海を失った世界に、暁は来る   作:ぶるぶるメタボ

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第十九章 それでも立つ

誰も。

 

動かなかった。

 

巨大なモニターには。

 

今も。

 

世界各地の映像が。

 

映し出されている。

 

燃える街。

 

崩れた建物。

 

空を飛ぶ。

 

黒い機影。

 

逃げ惑う人々。

 

そして。

 

それを止めようとして。

 

次々と。

 

撃ち落とされていく。

 

人類の戦闘機。

 

「空まで……」

 

誰かが呟いた。

 

「取られるのか……?」

 

その言葉に。

 

答える者は。

 

いなかった。

 

答えなど。

 

必要なかった。

 

モニターに映る光景。

 

それこそが。

 

答えだった。

 

五年前。

 

人類は。

 

海を失った。

 

そして今。

 

空まで。

 

失おうとしている。

 

「…………」

 

海将は。

 

何も言わない。

 

握り締めた拳。

 

爪が食い込み。

 

血が。

 

ぽたり。

 

床へ。

 

落ちる。

 

どうする。

 

何ができる。

 

航空戦力。

 

通用せず。

 

対空兵器。

 

通用せず。

 

海上には。

 

イ級。

 

その奥には。

 

軽母ヌ級。

 

そして。

 

それらは。

 

世界中にいる。

 

六人。

 

たった。

 

六人。

 

どうしろというのだ。

 

「……ねえ」

 

小さな声。

 

海将が。

 

顔を上げる。

 

暁だった。

 

「どうした?」

 

暁は。

 

モニターを。

 

見ていた。

 

その顔には。

 

不安。

 

恐怖。

 

そして。

 

一つの。

 

疑問。

 

「暁たちの街は?」

 

海将の表情が。

 

止まる。

 

「……街?」

 

「うん」

 

暁が。

 

頷く。

 

「あの街」

 

「どうなったの?」

 

雷も。

 

前へ出る。

 

「そうよ!」

 

「あのおばあちゃんたちは?」

 

電も。

 

不安そうに。

 

「避難所のみんなは」

 

「無事なのです?」

 

響は。

 

何も言わない。

 

ただ。

 

海将を見る。

 

「…………」

 

海将は。

 

答えられなかった。

 

見せるべきではない。

 

最初に。

 

そう思った。

 

世界中の都市が。

 

この有様だ。

 

あの街だけ。

 

無事である保証など。

 

どこにもない。

 

いや。

 

むしろ。

 

あの街は。

 

深海棲艦にとって。

 

特別な場所になってしまった。

 

人類史上。

 

初めて。

 

深海棲艦が。

 

撃退された場所。

 

そこで。

 

六人の。

 

未知の戦力が。

 

確認された。

 

もし。

 

敵が。

 

それを認識していたなら。

 

「暁君」

 

海将が。

 

慎重に。

 

言葉を選ぶ。

 

「今は」

 

「見ない方が――」

 

そこで。

 

止まった。

 

暁の目。

 

怖がっている。

 

見たくない。

 

本当は。

 

そうなのだろう。

 

それでも。

 

逃げていない。

 

海将は。

 

目を閉じた。

 

この子たちは。

 

もう。

 

知らないままで。

 

守られることだけを。

 

望んでいる子供ではない。

 

いや。

 

子供だからこそ。

 

知りたいのだ。

 

自分たちが。

 

命懸けで守ったものが。

 

どうなったのか。

 

「……分かった」

 

海将が。

 

部下を見る。

 

「現地映像を」

 

「海将」

 

部下が。

 

一瞬。

 

躊躇する。

 

「出してくれ」

 

「……了解」

 

操作。

 

検索。

 

回線接続。

 

海将は。

 

その数秒。

 

祈っていた。

 

神でも。

 

仏でも。

 

先ほど聞いた。

 

妖精でも。

 

何でもいい。

 

せめて。

 

あの街だけは。

 

この子たちが。

 

命を懸けて。

 

守った街だけは。

 

どうか。

 

「映像」

 

「出ます」

 

モニター。

 

切り替わる。

 

そして。

 

海将の願いは。

 

届かなかった。

 

「…………」

 

炎。

 

画面を。

 

覆っていた。

 

建物。

 

崩壊。

 

道路。

 

寸断。

 

電柱。

 

倒壊。

 

車。

 

炎上。

 

黒煙が。

 

街全体から。

 

空へ。

 

昇っている。

 

先ほど見た。

 

世界の主要都市。

 

それ以上に。

 

徹底的に。

 

破壊されていた。

 

