悪の組織の一員ですよ?   作:魔王の善意

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休日

訓練日を終えて俺は職場の先輩にいびられ続けたのち、久々の休日である。

悪の組織に基本的に休日も祝日というものも存在しない。

ただ、有給が120日ほど使えるのでそれを使って一つのグループで話し合ってそれを使って誰がいつ休んでどういうシフトでヒーローを監視するかを話し合う。

ただ、すべて使い切ることは許されない。

なにせ怪我の多い職業だ。

正社員はともかくとして俺のような仮雇用は有給を使い切るとクビになる。

 

ただ、俺達のグループは運よく一週間の長期休暇を与えられた。

その理由は簡単だ。

俺達の監視していた戦国戦隊の完全な解散が確認され監視の必要がなくなったのだ。

有給以外の休日なんて半年間働いて初めてのことに俺は歓喜している。

 

そんなわけで俺は朝から早朝ジョギングをしている。

久々の休日を満喫するためだ。朝から晩まで遊び倒すぞ!

おっと、そろそろ子供達を横断させるために通学路に向かわなければ。

 

「あはようございます!」

 

「おはよう。」

 

子供達の朝の挨拶を聞きながらにこやかにあいさつを返す。

朝の挨拶は心の原動力。

特に純粋な子供達の笑顔付きならその力は数倍に跳ね上がる。

今日も元気にリリカルハニーも学校に向かっているようだ。

 

「おはようございます。」

 

「おはよう。」

 

と挨拶をすると目の前には高校生が立っていた。

彼女は確かブレザーハートの子だ。

そういえば、家が意外に近かったな。

 

「毎日ここで補導員をしてらっしゃるんですか?」

 

ブレザーハートの子は俺にそんな質問を投げかける。

 

「ああ、そうなんだ。ちょうど早朝ジョギングのコース近くでね。最近は子供の事故も多いし、こうして自主的にやっているんだよ。」

 

俺はあくまでさわやかに答える。

変に子供好きとか言って白い目で見られたり、実は仕事の一環で・・・などとは言えないのだ。

 

「君はこっち側なのかい? 今まで見なかったけど・・・」

 

普段彼女を見かけることがないのでなんとなく聞いてみた。他意はない。

 

「ええ、ほらこの前みたいに人の少ない所は変な人がいるかもしれないから、人通りの多いところでなるべく近い道を色々と調べてるんですよ。」

 

「そうなんだ。だったら・・・」

 

俺はブレザーハートの子に学校の場所を聞いてそこに行く最短でなるべく人通りの多いところを教えてあげた。

 

「へぇ~。そういうルートがあるんだ。」

 

「うん。このルートは人が少ないって思われがちだけど、近道できるって言って近所の人が通ってるから結構交通量は多いよ。」

 

俺はブレザーハートの子に親切に道を教えてあげた。

 

「ありがとうございました。明日はそのルートで行ってみます。」

 

「うん。気を付けてね。」

 

俺は彼女のまぶしい笑顔を見送ってから帰路に就いた。

良い事をすると清々しいなと思った。

おっと悪の組織の一員がこんなこと・・・

 

休日だからいいよね?

 

俺はいい汗をかいて家に帰り汗を流す。

朝食を取り終ると俺は猛烈に暇になった。

実は休日は昨日急に言われたことで何をしようか予定を立ててはいない。

 

悪の組織の一員として何か悪い事をすべきなのか?

それとも、今まで貯めてきた貯金を崩して豪遊すべきなのか?

はたまた、今まで悪の組織でしてきたことを懺悔すべきなのか?

 

俺は迷いながらもとりあえず、ブラブラと買い物に出かけた。

俺が街中を歩いていると一軒のコンビニの前で高校生達が屯している。

おかしい。今は学校で授業を受けているはず・・・

 

「君たち、こんなところで何をしているんだい?」

 

「ああん? おっさん何か用かよ。」

 

声をかけるとその中の一人の男がやけに目を細めて顔を近づけてくる。近眼なのだろうか。

 

「君たち学校は?」

 

「今日は休みだよ。なんか文句あんのか?」

 

俺の質問に男はなおも顔を近づけてくる。余程の近眼なのだろうか?

