58話 みんな死んだぁあああ!
「おら……もうちょい、がんばれよ……ヒック」
カグヤは、片手に、巨大なひょうたん型の酒瓶《さかびん》を提げたまま、剣戟《けんげき》の輪の中に立っていた。
周囲でどれだけ悲鳴が上がろうと、その表情には、緊張の色一つ浮かんでいない。
むしろ、退屈そうにすら見えた。
攻撃の合間、ふと思い出したように酒瓶を傾け、ノドを鳴らして中身を流し込む。
その所作は、まるで縁側《えんがわ》で晩酌でもしているかのように、あまりにも緩慢《かんまん》だった。
バビロンズも、エンジェルライダーズも、持てる全力を振り絞って、必死に食らいついていく。
その中で、ショーン・コナーズが、
「うぉおおおお! ドラゴンハンマァアア!!」
自分が誇る最強のスキルを、カグヤに向かって放った。
素晴らしい火力の一撃で、耐久型のS級モンスターを一撃で葬《ほうむ》ったこともある。
筋骨隆々の巨体から放たれる、重量と速度を兼ね備えた一撃。
だが、
カグヤは、酒瓶を持ったままの片手で、それを、キィンとあっさり弾いた。
まるで、羽虫でも払いのけるかのような、あまりにも軽い仕草だった。
「――ヒック」
小さなしゃっくりが漏れる。
「雑魚すぎんぞ、てめぇ」
酔いの回った、間延びした口調。
それでいて、瞳の奥だけは、恐ろしいほど冷たかった。
片手で防がれた、力の限りの一撃。
まったくのノーダメ。
その不条理な現実に……『時空旅団を除けば人類最強格の英雄ショーン・コナーズ』の表情がグニャリと大きく歪む。
「こんな……うそだ……」
次の瞬間、返す刀で振るわれたカグヤのヤクザキックが、彼の胴をグシャリと貫いた。
「ぐぁあああああああああああ!」
バビロンズ最強のリーダーが、鮮血を撒き散らしながら、その場に崩れ落ちる。
最後まで、何一つ、まともに抵抗できていなかった。
レベル70以下の実力では、彼女たちと戦闘そのものが成立しない。
レベル40部隊は、開戦から二分と経たずに、全滅した。
バビロンズとエンジェルライダーズも、五分と経たないうちに、全滅した。
その地獄のような光景を、俺は、後方で、ただ立ち尽くして見つめることしかできなかった。
「ま……じ……かよ……つよすぎだろ……」
声が、震える。
足元から、力が抜けていくような感覚。
立っているだけで、精一杯だった。
「そこの飛びぬけてレベルが低い殿方《とのがた》ぁ……ボーっとしている暇はないわよぉ」
声の方向に、視線をやる。
フジコが、大ぶりの刀を提げたまま、こちらに向き直っていた。
時空旅団を相手にしていたはずの彼女が、片手間に、ついでとばかりに、こちらへ狙いを変えたのだ。
まるで、道端の石ころでも蹴りに行くような、あまりにも軽い足取りで、腰を左右にふりながら、こちらに向かってくる。
仕草から何から、ルックスだけは丸ごとセクシーだが、
血に濡《ぬ》れた捕食者の顔をしているので、恐怖しか感じない。
(まずい)
距離を取ろうとする。
だが、体が、思うように動かない。
杖を頼りに、後ろに一歩下がるのが精一杯だった。
フジコの姿が、視界の中心でブレる。
目で追うことすら、できなかった。
次の瞬間には、もう、目の前に立っていた。
「やべぇ――」
振り上げられる刀。
かわそうにも、体が追いつかない。
時間の流れが、やけにゆっくりと感じられた。
死を覚悟した、そのコンマ数秒の中で、頭の中を、いろんな考えが駆け巡る。
裏面に入るのにも数秒はかかる。
これは間に合わない。
刀の切っ先が、俺の胴体に届く――その、寸前。
「ふん!!」
横合いから、影が割り込んだ。
ジュリアだった。
俺を庇うように、体を滑り込ませる。
振り抜かれたフジコの刀を、蹴り足で軌道ごと弾き飛ばすと、返す動作でそのまま踏み込み、無防備になった腹部に、拳を叩き込んだ。
「ぐっ……!」