「……そんな」

 

雷の声。

 

「嘘……」

 

暁が。

 

一歩。

 

モニターへ。

 

近づく。

 

「だって……」

 

自分たちは。

 

守った。

 

傷だらけになった。

 

怖かった。

 

泣いた。

 

それでも。

 

戦った。

 

イ級を。

 

追い返した。

 

先生たちも。

 

来てくれた。

 

六人で。

 

守った。

 

なのに。

 

街は。

 

燃えている。

 

まるで。

 

お前たちが。

 

何をしようと。

 

無駄だ。

 

そう。

 

言われているようだった。

 

「……っ」

 

天龍の。

 

拳が。

 

震える。

 

龍田から。

 

笑顔が。

 

消えていた。

 

「こいつら……」

 

天龍の。

 

歯が。

 

軋む。

 

「ふざけやがって……」

 

その時。

 

映像が。

 

別角度へ。

 

切り替わった。

 

そして。

 

四人が。

 

同時に。

 

息を呑んだ。

 

「あ……」

 

そこに。

 

あった。

 

いや。

 

あったもの。

 

小さな。

 

園舎。

 

遊具。

 

門。

 

庭。

 

四人が。

 

毎日。

 

過ごした。

 

幼稚園。

 

その場所が。

 

燃えていた。

 

屋根。

 

崩落。

 

壁。

 

吹き飛んでいる。

 

園庭。

 

爆発で。

 

抉れている。

 

滑り台。

 

黒く。

 

焼け焦げていた。

 

「…………」

 

暁の目から。

 

涙が。

 

落ちた。

 

「ようちえん……」

 

電の声が。

 

震える。

 

「なくなっちゃったのです……」

 

雷が。

 

唇を。

 

噛む。

 

響は。

 

じっと。

 

見ている。

 

だが。

 

その頬。

 

涙が。

 

一筋。

 

流れていた。

 

天龍。

 

龍田。

 

二人は。

 

何も。

 

思い出せない。

 

それでも。

 

分かる。

 

ここだった。

 

自分たちは。

 

ここで。

 

この子たちと。

 

過ごしていた。

 

何も。

 

覚えていない。

 

なのに。

 

胸の奥。

 

何かが。

 

焼けるように。

 

痛い。

 

「……畜生」

 

天龍の顔。

 

怒り。

 

悲しみ。

 

「そこまで」

 

「やる必要が」

 

「どこにあった……!」

 

龍田も。

 

燃える園舎を。

 

じっと。

 

見つめていた。

 

目。

 

今まで。

 

誰にも見せなかったほど。

 

冷たい。

 

「……許せないわね」

 

小さな。

 

一言。

 

それだけだった。

 

しかし。

 

その場にいた者。

 

誰もが。

 

龍田の怒りを。

 

理解した。

 

そして。

 

映像。

 

再び。

 

切り替わる。

 

避難所。

 

地下施設。

 

薄暗い。

 

大勢の。

 

人々。

 

泣く子供。

 

寄り添う家族。

 

負傷者。

 

その中。

 

一人。

 

老婆。

 

両手を。

 

合わせている。

 

目を閉じ。

 

祈っている。

 

「あ」

 

暁が。

 

涙を。

 

拭う。

 

「おばあちゃん……」

 

天龍が。

 

暁を見る。

 

「知ってんのか?」

 

「うん」

 

暁が。

 

モニターを。

 

指差す。

 

「お礼」

 

「言ってくれたの」

 

「暁たちが」

 

「街を守ってくれて」

 

「ありがとうって」

 

老婆。

 

何かを。

 

祈っている。

 

声は。

 

聞こえない。

 

でも。

 

暁には。

 

何となく。

 

分かった。

 

お願い。

 

助けて。

 

そんな。

 

祈り。

 

暁が。

 

自分の涙を。

 

腕で。

 

拭いた。

 

一回。

 

二回。

 

乱暴に。

 

拭う。

 

「……暁?」

 

天龍が。

 

見る。

 

暁は。

 

泣くのを。

 

やめようとしていた。

 

止まらない。

 

それでも。

 

拭う。

 

「響」

 

「うん」

 

響も。

 

涙を。

 

拭く。

 

「雷」

 

「……分かってるわ」

 

雷も。

 

「電」

 

「はいなのです」

 

電も。

 

泣きながら。

 

頷いた。

 

そして。

 

四人が。

 

立ち上がった。

 

「……おい」

 

天龍の。

 

嫌な予感。

 

暁たちは。

 

出口へ。

 

歩き始める。

 

「待て」

 

