77話 ミシャ!! アシュラを殺せぇええ!
声のした方……何もなかったはずの地面から、
ヌっと、何かが染み出すように、人影が姿を現す。
オールバックに撫でつけられた長い髪。
仕立ての良いスーツを、隙なく着こなした美形の男。
傾国部隊の死体が転がる中、その男は優雅に、
「吾輩《わがはい》の名前はアシュラ。この9階層を守護する――」
「ウルセェ、ボケェ!! 俺はお喋りにきたんじゃねぇんだよぉおお!!」
アシュラの名乗りの途中で、俺は叫んでいた。
いちいち名乗られんでも、こいつの名前も強さも骨身にしみている。
俺は、腹の底から叫びながら、
蒼《あお》の輝きを放つ指輪に、力を込めるようにして、
「ミシャぁあ!! デザートの時間だぁあああ!!」
叫びと同時に、指輪から、まばゆい光の粒子が溢れ出した。
その光が渦を巻き、人の形を象っていく。
現れたのは、とんでもなく美しい、青い髪の少女!
場違いなほどの愛らしさをまとった少女が、まっすぐに、俺の前で膝をついた。
「ご命令を、セン様」
「あの長髪をぶっ殺せぇええ! 手段は問わない!!」
「かしこまりました」
ミシャンド/ラは、静かに立ち上がると、両手をアシュラに向ける。
指先から手のひらへと、青白い光が這うように集まっていく。
空気そのものが軋むような、低い唸り声があたりに響いた。
「零死《れいし》・異次元砲《いじげんほう》」
澄んだ声で紡がれた詠唱と同時、その両手から凶悪な照射が放たれる。
空間そのものを抉《えぐ》り取るような奔流《ほんりゅう》。
視界が白く塗りつぶされ、耳の奥が痛むほどの轟音が炸裂する。
俺はそれを見て、興奮のあまり、
「すごいぞぉ! えげつない火力の『かめ〇め波』だぁ! 相手は死ぬぅ!」
と叫んでしまった。
これは完全に死んだだろう……と思ったが、
「……なんというすさまじい一撃だ……」
アシュラは死んでいなかった。
スーツの右半分が消し飛び、露《あら》わになった肌には焼け爛《ただ》れた傷が刻まれている。
かなりの大ダメージは受けているが……まだ動けそう。
その様を見ながら、ミシャが、俺の方に視線を向けて、
「申し訳ありません、セン様。今の私ではやつを殺しきれません」
頭を下げて、消えていった。
光の粒子が、名残惜しそうに宙で散る。
……もしかしたら、もう一発、さっきのを撃ってくれたら倒せるかもしれない……
けど、クロックアップと変身でMPの大半を使ってしまったので、ミシャの分がほぼ残っていない。
かといって、力を温存しすぎたら傾国部隊を瞬殺できない。
燃費の悪い切り札ばかり手に入れてしまった弊害が、ここにきて露呈する……
俺は、アシュラをにらみ、
「くっ、無駄に硬い防御力しやがって……ミシャみたいなウルトラ可愛い子が頑張って照射魔法を使ってんだから、空気読んで死にやがれってんだ」
俺の文句を意に介さず、
アシュラは淡々と、
「素晴らしい実力をお持ちのようだ。心から敬服する。貴様は人類の中で間違いなく最強の個体だろう」
焼け爛れた傷を気にする素振りすら見せず、静かにそう言った。
俺は、ため息交じりに、
「最強だろうと、なんだろうと、勝てなきゃ意味ねぇ」
「まさしくその通り。貴様ほどの強者を殺すのは実に惜しい……が、仕方ない」
そう言った瞬間、アシュラの目にバチバチの殺意がともった。
空気が、びりびりと震える。
次の瞬間には、視界から掻き消えていた。
――来る。
俺が、そう認識しかけたと同時……
殺意の塊と化したアシュラの拳が、俺の顔面を正面からとらえていた。
「がっはぁあっ!!」
鼻がへし折れて、前歯も山ほどはじけ飛んだ。