爆音が。
止んだ。
いや。
完全に。
止んだわけではない。
遠くでは。
まだ。
何かが燃えている。
何かが崩れている。
基地のどこかで。
警報が。
鳴り続けている。
だが。
地下深く。
作戦指令室。
そこだけは。
奇跡的に。
形を保っていた。
「……全員」
海将が。
ゆっくり。
身体を起こす。
耳鳴り。
頭痛。
視界が。
僅かに。
揺れている。
「無事か」
返事。
「負傷者数名!」
「意識あり!」
「致命傷なし!」
海将が。
息を吐く。
死者。
なし。
奇跡。
本当に。
それ以外の言葉が。
見つからない。
「……暁君たちは」
海将が。
すぐに。
四人を見る。
暁。
響。
雷。
電。
全員。
生きている。
その上に。
天龍。
龍田。
そして。
自分。
三人が。
重なるように。
覆いかぶさっていた。
「……だ、大丈夫?」
暁が。
恐る恐る。
顔を上げる。
「先生……?」
天龍が。
ゆっくり。
身体を起こす。
「大丈夫だ」
龍田も。
「みんな怪我してない?」
「うん……」
「大丈夫」
「平気よ」
「なのです……」
海将は。
少しだけ。
目を閉じた。
そして。
四人へ。
頭を下げた。
「すまない」
「え?」
暁が。
首を傾げる。
「咄嗟に」
「上から覆いかぶさってしまった」
「怖がらせたな」
暁。
響。
雷。
電。
四人。
少し。
不思議そうに。
海将を見る。
雷が。
最初に。
言った。
「でも」
「守ってくれたんでしょ?」
海将が。
止まる。
「なら」
雷。
少し笑う。
「謝らなくていいじゃない」
電も。
「そうなのです」
海将は。
何も言えなくなった。
そして。
天龍が。
海将を見る。
ほんの少し。
見方が。
変わっていた。
「状況確認」
海将の声が。
変わる。
再び。
指揮官。
「基地周辺の映像を出せ」
「はっ!」
操作。
通信回線。
確認。
アンテナ。
応答あり。
「映像回線、生きています!」
「出せ」
巨大モニター。
一瞬。
ノイズ。
そして。
映像。
誰も。
言葉を。
失った。
海軍基地。
さっきまで。
暁たちが。
目を輝かせて。
見ていた場所。
そこが。
燃えていた。
建物。
炎上。
格納庫。
崩壊。
滑走路。
巨大な穴。
車両。
横転。
係留艦。
黒煙。
基地全体が。
戦場に。
変わっていた。
「…………」
誰も。
声を出せない。
そして。
映像が。
切り替わる。
地上。
倒れた人。
走る救護班。
炎。
黒煙。
その隅。
何か。
黒い。
人のような。
何か。
「見るな」
天龍が。
瞬時に。
動いた。
暁。
響。
二人の目を。
手で覆う。
龍田も。
雷。
電。
二人の視界を。
塞ぐ。
「先生?」
「見るな」
天龍の声。
低い。
「今は」
「見る必要ねぇ」
龍田も。
優しく。
「目を閉じててね」
四人は。
何が映っていたのか。
分からない。
分からないままで。
よかった。
「……くそ」
誰かが。
呟いた。
別の隊員が。
唇を噛む。
一人。
俯く。
海将は。
モニターを。
見続けていた。
表情。
冷静。
「敵航空機は」
低い声。
「その後」
「どうなった」
誰かが。
海将を見る。
こんな。
惨状。
それでも。
声は。
冷静。
「追跡!」
「急げ!」
担当士官が。
操作。
その時。
床。
ぽたり。
赤いものが。
落ちた。
天龍が。
気付く。
海将の右手。
拳。
強く。
握り締められている。
爪が。
掌へ。
食い込み。
血。
ぽたり。
また。
声だけが。
冷静だった。
「追跡結果!」
担当士官。
「敵航空物体」
「沿岸を離脱!」
「現在」
「先ほどの大型深海棲艦の海域へ向かっています!」
海将が。
モニターを見る。
衛星画像。
あの。
巨大な異形。
周囲。
イ級。
そして。
帰還してくる。
数十の飛行物体。
「……戻っている」
海将が。
呟く。
「おそらく」
「再攻撃のための」
「補給だ」
「補給……?」
幕僚が。
顔をしかめる。
「爆弾」
「燃料」
「弾薬」
海将が。
画面を。
睨む。
「空母と」
「考えるなら」
「自然だ」
空母。
その言葉が。
今度は。
誰にも。
荒唐無稽には。
聞こえなかった。
「識別名称を」
海将が言う。
「既存のイ級とは」
「明らかに別種」
一度。
考える。
「軽空母相当」
そして。
「暫定呼称」
「軽母ヌ級」
担当士官が。
繰り返す。
「軽母ヌ級」
こうして。
人類は。
二種類目の。
深海棲艦へ。
名前を。
与えた。
その時だった。
「……海将」
別の担当士官。
声が。
震えている。
「どうした」
「映像を」
「何だ」