 

「そうか。でも、休みなのに制服を着てるだなんて最近の子は変わってるね。」

 

「は?」

 

「「「ブハハハ! 何言ってんだこのおっさん!!」」」

 

目の前の男は呆けた顔で後ろにいた3人男女はなぜか笑い出した。何が面白いのだろうか?

俺としては学校もないのに学生服を着ている彼らの方が面白い。

 

「まぁ、いい。とりあえず、サボりじゃないなら声をかけてすまなかったね。気を悪くしないでくれ。」

 

俺はそう言って立ち去ろうとするが、男は俺の腕を急に掴んできた。

 

「ちょっと待てよ。迷惑かけといてそれはないだろう?」

 

男はそう言って俺に金銭的なものを要求する。後ろにいた男達も立ち上がって俺との距離を詰める。

近眼の多い子達だな、と思いながら俺は要求を拒否。

そもそも、学校は休みでも平日に学生服を着ている彼らが悪いのだ。紛らわし言ったらありゃしない。

 

「しょうがねなぁ~。」

 

男たちはそう言って俺を取り囲み、周囲から見えないようにして俺の腹部を強く殴る。

俺は瞬間的に腹筋に力を入れてそれを弾いた。

 

「え?!」

 

殴った男は困惑する。それを見て他の男たちも同様に困惑した様だ。

俺は悪の組織の一員として正義の味方との戦いに備えて体を常に鍛えている。

身体つきはあまりよくないが、プロボクサーの様に引き締まった筋肉で覆われているので高校生の拳など痛くない。むしろ、殴った方の手が心配だ。

 

「大丈夫かい?」

 

俺が優しく声をかけると男たちは数歩後ずさり、急に頭を下げて謝罪しだした。

まぁ、確かに急に人を殴るのは良くないよね。

俺は彼らにこんなことをしてはいけないよと言って立ち去ろうとすると、コンビニのドアが開き中から二人の女子高生が出てくる。一人はなぜか片手に釘バットを持っている。ファッションにしてはファンキーだなと思いつつ、その子から目を離せない。

なぜだろうかとしばし逡巡した後に思い出した。

確かブレザーハートの子だ。

ちなみにブレザーハートは全部で5人いてカラーは黒 藍 橙 緑 紫だよ。

確か彼女は紫で痴漢を撃退したバイトの子は橙だよ。

 

「何かあったの?」

 

釘バットを持つブレザーハートの紫ちゃん(仮名)は男たちに質問する。

 

「紫原(しはら)さん。 聞いてくださいよ。こいつがケンカ売ってきて・・・」

 

あれ? 俺、喧嘩なんか売ってないよ?

男たちはあることないことを紫ちゃん(紫原さん)に吹き込んでいく。

それを聞いた紫原さんも仲間の仇を打つべく?俺に向かって来て目を細めて顔を近づけてくる。

この子も近眼の様だ。6人中4人が近眼だなんて最近の子は視力が悪いなぁ~。

ゲームのしすぎなのだろうか? 最近の親が子供がゲームをすることを嫌がる理由がわかる気がした。

それにしても、こんな可愛い女子高生に顔を近づけられたらなんだか興奮してしまうじゃないか。

おまけに、胸も大きい。下を見ればきっと彼女は地面を見ることはできないだろう。

 

「おいおっさん。こっち来いよ。」

 

俺は彼女にコンビニの後ろに連行されてします。

かなりまずい、まさか彼女に俺の正体がバレていて消されてしまうのだろうか。

いや、大丈夫だ。俺が悪の組織の一員だなんてばれていないはず、それに彼女は正体を明かすわけにはいかないはず、友達の前で変身はできない・・・ はず・・・ 多分・・・

 

ものすごく嫌な予感を感じながら彼女についていく。

後ろには先程の男達三名と一緒にいた女の子達二名。

 

(カツアゲかな? 所謂(いわゆる)、カツアゲかな? 高校生に悪の組織の下っ端がカツアゲされちゃうのかな? 相手の中に約一名、正義の味方がいるのに・・・?)

