68話 人類に警告する。
今回の会議の主な議題は、傾国部隊の対処法。
偉いさんたちが、なんやかんやと、話し合っている。
その流れの中で、協会の上位理事であり、今回の議長でもある蛇尾《へびお》から、
「君の予知夢とやらが、具体的に、どこまで見えるのか……正式にデータとして出してもらえると助かるのだが?」
と、言われて、俺は、
「あんた、昨日みた夢を、完璧にデータ化できんすか?」
「……できるかどうかは、やってみてから決めることだ。私の夢をデータ化することに意味はないが、君の夢は、その価値がある」
正論を言われて、俺は、渋い顔をしてしまう。
賢いやつは口も達者だから嫌になる。
バツ悪く、頭をかきながら、
「ぶっちゃけ、あんまり覚えてないんすよ。夢の中で、こいつら時空旅団とか、バビロンズとかといっしょに9階層を歩いていたら、あの映像にある5人がいて……で、皆殺しにされて、飛び起きた……それだけっすよ。データ化もくそもない」
古文書も、予知夢も、なにもかもが、あやふやな状態で、
『世界の行く末』を決めなければいけないという、控えめに言っても、地獄みたいに厄介な会議。
――結局、なんの結論も出ないまま、会議は、ダンスダンスレボリューション。
誰も、明確な答えを出せない。
誰も、確実な策を出せない。
協会側は、『戦力の再編成』だの、『装備の見直し』だのと、悠長な議論を続けている。
協会は、どうやら、ドローン以外にも、いくつかダンジョン用の兵器を開発しているようで、その話が結構長く続いた。
そうこうしているうちに、5時間ぐらい経過した。
議論は、まだ、堂々巡りを繰り返している。
横を見ると、猛田が、寝ていた。
本当に、マイペースな女王様だこと。
寝顔だけを切り取れば、愛らしい美少女に見えなくもないのだろうが。
内面を知っているので、この寝顔にも憎たらしさしか感じない。
鼻と口をセメントで固めて殺してやろうか……
などと、心の中で、完全犯罪を企てていると、
「0時をまわったか……そろそろ、休憩を――」
議長の蛇尾が、そう言いかけた、その時だった。
――会議室の扉が、勢いよく蹴破られた。
いったい何事か、と、悲鳴じみたどよめきが、部屋中に広がる。
現れたのは、五人の妖艶な女たちだった。
見紛うはずもない。
傾国部隊。
先頭に立つクレオパトラは、配信魔法を使い、背後にスマホを浮かべていた。
――どうやら、配信しているらしい。
お前ら、モンスターのくせに、スマホとか扱えんのか……
そもそも、モンスターなのか、こいつらは……
「われらは、9階層のガーディアン、傾国部隊」
冷たく、通る声。
「貴様ら人類に、警告する」
クレオパトラの目が、ゆっくりと、部屋中を見渡した。
「先日、9階層に、低レベルな兵器を送り込んできたのは貴様らだろう? 勇者にあるまじき、その愚行の対価を払ってもらう。数日以内に、9階層をクリアできなかった場合――人類を、殲滅する」
「……ぇえ……」
俺は、心底しんどくて、天を仰ぐことしかできなかった。
周囲は、すでに、パニックに近い状態だった。
悲鳴、怒号。
誰かが、慌てて、どこかへ電話をかけている。
その喧騒の中、俺は、ひとり、頭の中で計算していた。
――ドローンを飛ばしたのは、二日前。
タイムリープの射程は、常に、前日の朝まで。
0時を回った今……もう、ドローンを飛ばすのをやめさせることはできない。
「詰んだ……」
声が、勝手に、口から漏れる。
これまで、何度も、絶望的な状況を、タイムリープという逃げ道で、なかったことにしてきた。
だが、この、世界中に配信された最後通牒だけは、消し去ることができない。