつもお世話になっています!
バートと呼んでください‼」
「……お世話になっております。
僕も……みなさんには、リーノと呼ばれています」
アデルバート様とは握手を交わす。
アドリーノ様はぺこりと頭を下げてくださった。
愛称で、バート様とリーノ様、ね。
ナタリア先輩もさっきそう呼んでたな。
よし覚えた。
「今日は、私たちの新居の契約に行くんですけれど……私もバート様もそういった細かい書類を扱うのはちょっと苦手なので、弟君のリーノ様に同行していただくんですよ」
「休み合わせてもらってほんとすまん、リーノ!
頼りにしてる‼」
「……構いませんよ。
僕としても、兄様と未来の義姉様と一緒に出掛けられるので、今日のことを楽しみにしていましたから」
いや全然楽しみにしていましたからっていう表情じゃないんだけど?
『無』だよ?
……でも別に嘘とかお世辞とか、嫌味を言っているとかそういう感じではなくて……この方もしかして、単にあんまり表情筋が動かないだけの方なのかな……?
それに対してお兄さんの方はもうずっと百面相してるけどねえ~。
本当に真逆の二人だなぁ。
でも、新居、新居かぁ、いいなぁ~。
新婚さんだねぇ~。うふふ。
こっちまでなんか勝手にそわそわしちゃうよ……。
「どんなところにお住まいになるか、決まっているんですか?」
「ええ、騎士団には独身の方だけではなくて妻帯者も居住可能な寮があるんです。
そこに住まわせていただく予定なんですよ」
へえ、バート様のご実家……子爵家だっけ?
そこへ嫁入りするってわけじゃないのかな。
バート様より上に嫡子がいらっしゃるとか?
……いやまあ、その辺りの詳しい事情も気にならないといえば嘘になるけど、それよりも私にはもっとよっぽど気になることがある。
「えっ、じゃあナタリア先輩は、もうそろそろここを退職しちゃうってこと……ですよね……?」
「……そうなりますね。
……大丈夫です、アリスさんはもうほとんどお仕事を覚えていますし……私がいなくても、たくさんの使用人の皆さんがいらっしゃいますから、助けてくださいますよ」
「…………」
それはそうなんだけど、淋しいのは淋しいよね……。
一番親しくしてくださってるのは、間違いなくナタリア先輩だから……。
でも、彼女はこうして心を通わせた相手と一緒になれるんだものね。
いや、本人たちがはっきりそう口にしたわけじゃないけど、もう見てればわかるもん。
二人ともお互いのこと大好きなやつだよ。
私たち貴族って、恋愛結婚が増えてきたとはいってもそれでもまだまだ家や親の意向で結婚相手を決めることも多くてね。
一度も会ったことない相手と婚約するなんて話もまだ全然あるのに。
だからこうしてとっても仲良さそうに並ぶ二人を見てるだけで、なんだか私まで嬉しくなってしまう。
彼女が退職するその時には、私も純粋に祝福の気持ちで見送りたいな。
そのためにも、しっかりお仕事覚えないとね。
「それでは、行ってらっしゃいませ」
「はい。
使用人仲間の皆さんにもよろしくお伝えください。
契約の後に時間があれば町に寄って、おいしいものか何か、お土産を買ってきますね」
「えっ、やった~!」
思わず素が出てしまった私の平民言葉にも微笑ましそうに眼を細めて、ナタリア先輩は馬車の窓を閉めた。
御者さんの手綱さばきによって、馬がゆっくりと出発する。
私は、その様子を見送りながら、馬車に向かって大きく手を振った。
***
その日、私は午後の間ずっと衣装部屋で領地にいらっしゃる奥様の秋用ドレスの点検と風通しをしていた。
もし汚れやシミがあれば可能な範囲で取り除かないといけないし、ほつれとかがあれば修繕に出さないといけないからね~。
黙々とする作業だから部屋の中はシーンと静まり返っていて、廊下やなんなら他のお部屋の話し声とかも結構耳に入ってきたりするんだよ。
だからこそ気づいたんだけど、ふと急に邸の中がざわざわと騒がしくなって……たくさんの人が慌てたような声で何かを言っていたり、公爵邸にしては珍しく人が走る足音さえ聞こえてくる。
何かあったのかな? 私は一緒に作業していた同僚の侍女と思わず顔を見合わせた。
イヴァン様はまだ王城法務局からご帰宅なさっていないはずだからイヴァン様が何か急なことを使用人たちに命じたってわけでもなさそうだしなぁ、まあイヴァン様はそういう無茶振りはなさらない方だけど。
あと帰ってきてないといえば、そういえばナタリア先輩も帰ってきた様子がないんだよね。
契約自体はそんなに時間がかからなくて、その後街に寄ってくるかもとは言っていたけどそれにしてもちょっと遅いんじゃないかな?
同僚と一緒に部屋を出ると、玄関の方向にたくさんの使用人が集まっていく様子が見えた。
そして玄関ホールには、息を切らせて慌てた様子の従僕が使用人たちに囲まれている。
彼が口にしたのは、『ナタリア先輩たちの乗る馬車が事故もしくは揉め事に巻き込まれた可能性あり』という信じられない第一報だった。