「こちらを」
モニター。
切り替わる。
別海域。
海。
イ級。
そして。
海面が。
泡立っている。
海将の。
表情が。
消える。
「……まさか」
泡。
盛り上がる。
そして。
黒い。
巨大な。
異形。
一体。
「……二体目」
誰かが。
呟く。
「違います!」
担当士官が。
叫ぶ。
「別海域!」
画面。
また。
切り替わる。
泡。
三体目。
「こちらにも!」
四体。
五体。
「さらに反応!」
一つ。
また。
一つ。
大型モニターに。
新しい映像が。
次々と。
追加される。
太平洋。
南シナ海。
インド洋。
大西洋。
地中海。
世界。
「……嘘だろ」
天龍が。
低く。
呟く。
イ級。
単独では。
なかった。
なら。
ヌ級も。
当然。
単独ではない。
頭では。
分かっていた。
でも。
現実には。
起きてほしくなかった。
「出現数」
海将が聞く。
「現在確認中!」
「世界各地から」
「同時報告!」
「ヌ級相当個体!」
「複数!」
「各海域」
「十数体規模!」
「場所によっては」
「さらに多い可能性!」
海将の。
背筋が。
凍る。
イ級ほどではない。
だが。
空母級が。
大量。
世界中に。
「……世界中?」
誰かが。
呟く。
海将が。
ゆっくり。
顔を上げる。
「主要都市の映像」
担当士官が。
海将を見る。
「映せるだけでいい」
海将の声。
静か。
「世界中だ」
「出せ」
数秒。
画面。
分割。
一つ。
二つ。
四つ。
八つ。
そして。
世界。
東京。
黒煙。
上海。
炎上する。
高層建築。
ソウル。
爆発。
シドニー。
港湾地区。
炎。
ロンドン。
避難する。
人々。
ロサンゼルス。
空。
無数の。
黒い機影。
パリ。
警報。
ニューデリー。
爆煙。
一つの都市ではない。
一つの国でもない。
世界中。
空から。
攻撃されていた。
「…………」
暁たちは。
天龍と龍田の。
後ろ。
大人たちの。
顔を見ている。
映像は。
よく見えない。
けれど。
分かる。
何か。
とても。
悪いことが。
起きている。
「航空迎撃を実施している国があります!」
一つの画面。
拡大。
戦闘機。
数機。
高速で。
黒い飛行物体へ。
接近。
「ミサイル発射!」
白い軌跡。
命中。
爆発。
誰かが。
息を呑む。
だが。
煙。
その中から。
黒い飛行物体が。
飛び出してくる。
無傷。
「……やっぱり」
幕僚が。
青ざめる。
人類の兵器。
効かない。
親と。
同じ。
深海棲艦の。
艦載機にも。
効かない。
敵機が。
急旋回。
戦闘機の。
後方へ。
機銃。
閃光。
人類側。
一機。
火を噴く。
墜落。
別の一機。
回避。
敵機。
さらに。
接近。
そして。
体当たり。
「なっ――」
衝突。
戦闘機。
空中で。
砕ける。
敵機。
姿勢を。
崩しながらも。
飛行。
継続。
誰も。
声を出せない。
海将の。
拳から。
血。
また。
一滴。
「……死神だ」
小さな声。
海将が。
振り返る。
若い。
通信員。
モニターを。
見たまま。
青ざめている。
「空にいる限り」
声が。
震える。
「あれから」
「逃げられない」
誰も。
叱らなかった。
誰も。
否定できなかった。
別の隊員が。
呟く。
「海だけじゃ」
「なかったのか……」
そして。
「空まで」
「取られるのか……?」
部屋。
静まり返る。
五年前。
人類は。
海を失った。
それでも。
陸が。
あった。
空が。
あった。
海へ。
出なければ。
生きられた。
だが。
今。
その前提が。
壊れた。
空母級。
軽母ヌ級。
その艦載機は。
海岸線を。
越える。
山を。
越える。
都市へ。
届く。
海から。
離れていても。
安全ではない。
人類の戦闘機は。
止められない。
人類の兵器は。
傷つけられない。
そして。
ヌ級は。
世界中にいる。
海将は。
モニターを。
見た。
世界中。
燃えている。
同じ時間。
同じ敵。
同じ攻撃。
偶然。
ではない。
「……これは」
海将が。
低く。
言う。
「作戦だ」
幕僚が。
海将を見る。
「深海棲艦は」
「ただ」
「群れているんじゃない」
「目的を持って」
「動いている」
その言葉に。
指揮室の。
温度が。
さらに。
下がった。
誰が。
その目的を。
決めている?
誰が。
命令している?
ヌ級か。
それとも。
もっと。
別の。
何か。
答えは。
まだ。
どこにも。
なかった。
ただ。
一つだけ。
はっきりしていた。
人類は。
海を。
奪われた。
そして今。
深海から来た怪物たちは。
次に。
空を。
奪おうとしていた。