四人。

 

止まる。

 

天龍が。

 

立ち上がる。

 

「どこ行くつもりだ」

 

暁が。

 

振り返る。

 

「海」

 

「駄目だ」

 

即答。

 

暁の目が。

 

見開く。

 

「絶対に駄目だ」

 

天龍が。

 

四人の前へ。

 

「お前ら」

 

「自分の身体」

 

「見てみろ」

 

服。

 

破れている。

 

傷。

 

いくつも。

 

疲労。

 

立っているだけでも。

 

辛い。

 

「もう十分だ」

 

天龍の声。

 

強い。

 

「お前らは」

 

「十分すぎるくらい」

 

「戦った」

 

「だから」

 

「もう行くな」

 

龍田も。

 

四人を見る。

 

「今度は」

 

「私たち大人に」

 

「任せてください」

 

その言葉に。

 

暁が。

 

天龍を見る。

 

「でも」

 

「でもじゃねぇ」

 

「先生」

 

「駄目だ」

 

「先生!」

 

暁の。

 

大きな声。

 

天龍が。

 

止まる。

 

暁。

 

震えていた。

 

足。

 

手。

 

声。

 

全部。

 

「怖いよ……」

 

小さな。

 

声。

 

「暁だって」

 

「怖い……」

 

「また」

 

「痛いの」

 

「嫌だよ……」

 

涙。

 

また。

 

溢れる。

 

「海に行くの」

 

「怖いよ……」

 

天龍は。

 

何も。

 

言えない。

 

「でも……!」

 

暁が。

 

モニター。

 

老婆。

 

そこを。

 

指差す。

 

「あのおばあちゃん」

 

「死んじゃうかもしれない」

 

「街のみんなも」

 

「助けてって」

 

「思ってるかもしれない」

 

雷が。

 

暁の横へ。

 

「私たち」

 

「この姿になった時」

 

「お願いしたの」

 

「先生を助けたいって」

 

「みんなも」

 

「守りたいって」

 

響も。

 

「私たちにしか」

 

「できないなら」

 

一度。

 

怖そうに。

 

息を呑む。

 

「行かなきゃ」

 

電。

 

涙を。

 

流しながら。

 

「怖いからって」

 

「ここにいたら」

 

「みんなが」

 

「死んじゃうのです……」

 

「そんなの」

 

「嫌なのです……!」

 

天龍。

 

龍田。

 

二人とも。

 

言葉を。

 

失った。

 

四歳。

 

五歳。

 

まだ。

 

幼稚園へ。

 

通っていた。

 

子供たち。

 

怖くないはずがない。

 

勇敢だから。

 

平気なのではない。

 

怖い。

 

逃げたい。

 

痛い。

 

それでも。

 

自分で。

 

考えて。

 

自分で。

 

決めて。

 

誰かを。

 

助けたいと。

 

立っている。

 

天龍の。

 

表情が。

 

歪んだ。

 

教師なら。

 

止めるべきだ。

 

絶対に。

 

行かせるべきではない。

 

なのに。

 

胸の奥に。

 

別の感情が。

 

生まれてしまった。

 

誇らしい。

 

こんな時に。

 

そんなことを。

 

思ってしまった。

 

「……ったく」

 

天龍が。

 

顔を。

 

伏せる。

 

「本当に」

 

「馬鹿なガキどもだよ」

 

暁が。

 

少し。

 

むっとする。

 

「馬鹿じゃないわよ……」

 

「馬鹿だよ」

 

天龍が。

 

暁の頭へ。

 

手を置いた。

 

「こんなボロボロで」

 

「また戦おうなんて」

 

「大馬鹿だ」

 

そして。

 

笑った。

 

「だから」

 

天龍が。

 

四人の横へ。

 

並ぶ。

 

「大馬鹿な園児だけで」

 

「行かせられるかよ」

 

暁の。

 

目が。

 

大きくなる。

 

「先生……?」

 

「俺も行く」

 

龍田も。

 

反対側へ。

 

「私もですよ~」

 

「龍田先生……」

 

龍田が。

 

四人を見る。

 

優しい。

 

笑顔。

 

でも。

 

その目には。

 

覚悟。

 

「先生というものは」

 

「園児だけを危ない場所へ行かせて」

 

「自分は安全な場所で待っている」

 

「そんな仕事ではないでしょう?」

 

天龍が。

 

笑う。

 

「そういうことだ」

 

六人。

 

出口へ。

 

歩き出す。

 

「待て!」

 

海将。

 

六人が。

 

止まる。

 

「どこへ行く」

 

