ミスって違う話を投稿しておりました。
本当に申し訳ない!
40話 多額の年俸でオファー。
40話 多額の年俸でオファー。
綾大路は、手元のタブレットに視線を落としながら、続けた。
「あなたのレベルは50……別格のSS級である時空旅団の面々をのぞけば、あなたの力は人類の中でもかなりの上澄《うわず》みです」
彼女は、静かに数字を並べていく。
「ダンジョン配信者のレベルは、最高クラスで60前後。中堅クラスで30前後。下位クラスで15前後、というのが、統計上の分布です」
その言葉に、思わず苦笑する。
最初にこのダンジョンに潜った頃、俺のレベルは10だった。
つまり、下位クラスの中でも、さらに下。
文字通りの底辺だった、ということ。
「なぜ、今まで、その力を隠していたのですか?」
「いや、隠していたわけじゃなく……最近、急に『レベルが上がりやすい』っていうパッシブスキルが覚醒して……」
「ほう、それは興味深いですね」
綾大路は、眼鏡の位置を軽く直しながら、
「ダンジョンでレベルを上げた者が、ある日突然、魔法やスキルに目覚める、というのは珍しい話ではない……」
あっさりと納得してから、
「それで……専属になりますか?」
そこで、俺は、小指で耳の穴をほじりながら、
「条件次第です」
「私としては、あなたに、『彼らの担任』として復活してほしいと考えています」
「担任として?」
「正直、彼らは強すぎて、制御しづらいところがあります。あなたが、協会と時空旅団の中継役《ちゅうけいやく》になってくれたらと考えています」
なるほど、と、頭の中で理解が進んでいく。
あの化け物じみた強さを持つ時空旅団のメンバーを、大人の都合で完璧に制御するというのは難しい。
しかし、今の俺は、あいつらの命の恩人というポジにいるので、多少は言うことを聞くだろう……という目算か。
「報酬はもちろん払います。年間契約で……2000万円ほどでどうでしょう」
「2000万……」
実に、なじみのある数字だった。
競馬で稼いで、黒服に目をつけられた、あの日の払戻金額。
そして――生命保険の受取金額。
どちらも、2000万だった。
……これも、何かしらの運命なのかな。
柄にもなく、少しだけスピリチュアルなことを考えてしまう。
それだけのまとまった金額があれば、当面のタイムリープ費用にも生活費にも困らない。
毎年払ってもらえるのであれば、ユウガの学費も問題ないだろう。
条件としては、十分……どころか破格。
だが、
「でかいですね。しかし、正直なところ、あいつらの世話はごめんなんですよ。才能あるあいつらを見ていると、無能な自分がみじめになる」
本音が、するりと口をついて出る。
「それに……この前の戦いの後遺症《こういしょう》で、色々と体にガタがきていましてね。一応、レベルは50ですが、実質的にはレベル20ぐらいの働きが精々でしょう」
ダークリングの後遺症で、体は、ずっと軋み続けている。
現状、まともに動ける気がしない。
「……あなたの体の状態に関しては、医者から聞いています」
綾大路は、表情を変えずに続けた。
「かなりのダメージを負っている、と。時空旅団のメンバーが高位の回復魔法を使っても治らなかった、ということも」
俺の教え子の一人、山本コハルは、非常に有能なヒーラーだ。
バキバキに折られた猛田の腕も、彼女が完璧に治してみせた。
だが、その彼女の魔法をもってしても、俺の体は完治しなかった。
「……私は別に、あなたのことを戦力として期待しているわけではありません」
綾大路が、はっきりと言い切る。
「戦力は、猛田さんたちだけで十分だと認識しています。今回のような、異常な強さの敵はそうそう現れないでしょうし……彼らも、まだ子供ですから、この先、もっと強くなるでしょうし」
「はぁ」
「私は、あなたに、いわば『監督』としての仕事を任せたいのです。そして、中間管理職としての任務も」
中間管理職……
いやな言葉だ。
好き好《この》んでなりたがる奴の気がしれない。
「現場に立たなくてもいい。安全圏にいながら、2000万。悪くない話だと思いますが」
「監督ねぇ……」
その響きを、口の中で転がしてみる。
さて、どうしたものか……
「どうですか?」
問われて、俺は天を仰ぐ。
色々と、メリット、デメリット、交互に精査した上で、
「……わかりました、うけましょう」
俺は、頷いた。
「ただし、ある程度は自由にさせていただきたい。リハビリにも注力したいので」
「それはもちろん」
綾大路は、初めて、口元にわずかな笑みを浮かべた。