「深海棲艦の行動に――」
部下は。
息を整えながら。
続けた。
「大きな変化が確認されました」
海将の表情が。
変わる。
「詳しく」
「はい」
部下は。
六人へ一瞬だけ視線を向けた。
そして。
すぐに海将へ戻す。
「先ほど撤退したイ級群を」
「衛星及び沿岸監視網で追跡していました」
天龍の眉が。
僅かに動く。
暁たち四人も。
その名前を聞いた瞬間。
少しだけ。
表情を強張らせた。
「それで?」
海将が促す。
「敵集団は」
「沖合へ撤退後」
「ある海域に集結しました」
「集結?」
「はい」
部下の顔には。
明らかな困惑があった。
「その後」
「通常とは異なる行動を開始しています」
数分後。
海将。
天龍。
龍田。
暁。
響。
雷。
電。
そして数名の幕僚が。
基地内部の。
監視指揮室へ。
移動していた。
「わぁ……」
暁が。
思わず。
声を漏らす。
壁一面。
大型モニター。
レーダー表示。
世界地図。
無数の数字。
通信機器。
行き交う隊員。
「すごい……」
雷も。
目を丸くする。
「いっぱいあるのです」
電も。
きょろきょろ。
響だけは。
黙っていた。
それでも。
目は。
あちこちへ動いている。
珍しいのだろう。
だが。
正面。
巨大モニター。
そこに。
黒い影が映った瞬間。
四人の反応は。
変わった。
「……っ」
暁が。
一歩。
下がる。
響も。
雷も。
電も。
そして。
自然と。
天龍と龍田の。
後ろへ。
隠れた。
モニター。
海。
そこに。
無数の。
イ級。
「大丈夫だ」
天龍が。
後ろへ手を伸ばす。
暁の頭へ。
そっと。
触れる。
「ここには来てねぇ」
龍田も。
雷と電を。
安心させるように。
「映像ですからね~」
四人は。
頷く。
だが。
目は。
イ級から離れない。
海将は。
モニターを見る。
「これが」
「異常行動か?」
「はい」
担当士官が。
画面を拡大する。
イ級。
一体。
二体。
十体。
数十体。
それらが。
一つの海域を。
ぐるぐると。
回っている。
「……旋回している?」
幕僚が呟く。
「はい」
「何のために?」
「不明です」
海将の目が。
細くなる。
逃走ではない。
移動でもない。
戦闘でもない。
ただ。
同じ場所を。
円を描くように。
回っている。
「まるで」
天龍が。
低く言った。
「何かを囲ってるみてぇだな」
その瞬間。
担当士官が。
身を乗り出した。
「海面中央部に変化!」
全員の視線が。
中央へ。
イ級の描く。
巨大な円。
その中心。
海面。
泡。
最初は。
小さかった。
ぽこ。
ぽこ。
だが。
次第に。
激しく。
ごぼ。
ごぼごぼ。
ごぼごぼごぼごぼ――。
「何だ……?」
誰かが呟く。
海面が。
盛り上がる。
まるで。
海の底から。
巨大な何かが。
浮上しているように。
暁が。
天龍の服を。
ぎゅっと。
掴んだ。
「先生……」
「大丈夫だ」
天龍自身も。
大丈夫だとは。
思っていない。
海面。
泡。
そして。
黒い何かが。
姿を現した。
「……は?」
指揮室の。
誰かが。
声を漏らした。
まず。
見えたのは。
巨大な。
黒灰色の外殻。
続いて。
骨格。
いや。
骨に見える。
異形の構造。
生物。
艦艇。
そのどちらとも。
言えない。
それは。
イ級よりも。
明らかに。
一回り。
大きかった。
「推定全長!」
「解析中!」
数秒。
「百四十……」
「いや!」
「百五十メートル前後!」
「百五十……」
海将が。
低く。
繰り返す。
軽空母。
その言葉が。
頭の中に。
浮かぶ。
だが。
まだ。
早い。
巨大な異形。
頭部とも。
胴体とも。
判別できない。
その前面。
大きな。
裂け目。
口。
そう。
呼ぶしかない。
その奥。
赤い光。
一つ。
二つ。
幾つも。
蠢いている。
イ級とは。
違う。
同型ではない。
大型化した。
イ級でもない。
明らかに。
別種。
指揮室。
静まり返る。
海将の背中に。
冷たいものが。
走る。
五年間。
人類は。
深海棲艦を。
観測してきた。
撃退できなくても。
追跡した。
記録した。
分析した。
その五年間。
確認されたのは。
イ級を中心とする。
異形。
だが。
今。
まったく別の。
存在が。
出てきた。
「……二種類」
幕僚が。
呟く。
海将は。
首を振る。
「違う」
全員が。
海将を見る。
「二種類いると」
「判明しただけだ」
声が。
重い。
「二種類しかいないという」
「証明にはならない」
誰も。
何も言えない。
三種類。
四種類。
もっと。
海の底に。
何が。
いる?
