「もちろん、そんな女性ばかりなわけではないと思うけどねえ」
「そうだよねえ……いわゆる、溺愛願望ってやつ?
そういうのにあこがれる女性っているんだろうなぁ……」
「まあ、恋愛小説とかもそういう題材が多いから。
ってことはそうなんじゃない?」
うん、そう。
イケメンで不器用な夫に溺愛される、みたいな話すごい多いよね。
そう、イケメンなことが必要なんだよ。
《ただしイケメンに限る》、なんだよね、多分。
「私個人の意見と承知して聞いていただきたいんですけど、私はそういうのが逆に無理なんですよ……。
溺愛、というか……溺愛された~い♡ みたいなことを言う自分を想像するのが……無理です!」
「はは、アリスは一貫してずっとその主張をしてるよねえ……」
お兄様には苦笑されてるけど、まあ、そうだと思う。
私ずっとこれ言ってるもんな。
だったらなんで恋愛小説読んでるのって話なんだけど、
自分が
自分自身がそういう状況になりたいとは思わないの!
「その、私も……アリス様の言うことが少しわかります。
そういうことを言う女性って、同時に、こう……男性に守られたい……みたいなの、言いがちじゃないですか?」
「あーあーあ~わかります。
強いイケメンに守ってほしい!
っていう理想を語る人、いますね!」
そう。それも《ただしイケメンに限る》、なんだよね!
「私もその気持ちが、全くわからないとは言わないんですけど……。
ただ……おそらくこの世のほとんどの男性よりも、私の方が強いので……」
「あぁ~……」
まあ、そうね。
騎士としてある程度の実力者なら話は違うんだろうけど、騎士でない普通の貴族だったら多分フェリシア様に腕っぷしで勝てる人ってあんまりいないだろうからなぁ……。
客観的に見て彼女の騎士としての実力がどうかというのは知らないんだけど、ただ、彼女ご自身は普段からとても真面目でストイックに鍛錬なさっているみたいだから。
「だからといって、じゃあ『私より強い男としか結婚しない』とか言うんですかー?
とか言われると……それはなんだか癪というか……」
ん? なんか実感こもってるけどどうしたのフェリシア様……?
どうやらかつて嫌味な令嬢に、やっぱり女性騎士様って……みたいな文脈で言われたみたいね。
それはさぁ……普通に喧嘩売ってきてるやつでしょ?
はぁ? なにそれ腹立つな。
女性騎士本人がそう言うのならまだ微笑ましさもあるし、結婚相手にも騎士としての強さという価値を求める気質があること自体はある意味筋が通っていてかっこいいと思うよ。
でも、そうなんでしょ?
って女性騎士って属性だけでいかにも《テンプレ》な型に押し込めて揶揄するのは、あまりにも品がなさすぎるよ。
「はぁ、それにしても婚約ですか……やっぱり自分の話となると全然ピンと来ないなぁ。
私も、できることなら婚約者を決めておいた方がいいんですかねえ?」
でもな~。若様たち兄弟との話も結局流れちゃったじゃんねえ。
どうしたもんかね。
「う~ん、どうだろうねえ。
アリスも含めて皆まだ若いし、夫婦の形はそれぞれだから……じっくりと自分と向き合いながら、相手を選ぶ時間は十分あるんじゃないかなぁ。
少なくとも、僕とティナさんの夫婦関係についてはあまり……参考にしない方がいいかもしれないけど」
「まあ、貴族の結婚の形としてはだいぶ特殊だよね」
「いやほんと、そうなんだよね~!
参考にならなくてごめんね‼」
うん。なんでそんなに嬉しそうなんですかねこの人。
実際、クロードお兄様とティナお義姉様の関係性って一つの理想の形ではあるとは思うんだよ。
でも、特殊なケースすぎてあまりに参考にならなさすぎる……。
私にそんな《ニコイチ》になるような相手っている?
もしくは今後みつかる? ……無理じゃない?
