海を失った世界に、暁は来る   作:ぶるぶるメタボ

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第二十章 世界への願い

地下は。

 

暗かった。

 

世界中で。

 

人々が。

 

地下へ。

 

逃げ込んでいた。

 

地下鉄。

 

防空壕。

 

地下駐車場。

 

軍事施設。

 

政府庁舎の地下。

 

そして。

 

民間の。

 

避難シェルター。

 

地上では。

 

空襲。

 

炎。

 

爆発。

 

黒煙。

 

空。

 

無数の。

 

黒い機影。

 

海を奪った怪物たちが。

 

今度は。

 

空から。

 

人類を。

 

殺しに来ている。

 

「お願い……」

 

ある地下シェルター。

 

一人の女性が。

 

両手を。

 

握り締めている。

 

「お願いだから……」

 

その横。

 

泣き疲れた。

 

子供。

 

「死にたくない……」

 

「まだ……」

 

別の場所。

 

負傷した男。

 

腹部。

 

包帯。

 

その隣。

 

必死に。

 

止血する。

 

看護師。

 

「圧迫を続けて!」

 

「離さないで!」

 

床。

 

血。

 

別の国。

 

地下駅。

 

人々。

 

ぎゅうぎゅうに。

 

押し込められている。

 

警報。

 

泣き声。

 

祈り。

 

「神様……」

 

「助けて……」

 

「誰でもいい……」

 

「お願いだから……」

 

人類は。

 

五年前。

 

海を失った。

 

それでも。

 

陸に。

 

逃げることは。

 

できた。

 

だが。

 

今。

 

空も。

 

安全ではない。

 

逃げ場が。

 

なくなりつつあった。

 

その時。

 

世界中の。

 

避難施設で。

 

備え付けの。

 

大型テレビ。

 

モニター。

 

緊急放送用端末。

 

それらが。

 

一斉に。

 

切り替わった。

 

ノイズ。

 

そして。

 

一人の。

 

日本人。

 

軍服。

 

制帽。

 

疲れ切った顔。

 

それでも。

 

真っ直ぐ。

 

カメラを。

 

見ている。

 

世界各国では。

 

同時通訳。

 

字幕。

 

翻訳音声。

 

そして。

 

男が。

 

口を開いた。

 

『突然の放送を』

 

『お許しいただきたい』

 

世界中の人々が。

 

画面を見る。

 

『私は』

 

『日本国』

 

『海上自衛隊』

 

男は。

 

自らの氏名と。

 

階級を。

 

名乗った。

 

『海将です』

 

ある国では。

 

意味が。

 

すぐには。

 

分からなかった。

 

しかし。

 

軍人。

 

高級将校。

 

少なくとも。

 

普通の人間ではない。

 

それだけは。

 

伝わった。

 

『現在』

 

『我々人類は』

 

『極めて重大な危機にあります』

 

画面。

 

切り替わる。

 

軽母ヌ級。

 

その口から。

 

飛び立つ。

 

無数の。

 

艦載機。

 

都市。

 

爆撃。

 

撃墜される。

 

人類の戦闘機。

 

人々が。

 

息を呑む。

 

『五年前』

 

海将の声。

 

『我々は』

 

『海を失いました』

 

『そして今』

 

一拍。

 

『空も』

 

『奪われようとしています』

 

地下シェルター。

 

誰も。

 

声を出さない。

 

『このままでは』

 

『海だけではありません』

 

『空も』

 

『都市も』

 

『我々の生活も』

 

『すべて』

 

『深海棲艦に』

 

『奪われます』

 

絶望。

 

それは。

 

既に。

 

誰もが。

 

理解していた。

 

そして。

 

海将が。

 

言った。

 

『ですが』

 

人々が。

 

顔を上げる。

 

『この状況を』

 

『覆せるかもしれない』

 

『可能性が』

 

『一つだけあります』

 

ざわ。

 

世界中。

 

同じ。

 

ざわめき。

 

『その前に』

 

『皆さんへ』

 

『紹介したい人たちがいます』

 

海将が。

 

画面の外へ。

 

視線を向ける。

 

そして。

 

暁。

 

響。

 

雷。

 

電。

 

四人が。

 

映った。

 

世界中の人々が。

 

目を。

 

見開く。

 

あの四人。

 

人類史上。

 

初めて。

 

深海棲艦を。

 

撃沈した。

 

少女たち。

 

映像で。

 

誰もが。

 

見た。

 

傷だらけで。

 

泣きながら。

 

それでも。

 

戦った。

 

暁が。

 

緊張した顔で。

 

カメラを見る。

 

「……こんにちは」

 

世界。

 

静か。

 

「暁よ」

 

少しだけ。

 

胸を張る。

 

「一人前のレディーなの」

 

雷が。

 

その横から。

 

「雷よ!」

 

「響」

 

「電なのです」

 

四人。

 

並ぶ。

 

その姿。

 

見た目だけなら。

 

十代前半。

 

だが。

 

何か。

 

幼い。

 

海将が。

 

隣で。

 

見守っている。

 

『この四人は』

 

『今日』

 

『我々に』

 

『初めて勝利をもたらした人たちです』

 

『そして』

 

海将。

 

言葉を。

 

選ぶ。

 

『彼女たちには』

 

『世界へ』

 

『伝えてもらわなければならない』

 

『ことがあります』

 

暁が。

 

天龍を。

 

見る。

 

画面の外。

 

天龍が。

 

小さく。

 

頷く。

 

龍田も。

 

微笑む。

 

暁が。

 

再び。

 

カメラを見る。

 

