2話 闇金で借りて踏み倒そう!
銀行の窓口で、あっさりと審査に落ちた。
サラ金に行く前に、ダメもとで正規の銀行に来たが……やっぱり、ダメだった。
「現在、無職の方への融資は……」
申し訳なさそうに言葉をにごす行員に、それ以上食い下がる気も起きなかった。
一応、ダンジョン配信者ではあるが、収益と呼べるものはほぼない。
無職も同然。
現状、俺の全財産は30万円。
半年間、ろくに稼げない配信を続けながら、切り詰めた生活をしてきた。
80万円あったはずの貯金は、大きく目減りしていた。
銀行、信用金庫。
回れるところは一通り回ったが、結果はどこも同じだった。
あまつさえ、サラ金にすら、渋い顔をされてしまった。
無職の男に、金融機関は鬼のように厳しい。
「……仕方ない」
最終手段。
俺は、雑居ビルの奥にひっそりと看板をかかげる、いかにも訳ありな店の扉を叩いた。
いわゆる、『闇金』というやつである。
「無職ぅ? そりゃキツイですねぇ……どこも門前払いだったでしょ」
カウンターの向こうに座る強面《こわもて》の男が、俺の自己申告を聞いて笑い、
「まあ、うちは審査ゆるいですから。ただし、貸せて5万ってとこですかねぇ」
「5万……もうちょっと、どうにかなりません? 実は70万ぐらい必要で……」
それだけあれば、タイムリープできる。
「そんな大金……どうやって返すつもりですか? 無職なら利息も払えないでしょ」
「……最終的には、腎臓《じんぞう》的なのを売る覚悟はありますよ」
そこで、それまでニコニコしていた男の目がキラリと光る。
「やめときな、にーさん。俺らはシャレじゃなくガチでとるよ」
忠告してくれたが、余計なお世話だ。
――だって、時間を戻せるんだから。
タイムリープすれば、金を借りたことはリセットされる……はず。
……裏面の看板が嘘だったら、どうしようねぇ……
まあ、その時は東京湾にでも沈もうか……
あるいは、マグロ漁船で死ぬまで働くか……
★
それから半日、俺は闇金という闇金を巡り歩いた。
「――5万が限界」
「――3万なら」
「――免許証と保険証とマイナンバーカードかして」
「――うちはトゴ(10日で5割の利息)だよ」
「――7万までならいいよ。その代わり、返せなかったときは覚悟してね」
1件1件は少額でも、数を重ねれば話は変わってくる。
夕方には、財布の中身がずっしりと重たくなっていた。
手持ちの30万円と合わせて数えてみると、ちょうど100万円。
「……これで、いける……あとは……」
スマホで『昨日の競馬の結果』を確認する。
壊れていたのはカメラだけなので検索はできた。
第1レースから第3レースまで……
絶対に忘れないよう1着の名前だけ真剣に覚える。
シッカリと頭に叩き込んでから、
俺は再び裏面を目指した。
★
ダンジョンに足を踏み入れ、心の中で念じてみる。
――裏面に行きたい。
すると、視界が一瞬歪み……
気づいた時には、
「……よし」
またこの場所に来ることができた。
どうやら、一度足を踏み入れて以降は、念じるだけで自由に出入りできるらしい。
「……本当に、大丈夫なんだろうな。タイムリープできなかったら、闇金全部を敵に回すことになるんだが」
半信半疑のまま、ATMに100万円を入金する。
すると、画面に『タイムリープしますか? はい/いいえ』という簡素な確認画面が表示された。
「……頼むぞぉ……『ドッキリでしたぁ』とかいうクソみたいなオチだけは勘弁してくれ」
『はい』に触れた瞬間、
――視界が真っ白に染まった。
★
気づくと、俺は自分の部屋にいた。
スマホで日付を確認する。
――間違いなく昨日だった。
そして、カメラの状態も確認する。
壊れていない……これは、もう文句なく過去だろう!
「……よっしゃぁ……ひひひ、ひゃはははあぁ! 勝ったぁあ! これ、もう、俺、人生勝ったぁああああ! ひゃっほい!」
うれしすぎて踊ってしまう。
タイムリープは言うまでもなく最強の裏技。
これができるなら、何でもできる。
「はは……はぁ……」
俺は、いったん落ち着いてから、今日のレースの結果を思い出す。
問題ない。
確実に覚えている。
「問題は……軍資金……」
震える指で銀行アプリを開く。
顔認証、通信中のくるくるマーク。
わずかな待ち時間すらもどかしい。
――残高、30万円。
しっかり残っていた。
タイムリープしたことで、『裏面のATMに金を入れた』という事実もリセットされている。
「タイムリープ最強! しかも、これは要するに、実質、ノーコストでタイムリープできるってことじゃねぇか!」
俺は無敵の力を手に入れた!
「よっしゃぁあああ! 稼ぐぞぉお! 金さえあれば何でもできる! 夢も希望も、人の命だって金しだい! このクソみたいな人生を終わらせて、まとも以上の未来を手に入れる!」
俺は、競馬場に向かって走り出した。