10話 レベルアァアアアプ!
割り出した出現場所は、地下三階層の隅《すみ》、行き止まりの小部屋だった。
息を殺して、そっと角《かど》から覗き込む。
――いた。
虹色のドッジボールのような球体が、何もない床の上で、ぴょん、ぴょん、と跳ねている。
害意のかけらもなさそうな、間抜けな見た目。
レインボール。
経験値の塊ともいうべきボーナスモンスター。
どくん、どくん。
心臓が痛いくらいに脈打つ。
「……落ち着け……行ける、行ける……」
黄金のナイフを握り直し、俺は一歩、また一歩と距離を詰めていく。
――あと少し。
そう思った瞬間、レインボールがくるんと回転して、小さな目でこっちを見た。
「……気づかれた」
次の瞬間には、跳ねる速度が一気に跳ね上がり、壁際へと逃げ出していく。
こいつに関しては、ネットの掲示板で死ぬほど調べさせてもらった。
だから、だいたいの行動がわかる。
「レインボールの逃走方向は……目の向きで読める」
攻略掲示板に、そう書いてあった。
跳ぶ直前、小さな黒い目が、わずかに逃げる方向を向く。
「――右か」
俺は先回りするように回り込み、逃げ場を潰していく。
右、左、また右。
何度も読み違えそうになりながらも、
少しずつ、レインボールを部屋の隅へと追い詰めていく。
そして、ついに……
背中を壁につけたレインボールが、跳ねるのをやめた。
「……詰んだな、さあ、俺の経験値になってもらおうか」
勝利を確信した、その瞬間だった。
レインボールが、こっちに向かって飛んできた。
「――げっ」
驚くと同時、腹に強い衝撃!
「ぐぅあっ……!!」
息が詰まる。
視界が一瞬、真っ白になった。
その場に膝から崩れ落ちながら、俺は、軽くゲロを吐く。
「体当たり……してくるとは、書いてあったけど……こんな強いのか……いや、俺が弱いだけか……」
レインボールの顔が、ぐにゃりと歪む。
まるで、笑っているように見えた。
「……なめやがって……」
悶絶《もんぜつ》しながら、俺は奥歯を噛みしめる。
こんなところで終わってたまるか。
黄金のナイフに、50万円払ってるんだぞ。
レインボールが、再び跳ねた。
今度は逃げるためじゃない。
まっすぐ、こっちに向かって突っ込んでくる。
俺ぐらいならボコせると思ったのかもしれない。
ボーナスボールの分際で……人間様をナメたらどうなるか思い知らせてくれる。
「……来い」
俺は腹の痛みを気合で無視して、ナイフを構え直す。
突進の軌道を見極め、タイミングを合わせる。
――今!
突っ込んでくる勢いに合わせ、ナイフの切っ先を、レインボールの中心部へと突き立てた。
「ッ――!!」
ぐさり、と、確かな手応え。
レインボールの表面にピシピシと亀裂が走り、
一度、ぷるぷると震えてから、
光の粒子となって、崩れるように消えていく。
直後、体の内側に、何かがどっと流れ込んでくる感覚。
「――っ、うおおおおおおお!!」
全身が熱い。
頭の芯が痺れるような感覚が走る。
血とか細胞とか魂とか、そういうのが膨れ上がっていくような……
「……自己鑑定《ステータスオープン》」
俺が使える魔法は、自己鑑定と『亜空間倉庫《アイテムボックス》』のみ。
ちなみに、この二つの基礎魔法は、ダンジョン配信者ならだれでも使える。
【名前:センエース】
【レベル:15】
「……10から……いきなり15になった……えぐ……やば……」
声が震える。
たった一体倒すだけで、この上昇幅。
……俺はもともとレベル5だったが、
この半年、雑魚モンスターを倒し続けて10まで上げた。
その半年分と同じ……
いや、それ以上を、一気に稼ぐことができた。
しばらく、その数字を見つめたまま、俺は動けなかった。
やがて、じわじわと笑いがこみ上げてくる。
「……あとは、これを繰り返せば……俺……あの『教え子たち』より強くなるんじゃね?」
異世界帰りのスーパースターである教え子たちのレベルは100以上。
途方もない数字だと思っていたが……タイムリープが使える今の俺なら、追いつけるかもしれない。