69話 強すぎる傾国部隊。
人類を殲滅すると、高らかに宣言した傾国部隊。
その態度が気に食わないとばかりに、さっきまで寝ていたはずの猛田が、机の上に飛び乗って、
「てめぇら、このオレ様の前で、あんま調子にのってんじゃねぇぞ、ごらぁあ!」
アイテムボックスから、自前の剣を抜くと、叫びながら、クレオパトラへと、突撃した。
暁宮も、それに続く。
この二人は、犬猿の仲……だが、お互いの実力を認め合っているからこそ、戦場では、無駄な反発をせず、むしろ、互いを武器のように利用しあう節がある。
二人の動きに迷いはなかった。
無駄のない、鋭い特攻。
そこらのS級モンスターなら、一瞬で細切れになっていただろう。
だが、そんな二人の攻撃を、クレオパトラは、涼しい顔で受け止めた。
クレオパトラが右手に召喚した剣が、猛田の豪剣を正確に受け流す。
同時に、左の足が、暁宮の拳を、まるで羽虫を払うかのように、軽く弾く。
――ほれぼれする、完璧な対応。
最小限の動きだけで、人類最強格の二人が、完全に押し留められた。
「な……ぁ!? こ、このぉお!」
猛田の目が、大きく見開かれる。
その驚愕の中に、明らかな恐怖と怯《ひる》みの色が混じっていた。
その隙を逃す傾国部隊ではなかった。
背後から、ダッキとフジコが、猛田の両腕を、瞬時に拘束する。
同時に、ヨーキヒとカグヤが、暁宮の動きを、完全に封じ込めた。
瞬く間に、猛田と暁宮は、身動きひとつ取れない状態に陥っていた。
あまりにも完璧な連携。
一人一人の練度が、すさまじく高い。
これが、傾国部隊。
9階層を守る、バカみたいに強い怪物美女集団。
動けなくなっている猛田と暁宮を見下ろしながら、
クレオパトラは、自身のスマホ画面をチラ見して、
「お、コメントがきているぞ。……『この美女5人、強すぎ』『猛田とジュリアで勝てないとか、こいつら、どうすれば勝てるの?』『人類終わった』……などなど。くく……世界中の人間が、恐怖しているようだ。愉快と言わざるをえないな」
人類そのものを見下す、冷たい笑み。
こいつら、性格が最悪だな。
俺は、そこで、前に出て、
「……人類を殲滅するのは、数日後なんだろ。てめぇで言ったルールぐらい守れよ。二人を放せ」
クレオパトラの視線が、こちらへと移り、
「現時点における我々に、殺意はない。攻撃されたから、対応しただけだ。文句を言われる筋合いはないはずだが?」
「なんの反論もできない正論だな」
俺は、一度、深く、頭を下げた。
「そいつらの担任として、謝罪する。その二人には、この場で、お前らに攻撃しないように注意するから……離していただけませんか。どうか、この通り」
クレオパトラは、しばらく、値踏みするように、こちらを見つめていたが、
「……ふん」
小さく、鼻を鳴らす。
その一言を合図に、傾国部隊は、猛田と暁宮を、あっさりと解放した。
二人が、その場に、崩れるようにして、膝をつく。
猛田も暁宮も、バカではないので、この場でそれ以上の抵抗はしなかった。
クレオパトラは、スマホに向き直り、静かに、告げる。
「我々の言葉を、決して侮るなかれ。我々、傾国部隊は、自分の言葉に絶対の責任を持つ。人類が、9階層を攻略できなかったら――その時、人類は、終焉を迎える」
そう宣言すると、傾国部隊は、五人揃って、悠然と、ダンジョンへと帰っていった。
彼女たちが扉を出ていき、足音が完全に消えるまで、この場にいる誰も、何も言えず、微動だにできなかった。
数秒の後……静まり返った会議室で、俺は、スマホを取り出す。
あいつらの配信を、探した。
検索すると、すぐに――
――『傾国部隊チャンネル』
その名前が、目に飛び込んでくる。
再生数の欄に表示された数字を見て、思わず笑いかける。
――3000万回超え。
しかも、その数字は、今この瞬間にも、勢いを緩めることなく、増え続けている。
「……まあ、バズるわな……あれだけ派手なことをすれば、当然……」
ここでの映像が、世界中に、拡散されている。
おそらく、今頃、全人類が、大混乱に陥っていることだろう。
――ノストラダムスの大予言どころじゃない。
あれは、しょせん、真偽不明な都市伝説の域を出なかった。
だが、今回は、違う。
実際に、目に見える形で、圧倒的な力を持つ存在が、はっきりと、期限付きの、滅亡予告を突きつけてきたのだから。