44話 散り際に輝く閃光!
「日付的には、いつくるのか。もうすぐってのは、あまりにも広いぜ。明日も『もうすぐ』だし、人類史視点でみれば『100年後』だって『もうすぐ』でくくっていい。最深部ってのが何階なのかもそうだ。10階? それとも100階?」
期限が明日で、最深部が100階だったら終わりだな……
「……そもそも、魔王がやってくるのと、最深部を目指すことに何の関係が? まさか、最深部に、伝説の剣でも刺さっていて、それを抜いて振り回して、魔王を倒せ的な? そんな、12世代前のRPGじゃあるまいし……」
色々とぐだぐだ考えてみるが、答えは出ない。
ちなみに、予言の書の次のページを開いてみると――
『ここから先が知りたければ、ダンジョン最深部に辿り着いたのち、1000万円課金してください』
「また1000万いるのかよ、ボッタクリやがって……あと、そんな条件をつけるぐらいなら、最深部が何階か教えてくれや」
ため息交じりに、そう呟いてから、俺は、前を見る。
「こりゃ、これまで以上に強さを求めないといけないな……まさか、ガチで、世界を守るヒーローにならないといけないとは……ノリでヒーローのふりをするだけならともかく、ガチの責任あるヒーローにはなりたくねぇよ、てか、なれねぇよ。俺なんて、ただの、性格が悪くて、才能がない、無職で独身のキモいオッサンだぜ……はぁ……」
★
翌日の朝、リビングのローテーブルでノートパソコンを開く。
キッチンの方から、まな板を叩く小気味いい音と、味噌汁の匂いが漂ってきた。
なんとなく、協会の公式サイトを覗いてみる。
トップページに、でかでかと、見覚えのある顔ぶれが並んでいた。
――時空旅団、および、協会専属配信者一覧。
「……おっ、載《の》ってるじゃん、俺。しかも、結構、写真がでかいよぉ。優遇されてるぅ」
自分の顔写真の下に、プロフィール文が添《そ》えられている。
思わず、身を乗り出して読んでしまう。
『辛酸をなめ続け、四十を目前にしてようやく花開いた苦労人。無駄に思えるかもしれない努力も、夢につながっている可能性はゼロじゃない!』
「……あー、うん……間違いはないけど……」
フライパンを振る音を聞き流しながら、俺は、微妙な顔でその一文を見つめる。
「なんか……泥臭くてやだなぁ……てか、これ、かるくディスられてねぇか? 疑心暗鬼かな? いやぁ……」
ちなみに、猛田とジュリアのページでは、
『――1000年に一人の超天才! 無敵の剣聖女王!』
『――人類史に名を刻む美人女傑! 天才姫騎士!』
などと、華々しい紹介がされている。
「……いや、わかるよ。俺みたいなオッサンは、『それまでの苦労』を前面に押し出す方がウケがいいだろうっていう、その思想……わかるけど……」
同じ配信者なのに、ジュリアたちは眩《まぶ》しいくらいのキラキラした紹介文で、
俺の方は、なんか、地味な労働者感が漂っている。
「散り際に輝く閃光……とか、そういう粋なキャッチコピーの一つでもつけてくれないものかね……いや、もっとソリッドに……『舞い散る閃光』とかどうだ? いいねぇ。チャンネルにも正式につけちゃお」
小さくぼやきながら、スマホで自分のチャンネルの名前を変更していく。
と、そこで、ふと、自分の概要に目が留まった。
――人類の上澄み、レベル50のオッサン戦士! 時空旅団の担任は伊達じゃない!
しっかりと、公式に明記されている。
「……レベルが表記されちゃってんなぁ……」
――これ、ちょっと面倒だな……
この数字が世間に広まってしまった以上、これから先、安易に裏面2ガチャにレベルを注いで、レベル50以下に下げるわけにはいかない。
レベルというのは、基本的に、下がることがないものだ。
少なくとも、現状、50だったやつが20になったとかは聞いたことがない。
身長180だったやつが、急に120センチになったら、『どういうこと?!』とみんなびっくりするだろう。
それに近い感覚。
「レベル80以上にしないとガチャできないか……いや……でも、レベルが下がるワナって、ゲームのローグライクとかだと定番だし……そういうのに、たまたま引っ掛かりましたっていえば、通るか? んー」
苦し紛れの言い訳を、頭の中で転がしてみる。
通用するかどうかは、正直、五分五分といったところだ。
「一応、基本的に、レベル50はキープしておくか……まあ、強い敵と戦う時には50ぐらいないとキツいしねぇ……」
「さっきから一人で、何をブツブツ言っているんですか?」
「ユウガさん、覚えておきなさい。38歳まで独身を貫いた寂しくて純潔なオッサンはね、山のように独り言をつぶやくものなのですよ」
「前から気になっていたのですが……先生ってもしかして童貞なんですか? だとしたら、もらってさしあげましょうか?」
「おやめなさい、ユウガさんったら! なんてお下品な! 女の子には、口から発してはいけない単語というのがあるのですよ!」
「それって差別では?」
「差別とマナーをごっちゃにしだしたら、いよいよ終わりだぜ」