怪しげな喫茶店マスターになったけど、適当な助言を周りが警戒しまくってておもろい 作:CV裏切りそうなイケメン
転生した僕の見た目はとても怪しかった。
笑えば即座に胡散臭さがまし、そもそもからして糸目である。
こんな裏切りそうなやつ、この世にそう何人といるはずもない。
しかも声まで裏切りそうだ。
そんな胡散臭い僕は、ささやかながらも夢をもっていた。
それは喫茶店のマスターになること。
それもただのマスターではない、客がほとんどやってこない道楽喫茶店のマスターだ。
店員に「このままじゃお店潰れちゃいますよ」、なんて文句を言われたら完璧である。
なんでそれが夢なのかって? だって男のロマンじゃないか。
僕はそういう、ロマンを追い求めるのが好きなのだ。
そんな喫茶店を開店した僕のもとには、ときおり喫茶店を開店する前にやっていた冒険者稼業の関係者が訪れる。
彼らは誰もが、僕のことを訝しんでいた。
だってあまりにも胡散臭すぎるから。
最初のうちは鬱陶しくて適当に追い返していた僕だが、ある時ふと気付いてしまう。
彼らを追い返す時に言った適当な発言で、彼らは何かに”気付いて”帰ることが多い。
これじゃあまるで、本当に僕が怪しい喫茶店のマスターみたいじゃないか。
そう気付いた時、思ったのだ――
――これ、結構楽しい。
だいたい、何もしていないこっちを勝手に怪しんでいるのは向こうなのだ。
少しくらい、意趣返しをしたってよくないか?
何より、そうやって他人を口先で翻弄するトリックスターは――実にロマン溢れる存在だ。
◇
静かな店内に、からんころんと扉が開く音がする。
そちらに視線を向けることなく、僕はのんびりと客を迎え入れた。
「――いらっしゃいませ」
他に客の姿はなく、僕の声はよく響く。
店内は木目調のシックな雰囲気は、僕のイメージするシンプルな喫茶店の姿そのもの。
観葉植物なんかもおいたりして、隠れ家感は満載だ。
そんな店にやってくるのは、大抵が僕の知り合いばかり。
今回は――
「来たわよ、スルギ! きょーこそあたしが、その仮面の下にある真実を明らかにしてやるんだから!」
「ミリリカさんですか、今日も相変わらず活発ですね」
「そういうスルギは今日も胡散臭いわね! というか、今日はアーシェがいないじゃない。ちょっと残念だわ!」
赤い髪のツインテールで小柄な少女。
そして赤いドレスのような鎧を身にまとった、少女騎士という言葉がよく似合う全身赤づくしの少女である。
子供っぽい笑みと、そこから除く八重歯が印象的だ。
ちなみにアーシェというのはこの喫茶店の店員で、
「きょー来たのはほかでもない、この私が指揮する火蓮騎士団が最近追いかけている事件について、貴方からちょーしゅを取るためよ!」
「物騒ですねぇ、それよりもほら、美味しいココアがありますから。飲んでいきませんか?」
「けっこーよ! おこちゃま扱いしないでちょうだい! 出すならレディの飲み物にしてよね!」
「では、いちごミルクにしましょうか」
「ふん、そーしてちょうだい!」
話をしながら、ミリリカさんはカウンター席に座る。
子供向けに背の高い椅子もあるのだが、ミリリカさんは絶対にそれを使おうとしない。
明らかに窮屈そうにしながらも、ミリリカさんはこちらを見上げながらふんと鼻を鳴らす。
「ちゅーもんよ! ナポリタンっていうのを、お願い! いつもみたいに、トマトたっぷりでね!」
「解っていますよ。少々お待ちください」
――喫茶店と言えばナポリタン、ナポリタンといえば喫茶店。
トマトソースがばっちり効いた、素朴な味こそが至高のナポリタンである。
というわけでささっと作り上げると、一緒に入れたいちごミルクとともにミリリカさんの元へと持っていく。
「おまたせしました」
「ふふん、赤はレディの色なのよ。やっぱり私の昼食はこうして優雅でなくっちゃね。……ってスルギ、これピーマン入ってるじゃない!」
「ピーマンも食べないと大人になれませんよ?」
「ぐぬぬ……」
なんてやり取りをして、ナポリタンを半分くらい堪能してから、ミリリカさんは本題に入った。
なお、顔はトマトソースまみれだった。
「貴方も知ってるでしょうけど、ここ最近王都で盗難事件が頻発してるの」
「ふふふ、そうですか」
――へえ、初めてしった。
と、内心で思いながらお首にも出さず相づちを打つ。
「貴方なら何か知っているはずよ。――”スキルを盗むスキル”について」
「ふむ」
知らねぇ――――
わからない、僕はミリリカさんが何を言っているのか何一つわからない。
しかしこういう時こそ、前世で培ってきた技術をフル活用するのだ。
それは――
この世界にはスキルがあって、ステータスもある。
どこかゲーム的なのだ。
