悪の組織の一員ですよ?   作:魔王の善意

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訓練日

今日は月に一度の訓練日だ。

日頃、自分たちがどれだけ鍛えているのかを上司に見せる絶好の機会だ。

これでいい成績を出すと正式に下位戦闘員になれる。

え? じゃ今は何かって?

下位戦闘員見習いです。

給料はサポーターの方と同じです。

命がけの戦いなんてしたことありません。

ただ俺ももう半年も見習いをやっているのだ。

そろそろ上位に入賞して見習いを脱却したい。

そんな決意を胸に秘めて訓練場に向かう。

 

訓練場に向かう途中、同じ見習いの人が何人か声をかけてきた。

 

「わかってると思うが、俺はもうすぐ一年だ。」

 

そう言って何人かの人が去って行った。

一年・・・・

下位戦闘員見習いは一年間以上続けられない。

一年以内に正下位戦闘員になれなければクビ、もしくはサポーター行きなのだがサポーターはコネがないと慣れないらしい。

もしくはずば抜けた諜報能力とか、上司に気に入られない限り不可能だ。

おそらくさっき声をかけてきた方々は今日、上位入賞できなければクビなのだろう。

上位に入賞したら恨まれるだろうな・・・

夜のパトロール時に後ろから刺されるなんてことが起こるかも知れない。

 

まぁ、今日のために鍛えてきてるだろうから大丈夫だと信じよう。

俺はあと半年ある。

焦らずじっくりいこう。

そう胸に秘めた思いを胸にしまいこんだ。

 

「よ。お互い頑張ろうな。」

 

そう言って声をかけてきたのは同期のパン○ース君だ。

なぜパン○ースかって?

パン○ースを穿いて来たという強者だからさ。でも、気持ちはわかる。

俺も今日はムーニー○ンか○ンパースが穿きたかった。

 

俺は彼と一緒に更衣室で戦闘服に着替える。

戦闘服は全身黒色のスーツだ。スーツと言っても会社で着る物ではなくダイビングに使用するような全身を包み込む感じのスーツだ。それに手袋して靴を履いて最後にマスクをつける。頭部全体を覆うこのマスクは高性能で目の部分に穴はなく外から見ると布を被っている風にしか見えないのに中からははっきりと外が見える。

全身装備後にマスクにある隠しボタンを押すとスーツと手袋、靴にマスクが体にぴったりフィットする。

おまけに、このスーツは装備すると筋力が五倍になるように補強してくれて耐熱、耐水、耐寒、耐刃、耐衝撃と様々な耐性がついている。

これを商品化して売れば自衛隊や警備会社が大金で買ってくれそうなのだが、犯罪の増加と利用を恐れて売りに出さないらしい。

うちって悪の組織だよね?

 

着替え終わったら会場へ

会場の広さは400mの楕円形のレーンがある競技場ほどの大きさがある。

そこには各支部にいる見習い達が集結していた数は200人ほどいる。

 

「おっし! 今月こそ上位入賞するぞ!!」

 

パンパ○ース君は気合を入れ叫んだ。俺は気合が上がらない。上位入賞して正社員にはなりたいがこの訓練というなの試験にはできるだけ参加したくない。

さきほど、声をかけて来た方々が怖かったのもあるが最大の要因はこの試験の内容にある。

それは悪の組織の純然たる悪意を集めたといっていい内容だ。

 

試験開始時刻が近づきサポーター達が試験に必要不可欠な飲み物を運んでくる。

試験内容を知る者たちはその光景を見てすでに顔が青ざめている。

俺も同じように青い顔色をしていることだろう。

青い顔をしていないのは今月が初試験の見習い達だろう。試験内容は始まるまでは不明だ。

ただ、毎月同じ試験なので一度参加すれば試験内容は判ってしまうので、そんな必要があるのかと疑問に思わないでもないが、おそらくそれでも心が折れず向かってくるものを探す意味合いもあるのだろう。

なにせ、悪の組織の一員が正義の味方に勝つ可能性は低い。

勝算は0,1%あるかないか。

正義の味方が自主的に引退するか、この前のレッドさんみたいにならない限り彼らの活動は止まらない。

それでも、俺たち悪の組織は世界征服のために戦うことをやめるわけにはいかない。

単なる平社員である俺達は世界征服の先にこの悪の組織がどんなことをしようとしているのか全く知らないけど! 仕事だからやるしかない! それが会社員ってものさ!

