46話 朧月華《おぼろげっか》の長羽織。
画面の光が収まると、目の前に、ふわりと一枚の羽織が舞い降りてきた。
手に取ると、いつものように、頭の中に情報が流れ込んでくる。
――名前:『朧月華《おぼろげっか》の長羽織《ながばおり》』
『効果:使用者のレベルが高ければ高いほど効果を発揮する、究極を超えた神器。低レベルだとただの羽織だが、高レベルになるにつれて、狂気的な神代《かみよ》の力が解放されていく』
「おぉ……おお? おぉん……まあ、うん……ようするに『レベルが高い人』が使うと、すごい装備……か。すなわち、今の俺が使っても……微妙……と」
情報を頭の中で咀嚼《そしゃく》しながら、俺は、独り言をこぼす。
「……大器晩成型かぁ……できれば、『今すぐにでも魔王をぶっ殺せる武器』とかが欲しかったなぁ……」
超・絶・神・大当たり、という大層な演出だったわりに、即戦力にはならない、という結果に、若干の肩透かしを感じる。
ちなみに、レベル50の現時点で発揮する効果は、
「……防御力アップ(中)。ダメージ反射(小)。魔法ダメージ軽減(小)……まあ、うん……悪くはないけどねぇ……」
地味と言えば地味だが、腐っても超・絶・神・大当たりで出てきたアイテムだ。
悪いものであるはずがない。
とりあえず、羽織ってみることにした。
――するりと、袖《そで》を通す。
「……ぉ」
思わず、声が漏れる。
「なんだ、これ……とってもしっくりくるんですけどぉ……」
まるで、最初から自分の体のために仕立てられていたかのような、違和感のない着心地だった。
「すさまじい着心地だねぇ……オーダーメイドかってぐらい……神器系の服ってそういうものなのかもねぇ……」
★
試しに、裏面を出て、モンスターと戦闘してみることにした。
まず狙ったのは、手頃なC級モンスター。
「ギシャァ……」
オオカミっぽい魔獣型の敵。
襲い掛かってきたので、あえて、避《よ》けずに、その攻撃を正面から受けてみる。
「――あー……すごいかも。全然、痛くないんですけどぉ」
正直、50レベルであれば、C級相手はほぼ完封できるし、多少の被弾があっても大したダメージにはならない。
しかし、それでも、直撃すれば、それなりの痛みは伴う……はずなのに、
この羽織を纏っている間は、ほとんど、痛みそのものを感じなかった。
カナブンぐらいの虫が飛んできてぶつかった、ぐらいの感じ。
「A級の攻撃とかを受ければ、さすがに普通に痛いんだろうけど……それだって軽減されているんだもんなぁ……で、レベルが上がればあがるほど、効果がエグくなっていく、と」
一度は肩透かしに感じた性能だったが、この実感を経て、評価はぐっと上向いた。
「……これは、確かに当たりだなぁ……動画映えする衣装でもあるし……」
紺と銀を基調にした、艶《つや》のある長羽織。
配信で映える見た目も、地味に嬉しいポイント。
★
そこで、ふと、頭の中に、一つの疑問が浮かんだ。
「……ダークリングを使った際の一時的なレベルアップでも……朧月華の高レベル効果は発揮されるのかな?」
もし、発揮されるとしたら、すごいシナジー。
レベル50の恩恵ですら、これだけの性能を発揮するのだ。
それが、一時的にレベル150相当まで跳ね上がった状態で発動したなら、いったいどこまでの力になるのか、正直、想像もつかない。
「かなりのシナジーになりそうだな……」
だが、そこで、ちょっとゲンナリする。
「……ダークリングを使うと、また、体を痛めることになるんだよなぁ……」
ダークリングを使えば、また、あの後遺症と引き換えになる。
右足の痛み。視力の低下。左目の奥に居座る、しつこい頭痛。
ダークリングと朧月華のシナジー……
興味はあるが、後遺症という代償を払ってまで試す気にはなれなかった。
「なるべくダークリングは使いたくないよねぇ……」
小さく呟きながら、俺は、羽織の裾を、指先でそっと撫でた。