海を失った世界に、暁は来る   作:ぶるぶるメタボ

18 / 24
第十八章 空を奪うもの

爆音が。

 

止んだ。

 

いや。

 

完全に。

 

止んだわけではない。

 

遠くでは。

 

まだ。

 

何かが燃えている。

 

何かが崩れている。

 

基地のどこかで。

 

警報が。

 

鳴り続けている。

 

だが。

 

地下深く。

 

作戦指令室。

 

そこだけは。

 

奇跡的に。

 

形を保っていた。

 

「……全員」

 

海将が。

 

ゆっくり。

 

身体を起こす。

 

耳鳴り。

 

頭痛。

 

視界が。

 

僅かに。

 

揺れている。

 

「無事か」

 

返事。

 

「負傷者数名!」

 

「意識あり!」

 

「致命傷なし!」

 

海将が。

 

息を吐く。

 

死者。

 

なし。

 

奇跡。

 

本当に。

 

それ以外の言葉が。

 

見つからない。

 

「……暁君たちは」

 

海将が。

 

すぐに。

 

四人を見る。

 

暁。

 

響。

 

雷。

 

電。

 

全員。

 

生きている。

 

その上に。

 

天龍。

 

龍田。

 

そして。

 

自分。

 

三人が。

 

重なるように。

 

覆いかぶさっていた。

 

「……だ、大丈夫?」

 

暁が。

 

恐る恐る。

 

顔を上げる。

 

「先生……?」

 

天龍が。

 

ゆっくり。

 

身体を起こす。

 

「大丈夫だ」

 

龍田も。

 

「みんな怪我してない?」

 

「うん……」

 

「大丈夫」

 

「平気よ」

 

「なのです……」

 

海将は。

 

少しだけ。

 

目を閉じた。

 

そして。

 

四人へ。

 

頭を下げた。

 

「すまない」

 

「え?」

 

暁が。

 

首を傾げる。

 

「咄嗟に」

 

「上から覆いかぶさってしまった」

 

「怖がらせたな」

 

暁。

 

響。

 

雷。

 

電。

 

四人。

 

少し。

 

不思議そうに。

 

海将を見る。

 

雷が。

 

最初に。

 

言った。

 

「でも」

 

「守ってくれたんでしょ?」

 

海将が。

 

止まる。

 

「なら」

 

雷。

 

少し笑う。

 

「謝らなくていいじゃない」

 

電も。

 

「そうなのです」

 

海将は。

 

何も言えなくなった。

 

そして。

 

天龍が。

 

海将を見る。

 

ほんの少し。

 

見方が。

 

変わっていた。

 

「状況確認」

 

海将の声が。

 

変わる。

 

再び。

 

指揮官。

 

「基地周辺の映像を出せ」

 

「はっ!」

 

操作。

 

通信回線。

 

確認。

 

アンテナ。

 

応答あり。

 

「映像回線、生きています!」

 

「出せ」

 

巨大モニター。

 

一瞬。

 

ノイズ。

 

そして。

 

映像。

 

誰も。

 

言葉を。

 

失った。

 

海軍基地。

 

さっきまで。

 

暁たちが。

 

目を輝かせて。

 

見ていた場所。

 

そこが。

 

燃えていた。

 

建物。

 

炎上。

 

格納庫。

 

崩壊。

 

滑走路。

 

巨大な穴。

 

車両。

 

横転。

 

係留艦。

 

黒煙。

 

基地全体が。

 

戦場に。

 

変わっていた。

 

「…………」

 

誰も。

 

声を出せない。

 

そして。

 

映像が。

 

切り替わる。

 

地上。

 

倒れた人。

 

走る救護班。

 

炎。

 

黒煙。

 

その隅。

 

何か。

 

黒い。

 

人のような。

 

何か。

 

「見るな」

 

天龍が。

 

瞬時に。

 

動いた。

 

暁。

 

響。

 

二人の目を。

 

手で覆う。

 

龍田も。

 

雷。

 

電。

 

二人の視界を。

 

塞ぐ。

 

「先生?」

 

「見るな」

 

天龍の声。

 

低い。

 

「今は」

 

「見る必要ねぇ」

 

龍田も。

 

優しく。

 

「目を閉じててね」

 

四人は。

 

何が映っていたのか。

 

分からない。

 

分からないままで。

 

よかった。

 

「……くそ」

 

誰かが。

 

呟いた。

 

別の隊員が。

 

唇を噛む。

 