なんとなく前世以上に、物語的な文脈――あるいはお約束のようなものがある、と僕は感じていた。
今回だってそう。
「スキルを盗むスキル、ですか。ようはスキルが盗まれているという昨今の事件に対し、あなた達はそれ自身にスキルが関係していると判断したわけですね」
「当然よ。何今さら、そんなことを確認しているのよ」
「大事なことですよ。――考えてもみてください」
いいながら、僕はいちごミルクのおかわりをミリリカさんに提供する。
それにミリリカさんが口をつける状況を作り、思考を巡らせる時間をつくるのだ。
考えても見てください、とはミリリカさんではなく自分への発言である。
こういう涙ぐましい営業努力が、僕の胡散臭さを活かすための手段なのだ。
解りきっていることをあえて繰り返しているようにみせているのも、当然ながら情報収集のため。
「スキルを盗まれているという自体に対し、どうしてあなた達がそれをスキルによって行っていると判断したのか。被害者の証言や実際の現場の状況などから推察できることではあるでしょう」
「そ、そりゃそうよ」
「ですがどうして、完全にスキルによるものだと断定できるのですか? 僕は他にもいくらか手段はあると思いますが」
「……だ、だとしたら何がいいたいのよ!」
実際どうなんだろう。
スキルを盗むなんて事件、僕は初めて聞く。
こういうよくわからない事件がいっぱいおきたり、へんな魔道具やスキルでへんな事件が大量に起きる世界ではあるけれど、だからこそ大抵の事件は聞いたこともないようなものばかり。
こんな世界で、お前ならこれについても詳しくしってるだろ! 扱いは結構大変だ。
とはいえ、今の僕は適当に煙に巻けばいいので、ここは雑に話を進める。
「一体誰が、この事件について”スキルを盗むスキル”が使われている……と断言したのでしょう」
「……っ! み、味方に裏切り者がいるっていーたいの!?」
ミリリカさんは言動と見た目が子供っぽいだけで、地頭はいい。
部下にも慕われているし、ブレインが入れば優秀なトップだ。
まぁ、そのブレインがどっちかというと僕に近い人種なのが悲しいところだけど。
誰も不幸にはなっていないので、まぁいいだろう。
「火蓮騎士団に裏切り者は……まぁ今回の件に関してはいないでしょうが、騎士団内部をもう少し調査した方がいいかもしれませんね」
「……そ、そんなはずないわ、栄光ある王都の騎士団に、そんな不埒な輩が……」
「……そこそこいるではありませんか、僕が関わった事件でも複数人、騎士団から下手人が出ていますよ」
「…………きょ、きょーは帰らせてもらうわ!」
ナポリタンを平らげ、口元の汚れを拭ったミリリカさん。
おかわりのいちごミルクも一口で飲み干すと、勢い良く立ち上がる。
そうして、ポケットから猫の巾着袋を取り出してお代を払うと、入口へ向かう。
最後に振り返って一言。
「――お、覚えてなさい!」
一体何を覚えていろというのだろう。
何にせよ、今日も今日とて数少ないお客は僕のことを怪しみながら、僕の適当な助言で帰っていった。
はっきりいって、今回の件に根拠なんて何一つない。
そもそも僕は、最後までスキル盗人事件について、詳細を聞かされなかった。
機密というのもあるだろうが、完全にこちらが内容を全て把握していると思っている。
なんて横暴なんだろう。
しかし、だからこそ適当に適当を重ねた僕の助言は、的を得ていたりいなかったりする。
的を得ているならよし、得ていないなら、その時はまた別の対応をするだけだ。
何よりこの後のことが気になるので、僕は何もない場所で一言”彼女”に声をかける。
「――アーシェ、聞いてたと思うけど、いつものようにお願いしますね」
その場に、僕以外の人間は誰もいない。
けれども数秒の沈黙が経った後、僕の耳元に通信越しのかすれた声が聞こえてくる。
『はい、マスター』
端的な、静かな声。
それを聞いて満足した僕は、ミリリカさんの使った食器を片付けるべく厨房へと向かうのだった。
◇
――喫茶店”シンカ”。
そのマスター、スルギはとても胡散臭い。
声と見た目が、特に胡散臭い。
あまりにも胡散臭すぎるせいで、多くの者が彼こそが黒幕であると信じて疑わないのだ。
しかし何より周囲が彼を怪しむ理由は、その言動にある。
まるでこちらを見透かしたかのような助言は、時に外れることもあるが、最終的に真実へと人々を導く。
外れていたとしても、外れていることに意味があるのだ。
――まぁ、正確には後からスルギが軌道修正しているだけなのだが。
ともかく、今日も今日とてシンカには、様々な人物がやってくる。
スルギはそんな彼らに対し、持ち前の胡散臭い笑顔と声で、今日も適当な助言をして煙に巻くのだ。