53話 スマホの配信が切れていなかった。
目覚めると、見知った天井が目の前に広がっていた。
ようするに、俺はまた入院していた。
窓の外は、すでに真っ暗。
体を起こすと、周囲には、また時空旅団のメンバー。
そして、『バビロンズその他』などのメンツもいた。
あと、ユウガも。
……病室ギチギチだよ。
「あ、目を覚ましましたよ」
「先生……大丈夫ですか?」
ワっと話しかけられてうざったい……というターンを経て、
色々と話を聞くと、どうやら、あの爆発の直後、
みんなのスマホは止まっていたのに、
なぜか、俺のスマホだけが動いていて、あの時の状況をもれなく配信できていたという。
だから、クロノスのあとにソロモンが出てきたことも、俺だけが動けたことも、ダークリングを装着して、すさまじい速度の攻撃でソロモンを倒したことも、世界中のみんなが知っていた。
「……うわぁ……」
思わず、声が漏れる。
ダークリングに関しては、誤魔化しようがないな。
ちなみに、俺が気絶していたのは、5時間ぐらいらしい。
……前にダークリングを使った時は、2日も気絶したのに。
今回、なんか早いな。
そんなことを考えていると、そこで、時空旅団の委員長、琥珀《こはく》が、静かに口を開いた。
「予想ですが、あの黒いリングは……おそらく、先生の命を削って力を捻出しているものでは?」
核心を突く、なかなか鋭い指摘だった。
あのダメージ量を考えると、寿命的なのも削れている気がするので、琥珀の見解は間違っていないと言える。
言葉に詰まっていると、そこへ、坂田も割って入ってくる。
「もしかして、前の『強すぎる鬼』と戦った時も、あのリングを使ったんじゃないですか?」
そんな風に言われて、俺は、色々と考えた末に、
「……まあ、どっちの状況でも、使わないと死ぬ状況だったからね……ダークリングは、使ったらこうして体がぶっ壊れるタイプの『ほぼ呪いのアイテム』だけど、死を回避できているんだから、有能アイテムと言えるだろうな」
軽い口調で、そう答える。
今回の障害は、左耳が若干聞こえづらいこと。
左目の視力が、だいぶ落ちていること。
左腕の小指と薬指が、あまり動かせないこと(ぎりぎり、握り締めることは可能だ)。
前回――あの鬼型モンスターとの一戦の後遺症と比べたら、正直、軽い。
この差はなんだ?
そんな疑問が、頭の片隅をよぎる。
考えを巡らせている間にも、全員が、代わる代わる感謝の言葉を述べてくる。
ちなみに、配信は、ずっと続いていた。
見てみると、同接が8000人。
すごい数だ……
その後も、時空旅団や、バビロンズその他のメンツから、『命の恩人』だの、『無理しないで』だの、色々と言われたが、俺は、その途中で、なんだか鬱陶しくなってきて、
「……もういいって。今回は、安くすんだし……」
そう、つい、軽くつぶやいてしまう。
その一言に、配信のコメント欄が、すぐに反応した。
『いやいや、重症なんだが』
『センって、ズレてるとこあるよな』
『そんなとこも含めて推しです』
そこで、ベッドの脇に立っていたユウガが、静かに口を開いた。
「先生……医者が言うには、色々と体に障害が出ているとのことです。けっして安くはありません」
いつになく、真剣な声だった。
続けて、ジュリアが、腕を組んだまま、こちらをじっと見据えてくる。
「そういう自己犠牲みたいなものはやめていただけませんか。こちらのメンタルにくるので」
「自己犠牲?」
俺は、本気で、首をかしげた。
「人の話はちゃんと聞けよ。使わなきゃ死んでたんだよ。死ぬか、障害か……そういう二択だった。だから、後者を選んだ。自己犠牲もくそもないだろ」