一人。

 

俯く。

 

海将は。

 

モニターを。

 

見続けていた。

 

表情。

 

冷静。

 

「敵航空機は」

 

低い声。

 

「その後」

 

「どうなった」

 

誰かが。

 

海将を見る。

 

こんな。

 

惨状。

 

それでも。

 

声は。

 

冷静。

 

「追跡!」

 

「急げ!」

 

担当士官が。

 

操作。

 

その時。

 

床。

 

ぽたり。

 

赤いものが。

 

落ちた。

 

天龍が。

 

気付く。

 

海将の右手。

 

拳。

 

強く。

 

握り締められている。

 

爪が。

 

掌へ。

 

食い込み。

 

血。

 

ぽたり。

 

また。

 

声だけが。

 

冷静だった。

 

「追跡結果!」

 

担当士官。

 

「敵航空物体」

 

「沿岸を離脱!」

 

「現在」

 

「先ほどの大型深海棲艦の海域へ向かっています!」

 

海将が。

 

モニターを見る。

 

衛星画像。

 

あの。

 

巨大な異形。

 

周囲。

 

イ級。

 

そして。

 

帰還してくる。

 

数十の飛行物体。

 

「……戻っている」

 

海将が。

 

呟く。

 

「おそらく」

 

「再攻撃のための」

 

「補給だ」

 

「補給……?」

 

幕僚が。

 

顔をしかめる。

 

「爆弾」

 

「燃料」

 

「弾薬」

 

海将が。

 

画面を。

 

睨む。

 

「空母と」

 

「考えるなら」

 

「自然だ」

 

空母。

 

その言葉が。

 

今度は。

 

誰にも。

 

荒唐無稽には。

 

聞こえなかった。

 

「識別名称を」

 

海将が言う。

 

「既存のイ級とは」

 

「明らかに別種」

 

一度。

 

考える。

 

「軽空母相当」

 

そして。

 

「暫定呼称」

 

「軽母ヌ級」

 

担当士官が。

 

繰り返す。

 

「軽母ヌ級」

 

こうして。

 

人類は。

 

二種類目の。

 

深海棲艦へ。

 

名前を。

 

与えた。

 

その時だった。

 

「……海将」

 

別の担当士官。

 

声が。

 

震えている。

 

「どうした」

 

「映像を」

 

「何だ」

 

「こちらを」

 

モニター。

 

切り替わる。

 

別海域。

 

海。

 

イ級。

 

そして。

 

海面が。

 

泡立っている。

 

海将の。

 

表情が。

 

消える。

 

「……まさか」

 

泡。

 

盛り上がる。

 

そして。

 

黒い。

 

巨大な。

 

異形。

 

一体。

 

「……二体目」

 

誰かが。

 

呟く。

 

「違います!」

 

担当士官が。

 

叫ぶ。

 

「別海域!」

 

画面。

 

また。

 

切り替わる。

 

泡。

 

三体目。

 

「こちらにも!」

 

四体。

 

五体。

 

「さらに反応!」

 

一つ。

 

また。

 

一つ。

 

大型モニターに。

 

新しい映像が。

 

次々と。

 

追加される。

 

太平洋。

 

南シナ海。

 

インド洋。

 

大西洋。

 

地中海。

 

世界。

 

「……嘘だろ」

 

天龍が。

 

低く。

 

呟く。

 

イ級。

 

単独では。

 

なかった。

 

なら。

 

ヌ級も。

 

当然。

 

単独ではない。

 

頭では。

 

分かっていた。

 

でも。

 

現実には。

 

起きてほしくなかった。

 

「出現数」

 

海将が聞く。

 

「現在確認中!」

 

「世界各地から」

 

「同時報告!」

 

「ヌ級相当個体!」

 

「複数!」

 

「各海域」

 

「十数体規模!」

 

「場所によっては」

 

「さらに多い可能性!」

 

海将の。

 

背筋が。

 

凍る。

 

イ級ほどではない。

 

だが。

 

空母級が。

 

大量。

 

世界中に。

 

「……世界中?」

 

誰かが。

 

呟く。

 

海将が。

 

ゆっくり。

 

顔を上げる。

 

「主要都市の映像」

 

担当士官が。

 

海将を見る。

 

「映せるだけでいい」

 

海将の声。

 

静か。

 

「世界中だ」

 

「出せ」

 

数秒。

 

画面。

 

分割。

 

一つ。

 

二つ。

 

四つ。

 