「決まってんだろ」

 

天龍。

 

「ヌ級を」

 

「ぶっ倒しに行く」

 

「無茶だ!」

 

海将の。

 

声。

 

「敵は」

 

「イ級だけではない!」

 

「ヌ級!」

 

「艦載機!」

 

「世界各地に」

 

「同時出現している!」

 

六人。

 

黙って。

 

聞く。

 

「君たちは」

 

「既に消耗している!」

 

「六人で」

 

「どうする!」

 

「海からはイ級!」

 

「空からは敵航空機!」

 

「辿り着く前に」

 

「殺されるぞ!」

 

暁が。

 

びくりと。

 

震えた。

 

死。

 

その言葉。

 

怖い。

 

雷が。

 

暁の手を。

 

握る。

 

響が。

 

電の手を。

 

握る。

 

それでも。

 

誰も。

 

戻らない。

 

海将が。

 

天龍を見る。

 

「君たちまで」

 

「死ぬ必要はない!」

 

「ここに残れ!」

 

天龍が。

 

振り返る。

 

「じゃあ」

 

「ここにいれば」

 

「助かるのか?」

 

海将。

 

言葉に。

 

詰まる。

 

「ヌ級の艦載機は」

 

「ここまで来た」

 

天龍が。

 

崩れた指令室を。

 

見る。

 

「次も」

 

「地下が持つ保証は?」

 

「…………」

 

「ねぇだろ」

 

天龍は。

 

四人を見る。

 

「こいつらは」

 

「四歳と五歳だ」

 

「怖ぇって」

 

「泣いてる」

 

「それでも」

 

海将を見る。

 

「まだ」

 

「諦めてねぇ」

 

海将の。

 

目が。

 

揺れる。

 

「だったら」

 

天龍が。

 

拳を。

 

握る。

 

「俺が」

 

「先に諦められるかよ」

 

「ここで待ってたって」

 

「あいつらが来りゃ」

 

「死ぬ」

 

「だったら」

 

一歩。

 

前へ。

 

「最後まで」

 

「足掻いてやる」

 

「足掻いて」

 

また。

 

一歩。

 

「足掻いて」

 

もう一歩。

 

「足掻き抜いてやる」

 

指令室。

 

誰も。

 

言葉を。

 

挟めない。

 

「人間ってのは」

 

「そういうもんだろ」

 

天龍が。

 

笑う。

 

「奇跡ってのはな」

 

「最後まで諦めず」

 

「覚悟決めた奴のところに」

 

「来るもんだろ」

 

龍田が。

 

隣で。

 

静かに。

 

笑った。

 

「少なくとも」

 

「諦めて」

 

「ただ待っている人のところには」

 

「来てくれないでしょうねぇ」

 

「…………」

 

海将は。

 

六人を見る。

 

四人。

 

震えている。

 

天龍。

 

龍田。

 

二人も。

 

勝てるなどとは。

 

思っていない。

 

それでも。

 

行く。

 

何故。

 

誰かを。

 

守りたいから。

 

その瞬間。

 

海将の。

 

脳裏。

 

少し前に。

 

自分が考えたことが。

 

蘇った。

 

――その代償を払えば。

 

――自分も。

 

――深海棲艦を。

 

――倒せるのではないか。

 

「…………」

 

海将は。

 

ゆっくり。

 

目を閉じた。

 

恥ずかしかった。

 

自分は。

 

力を。

 

見ていた。

 

深海棲艦を。

 

倒せる力。

 

人類が。

 

欲し続けた。

 

力。

 

だが。

 

違った。

 

この六人は。

 

力が欲しくて。

 

契約したのではない。

 

暁たちは。

 

先生を。

 

助けたかった。

 

天龍と龍田は。

 

四人を。

 

助けたかった。

 

力など。

 

結果に。

 

過ぎない。

 

彼女たちが。

 

選んだもの。

 

それは。

 

自分自身より。

 

誰かを。

 

大切にすること。

 

そのために。

 

自分の。

 

存在すら。

 

差し出した。

 

なのに。

 

自分は。

 

その結果だけを見て。

 

欲しいと。

 

思った。

 

「……私は」

 

海将が。

 

呟く。

 

六人が。

 

振り返る。

 

「海将?」

 

「私は」

 

海将が。

 

顔を上げる。

 

「随分と」

 

「浅はかだったらしい」

 

天龍が。

 

眉を寄せる。

 

「何の話だ?」

 

「いや」

 

海将が。

 

小さく。

 

首を振る。

 

「こちらの話だ」

 

そして。

 

