30話 ソシャゲはリセマラしている時が一番楽しいぃ!
「……ん」
目を覚ますと、見慣れた自室の天井が視界いっぱいに広がっていた。
キッチンの方から、いつもの味噌汁の匂いが漂ってくる。
「おはようございます」
ユウガの声。
いつも通りの朝。
布団から這い出るより先に、俺は反射的に自己鑑定を使っていた。
――レベル18。
「……下がってる……マジか……」
思わず、声が漏れる。
「先生、何かいいました?」
キッチンから、フライパンを振る音とともに、ユウガの声が飛んでくる。
「リセマラできねぇ……うぜぇ」
「ソシャゲはほどほどにしてくださいね。美少女キャラに課金なんてしようものなら、ケツの穴から手を突っ込んで、奥歯ガタガタいわせますよ」
ユウガのボケを拾うこともできないほど、普通に落ち込んでしまった。
俺は、ただただ、天井を見つめたまま固まってしまう。
――てか、考えてみれば当然の話だ。
レベルは引き継がれる仕様なのだから……
「マジで頭悪ぃ……俺、この男、嫌いぃ」
自分の頭の悪さに、本気でヘドが出る。
そこで、ふと、嫌な想像が頭をよぎった。
もし『レベルだけ吸われて、アイテムはリセットされます』
とか、そんな最悪の仕様だったら……
慌てて、アイテムボックスに手を伸ばす。
「……ぁ、あった」
『注文の多い多目的室』は、ちゃんとそこにあった。
安堵のため息が漏れる。
「よかった……もし、なかったら、アワ吹いてウンコもらすところだった……」
「先生の大便なら掃除できますけど、できれば、トイレでやってくださいね」
「花も恥じらう女の子が、大きい便だなんて……はしたない! 天使の忘れ物といいなさい!」
「……そっちの方がはるかにキモいと思いますが……」
★
飯を食い終えたあと、いつも通り、玄関先でユウガとハグを交わす。
細い体を軽く抱きしめながら、俺は、頭の中でぼんやりと状況を整理していた。
「……いってきます」
「いってらっしゃい、先生」
玄関を出て、ダンジョンへ向かう道すがら、思考が少しずつ形になっていく。
裏面2のガチャ結果も、タイムリープで引き継がれる。
リセマラはできない。
これから先は、『レベルを差し出してガチャに挑むかどうか』を、真剣に検討していく必要がある。
「しかし……リセマラしたかったなぁ……ソシャゲは、正直、リセマラしている時が一番楽しい」
昔、何本かソシャゲに触れたことがあるが、思い返せば、半分以上は『リセマラで大当たりを引いた段階』で満足して辞めてしまっていた気がする。
本編を始める前に燃え尽きる、という、ソシャゲあるある。
「しゃーない……とりあえず、またレベルを上げるか」
★
俺は、狩場を、正式に5階層へ移した。
浅瀬でレインボールを狩るのは、もう卒業する。
ここから先は、ハグレインボールを狩り続ける。
「広域爆裂ラン――」
「言わせねぇよぉ!!」
詠唱の合図となる、あの光の線。
その走り出しを目にした瞬間には、もう懐に潜り込んでいる。
何度も何度も繰り返すうちに、ハグレインボールの詠唱時間は、体に染みつくレベルで理解できてしまった。
もはや、殺すだけなら目をつぶっていても余裕!
というのは、さすがに言い過ぎだが、ノーダメージで勝つことなら、普通にできる。
「よし……たった8回殺すだけで、レベル39まで上がった……」
最初こそ『物足りないかな』と思っていたハグレインボールの経験値も、こうして数をこなしてみれば、レインボールとは雲泥《うんでい》の差だと思い知らされる。
効率が、まるで違う。
うっはうっはで、脳汁が止まらない。