 

見習い達に飲み物が配り終わった頃合を見計らって壇上に誰かが上がった。

おそらくは今月の試験官だろう。試験官は名前を名乗らずただ試験内容の説明を行う。

 

「諸君らに配った飲み物は利尿剤と下剤を混ぜた特別な飲み物だ。飲みたくなければその場で捨ててもらって構わない。ただし、捨てた場合はその場で失格。試験は説明終了後、一分後に私が空砲を打った瞬間に開始する。それまでに配られた物を飲まなかった場合も失格とする。合格者はいつも通り地下にあるVIPルームに辿り着いた者のみ。先着順に順位をつけるが正確な試験の合否はいつも通り隠しカメラの映像を確認後、スクリーンに映し出して発表する。スクリーンは大小様々なものがこの会場内にあるので自分で探すといい。説明は以上だ。何か質問がある者はいるか?」

 

試験官は説明終了後、質問を受け付けた。

それに近くにいた一人の男が手を上げる。新人なのだろう。試験官に質問しようと手を真上に綺麗に真上に上げている。他にも手を上げている者はいるだろうが試験官は真上に真っ直ぐと手を上げるこの男が気に入ったのか指さして指定し質問を受け付ける。

 

「試験開始後に同じ訓練生を攻撃するのは有りですか?」

 

「無論、OKだ。君たちは同じ組織の一員だが今はまだ敵同士だからね。正式な我が社の一員になるまでは存分に殴りあってくれ。男の子にはそういう友情もあるしね。ただ、失格者は攻撃や妨害をしないことした場合は、即刻クビだ。」

 

「タイムアップはありますか?」

 

「飲み物の中身を言った時点でわかっているとは思うが、VIPルームに辿り着く前に漏らしたら言うまでもなく失格だ。そして、君も失格だ。」

 

試験官はそう言って質問していたであろう新人にそう告げた。

新人は言われた言葉の意味が分からなかったのか、口をポカンと開けている。

試験官の男は口元に嫌な笑顔を浮かべながら指さした手と反対の手を上げて見せた。

その手には競技用のピストルと思われる黒い拳銃を持っていた。

そう、質問に応じている間に一分が経過したのだ。

反応の早い者は試験官の説明が終わってから一分を計測し、一分後にはすでに動いている。

斯く言う俺もすでに動き出している。

 

「いやぁ、運が悪いね。まさか空砲が不発とは、でもま。こういうアクシデントは実戦で実際に起こりうる事態だ。こういうことへの対処ができて当然ともいえるよね。」

 

試験官はそう言って口を大きく広げ上空を向いて高々に笑った。

このようなことは3か月に一度程度の割合で起こる悲劇だ。

これが試験官の性格の良し悪しによるものなのか悪の組織として悪を学ぶ一環なのかは不明だが、とりあえず、これで新人の何人かは脱落しただろう。この手口を初めて味わう連中も何人かは脱落したかもしれない。

 

俺はそんなことなど気にも留めず、競技場内に入りVIPルームへの秘密の入り口を探す。

だが、そんな俺の前に敵が現れた。

そいつは上半身は人型で下半身はローラーで滑る様にして移動するようになっているロボットだ。毎月出てくるので予想はしていたが今回は数が多かった。いつもは試験開始と同時にグラウンドに突入してくるのに今回は突入してこなかったためだろう。

 

「ぐわ~!!!」

 

