海を失った世界に、暁は来る   作:ぶるぶるメタボ

17 / 24
第十七章 空襲

「深海棲艦の行動に――」

 

部下は。

 

息を整えながら。

 

続けた。

 

「大きな変化が確認されました」

 

海将の表情が。

 

変わる。

 

「詳しく」

 

「はい」

 

部下は。

 

六人へ一瞬だけ視線を向けた。

 

そして。

 

すぐに海将へ戻す。

 

「先ほど撤退したイ級群を」

 

「衛星及び沿岸監視網で追跡していました」

 

天龍の眉が。

 

僅かに動く。

 

暁たち四人も。

 

その名前を聞いた瞬間。

 

少しだけ。

 

表情を強張らせた。

 

「それで?」

 

海将が促す。

 

「敵集団は」

 

「沖合へ撤退後」

 

「ある海域に集結しました」

 

「集結?」

 

「はい」

 

部下の顔には。

 

明らかな困惑があった。

 

「その後」

 

「通常とは異なる行動を開始しています」

 

数分後。

 

海将。

 

天龍。

 

龍田。

 

暁。

 

響。

 

雷。

 

電。

 

そして数名の幕僚が。

 

基地内部の。

 

監視指揮室へ。

 

移動していた。

 

「わぁ……」

 

暁が。

 

思わず。

 

声を漏らす。

 

壁一面。

 

大型モニター。

 

レーダー表示。

 

世界地図。

 

無数の数字。

 

通信機器。

 

行き交う隊員。

 

「すごい……」

 

雷も。

 

目を丸くする。

 

「いっぱいあるのです」

 

電も。

 

きょろきょろ。

 

響だけは。

 

黙っていた。

 

それでも。

 

目は。

 

あちこちへ動いている。

 

珍しいのだろう。

 

だが。

 

正面。

 

巨大モニター。

 

そこに。

 

黒い影が映った瞬間。

 

四人の反応は。

 

変わった。

 

「……っ」

 

暁が。

 

一歩。

 

下がる。

 

響も。

 

雷も。

 

電も。

 

そして。

 

自然と。

 

天龍と龍田の。

 

後ろへ。

 

隠れた。

 

モニター。

 

海。

 

そこに。

 

無数の。

 

イ級。

 

「大丈夫だ」

 

天龍が。

 

後ろへ手を伸ばす。

 

暁の頭へ。

 

そっと。

 

触れる。

 

「ここには来てねぇ」

 

龍田も。

 

雷と電を。

 

安心させるように。

 

「映像ですからね~」

 

四人は。

 

頷く。

 

だが。

 

目は。

 

イ級から離れない。

 

海将は。

 

モニターを見る。

 

「これが」

 

「異常行動か?」

 

「はい」

 

担当士官が。

 

画面を拡大する。

 

イ級。

 

一体。

 

二体。

 

十体。

 

数十体。

 

それらが。

 

一つの海域を。

 

ぐるぐると。

 

回っている。

 

「……旋回している?」

 

幕僚が呟く。

 

「はい」

 

「何のために?」

 

「不明です」

 

海将の目が。

 

細くなる。

 

逃走ではない。

 

移動でもない。

 

戦闘でもない。

 

ただ。

 

同じ場所を。

 

円を描くように。

 

回っている。

 

「まるで」

 

天龍が。

 

低く言った。

 

「何かを囲ってるみてぇだな」

 

その瞬間。

 

担当士官が。

 

身を乗り出した。

 

「海面中央部に変化!」

 

全員の視線が。

 

中央へ。

 

イ級の描く。

 

巨大な円。

 

その中心。

 

海面。

 

泡。

 

最初は。

 

小さかった。

 

ぽこ。

 

ぽこ。

 

だが。

 

次第に。

 

激しく。

 

ごぼ。

 

ごぼごぼ。

 

ごぼごぼごぼごぼ――。

 

「何だ……?」

 

誰かが呟く。

 

海面が。

 

盛り上がる。

 

まるで。

 

海の底から。

 

巨大な何かが。

 

浮上しているように。

 

暁が。

 