その時。
巨大な異形の。
口。
それが。
ゆっくりと。
開いた。
「何か来る!」
隊員が叫ぶ。
「攻撃か!?」
「警戒!」
暁たちが。
びくりと。
身体を震わせる。
天龍と龍田が。
四人の前へ。
そして。
口の中から。
何かが。
飛び出した。
一つ。
「……?」
二つ。
三つ。
五つ。
十。
「何だ?」
小さい。
いや。
巨大な異形と。
比べれば。
小さいだけだ。
羽。
機体。
プロペラ。
「……飛行機?」
響が。
小さく。
呟いた。
指揮室。
全員が。
止まった。
口から。
航空機。
さらに。
さらに。
さらに。
二十。
三十。
四十。
「まだ出るぞ!」
「数を!」
「四十七!」
「五十近い!」
無数の。
小型航空機。
それらが。
異形から。
空へ。
飛び立っていく。
海将の。
顔色が。
変わった。
巨大な。
艦艇相当の身体。
航空機。
多数。
そして。
艦隊のように。
周囲を。
イ級が。
護衛。
「まさか……」
海将が。
呟く。
「海将?」
幕僚が見る。
「もし」
海将の声が。
低い。
「あれが」
「艦種に相当する」
「何かだとしたら」
画面を。
指差す。
「空母だ」
「……空母?」
「軽空母級かもしれん」
指揮室の。
空気が。
凍る。
イ級。
駆逐艦相当。
そして。
今。
航空機を。
運用する。
巨大な異形。
空母。
それは。
単なる。
怪物の種類ではない。
役割。
艦種。
戦力構成。
まるで。
海軍。
「……冗談だろ」
天龍が。
吐き捨てるように。
言う。
誰も。
笑わない。
海将が。
突然。
声を上げる。
「飛行物体の進路を出せ!」
「はっ!」
担当士官が。
操作。
「方位!」
「速度!」
「予測進路!」
数秒。
「……海将」
担当士官の。
声が。
変わった。
「どこだ」
「この基地方面です」
「…………」
海将の。
血の気が。
引いた。
「映像は」
「リアルタイムか?」
「いえ!」
「衛星データの受信及び解析遅延が!」
「何分だ!」
「約七分!」
「七分!?」
海将が。
机を叩く。
「現在位置を出せ!」
別の担当。
急いで。
表示。
「推定現在位置……」
そして。
絶句。
「報告しろ!」
「既に」
「沿岸線を突破しています!」
「警報!」
海将の。
怒号。
「基地全域に警報を出せ!」
「地上勤務者は全員地下へ!」
「航空攻撃が来る!」
「航空……?」
一瞬。
若い隊員が。
意味を。
理解できなかった。
五年間。
敵は。
海から。
来た。
砲撃は。
沿岸。
航空攻撃。
そんなもの。
深海棲艦は。
一度も。
海将が。
怒鳴る。
「爆撃されるぞ!!」
その瞬間。
「上空監視!」
別の隊員が。
絶叫した。
「多数の飛行物体!」
全員が。
振り返る。
「数――」
「数十!」
「当基地上空を通過!」
海将。
天龍。
龍田。
そして。
暁たち。
全員の顔が。
変わる。
「投下物を確認!」
「何!?」
「筒状物体!」
「多数!」
「基地直上!」
海将は。
考えるより。
先に。
動いた。
「伏せろォォォォォッ!!」
怒号。
暁が。
目を見開く。
その瞬間。
海将が。
四人へ。
飛び込んだ。
「きゃっ!」
暁。
響。
雷。
電。
四人を。
覆うように。
身体を。
投げ出す。
ほぼ。
同時。
天龍。
龍田。
二人も。
四人の上へ。
身体を。
重ねた。
「先生!?」
天龍が。
四人を。
抱き込む。
「頭下げろ!」
龍田も。
四人を。
庇う。
「目を閉じて!」
次の瞬間。
光。
そして。
轟音。
鼓膜を。
引き裂くような。
爆発音。
床が。
跳ねた。
壁が。
軋む。
天井。
照明。
一斉に。
揺れる。
窓ガラス。
砕ける。
指揮室全体が。
巨大な拳で。
殴りつけられたように。
揺れた。
そして。
二発目。
三発目。
さらに。
さらに。
基地全体を。
爆炎が。
飲み込んでいった。