どこかから男の悲鳴が聞こえる。

ロボットに攻撃を受けたのだろう。

ロボットからの攻撃は決して強くはない。その拳は攻撃用ロボットなのにゴム製で出来ている。

しかし、執拗にボディーばかり狙ってくるのが厄介だ。

すでに、利尿剤と下剤の効果で腹痛を起こしている訓練生にはその優しいボディーへの攻撃が社会的尊厳を破壊する悪魔の一撃に見える。

ロボットによる殺人的なボディーブローならまだ気絶や病院送りなどがあり得るがその地味に強めの優しいボディーブローは決して意識を失わせずに尊厳と精神を破壊するために存在する。

明日が休日で無く普通に出勤日なのも辛い。絶対に弄られるからだ。

 

俺は腹痛と戦いながらロボット達から逃げ回りつつVIPルームへの入り口を探す。

腹の痛みがそこから下に移動する前に決着をつけなければならないからだ。

ロボットを倒しても評価には影響しない所か、後々になって修理代を請求される仕組みになっているので攻撃して数を減らすこともできない。

俺は逃げ回り、隠れ、捜索しを何度も繰り返すがどこにも見つからない。

 

そんな間にもお腹はギュルギュルと音を立てて痛みは増していく。

おかげで、思考は徐々に低下していきトイレに行きたいとしか考えられなくなっていく。

いっそトイレに逃げ込めばいいのだが、訓練内容が負傷時の冷静な判断力を鍛える。というものなので出してしまうと不合格が決定。だからと言って我慢して漏らしても不合格が決定する。その上、翌日は上司や先輩のいい標的になるという悪魔のシステムだ。

 

俺は全力でロボットから逃げるがその足は歩いているのとあまり変わらない。

早く歩くと漏れてしまうからだ。そんな俺を捕まえられないロボット達も実にゆっくりと近づいてくる。

本来の性能なら最高速度7,80k/mで移動可能なこのロボットがこんなにゆっくり動くのは今回の試験に合わせて調整されているのだろう。

仕留められる獲物を一気に追い詰めず、じわじわと獲物を追い回しながら腹痛を味わわせ続けるというこのロボットの行為を意図的にやっている所からして俺達の所属している組織はまさに悪の組織としてふさわしい。

俺は自分が悪の組織の人間なんだなと実感しながらも悪の組織ってやな組織だなと思いつつゆっくりとお腹に刺激を与えないように逃げ回る。

 

ゴールを捜索しながらロボットから逃げ回るが一向に見つけられない。

時計を思わず見るがまだ開始から20分しか経っていない。体感では1時間以上経っている気がするのだが腹痛のせいで時間を長く感じているのであろう。

お腹の具合からしてもってあと10分程度だろう。

本来、腹痛の痛みは痛くなったり止んだりを繰り返すものなのだがさすが悪の組織の作り出した薬品だ。

全く止む気配がなくシッカリと腹痛をキープし続けている。

この時間、もはやトイレは満杯で入れないだろう。

なんとなくトイレの入り口に眼をやると満杯のようで大名行列ができている。中には漏らしてしまった人達が涙を流しながら呻き声を上げている。

俺はトイレへの願望を拭い捨てて必死に隠し部屋がないかを探す。

 

探している合間にスクリーンには合格者の名前が表示されていくのが目に入る。

上位入賞がもうすぐなくなるという焦りとゴールへの入り口はあるんだという希望。

そして、もう間に合わないかもしれないという腹部の痛みがさらに下に降りてしまったという絶望で俺は顔を歪める。

きっと他人には見せられないひどい顔をしていることだろう。

俺は這い回りながらも懸命にゴールへの隠し通路を探すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後

結局、VIPルームを見つけることができなかった。

パン○ース君はパン○ースを穿いて今回も出場していたようでにこやかに笑いながら会場を後にしていた。

俺はパンツを一枚失い、今月も尊厳を踏みにじられ、翌日に上司にからかわれたとさ。

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