19話 校長の自爆大転落、後編。
「とにかくだ。すぐに準備をしなさい。応接室で、『ネットに流す用』の『謝罪動画を撮る準備』はできているから。すぐに、『世間様を騒がせて申し訳なかった』と頭をさげなさい。そして、校長の慈悲で戻れることになったので、学校の悪評を流すのはやめてほしい、と。そう宣言するんだ。さあ、はやく」
「いやぁ……遠慮します」
「遠慮しますとかじゃないんだよ!! そもそも、君が勝手にやめたせいで、どれだけ、ほかの教師に業務のしわ寄せがいったと思っているんだ! 少しでも罪滅ぼししようと思わないのかね!」
そう言いながら、校長は、俺の胸倉をつかんできた。
シャツの襟《えり》が食い込み、息が詰まる。
背後で、ユウガが小さく息を呑む気配がした。
「いいかね、このままだとまずいと言っているんだ!」
「あの、そろそろ、ダンジョンに行きたいので……離してもらえませんか?」
「本当に、君は頭が悪いな! なぜ、当たり前の社会的理念が理解できないんだ! 君が配信者になったと聞いた時にちょっとだけ動画を見たが、ひどいものだったじゃないか! 1円にもならないのに、バカみたいに毎日、毎日……教師に戻してやると言っているんだから、黙って受け入れなさい!」
胸倉を掴む手に、さらに力がこもる。
と、そこで、ユウガが、ひどく落ち着いた声で言った。
「校長先生……あなたが訪ねてきてから、今この瞬間まで、ずっと、生配信しているのですが……この先、自分がどうなると思います?」
「……な……に?」
校長の手から、力が抜けた。
「私の胸ポケット……穴があいていましてね……ほら、ちょうど、カメラのサイズの……見えます? 老眼鏡がないと見えないですかね」
そう言いながら、ユウガは制服の胸ポケットから自分のスマホを取り出す。
ちなみに、さっき、彼女が俺に見せてきたスマホは俺のもの。
彼女は当然のように俺のスマホのロックを解除できる。
大問題だが、注意しても治らないので今では放置している。
ユウガは悪魔よりも狡猾《こうかつ》な笑みを浮かべて、校長に、
「さすがに、ちょっとおもしろすぎたので……だいぶ炎上すると思いますが……気を落とさないでください」
「……」
校長は、真っ青な顔をしていた。
どうやら、俺に対する態度に色々と問題があったことは自覚しているらしい。
しかし、ユウガ……悪い子だ。
めっ。
★
その後、すさまじい勢いの大炎上となり、
校長の人生は坂道を転げ落ちるように、悪い方向へ転がっていった。
まず、教育委員会が緊急会見を開き、
「一部教職員による不適切な指導・言動が確認された」
として、校長の停職処分を発表。
会見の映像がそのままSNSで拡散され、
記者の質問に汗だくで言い訳を並べる校長の姿が印象的だった。
「いえ、ですから……私は、あくまでも、よかれと思って……」
「パワハラしていたという自覚はあります? ウチの取材によると、該当教師は、夜一時まで働かされていたとか」
「いえ、それは、彼の仕事ぶりが熱心だったからで」
「ではなぜ首に?」
「ですから、彼は責任をですね――」
『胸倉を掴んだ映像、あれもう普通に暴行の証拠じゃん』
『盗撮教師を学校の評判のために隠蔽したとか、教育者として終わってるだろ』
過去の悪事まで芋づる式に掘り起こされ、コメント欄はお祭り騒ぎだった。
特に盗撮問題に関しては、保護者たちにとって看過《かんか》できるものではなかったらしく、緊急のPTA総会が開かれ、
「うちの子も、知らないところで同じ被害に遭っていたのではないか」
と訴える保護者が続出。
中には弁護士を伴って学校側に説明を求める家庭まで現れ、
慰謝料請求も視野に対応を検討していると一部で報じられた。
校長の家庭は一家離散で夜逃げした……
というまとめ記事まで流れていたが、本当かどうか知らないし、興味もない。
校長、ファイト!