 

俺はオドオドと恐れながら付いて行く。

普通の高校生相手ならともかく、正義の味方がいるのでは勝ち目がない。

俺は紫ちゃんが変身しないことを祈りつつ歩いていると、戦闘を歩いていた紫ちゃんが足を止める。

俺もそれに続いて足を止める。多分、後ろからついて来ている子達も同様だろう。

 

紫ちゃんは振り返るとまた目を細めて顔を近づけてくる。

ああ、そんなに顔を近づけたらドキドキしちゃうじゃないか。

ただでさえブレザーハートの子達は皆、美人なんだから・・・ おまけにこの子は胸が大きい。

当たる?! 当たるのか?! 俺って結構余裕あるな・・・

 

「よし、おい金を出せ。」

 

紫ちゃんは一回顔を離して周囲に人がいないことを確認するとまた顔を近づけてきてそう言って来た。

リアルカツアゲに遭遇ナウ とブログに乗せるべきなのだろうか?

俺は冷や汗を背中に掻きながら首を横に振る。

紫ちゃんは俺の胸倉を掴んで「ああ?!」と声を上げる。

緊張しているのだろうか? 声が高いし、顔も怖くない。元が美人だからだろうか?

 

「慣れないことはしない方がいいんじゃないかな? 凄味が足らないよ?」

 

俺は紫ちゃんがカツアゲ初体験なのではないか?と思い言葉を放つ。

紫ちゃんはその言葉に怯んだのか「うっ」と小さく唸って一歩下がる。

 

「見本を見せよう。」

 

俺は紫ちゃんの手を優しく払いのけて後ろを振り返り三人の男達の中で最も喧嘩が強そうな顔つきの男を選んで胸倉を掴んで目を細めて睨みつけ、声をできるだけ低くして威圧感のある声で一言。

 

「殺すぞ。」

 

「「「「「・・・!!」」」」」

 

俺の言葉と顔を見ていた男女5名の顔が一瞬で青ざめていく。女の子達2人に至っては壁に寄り添い自分で立つことができないほどだ。

実際に戦場に行き、人を殺してきた本物の顔を見て驚いているのだろう。

悪の組織の入団テストで戦場で実戦を経験したことがこんなところで役に立つとは思わなかった。

 

「みんなどうしたの?」

 

俺の後方で声しか聴いていない紫ちゃんだけが不安気に友達5名を見つめる。

俺はゆっくりと振り返り作り笑顔を浮かべて紫ちゃんに微笑みかける。ただし、眼だけは笑っていない。

 

「え?!」

 

それを見た彼女は両手で口元を覆い一歩下がる。

顔は恐怖に染まり眼元には涙が滲んでいる。

 

「と、まぁこんな感じでやるんだよ。」

 

俺はそう言って今度はにこやかに笑顔で笑いかける。

紫ちゃんだけでなく後ろにいる全員にだ。

それを見て皆、安堵の息を漏らす、だが青ざめた表情はすぐには戻らない。

悪いことをしてしまったと思いつつ、彼らに「こんなことはしてはいけないよ?」とお説教。

彼らも反省したようでこんなことはしませんと誓ってくれる。

釘バットは危ないので回収させてもらった。

さすがは、正義のヒーロー。物わかりのいい子だ。

 

俺はその後、なぜブレザーハートの子が不良少女になったのかが気になり支部の先輩に電話してみる。

 

ガシャコ~ ガシャコ~ プルルル~ プルルル~ ピッ

 

「おおどうした? 休日に何かしていいかわからなくて先輩のアドバイスを聞きたいのか? とりあえず、お金を下ろして風俗店を梯子だな。好みの子を何人見つけられるか試してみると良い。楽しいぞ~♪」

 

「いえ、結構です。」(先輩そんなことしてるんだ。)

 

「なんだ。風俗店は嫌か? なら、キャバ嬢のお持ち帰り方法を伝授しよう。」

 

「いえ、結構です。」(かなり気になるが我慢だ!)

