センエース   作:閃幽零

20 / 66
第B章 美少女中学生は同棲している先生とハグがしたい。
20話 いってきますのキスの約束。


 

 20話 いってきますのキスの約束。

 

 校長の一件は、俺の与《あずか》り知らぬところで、勝手にどんどん転がり落ちていった。

 

 停職処分だの、PTA総会だの、一家離散だの……

 物騒なワードがニュースに躍るたび、

 正直、ちょっとだけ胸がすく思いはあったが、

 それ以上に、自分には関係のない話だという心の距離感の方が強かった。

 

 朝食の席、味噌汁をすすりながら、俺はスマホの画面をユウガに見せる。

 

「なんか、校長、大変そうだな」

 

「どうでもいいです」

 

「いや、まあ俺もどうでもいいんだけどね」

 

 ★

 

 箸を置いたところで、ユウガが不意に切り出した。

 

「実は私も、ダンジョン配信者になろうかと思っておりまして」

 

「はぁ?」

 

 思わず変な声が出た。

 寝耳に水すぎる。

 

「そうすれば、今以上に先生をサポートできるので」

 

「アホなこと言っていないで、勉強だけやっていなさい」

 

「私はもっと先生の役に立ちたいんです」

 

 無駄に真剣な目をしやがって。

 あんまり無茶なことを言って困らせるなよ。

 俺の毛根も無敵じゃないんだぜ。

 ストレスで生え際が後退したらどうしてくれる。

 

「俺の役にたちたい……なら話は簡単だ。東大にいって、問題なく卒業して、国家公務員二種を獲得し、バリキャリとなって、保護者である俺に、毎月5万円を仕送りしなさい。俺はその日を夢見て、お前を育てているのだからして」

 

「レベルを上げて、回復魔法あたりを覚えることができれば、役に立てると思います。というわけで、今日ぐらいから一緒に――」

 

「アホなこと言いなさんな。ダンジョン配信なんてヤクザと一緒だ。心に入れ墨が入っているバカがやるシノギ」

 

「さすがにヤクザと一緒ではないと思いますが……」

 

 ユウガは、あきれた顔を浮かべてから、

 

「では、ダンジョン配信はあきらめます。そのかわり、毎日、出かけるときにキスをお願いします」

 

「ありえるか、ばか。青少年保護育成条例をナメんじゃねぇぞ」

 

「なるほど……ではハグでは?」

 

「同じぃ」

 

 と、その瞬間だった。

 ユウガが、すっと椅子から降り、フローリングの上に、あまりにも美しい姿勢で正座。

 そのまま額を床につけようとする。

 

「お願いします、先生。先生の仕事はモンスターの討伐《とうばつ》……いつ亡くなってもおかしくはない危険な仕事。いつ最後の別れになってもいいように、せめて、ハグだけでも」

 

「土下座は、やめて、ほんと。このシーンを切り抜きされたら、俺、社会的に終わる」

 

 慌てて彼女の肩をつかんで止める。

 冗談でかわそうとするも、彼女の目が本気すぎて怖い。

 

 結局、その後の話し合いの末、

 ――まんまと『出かけるときにはハグをする』という約束をさせられてしまった。

 

「……もしかして、ドアインザフェイスをつかった?」

 

 ドアインは、最初にわざと無理な要求(配信者希望&キス)を突きつけて断らせ、本命の要求(ハグ)を通りやすくさせる交渉術。

 

「なんのことかわかりません。それより、先生。はやくハグしてください。学校に遅れてしまいます」

 

「いや、でもなぁ……コンプラがなぁ」

 

「家族でハグすることに文句をいうバカがいたら、『あんた頭おかしいのか』って中指立ててやれば済む話です」

 

「前から思っていたけど、ユウガさん、ちょっと性格が苛烈《かれつ》すぎるところあるね。気をつけなさい、そういうところ」

 

 ぶつぶつ言いながらも、俺は根負けし、

 そのまま、彼女を、一度、軽く抱きしめた。

 

 ――思ったよりも、軽い。

 

 細い肩、薄い背中。

 ちょっとでも力を込めたら、そのままぽっきり折れてしまいそうなほど、頼りない体つきをしている。

 

 いつも、あんなに気の強いことばかり言っているくせに。

 中身は、案外、脆いのかもしれない。

 

 この子を守っていかなければいけないのだ、と、俺は、より一層強く実感した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。