「ただ、今度の夜会については多分婚約者探しの目的で来てる人が少なくないと思うよ。
アリス自身がすぐにそこで相手を探すっていう話じゃなくて、他の人がどんな感じで相手を探してるか、っていうのをまず見てみるのもいいんじゃないかな?」
「あぁ。今度の王太子妃殿下の夜会ですか。
毎年なさってますよね。
アリスさんは参加なさるとお聞きしましたが」
「そうなんですよ…………なんか、そういう流れになってしまって……」
話はエンテ邸での滞在もそろそろ終わろうとしていた頃、引き上げのための準備をしていた時分に遡る。
アインホルン公爵邸の私宛てに届いた封書……王太子妃殿下が主催する夜会への招待状を公爵邸の方がエンテ邸へと回送してくださったんだけどね。
私は全然知らなかったんだけど、王太子妃殿下はこうして年に一度ほど国内の独身の貴族子女たちを集めてこういう夜会をしてるんだって。
まあ、ありていに言うと仲人業大好きおばさんによる強制《婚活パーティー》ね。
一応私が領地にいる時にも招待状は来てたけど、遠方の領地に住んでいるからってことで私が知らない間にお父様が断ってたみたい。
お兄様は去年はお義姉様が国内にいらっしゃったから彼女と一緒に出たらしいよ。
夜会の一番の主目的は確かに《婚活》ではあるんだけど、ちゃんとパートナーがいる人はその限りじゃないから普通に社交のために出たんだって。
だからお義姉様が他国にいた一昨年は仕事ってことで欠席したみたい。
王城での会議のときに、イヴァン様に王城来たことあんまりないとか、夜会とか出たことないって言ったのが今思えば失言だったよね……。
あと、お兄様の表彰式にも出てないってのも知られちゃったしな。
だからだと思うんだけど、招待状を見たイヴァン様が『いい機会だし、アリス行ってみたら?』って余計な一言を言ってくれちゃった結果なんか参加する流れになって……。
「正直めんどくさいんだけどまあ……美味しいものが食べられるならいいか……と思って」
「まあ、そういう動機でもいいと思うよ。
今回は僕がエスコートする予定だしね。
せっかく王都にいるんだから、たまにはこういう貴族社会の勉強をした方がいいだろうし、ちょうどいい機会なんじゃないかな……」
そんなこんなで、参加を勧めた手前もあるしとイヴァン様がドレスの仕立てを含めて一式を贈ってくださるっていう流れになったんだよね。
私をエスコートしてくださる予定のクロードお兄様のスーツも、私のドレスと合わせて仕立ててくださるんだってさ。
婚約者が決まっていてがっちり横を固めているのに比べると弱いとはいえ、実兄だとしてもエスコート相手がいれば少なくとも変な絡まれ方はしないだろう、ってことみたい。
「それに、ドレスとスーツをクラリス様の件のお礼として受け取ってほしいって若様に言われてしまうとさすがに断り辛くて……」
正直夜会自体はどっちかいうとだいぶ面倒寄りではあるんだけど、ドレスを新調することとかお兄様と一緒に王城に行くことについては、実はちょっと楽しみではあるんだよね。
「もちろん、がっつり婚約者探し目的で来る人たちばかりじゃなくて、普通に情報交換のために来る人も多くいるから。
社交とか情報交換の仕方とか、僕がしてる会話の雰囲気だけでも見ておいたらきっと勉強になると思うよ」
「うん、わかった!
若様にドレスを贈っていただいて参加する手前、何かしら得られるようにがんばるね!」
「本当は僕よりもティナさんの方が社交が得意だから参考になるとは思うんだけどなあ……僕一人が、ティナさんとアリスの両方を連れてくことはできないからねぇ……」
「まあ、お義姉様の社交技術を見させてもらうのはまた別の機会にするよ」
「そうだね。そういえば、リーノやフェリシア様は参加なさらないんですか?
国内独身貴族は全員に招待状が行っていると思いますが」
「私は……そうですね、クラリス様はまだエンテ領にいらっしゃる頃なので護衛としての仕事はない時期ではありますが、ただどちらかというとエレオノール奥様への対応を優先させたいですね……。
この夜会へは過去に出席したこともありますし、今回は特別な事情がなければ不参加かと思います」
なるほど、行っても行かなくてもどっちでも、って感じかな。
「そうなんですね。
リーノも不参加? 用事とかがあるの?」
「いえ、用事とかはないです。
単に興味がないだけで……同行者もいませんしね」
あれ、そういえばリーノ様って、婚約者いらっしゃらないのか。
言われてみればそういう話出たことないもんな。
「こういうのは経験だし、できれば参加しておくのもいいのかなぁとは思うけどねえ……。
まあ無理強いはしないよ。
そのうちリーノにもパートナーができて、積極的に夜会に出ることなるかもしれないし」
「……まあ、未来のことはわかりませんし、絶対にないとは言えませんが。
少なくとも多分相当先の話になるとは思いますよ」
「そういう人に限ってね~パートナーをいきなりパッと決めてきたりするんだよ、不思議とね」
「はあ。どうでしょうね」
リーノ様は少し揶揄うようなクロードお兄様の言葉を肯定も否定もせず、しかし自分のことだというのにものすごく興味なさそうにつぶやいた。