60話 デス・フルパレード・ゼタキャノン!!
「ご命令を、セン様」
凛とした声。
忠誠を隠さない、まっすぐな眼差し。
この絶望的な戦場の中で、その姿だけが、やけに浮いて見えた。
「全力で、あのヤベェ女どもをどうにかしてくれぇ!! やり方は問わねぇ! とにかく助けてくれぇ!」
声が裏返る。
もはや、格好つける余裕なんて、これっぽっちも残っていなかった。
「かしこまりました」
ミシャンド/ラは、静かに立ち上がると、両手を広げる。
その所作は、まるで、舞台の上で演目を始める踊り子のように、優雅だった。
「デス・フルパレード・ゼタキャノン」
澄んだ声で紡がれた詠唱と共に、彼女の背後に、途方もない大きさの何かが形成されていく。
――それは、いうならば魔法のガトリング砲。
銃身の一本一本が、大人の胴回りほどもある。
その全てが、傾国部隊の五人へと、狙いを定めていく。
そのまま、
ドドドドドドドっ!!
と、まるで、世界そのものが軋むような音を立てて、砲撃が始まった。
風圧だけで、周囲の死体が跳ねる。
一発一発が、着弾するたびに、地面を割り、光を弾け飛ばす。
傾国部隊の五人が、その圧倒的な火力の奔流《ほんりゅう》の中で、次々と、吹き飛ばされていく。
クレオパトラが、
「な……ぁ……」
初めて動揺の表情を見せる。
それすらも、次の弾幕に、
「がぁ――」
あっさりと呑み込まれていった。
このあまりのすさまじさを前に、俺は、思わず、
「す、すげぇぞ、ミシャ……お前、こんな強いんかい……助かるぅ」
場にそぐわない称賛が、思わず口をついて出る。
いつのまにか、つい略称で呼んでいた。
視界の端、猛田が、目を見開いたまま、こちらを一瞬だけ見た。
何か言いたげに口を開きかけて……だが、すぐに、視線を戦場へ戻す。
圧巻の光景は、長くは続かなかった。
召喚の効果時間が、十秒足らずで、唐突に限界を迎えたのだ。
「……セン様。申し訳ありませんが、失礼いたします」
最後に、小さく一礼を残して、ミシャンド/ラの体が、光の粒子となって、静かに消えていく。
消えゆく粒子に、俺は手を振りながら、
「ありがとぉ、マジで助かった。ちょっと強すぎて引いてるけど……うん、ほんとありがと」
辺りに残ったのは、蹂躙された地面と、崩れ落ちた傾国部隊の姿だけだった。
「な、なんとかなった……よかった……とも言えねぇな……被害が大きすぎる……」
周囲を見渡す。
勝利、と呼ぶには、あまりにも代償の大きすぎる光景。
安堵《あんど》よりも先に、胸の奥に、重い澱《おり》のようなものが沈んでいく。
――と、そこで、
「まさか、傾国部隊が全滅するとは……素晴らしい実力者と言わざるをえない」
静かな声が、戦場の空気を切り裂いた。
声のした方――何もなかったはずの地面から、ヌっと、何かが染み出すように、人影が姿を現す。
オールバックに撫でつけられた長い髪。
仕立ての良いスーツを、隙なく着こなした美形の男。
だが、その優雅な佇《たたず》まいの奥に、なにか、得体の知れない重圧があった。
周囲の空気が、じわりと、冷え込んでいくような感覚。
「吾輩《わがはい》の名前はアシュラ。この9階層を守護するガーディアンである」
名乗りと共に、こちらへ向けられる視線。
値踏みするような、それでいて、どこか楽しげな目。
俺は、震えるノドから、なんとか声を絞り出した。
「……あんた……なんか……とんでもなく強そうだけど……傾国部隊より弱い……よね?」
願望混じりの問いかけだった。
せめて、そうであってくれと、祈るような気持ちで。
アシュラは、口の端だけを、静かに持ち上げる。
「吾輩のレベルは――」
いたぶるような間をおいてから、
俺の全てを見下すように、
「230である」