悪の組織の一員ですよ?   作:魔王の善意

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休日四日目

休日四日目。 入院生活は二日目・・・

 

俺は昨日の晩から苦悩であまり寝ていない。

食欲もない。

 

(なぜエロ本がベッドのシーツの下からお見舞いの品の袋の中に・・・?)

 

見られたのか? 見つかったのか? どう思われた?

 

俺の思考はグルグル回り行き止まりに辿り着いても動くのをやめない。

 

先輩や上司からの差し入れだったとはいえ、18禁の本を18歳未満に見せてしまった。

不可抗力とはいえ、見せてはいけない物を見目麗しくまだ幼さが残る少女たちに見せてしまった。

 

(これが原因でグレてしまったらどうしよう・・・)

 

正義の味方の女子高生五人が不良に・・・

悪の組織の一員としての俺の評価はうなぎのぼり・・・

でも、それでいいのか?

まだ未来ある若者の将来に暗い影を落とすだなんて大人のすることだろうか?

 

(今度会った時、あの子たちが金髪黒肌のギャルになっていたらどうしよう?)

 

俺の中でグレた少女の最終形態は金髪黒肌ギャルなのだ。

 

「おじさん、ちょっと金出せよ。」

 

「おっさん、援交する?」

 

「おにいさん、セフレになる?」

 

「二人で朝までハメまくりましょう。」

 

「智坂さんのおっきい・・・」

 

(ああ!! 俺は何を考えているんだ!!)

 

彼女たちのあられもない姿を想像して俺は赤面したであろう顔を両手で押さえて塞ぎ込む。

 

(ああ・・・ 死にたい・・・)

 

俺は少しの時間、そうしていた。

だが、時間が経つとそれも「なんだかいいや」と思えてくる。

 

エロ本なんて昔はその辺に捨てられていたし、手に入れようと思えば中学生でも手に入れることができる代物だ。

最近はネットの普及でそう言うのが年齢制限なしに見れるともいうし・・・

何より、保健体育である程度の知識は・・・

 

俺はその後、言い訳を考えて何とか自分を納得させた。

 

そうこうしている間にお昼ご飯も終わり、暇になった。

昨日の晩から気苦労であまり眠れていないので、少し昼寝するか。

そう思い、布団に潜り込んで横になっているとドアがノックされる音がした。

 

俺は何かと思い布団から上半身のみ起き上り「どうぞ」と言って来訪者を招いた。

来訪者は見たこともない黒スーツの男だった。

顔にはサングラスをかけているので視線も目つきもわからない。

 

「初めまして、私(わたくし)こういうものでして・・・」

 

男はそう言って名刺を差し出してくる。

俺は生まれて初めて名刺を差し出されたのでどうしていいかわからない。

とりあえず、男の持つ小さな名刺を両手で受け取り頭を下げる。

 

受け取った名刺を見ると「正義の味方派遣協会 実務取締役 山田 正義(せいぎ)」と書かれていた。

実務取締役ってなんだろうか?

 

「実は智坂様にお願いがありまして、今日はお忙しい所をお邪魔させていただきました。」

 

山田さんはそう言って深く頭を下げる。

 

「あ、はぁ・・・ それでどういった用件でしょうか?」

 

山田さんが頭を下げたので俺も頭を下げて会釈を返す。

 

「実は智坂様に今回の件を内密にしてほしいのです。」

 

「今回の件?」

 

俺が頭を捻って問いかけの意味を考えると男は懇切丁寧に説明を始める。

説明の内容は要約すると『ブレぜーブラックから攻撃を受けたという事実を他言しない』というものだった。

 

「彼女は若く、その上ストーカーに遭い正常な精神ではありませんでした。

そんな彼女の過ちを許してやってはくれませんか?」

 

「まぁ、構いませんが・・・」

 

俺は黒条さんから頭を直に下げられているわけだし、特に今回の件を訴えようとか他人に口外しようとは思っていないので素直に頷いた。

若者の過ちを正し、許すのは大人の役目だとも思っている。

 

「ありがとうございます。これはつまらない物ですが・・・」

 

そう言って山田さんはカステラの箱を渡してくる。

受け取ると予想以上にズッシリと重い。

 

