74話 運命論のカフカ。
「完全に失敗したため、通常プログラムの『超人王化』はできませんが」
アームロボは、俺の苛立ちなど意に介さず、レンズをこちらへ向けたまま、淡々と、説明を続ける。
「かわりに、固有の『月光雷龍化』は可能です」
「……あ、変身そのものは、できるんだ……へぇ」
「高スペックの、超人王化タイプの変身のように、すべてのステータスを底上げすることはできませんが」
アームロボの、細長いアームが、キュルキュルと関節を鳴らしながら、こちらへ、資料らしきホログラムを、投影する。
「月光雷龍化では、接近火力と、俊敏性を、大幅に上昇させることが可能です」
「……パワーとスピード特化……かぁ」
俺は、痛みに顔を歪めながらも、ぼんやりと、その説明を、頭の中で咀嚼《そしゃく》する。
「俺は脳筋だから……そっちの方が、いいかも」
俺は器用に立ち回るタイプじゃない。
小賢しい戦術をたてるより、目の前の敵に、脳死でぶつかっていく方が性に合っている。
これまでの戦いも、大抵、そうだった。
なんせ、不器用ですから。
……しばらく、オペ台の上で、痛みに耐えながら、寝ていると。
天井から下がる小さなモニターに、緑色の数字が、点滅しているのに気づいた。
――『麻酔残存率:68%』
数字が、ゆっくりと、減っていく。
それに合わせるように、体の奥で、電流じみた痺れが、ジジ……と弾けた。
最初は、爪の先だけ。
その痺れが、まるで、燻《くすぶ》る炭火が燃え広がるみたいに、じわじわと、腕を伝って、肩へと、上がってくる。
――『麻酔残存率:12%』
表示が、その数字に切り替わる頃には、指も、肘も、どうにか、自分の意思で、曲げられるようになっていた。
まだ、あちこちが、軋むように、痛む。
だが、悲鳴を上げるほどじゃなくなってきた。
俺は、痺れの残る腕を突っ張って、ゆっくりと、体を起こしながら、
「変身ができるようになったか……世界の危機だというのに……やはり、俺も男の子だからな……つい、心が泡立ってたぎってしまうねぇ……」
まだ、どの程度のバフなのか分かっていない。
だが、変身という言葉に、ついワクワクしてしまう。
「試さなきゃ(使命感)」
などとつぶやきつつ、まだまだ痛む体を引きずって、俺は裏面の外に出た。
★
5層付近をうろうろして、モンスターを探してみる。
すると、ちょうど、視界の先に、見慣れた球体が転がっているのが見えた。
「ハグレインボール君じゃぁん。助かるぅ」
その周囲には、レインシュバリエが3体ほど護衛としてついていたが、
俺は、かまわず、ニコニコ顔で、近づいていく。
ハグレインボールは、動きの鈍い俺を見て、鼻で笑いやがった。
――まあ、鼻はないので、実際には、球体の表面が、わずかに歪んだだけなのだが。
俺は、ハグレインボールをビシっと指さして、
「ふん。笑ってられるのも、今のうちだ! 俺の絶技に震えて眠るがいい!」
テキトーにカッコいぃポーズをとりながら、
「月光雷龍化!!」
と、叫んだ。
ポーズをとる必要はまったくないのだが、『変身』できるとなれば、専用の構えを取らざるをえないのが思春期男子というもの。
叫んだ瞬間、体の内側から、バチバチと、電気が、弾け出す。
視界の端、腕の表皮に、龍の鱗《うろこ》を思わせる、青みがかった装甲が、部分的に、浮かび上がっていくのが見えた。
髪の毛も、静電気に反応するように、じゃっかん、伸びて逆立っていく。
「いいねぇ、膨れ上がっていくねぇ!! 震えるぞハート! 燃え尽きるほどヒート!!」
自分の体の中で、何かが、根本から、書き換えられていくような感覚。
変身している間は、痛覚が、鈍くなっている。
今なら爪をはがされてもアクビできそう。
それでいて、周囲の音や気配には、逆に、神経が、過敏になっている。
人体構造的に意味不明な状態だが、正直、その辺のロジカルはどうでもよかった。
「――いくぞ、ボーナスバルーン! 一撃ぐらいは耐えてみせろやぁ! 無理だけどなぁあ!」
興奮気味に、オラつきながら、
俺は、ハグレインボールをぐちゃぐちゃにぶっ壊そうと、
鱗《うろこ》の浮いた拳を握りしめて突進する。