六人を。

 

見る。

 

その目。

 

さっきまでとは。

 

違う。

 

「天龍さん」

 

「何だ?」

 

「先ほど」

 

「奇跡と言ったな」

 

「ああ」

 

「最後まで」

 

「諦めなければ」

 

「奇跡が訪れると」

 

天龍が。

 

少し。

 

照れ臭そうに。

 

「まあな」

 

海将が。

 

ほんの僅かに。

 

笑った。

 

「なら」

 

「私も」

 

「足掻いてみよう」

 

天龍の。

 

表情が。

 

変わる。

 

「……何?」

 

海将は。

 

モニターを見る。

 

世界。

 

炎。

 

ヌ級。

 

艦載機。

 

イ級。

 

そして。

 

目の前。

 

六人。

 

六人。

 

少なすぎる。

 

だが。

 

もし。

 

六人で。

 

なければ。

 

もし。

 

「……一つ」

 

海将が。

 

言った。

 

「ある」

 

幕僚たちが。

 

海将を見る。

 

「何がです?」

 

「この状況を」

 

「覆せる」

 

一度。

 

言葉を。

 

止める。

 

「可能性が」

 

指令室。

 

空気が。

 

変わる。

 

天龍が。

 

海将へ。

 

近づく。

 

「作戦が」

 

「あるのか?」

 

「いや」

 

即答。

 

「作戦などと」

 

「呼べるものではない」

 

「成功率は?」

 

龍田が聞く。

 

「分からない」

 

「再現性は?」

 

「ない」

 

「根拠は?」

 

「ほぼ」

 

「ない」

 

「おい」

 

天龍が。

 

顔をしかめる。

 

「それのどこが」

 

「起死回生なんだよ」

 

「だから」

 

海将が。

 

六人を見る。

 

「作戦ではない」

 

「賭けだ」

 

そして。

 

少し。

 

考え。

 

「いや」

 

自嘲するように。

 

「賭けですらないな」

 

「願掛けに近い」

 

暁が。

 

首を傾げる。

 

「お願いするの?」

 

その言葉。

 

海将が。

 

暁を見る。

 

「……そうだ」

 

そして。

 

気付く。

 

作戦。

 

ではない。

 

命令。

 

でもない。

 

自分には。

 

命令する権利など。

 

ない。

 

この選択だけは。

 

誰にも。

 

強制してはならない。

 

だから。

 

「お願いだ」

 

海将が。

 

四人を見る。

 

暁。

 

響。

 

雷。

 

電。

 

「君たちに」

 

一度。

 

深く。

 

息を吸う。

 

「お願いしたいことがある」

 

天龍の。

 

表情が。

 

変わる。

 

龍田も。

 

海将を見る。

 

「この国の」

 

「いや」

 

海将が。

 

世界地図へ。

 

目を向ける。

 

炎上する。

 

世界。

 

「世界中の」

 

「人間に」

 

「君たちのことを」

 

「伝えたい」

 

暁が。

 

目を丸くする。

 

「暁たちの?」

 

「ああ」

 

「君たちが」

 

「誰だったのか」

 

「何が起きたのか」

 

「どうやって」

 

「その力を得たのか」

 

そして。

 

海将の声が。

 

重くなる。

 

「何を」

 

「失ったのか」

 

六人。

 

表情が。

 

変わる。

 

「全部だ」

 

海将は。

 

言った。

 

「世界中へ」

 

「全部」

 

「伝える」

 

天龍が。

 

息を呑む。

 

「まさか」

 

海将は。

 

頷かない。

 

否定もしない。

 

ただ。

 

四人へ。

 

頭を。

 

下げた。

 

「そのために」

 

「君たち四人の」

 

「力を」

 

違う。

 

海将は。

 

言い直す。

 

「協力を」

 

また。

 

違う。

 

海将は。

 

首を振った。

 

そして。

 

深く。

 

頭を下げる。

 

「お願いしたい」

 

四人は。

 

驚いて。

 

海将を見る。

 

「お願い?」

 

「ああ」

 

海将が。

 

顔を上げる。

 

その目には。

 

覚悟が。

 

あった。

 

「世界中の人間に」

 

「妖精へ」

 

「願ってもらう」

 

「…………」

 

六人。

 

誰も。

 

言葉を。

 

発さなかった。

 

数秒。

 

天龍が。

 

ようやく。

 

口を開いた。

 

「……は?」

 

炎上する世界を前に。

 

人類は。

 

とうとう。

 

作戦ですらないものへ。

 

希望を。

 

託そうとしていた。

 

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