24話 戦闘力がめっちゃ上がったぁああ!
炎龍に挑んでから数分……
「――くそがぁ! 哺乳類《ほにゅうるい》をナメるなよ、紅いだけの爬虫類《はちゅうるい》風情がぁ!」
踏み込みざま、剣を叩き込む。
小さな手応えはあった。
だが、それ以上に、返ってきた衝撃が桁違いだった。
「硬ぇなぁ! ちくしょう! 霊長類《れいちょうるい》様の手をしびれさせるとは何事か!」
などと叫んだ直後、
龍が咆哮《ほうこう》とともに口を開いた。
その瞬間、視界が真っ赤に染まる。
「ずべぇえええ……!!」
全身を炎に呑まれ、俺は為す術もなく吹き飛ばされた。
焼け付くような痛みに、意識が一瞬飛びかける。
地面に叩きつけられ、しばらく動けなかった。
「……強ぇよぉ……死んじゃうよぉ……」
泣き言を口にしても変わらない……なんてことは理解しているが、
苦難や悲痛を前にした時には、つい、弱さをこぼしてしまう。
だって人間だもの。
「やっぱ、S級は、A級とは次元が違うな……時空旅団の連中は、こんなやべぇのをワンパンで殺すんだよなぁ……イカれてんだろ……もはや怖ぇよ、あいつら……あいつらがそのきになったら、人類は3日と持たずに死滅する気がする」
俺は痛む体を引きずるようにして裏面へ逃げ込んだ。
★
その後、俺は、タイムリープして、挑んではやられて……というのを繰り返した。
2回目の挑戦では炎のブレスを警戒しすぎて距離を取りすぎ、逆に間合いを見失う。
龍の尻尾に薙《な》ぎ払われ、あっさりギブアップ。
3回目の挑戦では踏み込みすぎて、至近距離でブレスをまともに浴びた。
どないせぇっちゅうんじゃ。
4回目と、5回目では、なんの成果もえられませんでしたぁ!
ただボコボコにやられただけ。
まるで成長していない……
「はぁ……はぁ……」
でも、まあ、何の成果も得られないってわけでも……ないかな……
地味で、代わり映えのしない繰り返し。
だが、その中で、少しずつ、被弾する回数が減っていく。
劇的な変化は見られないが……ちょっとはマシになっている気が……しないでもない。
「ああ、この位置でも当たるのか……速ぇな……お前のシッポ……」
龍の呼吸のリズム。
ブレスを吐く直前、わずかに喉が膨らむ予備動作。
尻尾の一撃には、必ず半歩分の溜めがあること。
拾い集めた情報が、少しずつ、頭の中で線になっていく。
★
6回目のタイムリープを終えたあたりで、ふと、思考が横道にそれた。
A級、S級と、着実に階段を登ってきて、
今さらながら、気づいたことがある。
「俺って、やっぱ才能ないなぁ」
『なんでも初見でうまくこなせる器用さ』……俺には、まったくそなわっていないもの。
けど……だからこそつかめる未来ってのも……
もしかしたらあるかも……と、自分に言い聞かせる。
「……才能がないってのは、要するに、補助輪がないってだけの話だろ」
補助輪なしの自転車だって、何度も転んで、擦りむいて、それでも漕《こ》ぎ続ければ、いつかは走れるようになる。
時間はかかる。
だが、理想の未来に辿り着けないわけじゃない。
剣技の一閃も、拳を撃ち込む閃拳も、繰り返すたびに、確実に威力が増していくのがわかった。
小脳が。
筋肉が。
神経の一本一本が。
少しずつ、『モンスターを殺すための動き』に最適化されていく感覚。
「俺は……間違いなく強くなっている……」
何度でも自分に言い聞かせる。
――これは、レベルという数字には表れない、もう一つの成長。
『戦闘力』の向上という、プレイヤースキルの進化。
★
……そして挑む、血みどろの9回目。
「――行くぞ」
龍がノドを膨らませた、その瞬間。
俺は、すでに動き出していた。
予備動作を見切り、最短距離で懐《ふところ》に潜り込む。
吐き出された炎のブレスは、俺がいたはずの場所を虚しく焼いた。
「おらぁあああ!!」
反射的に振り下ろされる爪を紙一重で潜り抜け、
――俺は、全体重を乗せた一撃を、龍の喉元めがけて叩き込む。
「ぐぉおおおおおおおおおおおおお!!」
断末魔の咆哮。
巨躯が、内側から光を漏らしながら、崩れ落ちていく。
その光の粒子が完全に消えるまで、俺は、剣を握ったまま動けなかった。
「……はぁ……はぁ……勝った……マジかよ……どうせ俺なんかじゃ絶対に勝てねぇと思った……」
膝から崩れ落ちるように座り込み、荒い息を整える。
震える指で、自己鑑定を開く。
――レインボールも、ほかのモンスターもあまり倒せていない。
ずっと、炎龍と戯れていただけだから、レベルは、ほとんど変わっていない。
だが、
「――むちゃくちゃ強くなれた……という自負があるんだけど……これは勘違いかね」
数字にはできない戦闘力の成長。
炎龍との長い一戦を通して、確かに何かを掴んだという実感だけは、はっきりとあった。