7話 美少女中学生と同棲!!
黒服に連れていかれたのは、競馬場の奥にある、殺風景な小部屋だった。
パイプ椅子に座らされ、テーブルを挟んだ向こうに、無表情な男が腰を下ろす。
「単刀直入に聞きます。なにか、不正しました?」
「は……はい? 不正? 俺が? いえいえいえ」
「監視カメラを確認しましたが」
男は、手元のタブレットをこちらに向けた。
券売機に金を突っ込む俺の姿が映し出されている。
「低確率のギャンブルだというのに、一切の躊躇《ちゅうちょ》なく大金を賭けていますね……まるで、勝つと確信しているみたいだ」
「……」
「失礼ですが、あなたの経済状況も調べさせていただきました。あなたは、ほんのちょっとだけ有名人ですので簡単に調べられましたよ。クラス転移事件の担任、閃壱番《せんえーす》先生。……いや、元先生ですね、あの事件の直後、逃げるように職を辞されているので」
「……」
「教職を退いてからは無職……ということで間違いないですか?」
「一応、ダンジョン配信を……」
「収益ないでしょ」
「……」
「あなたの経済状況的に、200万はとんでもない大金でしょう。……なのに、あなたは、平然と賭けた。それも、オッズ9倍以上のレースに。不正を疑わない方が難しいのでは?」
冷たい声だった。
こちらの汗も冷たくなって流れる。
「証拠が何もないので、今日のところは解放しますが」
男は資料を閉じながら、続けた。
「今後、あなたのことは、監視させていただきます。で、不正の証拠をつかんだ瞬間に逮捕。金も当然返してもらいます。よろしいですね」
★
日をまたいですぐ、俺はまっすぐダンジョンに向かった。
正直、2000万をすてるのは惜しかったが、
しかし、今後、ずっと監視されるとなると、さすがに鬱陶しすぎる。
俺は、裏面に入り、ATMに金を入れ、タイムリープを決行した。
視界が白く染まり、気づけば、前日の朝に戻っていた。
これで、2000万も、黒服騒動も、すべて綺麗さっぱり、なかったことになっている。
「はぁ……」
深いため息をついてから、
「……くそ、あきらめねぇぞ……タイムリープは最強なんだ……絶対に、稼げる方法はある。俺は、これで、絶対に人生逆転するんだよ……」
★
……一週間ほどかけて、色々とやってみた結果、わかったことがある。
「ギャンブル系で稼ごうとすると、色々な機関が動いてきやがる……」
カジノや競馬だと不正の疑い。
株で稼げばインサイダー扱い。
小金ならともかく、ちょっとでも勝ちすぎると、
不正を感知するAIがあるとかどうとかで、
すぐに何かしらの組織が動き出す。
時には、ヤクザ的な連中が『羽振《はぶ》りがよさそうだな。金よこせ』とか言ってきた。
うまく、法的な監視の目をかいくぐっても、今度は非合法な連中が嗅ぎつけてくるのだ。
日本では、出る杭《くい》は全力で打たれる。
問題がおこるたびにタイムリープしてリセットできたからよかったものの……
「これ、どうすっかなぁ……」
色々と実験しながら、かつ、複数の組織におびえながらのタイムリープだったので、ほとんど稼げていない。
一応、手持ちは80万まで増やしたが……
いまだに、タイムリープするための金が足りず、毎回、闇金を回っている。
……闇金屋さん、いつも、ただでお金をくれてありがとね。
ちなみに、この一週間で、すでに何度もタイムリープしており、
タイムリープするための費用が115万まで増えている。
このコストアップが地味に痛い……
「タイムリープで人生逆転する方法……ギャンブル以外で何がある? 何をすれば……」
頭を抱えながら、俺はソファに沈み込んだ。
思えば、ここしばらく、まともに眠っていない。
闇金巡り、競馬場、宝くじ売り場、そしてまた闇金巡り、株、カジノ、警察……
「……今日はもう寝るか」
考えるのは、明日でいい。
しんどいことは、明日の自分がどうにかしてくれるはず。
そう自分に言い聞かせて、俺はベッドに倒れ込むようにして眠りについた。
★
……インターホンの音で、目が覚めた。
時計を見ると、まだ朝早い時間だった。
こんな時間に誰だ、と怪訝《けげん》に思いながら玄関を開ける。
そこに立っていたのは、見知らぬ少女だった。
黒髪ロングの毛先が、朝の光に静かに揺れる。
褐色の肌はきめ細かく、高貴な育ちの良さすら感じさせた。
年の頃は、十五、六といったところか。
恐ろしく聡明そうで、そして、子供には似つかわしくない、異様に達観した雰囲気。
「……えっと、誰?」
「初めまして。蝉原ユウガと申します」
「……蝉原……」
その名字は、なじみ深い。
かつての同僚、蝉原ユウゴ先生。
クラス転移事件で、俺と一緒に辞職した副担任の名前。
「もしかして、蝉原先生の……娘さん?」
「はい」
あっさりと肯定されて、俺はしばし言葉を失った。
――あいつ、娘いたっけ? てか、結婚してたことすら知らなかったんだが。
蝉原とはそこまで深い付き合いがあったわけではない。
職員室で軽く言葉を交わす程度の、
いわゆる『同僚』で、
それ以上でも以下でもない関係だった。
「端的《たんてき》に言います。父が死にました。助けてください。具体的には、私を引き取ってください」