8話 300万もらって、美少女中学生を引き取ることになりました。
俺の困惑を置き去りにするように、少女は淡々と自己主張を続ける。
「迷惑はかけません。どうか、よろしくお願いします」
「……いや、えぇ」
朝一番で聞かされるには、あまりにも重すぎる話だった。
彼女は続けて、矢継ぎ早に、
「閃先生……あなた以外に、頼れる人がいません。あなたに見捨てられたら終わりです。いいんですか、私が終わっても」
「……いや、あの……俺、君とは今日が初対面なんだけど……」
「父が、もし自分に何かあったらあなたを頼れ、と言っていました」
「俺、あいつとも、そこまで仲良くなかったけど……」
困惑を隠せないまま、俺は素直な疑問を口にした。
だが、少女は表情ひとつ変えずに続ける。
「父には、あなた以外に知人が一人もいませんでした」
「……どういうやつなんだよ、あいつ……てか、すげぇモテそうなやつだったけど……」
なんとも言えない気持ちになりながら、俺は、
「ちなみに、いつ亡くなったの?」
「二週間ほど前です。ずっとお葬式の対応に追われていて、ようやく片付いたところです。ちなみに母は、私が生まれてすぐに亡くなっています」
二週間。
その間、この少女はたった一人で、父親の死という現実と向き合い続けていたということか。
……朝っぱらから、きつい話を聞かせんなよ。
そういう重い話、嫌いなんだよ……
心がキューってなるんだよ……
「……だからって……引き取れってのは……なかなかぶっ飛んでないか?」
「このままだと、私は遠い親戚に引き取られることになっています」
少女は淡々と続けた。
「噂によれば、あまり素行のよくない人だそうです。あちらに行けば、私はおそらく、夜のお店に売られることになると思います」
「えぇ、いや、それは考えすぎじゃ……その親戚のことなんか知らんから、テキトーなこと言えないけど」
そこで少女はカバンから一通の封筒を取り出し、俺に差し出した。
「これは、父の遺言《ゆいごん》と、香典《こうでん》などをまとめた全財産です」
受け取った封筒はずっしりと重い。
中を確認すると、便箋《びんせん》一枚と、帯封《おびふう》のついた札束が入っていた。
便箋には、たった一行だけ。
――娘をどうかよろしく。信頼できる人は、あなたぐらいなのです。どうか、お願いします。
俺は、しばらく無言でその文字を見つめた。
ここまで信頼されるようなことは絶対にしていないんだが……
あと、お前、娘いるなら、生命保険ぐらい入っておけや……
封筒の中身を数えてみると、ちょうど300万円。
「……300万か」
『他人の子供をあずかる額』としては話にならない安さだが……
ちょうど今、ノドから手が出るほど、まとまった金が欲しかった。
この金があれば、いちいち闇金を回らなくてすむ。
……正直、女学生の世話なんか、自分にできる気がしないが……
失敗したときは、タイムリープしてやり直せばいいし……
うん、まあ、なんとかなるかも……
タイムリープ最強だし。
とにもかくにも、この300万は絶対にほしい。
「……んー……よし、わかった。君の保護者になろうじゃないか」
俺は封筒を力強く抱きしめながら、頷いた。
「……ありがとうございます」
ユウガは、小さく頭を下げる。
こうして、俺は思いがけない形で、一人の少女を引き取ることになった。
俺の人生、だいぶ変な方向に向かってダッシュしているが……まあいい。
とりあえず、軍資金はできた。
これで心置きなくタイムリープできる。