八つ。

 

そして。

 

世界。

 

東京。

 

黒煙。

 

上海。

 

炎上する。

 

高層建築。

 

ソウル。

 

爆発。

 

シドニー。

 

港湾地区。

 

炎。

 

ロンドン。

 

避難する。

 

人々。

 

ロサンゼルス。

 

空。

 

無数の。

 

黒い機影。

 

パリ。

 

警報。

 

ニューデリー。

 

爆煙。

 

一つの都市ではない。

 

一つの国でもない。

 

世界中。

 

空から。

 

攻撃されていた。

 

「…………」

 

暁たちは。

 

天龍と龍田の。

 

後ろ。

 

大人たちの。

 

顔を見ている。

 

映像は。

 

よく見えない。

 

けれど。

 

分かる。

 

何か。

 

とても。

 

悪いことが。

 

起きている。

 

「航空迎撃を実施している国があります!」

 

一つの画面。

 

拡大。

 

戦闘機。

 

数機。

 

高速で。

 

黒い飛行物体へ。

 

接近。

 

「ミサイル発射!」

 

白い軌跡。

 

命中。

 

爆発。

 

誰かが。

 

息を呑む。

 

だが。

 

煙。

 

その中から。

 

黒い飛行物体が。

 

飛び出してくる。

 

無傷。

 

「……やっぱり」

 

幕僚が。

 

青ざめる。

 

人類の兵器。

 

効かない。

 

親と。

 

同じ。

 

深海棲艦の。

 

艦載機にも。

 

効かない。

 

敵機が。

 

急旋回。

 

戦闘機の。

 

後方へ。

 

機銃。

 

閃光。

 

人類側。

 

一機。

 

火を噴く。

 

墜落。

 

別の一機。

 

回避。

 

敵機。

 

さらに。

 

接近。

 

そして。

 

体当たり。

 

「なっ――」

 

衝突。

 

戦闘機。

 

空中で。

 

砕ける。

 

敵機。

 

姿勢を。

 

崩しながらも。

 

飛行。

 

継続。

 

誰も。

 

声を出せない。

 

海将の。

 

拳から。

 

血。

 

また。

 

一滴。

 

「……死神だ」

 

小さな声。

 

海将が。

 

振り返る。

 

若い。

 

通信員。

 

モニターを。

 

見たまま。

 

青ざめている。

 

「空にいる限り」

 

声が。

 

震える。

 

「あれから」

 

「逃げられない」

 

誰も。

 

叱らなかった。

 

誰も。

 

否定できなかった。

 

別の隊員が。

 

呟く。

 

「海だけじゃ」

 

「なかったのか……」

 

そして。

 

「空まで」

 

「取られるのか……?」

 

部屋。

 

静まり返る。

 

五年前。

 

人類は。

 

海を失った。

 

それでも。

 

陸が。

 

あった。

 

空が。

 

あった。

 

海へ。

 

出なければ。

 

生きられた。

 

だが。

 

今。

 

その前提が。

 

壊れた。

 

空母級。

 

軽母ヌ級。

 

その艦載機は。

 

海岸線を。

 

越える。

 

山を。

 

越える。

 

都市へ。

 

届く。

 

海から。

 

離れていても。

 

安全ではない。

 

人類の戦闘機は。

 

止められない。

 

人類の兵器は。

 

傷つけられない。

 

そして。

 

ヌ級は。

 

世界中にいる。

 

海将は。

 

モニターを。

 

見た。

 

世界中。

 

燃えている。

 

同じ時間。

 

同じ敵。

 

同じ攻撃。

 

偶然。

 

ではない。

 

「……これは」

 

海将が。

 

低く。

 

言う。

 

「作戦だ」

 

幕僚が。

 

海将を見る。

 

「深海棲艦は」

 

「ただ」

 

「群れているんじゃない」

 

「目的を持って」

 

「動いている」

 

その言葉に。

 

指揮室の。

 

温度が。

 

さらに。

 

下がった。

 

誰が。

 

その目的を。

 

決めている?

 

誰が。

 

命令している?

 

ヌ級か。

 

それとも。

 

もっと。

 

別の。

 

何か。

 

答えは。

 

まだ。

 

どこにも。

 

なかった。

 

ただ。

 

一つだけ。

 

はっきりしていた。

 

人類は。

 

海を。

 

奪われた。

 

そして今。

 

深海から来た怪物たちは。

 

次に。

 

空を。

 

奪おうとしていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。