怒声悲鳴絶叫銃声肉裂き音を聞きながら、まっすぐ進んでいる間、うちの社員が15人死んだ。
歓声剣撃笑声爆発破裂音を聞いた時には、G社の社員を20人殺して塹壕を一つ手に入れた。
既に周りには青いツナギを着た蟲人間と、場違いなコスプレ大会を繰り広げる数少ない同期や大多数の後輩がグチャグチャになって混ざりあっている。チラリと目線を下にやれば、支給されたEGOが次の餌を探すように目をギョロつかせている。
周りの惨状と今来ている服と右手の気持ち悪い武器から現実逃避しようと空を見た。が、しかし黒々とした精神を蝕んでくるような煙が一切の光を防ごうと立ち込めている。
裏路地の6級フィクサーが、巣に住むことができるなんて甘い言葉に騙された結果がこれだ。
勤め先のロボトミーコーポレーションとL社が複数の翼を巻き込んで大戦争。その上各地のフィクサーや、協会が参加している上に、親指まで確認されたらしい。俺にロボトミーコーポレーションを紹介したやつはとんだ詐欺師だ。
…いや、実際この戦争に勝てばうちは新しい翼になってその社員の俺は巣に住めるだろうし、事実が含まれている分都市の詐欺師の中じゃまだ良心的か?そんなしょうもない事を考えていると、誰かが近づいてくる。
「ジョン先輩。付近の蟲人間どもは皆殺しにしたみたいです。会社から何か指示は出てますか?」
話しかけてきたのは星空を模したタキシードを着て、レイピアを腰に差した女だった。当然こんな珍妙な格好してるのはうちの社員だ。名前をエレン。巣の出身のくせしてこんな所にいる妙な奴だった。
「いんや、特には。取り敢えず、当初の予定通りもう一つ塹壕を獲ってこよう。残りの社員は?」
「戦闘可能が27、後方へ下げる事が推奨されるのが14。死者が27です」
「エレン先輩!ダニエルが死にました!」
「…訂正します。戦闘可能27、後方へ下げる事が推奨されるのは13、死者が28です。死者の中で特筆すべきEGOの所有者はいません」
「流石に厳しいな。近くに味方の協会や会社はいるか?」
「リウ協会、もしくは…」
エレンが続きを言いかけた所で通信が来る。発信元は我らがLobotomy Corporationのオフィサーからだった。作戦中、部隊の半分がやられてる時にかかってくる通信には碌なものがない。比較的軽症や実力のある職員にAlphaやWAWクラスのEGOを譲渡して残りの職員で殿をさせられたり、そのままの戦力で死守命令を出されたりだ。今回の通信もきっと碌なものじゃない。
『対人実験チームへ、親指と共同で次塹壕戦の確保が決定されました。チーフジョンはチームを引き連れて親指の部隊と合流、引き続き相手の塹壕線を制圧し、戦線を押し上げてください』
「リウ協会も近くにいたんじゃ?」
『南部6課の部隊がありましたが、妖せ』
「いや、理解した」
俺は続きを話そうとするオフィサーからの通信をさっさと切って、エレンと他の社員の元へ戻る。エレンは無表情だが、他の社員は俺を見て良くない指示が出た事を察したようだった。
「次の塹壕を取るために親指と合流することになった。裏路地出身が大半の俺らにゃ難しいかもしれねえが、できるだけ行儀良くしてくれ。親指と合流したら、とにかく少し下を向いて、向こうに何か言われるまで何も喋るなよ」
親指と聞いて残った社員の大半は引き攣った顔を、エレンと他何人かはスンとした表情を、残りは親指以外の支配区域にいたのか、珍しい巣の生まれなのかいまいちよくわかってなさそうな顔をしていた。たぶん死ぬな。
何はともあれ、残った社員を引き連れて通信の後に送られてきた座標へと向かう。通信後に送られてきた座標を見れば、ここから数キロもしない地点だった。
軽く身嗜みを整えるように指示をしつつ暫く歩いた先で、真っ赤、というよりは少し暗い色だが、裏路地で良く目立つ制服が見えてきた。戦争で廃墟と化したビルの入り口付近に集まっている。数は俺たちと同じくらいか。
向こうも気づいたようで、一瞬警戒する素振りが見えたものの、腕章に書かれたLの字を見て佇まいを直した。
「Lobotomy社のⅤ級社員、ジョン殿ですね?只今カポの元へご案内します。お連れの方々はここで待機を」
親指のソルダードからそう言われて、俺は後輩たちに大人しくしているように伝えて、ソルダードの後ろに着いていく。幸い、新しい翼になろうとしているlobotomy社のⅤ級職員はそれなりの階級らしい。
ビルの中に入って階段を登り、二階の一部屋に入る。ビル自体は廃墟と化しているにも関わらず、その部屋だけは昔こなした翼の依頼で入った、金持ちの応接室みたいな部屋だった。
革張りの質の良さそうな赤いソファに腰掛けた男が葉巻の煙を燻らせながらこっちを見ていた。後ろには数人のソルダードが直立不動で立っている。
「よく来たな。俺がカポのルーカスだ」
ルーカスの言葉に対して、俺は無言を貫いて斜め下を見続ける。ここで許可を得ずに自己紹介を返そうとして死んだフィクサーを何度か見た。
「なんだ?自己紹介も無しか」
だが、黙って次の言葉を待っていれば、ルーカスから怪訝そうな声が聞こえてきた。
「なあ。お前、新生L社のⅤ級社員の階級がカポⅢと同じだと伝えているのか?答えろ」
ルーカスは俺の後ろにいたソルダードへ低い声を響かせた。ソルダートの事は見えないが後ろから酷く焦っているのが伝わっている。
「も、申し訳ありません。伝えようとは思っていたのですが」
言い訳。親指が嫌うソルダートの行為。まだ日が浅いのか、そんな初歩的なミスをしたソルダードの結果は一つ。
「言い訳、伝達不足、下顎だな。こいつの教育担当は右腕を潰せ」
「す、すみませでし「了解」
鈍い空気の音、何かが折れた軽い音。意味のない謝罪を重ねようとしたソルダードはその顎下を潰れたトマトみたいにされて、それをやったソルダードは自分の右腕を左手で強く叩きつけて逆向きに捩れさせた。
「うちのがすまなねえな。こうしてけじめをつけたから、どうか許してくれ。改めて俺の名前はルーカス。お前は?」
「lobotomy corporationⅤ級社員のジョンだ。よろしく頼む」
「よし、ジョン。俺達が上から言われたのは一つ、あの蟲人間どもをブッ殺して次の塹壕を確保することだ。お互い兵隊は少ないが、頑張ろうぜ」
そう言って自分の両足に勢いよく手を叩きつけて立ち上がったルーカス。真っ直ぐ俺が入ってきたところから出ていき、その後ろを俺がついていく。ルーカスの紫煙が、俺の花を強く刺激していた。