23話 殴られると安心するのでDV大歓迎です。
ダンジョンの各階層には、『下へと続く唯一の階段』がある。
その階段を『ガーディアン』と呼ばれる強力なモンスターが守っている。
ガーディアンは、とんでもないバケモノで、今まで、高レベルの配信者が何人も殺されている。
なのに、時空旅団の連中は、そんな化け物を、毎度、あっさりと秒殺していく。
「あいつらが6階層のガーディアンを倒している配信……1億再生いっているんだけど……えっぐ……スパチャとか含めると、これだけで、たぶん、数億円は余裕で稼いでいるよな……すげぇなぁ」
俺がボソッとつぶやくと、味噌汁をすすっていたユウガが、顔も上げずに言った。
「先生の方がすごいですよ」
「いや、あの……どのへんが?」
思わず箸を止めて聞き返す。
「ダンジョンの浅瀬でパチャパチャやっている俺と、6階層を突破した時空旅団を比べた際の、俺の勝利ポイントがどのへんか教えてくれる? ちなみに俺の判定だと、0:100で負けてんだけど」
「たまたま異世界でチートを手に入れただけの連中より、先生の方が頑張っていますよ」
ユウガは箸を置き、まっすぐにこちらを見た。
「見た目は微妙なオッサンですが、先生の心は誰よりも優れていると思います」
「誰が見た目微妙なオッサンじゃい。俺の顔は味があるってコメントでもよく言われるぞ」
「……そうですね」
ユウガは、一拍置いてから、ここではないどこか遠くを見つめながら、
「先生はカッコイーです(棒)。男性アイドルも泡吹いて逃げ出す絶世のイケオジです(棒)」
「ケンカの売り方がうまいじゃねぇか。よし、表出てかかってこい。まずは鼻からヘシ折ってやるよ。レベル38を超えているオッサンのDVをナメんなよ」
「どうぞお好きに。殴られると安心しますので」
「……えぇ……」
「冗談ですよ」
どうして、そういうエッジのきいた冗談がサラっといえるの?
なんというか……ユウガには一生勝てる気がしない。
「先生は本当にかっこいいと思いますよ。総合的には1001点を超えています。少なくとも、チートを振り回して喜んでいるだけの連中よりは絶対に上です」
ユウガは俺がヘラるたびに『よしよし』してくる。
これじゃあ、どっちが保護者かわからねぇ。
――ちなみに、俺も『裏面』っていうチートを振り回して喜んでいるだけのオッサンなんだけどねぇ……
★
翌日の朝、
その足で、俺はダンジョンに向かった。
あいつらはあいつら。
俺は俺。
「俺の目標は昨日の自分!」
というわけで、次はS級を倒すところを、動画に収めたい。
そのためには、レベル上げと準備がいる。
「……レインボール、いねぇなぁ……」
ぶつぶつ言いながら、いつもの巡回ルートを歩く。
行き止まりを確認し、天井近くの隙間まで目を凝らす。
隠し扉がないかも入念にチェック。
――いない。
うぜぇ。
ちょっと運がよくなったかな、と思ったらこれだ。
そこで、俺はふと思う。
「あいつら、もしかして、日によって、出る階層が決まってんじゃねぇかな。この日は、6階層にしか出ません! ……的な」
根拠はないけど、可能性としては十分。
「今まではレベルの問題でいけなかったけど……今日は……ちょっと、5階にチャレンジしちゃおうかなぁ……永遠に浅瀬でパチャパチャしているわけにもいかんしねぇ」
俺のレベルも38になっている。
このレベルなら、5階でもやっていけるだろう。
★
「やっぱ、5階は、2~3階とは雰囲気からして違うねぇ」
開《ひら》けた空洞《くうどう》に足を踏み入れた瞬間、空気が変わったのがわかった。
足を踏み入れて数分……
「うぉ……」
むわり、と肌を炙《あぶ》るような熱気。
視線を上げると、洞窟の中央、うずくまるように鎮座《ちんざ》する巨躯があった。
全身を紅蓮《ぐれん》の鱗《うろこ》に覆われ、背には黒く焦げたような翼。
瞳孔の代わりに、燃え盛る炎そのものが二つ、こちらを見据えている。
S級モンスター。
炎属性の龍。
「……これはこれは……こわいねぇ……おしっこ漏れちゃうねぇ」
思わず、声が漏れた。
見栄えは、文句なしだった。
配信映えという意味では、これ以上ない相手。