天龍の服を。

 

ぎゅっと。

 

掴んだ。

 

「先生……」

 

「大丈夫だ」

 

天龍自身も。

 

大丈夫だとは。

 

思っていない。

 

海面。

 

泡。

 

そして。

 

黒い何かが。

 

姿を現した。

 

「……は?」

 

指揮室の。

 

誰かが。

 

声を漏らした。

 

まず。

 

見えたのは。

 

巨大な。

 

黒灰色の外殻。

 

続いて。

 

骨格。

 

いや。

 

骨に見える。

 

異形の構造。

 

生物。

 

艦艇。

 

そのどちらとも。

 

言えない。

 

それは。

 

イ級よりも。

 

明らかに。

 

一回り。

 

大きかった。

 

「推定全長!」

 

「解析中!」

 

数秒。

 

「百四十……」

 

「いや!」

 

「百五十メートル前後!」

 

「百五十……」

 

海将が。

 

低く。

 

繰り返す。

 

軽空母。

 

その言葉が。

 

頭の中に。

 

浮かぶ。

 

だが。

 

まだ。

 

早い。

 

巨大な異形。

 

頭部とも。

 

胴体とも。

 

判別できない。

 

その前面。

 

大きな。

 

裂け目。

 

口。

 

そう。

 

呼ぶしかない。

 

その奥。

 

赤い光。

 

一つ。

 

二つ。

 

幾つも。

 

蠢いている。

 

イ級とは。

 

違う。

 

同型ではない。

 

大型化した。

 

イ級でもない。

 

明らかに。

 

別種。

 

指揮室。

 

静まり返る。

 

海将の背中に。

 

冷たいものが。

 

走る。

 

五年間。

 

人類は。

 

深海棲艦を。

 

観測してきた。

 

撃退できなくても。

 

追跡した。

 

記録した。

 

分析した。

 

その五年間。

 

確認されたのは。

 

イ級を中心とする。

 

異形。

 

だが。

 

今。

 

まったく別の。

 

存在が。

 

出てきた。

 

「……二種類」

 

幕僚が。

 

呟く。

 

海将は。

 

首を振る。

 

「違う」

 

全員が。

 

海将を見る。

 

「二種類いると」

 

「判明しただけだ」

 

声が。

 

重い。

 

「二種類しかいないという」

 

「証明にはならない」

 

誰も。

 

何も言えない。

 

三種類。

 

四種類。

 

もっと。

 

海の底に。

 

何が。

 

いる?

 

その時。

 

巨大な異形の。

 

口。

 

それが。

 

ゆっくりと。

 

開いた。

 

「何か来る!」

 

隊員が叫ぶ。

 

「攻撃か!?」

 

「警戒!」

 

暁たちが。

 

びくりと。

 

身体を震わせる。

 

天龍と龍田が。

 

四人の前へ。

 

そして。

 

口の中から。

 

何かが。

 

飛び出した。

 

一つ。

 

「……?」

 

二つ。

 

三つ。

 

五つ。

 

十。

 

「何だ?」

 

小さい。

 

いや。

 

巨大な異形と。

 

比べれば。

 

小さいだけだ。

 

羽。

 

機体。

 

プロペラ。

 

「……飛行機?」

 

響が。

 

小さく。

 

呟いた。

 

指揮室。

 

全員が。

 

止まった。

 

口から。

 

航空機。

 

さらに。

 

さらに。

 

さらに。

 

二十。

 

三十。

 

四十。

 

「まだ出るぞ!」

 

「数を!」

 

「四十七!」

 

「五十近い!」

 

無数の。

 

小型航空機。

 

それらが。

 

異形から。

 

空へ。

 

飛び立っていく。

 

海将の。

 

顔色が。

 

変わった。

 

巨大な。

 

艦艇相当の身体。

 

航空機。

 

多数。

 

そして。

 

艦隊のように。

 

周囲を。

 

イ級が。

 

護衛。

 

「まさか……」

 

海将が。

 

呟く。

 

「海将?」

 

幕僚が見る。

 

「もし」

 

海将の声が。

 