「開けて見て下さい。きっと気に入ると思います。」

 

俺は山田さんに促されるままカステラの箱を開けて中を見る。

綺麗に包装されたビニールの袋の中に美しく焼き上げられたカステラが見える。

 

「おいしそうですね。」

 

「ええ、手に取って見ていただくともっとおいしそうに見えますよ。」

 

「いや~、今はまだ食欲が・・・ さっきお昼を食べたばかりですし・・・」

 

「そう言われず、一口だけでも・・・ ここのカステラは私の一押しなんですよ。」

 

山田さんがあまりにも強引に進めてくるので俺はカステラの入った袋を箱から取り出す。

 

「・・・・!?」

 

カステラの袋を取り出すと箱の底にはなんと一万円札が!!

いや、良く見ると真ん中に帯がついている。

まさか・・・

 

俺は恐る恐るカステラをベッドの上に置いて箱の中のお札に触れる。

 

「箱の底の物は箱から取り出さずにご確認いただけますと幸いです。」

 

そう言って山田さんは口元に笑みを浮かべる。

その笑顔はどこか裏のありそうな含んだような笑みだった。

 

(ひゃ・・・ 百万円・・・)

 

俺は驚くと同時に何か触れてはいけない物に触れてしまったような気がしてそっと箱の底にしまい直し、その上に包装されたカステラを戻した。

 

「つまらない物ですがお受け取りください。」

 

「え・・・ あ、はぁ・・・」

 

俺は言葉を失い何も言うことができない。

 

「あと、私どもの方で手を打って治療費は格安になるように配慮しています。

もしそれでも、ご不満なようでしたら我々の系列の病院に移って頂ければもっと良い待遇を用意することが可能ですが・・・」

 

山田さんは左手で扉の方に手をやり指をパチンと鳴らすと、ドアが開き車いすを持った屈強な身体つきの黒スーツの男が 二、三人顔を出す。

男たちは皆、サングラスをかけて顔色が窺えない。

 

「どうなさいますか?」

 

山田さんは俺に決断を迫る。

 

「いえ、これ以上は結構です。」

 

俺は右手の掌(てのひら)を差し出して『STOP!』を訴えてお断りの言葉を述べる。

あれに乗ってついて行ったらきっとその先は、外界と遮断された閉鎖空間で日の目を二度と目にすることはない気がしたからだ。

 

「そうですか。では、私どもはこれで・・・」

 

山田さんは立ち上がる瞬間、前傾姿勢で俺に近づき耳元で小さくこう囁いた。

 

「わかってると思うが、もしバラしたらバラすぞ。」

 

俺は正義の味方を陰から支える人の誠意と熱意に心から恐怖した。

背筋が凍りつき、7月も半ばだというのに妙な肌寒さに襲われた。

 

「ああ、一人暮らしでの入院生活は大変でしょうから退院するまで人を送ります。」

 

山田さんはドアから顔を覗かせてそう言い残して去って行った。

 

(か、監視だ~~!!)

 

俺は今後の入院生活に多いな不安を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

ただ、山田さんの使いできたという女性は大変美しく気さくでまるで監視に来たとは思えない人だった。

彼女のおかげで俺は着替えと服の洗濯、部屋の掃除(してくれているらしい)をしなくて済んだ。

 

 

 

 

 

(どうしよう・・・)

 

私は悩んでいた。

智坂さんのお見舞いに行き、その帰り際に良かれと思ってやったベッドのシーツの張り直しでまさかのお宝本の発見。

私と皆は右往左往して結局、シーツを張り直して逃げるように帰ったのだが・・・

 

「あ、ごめん。 あれ、袋の中に居れちゃった。」

 

碧が痛恨のミス。

 

「あらあら、仕方ないわね。 今頃彼、地上に出たミミズのように身もだえしているわね。」

 

碧の失敗をまるで笑い話の様に語る麗。

 

「ふう、ま。仕方ないでしょ。 むしろ、あの人も普通なんだなとわかったし・・・」

 

軽く受け流す深歩。

 

「見てない! 私は何も見てない!」

 