 

「・・・まさか、男が好きなのか?」

 

「いえ、違います。 少し気になることがありまして尋ねてみようかと・・・」

 

「うむ。 県内の風俗店並びに類似店のことならばなんでも答えよう。」

 

「先輩、県内を網羅したんですか?」

 

「ふ・・・ 俺の武勇伝聞いてくれるか?」

 

その後一時間ほど俺は先輩の武勇伝を聞かされた。

先輩は最後に「やべ、仕事しなきゃ! じゃ、この続きはまた今度!」と言って電話を切った。

一時間を無駄にしてしまったorz

 

俺はどうしようかと途方に暮れて家へ帰り頭を抱えていると電話がかかってきた。

ジリリリリ~

電話の通知には「支部長」とある。

 

(し、支部長からの電話だと?! クビ?! クビなのか?!)

 

俺は恐る恐る電話に出る。でなければ、死。でても・・・

ピッ

 

「はい、こちら悪の組織 第八支部の・・・」

 

「用件のみを告げる。二、三質問に答えろ。」

 

「はっ!」電話の向こうで敬礼を取る。

 

「まず、ネイルと何を話していた?」

 

「は、それは・・・」

 

ネイルとは先程電話していた先輩の名だ。

俺は電話の内容を掻い摘んで話す。

 

「行くのか?」

 

「え?」

 

「風俗店に行くのか?! ネイルに勧められた隠れた名店に行くのかと聞いている!!」

 

「いえ、行きません!!」

 

「行かないだと~!! 貴様ふざけているのか! それでも男か!!」

 

「いいえ! 行きます!!」

 

「うむ。では本日7時に支部に来い。ネイルと待っているぞ。」

 

「はっ!」(あれ? なぜか一緒に行くことに?)

 

「それで、あやつに聞きたいことがあったのではないのか? 私が代わりに聞こう。 内容次第では厳罰だぞ?」

 

「あ、はい。 実は・・・」

 

俺は今日、コンビニでブレザーハートの紫ちゃんと出会ったことを話しそこで彼女が不良化していることを話した。

 

「ううむ、彼女の家は現在両親が不仲でな。そのせいで彼女の情緒も不安定になっているのだろう。今日も普通に学校があるはずなのに学校に行っていないのはそういうことだったのか。報告感謝する。では、本日7時にな!」

 

「了解しました!」

 

プー・・・ ガチャン。

 

今夜7時に予定ができてしまった。

俺はとりあえず、紫ちゃんに会いに行ってみることにした。

両親の不仲による正義の味方の不良化か・・・ 放置した方がいいのだろうか?

 

「や。」

 

俺はコンビニ近辺の高校生の行きそうな店を見て回り紫ちゃんを見つけた。

先程の男女5人も一緒の様だ。

 

「何か用?」

 

彼らのうちの一人が尋ねてくる。

 

「いや、少し気になってね。君たちを見ていると昔の自分を見ているようで・・・」

 

俺は彼らに缶ジュースを奢って少し話をする。

 

他愛のない身の上話だ。

 

学校の勉強をサボって遊び呆けていた過去。

 

それにより就職先を見つけられずに戦場に行った事実。

 

辛い訓練、血反吐を吐き、泥に塗れ、涙を流し枯らす訓練。

 

鉄と血と硝煙の匂いのする戦場で、瞬きを忘れてがむしゃらに叫んで己を奮い立たせて突撃したこと。

 

似たような境遇の仲間達との生きる喜びを分かち合い。

 

今生の別れを繰り返して少しずつ壊れていく心を何とか食い止めて今ここにいること。

 

過去を振り返り涙ながらに語ると彼らは言った。

 

「学校にいってきます。」

 

俺はただ微笑を浮かべて彼らの背を見送った。

 

家のことやつらいことがあっても学校には行った方がいい。

 

そこで得た物は社会に出ればゴミの様なものに等しいが、就職には役立つ、進学の助けになる。

 

それはきっと人生の分岐点に立った時に分岐する未来を広げる光となるだろう。

 

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