低い。

 

「あれが」

 

「艦種に相当する」

 

「何かだとしたら」

 

画面を。

 

指差す。

 

「空母だ」

 

「……空母?」

 

「軽空母級かもしれん」

 

指揮室の。

 

空気が。

 

凍る。

 

イ級。

 

駆逐艦相当。

 

そして。

 

今。

 

航空機を。

 

運用する。

 

巨大な異形。

 

空母。

 

それは。

 

単なる。

 

怪物の種類ではない。

 

役割。

 

艦種。

 

戦力構成。

 

まるで。

 

海軍。

 

「……冗談だろ」

 

天龍が。

 

吐き捨てるように。

 

言う。

 

誰も。

 

笑わない。

 

海将が。

 

突然。

 

声を上げる。

 

「飛行物体の進路を出せ!」

 

「はっ!」

 

担当士官が。

 

操作。

 

「方位!」

 

「速度!」

 

「予測進路!」

 

数秒。

 

「……海将」

 

担当士官の。

 

声が。

 

変わった。

 

「どこだ」

 

「この基地方面です」

 

「…………」

 

海将の。

 

血の気が。

 

引いた。

 

「映像は」

 

「リアルタイムか?」

 

「いえ!」

 

「衛星データの受信及び解析遅延が!」

 

「何分だ!」

 

「約七分!」

 

「七分!?」

 

海将が。

 

机を叩く。

 

「現在位置を出せ!」

 

別の担当。

 

急いで。

 

表示。

 

「推定現在位置……」

 

そして。

 

絶句。

 

「報告しろ!」

 

「既に」

 

「沿岸線を突破しています!」

 

「警報!」

 

海将の。

 

怒号。

 

「基地全域に警報を出せ!」

 

「地上勤務者は全員地下へ!」

 

「航空攻撃が来る!」

 

「航空……?」

 

一瞬。

 

若い隊員が。

 

意味を。

 

理解できなかった。

 

五年間。

 

敵は。

 

海から。

 

来た。

 

砲撃は。

 

沿岸。

 

航空攻撃。

 

そんなもの。

 

深海棲艦は。

 

一度も。

 

海将が。

 

怒鳴る。

 

「爆撃されるぞ!!」

 

その瞬間。

 

「上空監視!」

 

別の隊員が。

 

絶叫した。

 

「多数の飛行物体!」

 

全員が。

 

振り返る。

 

「数――」

 

「数十!」

 

「当基地上空を通過!」

 

海将。

 

天龍。

 

龍田。

 

そして。

 

暁たち。

 

全員の顔が。

 

変わる。

 

「投下物を確認!」

 

「何!?」

 

「筒状物体!」

 

「多数!」

 

「基地直上!」

 

海将は。

 

考えるより。

 

先に。

 

動いた。

 

「伏せろォォォォォッ!!」

 

怒号。

 

暁が。

 

目を見開く。

 

その瞬間。

 

海将が。

 

四人へ。

 

飛び込んだ。

 

「きゃっ!」

 

暁。

 

響。

 

雷。

 

電。

 

四人を。

 

覆うように。

 

身体を。

 

投げ出す。

 

ほぼ。

 

同時。

 

天龍。

 

龍田。

 

二人も。

 

四人の上へ。

 

身体を。

 

重ねた。

 

「先生!?」

 

天龍が。

 

四人を。

 

抱き込む。

 

「頭下げろ!」

 

龍田も。

 

四人を。

 

庇う。

 

「目を閉じて!」

 

次の瞬間。

 

光。

 

そして。

 

轟音。

 

鼓膜を。

 

引き裂くような。

 

爆発音。

 

床が。

 

跳ねた。

 

壁が。

 

軋む。

 

天井。

 

照明。

 

一斉に。

 

揺れる。

 

窓ガラス。

 

砕ける。

 

指揮室全体が。

 

巨大な拳で。

 

殴りつけられたように。

 

揺れた。

 

そして。

 

二発目。

 

三発目。

 

さらに。

 

さらに。

 

基地全体を。

 

爆炎が。

 

飲み込んでいった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。