美咲は狼狽えながら本で顔を隠してどこかに走り去ってしまった。

私は美咲の慌て振りのおかげでなんとか平静を装い、あれからの一週間を過ごしている。

 

碧に麗、深歩は何も気にしていないようで普通の日常を過ごしている。

美咲はたまに思い出したように狼狽えては何かに八つ当たりしていた。

 

「はぁ。」

 

私もたまに思い出しそうになってその度に忘れようとして気づかれを起こしてしまうのでバイトを増やすことにした。

期末テストも終わり、後は夏休みを待つだけの平凡な毎日は少し退屈だ。

 

たまに正義の味方として悪の怪人や戦闘員、その手先と戦うが・・・

最近は苦戦もなく、平凡な毎日の日常になりつつある。

 

(彼氏でもいれば、違う日常が待っているのだろうか?)

 

ふとそう思い、知り合いの男子の顔を思い浮かべるがピンとこない。

 

「大丈夫かい?」

 

ふとあの時の智坂さんの心配そうに私を見つめる顔を思い出して私は首を振った。

 

(ないない。あの人は・・・)

 

社会人、年上・・・

 

(何歳ぐらいなのかな・・・)

 

見た目には20歳前後の好青年という感じだが、時折見せる表情は年齢の違いを感じさせられる気がする。気のせいならばそれでいい。でも、気のせいでなかったら・・・

 

(声も渋くて大人っぽいし・・・ 30手前とかだったら10歳さか~。)

 

年の差を気にしない結婚というのもテレビで取り上げられて当たり前になりつつある現代。

もしかしたら有なのかも知れないが・・・

 

(いや、別に好きとかそう言う訳じゃ!)

 

「橙子~!」

 

「は、はい?!」

 

突然、後ろから声を掛けられて私は奇声をあげながら立ち上がり振り返る。

そこには私の奇声に驚いて目を丸くしている深歩がいた。

後ろには美咲に碧、麗といういつものメンバーだ。

 

「いや、今日暇なら遊びに行かね? 他のみんなと最近できた店のパフェ食べに行こうって話になったんだけど・・・」

 

深歩は最後は遠慮がちに聞いてくる。

先程の奇声を聞いて私の体調が悪いとでも思ったのかもしれない。

最近はバイトであまり遊べていないのでそれも一つの要因になっているのだろう。

 

「行く。」

 

私は笑顔でそう答えて皆とパフェを食べに行った。

 

店でパフェを食べ終わるとこの後どうするかという話になった。

 

「う~ん。 カラオケとか?」

 

ストローから口を離し、深歩が質問を投げかける。

 

「ごめん。私今、手持ちが・・・」

 

私は申し訳なく思いながら行けないことを告げる。

 

「だった服でも見に行きましょうか?」

 

美咲はウィンドショッピングを提案する。

 

「そうね~。最近下着がきつくなってきたから見に行きたいわね。」

 

「まだ大きくなってるの?」

 

麗の爆弾発言に碧は驚きの表情を浮かべながらまじまじと麗の胸を凝視する。

 

「ふふ、そうみたい♪」

 

麗は笑みを浮かべて自慢するように胸を持ち上げる。

 

「すごいな、私より大きいのに・・・」

 

驚愕の一言に深歩がそう呟いた。

 

「うう、別に羨ましくなんてないわ。」

 

美咲は麗の胸元を見つめたまま、自分の胸に手を当てる。

 

「私はそこまで大きいのはちょっと・・・」

 

麗の胸はあまりにも大きくバイト中邪魔になりそうだった。

でも、深歩ぐらいは欲しいと思ってしまう。

 

「あら? でも、智坂さんはこれくらいが好きかもよ? この前もすごい見つめてきていたし」

 

「「ブッ!」」

 

麗の放った本日二発目の爆弾に私と美咲が同時に噴いた。

 

「おいおい、その話をするのか? また美咲が変になるじゃないか。」

 

深歩が片肘をついて美咲を見る

 

「あれ、見てて面白いよね。」

 

「あら碧ったら、面白がっちゃダメよ♪」

 

碧の呟きを麗が諌めるが、彼女自身も楽しそうに笑っているので本気で諌める気はない。

 

