72話 センエース、がんばれ!
「我々は……何をしたらいい?」
「……傾国部隊の連中が、無駄に危機感をあおっていきやがったから、世界中が混乱している。あんたらに出来る全部を駆使して、この騒ぎを沈めろ。敵は必ず、俺が――俺と、時空旅団がなんとかする。他の上位ダンジョン配信者も、死に物狂いで、この世界を守る。だから安心しろと、大丈夫だと、死ぬ気で伝えろ」
「……承知した」
蛇尾は、深く頷いた。
そこで、俺は、スマホに向けて、視線を向け直す。
「敵は強ぇよ。けど、時空旅団のメンバーはマジで強いし、さっき言ったように、俺も切り札をいくつかもっている。だから、安心しろ。必ずどうにかしてやる」
コメント欄が、すぐに、反応する。
『猛田もジュリアも、傾国部隊とかいうのに、簡単にやられていたじゃないか……』
『センも強い方だけど……さすがに相手が悪すぎる気がする』
不安の色が滲む文字が、次々と、流れていく。
俺は、さらに気合を入れなおし、
「時空旅団は、個としても強いが、チームとしては、もっと最強なんだ。サポートメンバーが、フルでそろっていれば、猛田も暁宮も、今回みたいなやられ方はしない」
『でも……』
『やっぱり、無理だよ』
『人類オワタ』
まだ、拭いきれない不安。
当然。
人は弱くて脆いから。
「俺だけじゃあ、正直、話にならないだろう。けど、この世界には、強いやつが、たくさんいる。時空旅団を筆頭に、バビロンズも、エンジェルライダーズも……みんな強いし、ここから、まだまだ強くなる」
そこで、俺は、息継ぎを挟んで、
「――俺も、ここから死ぬ気で頑張って、どうにかレベルを上げる……悲観ばっかりするのはやめろ。意味ねぇ」
『勝って』
『お願い』
『おわりだよ』
『たすけて』
『世界終了』
『セン……がんばって』
世界中全員の心を動かすことはできない。
しかし、悲観だけで埋め尽くされていた画面の色が、ほんの少しだけ、緩んだ。
人間は弱くて脆いけど、
絶望を前に歯を食いしばれる底力も持っている。
そうじゃなきゃ、月にロケット飛ばせるぐらい進化できるわけがねぇ。
「ああ、頑張るさ」
カメラの向こう、無数の顔の見えない誰かたちに向かって。
「言っておくが、お前らのためじゃない……自分自身のためだ」
声に、少しだけ、力を込める。
「せっかく、人生が、まともになりかけたんだ……こんなところで、終わってたまるか」
『ちょっとはこっちのためにもガンバってくれ』
「消費税と同じ分ぐらいは、お前らのためにも頑張ってやるよ。ありがたく思え」
軽口で、そう返す。
その、いくらか、力の抜けたやり取りに、
コメント欄の空気も、少しだけ、和らいだ気がした。
★
配信を終えると、俺は、いったん、家に帰った。
玄関先で、ユウガと、二言、三言、言葉を交わす。
いつもなら、もっと絡んでくるはずの彼女が、
今日は、多くを聞かずに、そっとしておいてくれた。
シャワーを浴びる気力すらなく、俺は、そのまま、ベッドに、倒れ込むようにして、眠りについた。
――夢は、見なかった。
あるいは、見たのかもしれないが、覚えていない。
翌朝、目覚まし時計より先に、体が、勝手に目を覚ました。
しっかりと休んだはずなのに、体の芯には、まだ重い疲労がこびりついている。
まぶたを開けると、真っ先に、天井が視界に飛び込んでくる。
いつもより、少しだけ、白く見えた。
「先生、大丈夫ですか?」
まるで、俺の心が疲労と恐怖で押しつぶされそうなことを、見透かしているみたいに、
ユウガが、静かに、そう、声をかけてくる。
俺は、奥歯をかみしめて、
「大丈夫なことは、現状、一個もねぇが……一つ一つ、大丈夫にしていってやる」
布団を、勢いよく、はねのける。
俺は、身支度を整え、
「いってらっしゃい」
「いってきます」
まっすぐに、ダンジョンへと向かった。
道すがら、頭の中で、これからの段取りを、組み立てていく。
――ここから先は希望的観測を殺す。
死に物狂いで出来ることを全部やる。
とりあえず、タイムリープが問題なく発動できるか、確認しよう。
そう思いながら、俺は、裏面へと足を踏み入れた。
――そこで、気づく。
「……おっ、きたぁ! よっしゃぁあ! 正直、期待してたぜぇ!!」
看板の文字に、見慣れた異変。
――『超裏面が解放されました』