35話 俺はレベル82なのでヤンキーなど秒殺できる。
場所は、学校の応接室。
呼び出された理由は、あらかじめユウガから聞いていた。
どうやら、彼女が男子を振る際の常套句《じょうとうく》が、校内で問題になっているらしい。
『実は、同棲していて、その人と結婚するので……』
そう言って、片っ端から告白を断っているという話が、いつの間にか噂になり、教師の耳にまで届いてしまったのだそうだ。
テーブルを挟《はさ》んで座る生活指導の教師が、じっとこちらを見据えてくる。
「で、実際のところは?」
「この子が、露払《つゆばら》いをするための理由に俺を使っているだけです。当然ですが、俺とこの子は、ただの保護者と学生の関係でしかありません」
「言うまでもないですが、30後半の男が、15歳の中学生に手を出したりしたら……」
「終わることぐらいわかっていますよ。これでも元教師なんで、そこらの一般男性よりもよっぽどね」
断言すると、教師は、ふむ、と一つ頷いた。
必死に弁明した結果、なんとか事なきを得たが、
「決して理性を失わないように」
と力強く釘を刺されてしまった。
うるせぇ、ボケ。
俺の自制心をナメんな。
才能はともかく、忍耐力に関してだけは宇宙一を名乗っていいレベルだと自負している。
★
応接室を出た廊下で、俺は小声でユウガに釘を刺す。
「ちょっと、ユウガさん」
「はい、なんでしょう」
「俺と結婚がどうとか……そういうグロい話を、外でするのやめてくれる? 家の中限定のギャグでも危ういってのに。……条例に引っ掛かって、ガチでやばいんだわ。俺、つかまるぜ、普通に、マジで。そして、国家に拷問されるぜ」
「前向きに善処することを検討します」
「それは政治家が『何もしない』と断固たる決意を固めた時に言うセリフだ」
★
その後、ユウガと一緒に応接室を出て、学校の中を歩く。
その道中、男女関係なく、ユウガが熱い視線を集めていた。
「見て、ユウガ様……いつ見てもきれい」
「あんなサラサラの髪とかありえる?」
「あの完璧な褐色肌の前では、すべての美白がゴミになる……」
「隣の男、あれが噂の?」
「えぇ……なに、あれぇ……キモいオッサンじゃん」
だれがキモいオッサンじゃい。
本当のことでも言っていいことと、悪いことがあるってことぐらい、中学生になってまだわからんか、バカチンが。
ぶん殴ってこようかな。
めちゃくちゃ大問題になるけど。
★
その後、帰り道で、この学校の不良グループに絡まれた。
数えてみると、全部で20人ぐらいいる。
「てめぇが蝉原の男か? カスみてぇなキモオッサンじゃねぇか」
「男って……保護者だよ」
「蝉原ユウガは、てめぇみたいな貧乏くせぇオヤジにはふさわしくねぇ。どうやって手籠《てご》めにしたか知らねぇが、とにかく、蝉原を解放しろ。蝉原は俺が守る! この聖城《せいじょう》マサトがなぁ!」
手籠めって……ずいぶん古風な言葉を知っているじゃないか。
てか、アホなヤンキーごときが、ナイト面すんなボケ。
うちの子は東大にいって、いずれは財務省の事務次官になるんだよ。
そして、ゆくゆくは石油王と結婚するんだ。
あるいは、どっかの王室の王子と結婚するんだ。
すくなくとも、お前みたいなカスに渡すか、バカ。
俺はため息交じりに、
「なめんなよ、中学生。てか、年上は敬《うやま》え。這《は》いつくばって靴をなめろ。お前が生まれた時には、俺は、すでに働いてたんだぞ……って、すげぇな、時間の流れ、はっや……おそろしっ」
「ごちゃごちゃうるせぇ、死ねや!」
そう叫びながら、殴り掛かってきた。
マジかよ。
バカじゃねぇのか。
ちなみに俺のレベルは82なので、こんなガキは秒で殺せる。