「も、もうあの事では取り乱しません!」

 

美咲は顔を赤らめてそっぽを向いて拗ねた様な顔をする。それを見た後、三人の視線が私に集まる。

 

「そうよ。いつまでも引き摺ったりしないわ。」

 

私は集まった視線の三人から目線を離してコップに入ったジュースを一口飲む。

 

「へ~。じゃ、智坂さんとこ行く?」

 

「な、なんでそうなるの?」

 

深歩が突然、そんなことを言い出すので私は危うくコップを落としそうになってしまった。

 

「いや~、智坂さん困ってると思うよ。 近所のおばさんが智坂さんのこと知ってて聞いたんだけど。

あの人、一人暮らしらしいから入院中の服の差し入れとか多分大変だよ?」

 

「そういうのは家族に頼むんじゃない?」

 

深歩がなぜ智坂さんのことを聞いたのか気になるが、私は自分の意見を返す。

 

「どうなんだろう。実家が近かったらそれでもいいけど、そうじゃなかったらどうするんだろう。

毎日同じ服着るのかな?」

 

深歩は考え込むように腕を組んだ。

 

「さすがに入院中、ずっと同じ服ってことはないんじゃない?」

 

私はさすがにそれはないだろうと意見を述べる。

 

「会社の先輩か上司がお見舞いに来たから服を持ってきてもらえるように頼んでるんじゃない?」

 

美咲がお見舞いの品を持ってきていたことを思い出して発言する。

 

「そうだとしても、洗濯まではしてくれないだろう。」

 

深歩はそう言って智坂さんが困っているだろうと話を持っていく。

実は彼女がもう一度、お見舞いに行きたいだけで・・・?

 

「彼女がいるとかは?」

 

「「「!」」」

 

碧の口から本日最後であろう爆弾発言が放たれた。

その言葉に私と深歩と美咲の三人は言葉を失う。

 

「ふふふ、そうね。優しそうな感じなのに頼もしい体つきの人だもの頼りがいもあるだろうし、彼女がいても不思議ではないわね。」

 

麗は楽しそうに笑顔を浮かべてそう言った。

 

「い、いってみよっか。 智坂さんの所・・・」

 

私が絞り出した答えに皆、一様に頷く。

ただ、その表情は人それぞれ異なっていた。

 

 

 

病院に着き。

深呼吸をした後、私たちは病院内に入っていく。

一応、ここに来る途中でケーキを購入しているのでお見舞いというか謝罪というか・・・

まぁ、そんな感じで私たちは智坂さんの病室へと向かった。

 

智坂さんの病室は五階と微妙に高い所にあるのでエレベーターに乗る。

 

「すいませ~ん。一緒に乗せてくださ~い。」

 

エレベーターの扉が閉まる前にそう言って一人の女性が乗り込もうとしてきたので、『開』ボタンを押してあげる。

 

「ありがとうございます。」

 

女性はそう言ってこちらに頭を下げてきた。

手には何か大きな鞄を持っていた。

年齢は二十代半ばの笑顔の似合う優しそうな女性だった。

 

「いえいえ、気にしないでください。」

 

私はそう言って手を振って遠慮のポーズを取る。

 

チリーン

 

エレベーターが五階に到着してドアが開く

乗り込んできた女性も同じ五階だったようで私たちは彼女の後に続くようにエレベーターから出る。

 

私たちは五人で行動しているので一人で行動している女性の方が目的地に先につくのは当然のことだったが、まさか私たちと同じ部屋だとは思わなかった。

彼女が部屋に入った後、ドアの横にあるネームプレートを確認する。

 

そこには『智坂 徳』の名前しかなかった。

 

「彼女、本当にいたんだ。」

 

碧の口からまさか本日最大の爆弾が投下された。

私たちがドアの前に立ち止まって佇んでいると中から声が漏れだしてきた。

 

「いつもありがとうございます。毎日来なくても一週間に一度来てくれるだけですごくうれしいですが」

 

「いえ、こうして毎日花の水も替えたいですし・・・」

 

仲睦まじく話をする男女の声。

 

「帰えろっか。」

 

私はそう呟いて皆と共に来た道を引き返すことにした。

 

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