「暁たちはね」

 

一度。

 

言葉を。

 

止める。

 

「前は」

 

「この姿じゃなかったの」

 

世界中。

 

何人かが。

 

首を傾げる。

 

「幼稚園に」

 

「行ってたの」

 

ざわめき。

 

あるシェルター。

 

母親が。

 

自分の子供を。

 

抱き寄せる。

 

暁。

 

続ける。

 

「四人で」

 

「先生と」

 

「一緒だったの」

 

雷が。

 

「でも」

 

「深海棲艦が」

 

「街を攻撃して」

 

「先生たちが」

 

「怪我したの」

 

響。

 

静かに。

 

「死んじゃうかもしれなかった」

 

電。

 

目を伏せる。

 

「だから」

 

「助けてほしいって」

 

「思ったのです」

 

そこで。

 

暁が。

 

少し。

 

困った顔。

 

「そしたら」

 

「妖精さんが」

 

世界中。

 

一瞬。

 

止まった。

 

妖精。

 

ある軍人。

 

目を。

 

見開く。

 

ある科学者。

 

眉を。

 

しかめる。

 

ある父親。

 

「……妖精?」

 

小さく。

 

呟く。

 

暁は。

 

気にせず。

 

続ける。

 

「先生を」

 

「助ける方法があるって」

 

「それから」

 

「街のみんなを」

 

「守れるようになるって」

 

雷。

 

「だから」

 

「お願いしたの!」

 

「先生を」

 

「助けてって!」

 

響。

 

「それが」

 

「契約だった」

 

世界。

 

静か。

 

海将。

 

暁たちを。

 

見る。

 

ここから。

 

が。

 

本当の。

 

問題。

 

暁が。

 

少しだけ。

 

不安そうに。

 

「でもね」

 

「代わりに」

 

「なくなるものが」

 

「あるの」

 

あるシェルター。

 

誰かが。

 

息を。

 

呑む。

 

響が。

 

言う。

 

「お父さんも」

 

「お母さんも」

 

「先生も」

 

「私たちのことを」

 

「忘れる」

 

世界中。

 

空気が。

 

変わる。

 

「……何?」

 

誰か。

 

電。

 

続ける。

 

「写真も」

 

「記録も」

 

「今まで」

 

「電たちが」

 

「そこにいたことも」

 

「なくなるのです」

 

雷。

 

少しだけ。

 

寂しそうに。

 

「誰も」

 

「私たちのこと」

 

「覚えてないの」

 

暁が。

 

最後に。

 

言った。

 

「前の暁たちは」

 

「世界から」

 

「いなくなっちゃうの」

 

沈黙。

 

世界。

 

完全な。

 

沈黙。

 

嘘。

 

そう。

 

思いたい。

 

嘘で。

 

あってほしい。

 

そんな。

 

力が。

 

あるはず。

 

ない。

 

そんな。

 

代償。

 

あるはずが。

 

ない。

 

しかし。

 

画面。

 

海将へ。

 

戻る。

 

『今』

 

海将が。

 

言った。

 

『この四人が』

 

『話したことは』

 

一度。

 

目を閉じる。

 

『全て』

 

『事実です』

 

世界中。

 

ざわめき。

 

『私自身』

 

『最初は』

 

『信じられませんでした』

 

『妖精』

 

『契約』

 

『存在の消失』

 

『どれも』

 

『到底』

 

『現実とは思えない』

 

『ですが』

 

海将が。

 

少し。

 

画面の外を。

 

見る。

 

そこには。

 

天龍。

 

龍田。

 

二人。

 

暁たち。

 

その肩へ。

 

手を置いている。

 

『彼女たちを』

 

『知っていたはずの人間は』

 

『彼女たちを』

 

『覚えていません』

 

『それでも』

 

『理由もなく』

 

『彼女たちを見て』

 

『涙を流しました』

 

『そして』

 

『今日』

 

『私たちは』

 

『その代償が』

 

『本当に存在するものだと』

 

『確認しました』

 

世界中。

 

誰も。

 

簡単には。

 

飲み込めない。

 

海将が。

 

カメラを。

 

真っ直ぐ。

 

見る。

 

『そして』

 

『ここからが』

 

『私から』

 

『皆さんへの』

 

『お願いです』

 

世界。

 

息を。

 

止める。

 

『彼女たちは』

 

『深海棲艦を』

 

『傷つけることができます』

 

『我々には』

 

『できません』

 

『ミサイルも』

 

『魚雷も』

 

『航空攻撃も』

 

『通用しなかった』

 

『ですが』

 

『彼女たちの攻撃は』

 

『通じました』

 

『そして』

 

『その力は』

 

『人類が作ったものではない』

 

海将。

 

一拍。

 

『妖精と呼ばれる存在との』

 

『契約によって』

 

『与えられたものです』

 

世界中。

 

人々が。

 

互いを見る。

 

ある兵士。

 

家族写真。

 

見る。

 

ある女性。

 

恋人からもらった。

 

指輪を。

 

握る。

 

ある父親。

 

娘。

 

抱き締める。

 

海将。

 

続ける。

 

『私は』

 

『皆さんに』

 

『契約しろとは』

 

『言いません』

 

ざわめきが。

 

止まる。

 

『家族を』

 

『捨てろとも』

 

『名前を』

 

『捨てろとも』

 

『言いません』

 

『怖いなら』

 

一度。

 

言葉を。

 

区切る。

 

『願わなくていい』

 

画面の向こう。

 

何人もの。

 

人間が。

 

顔を上げる。

 

『これは』

 

『命令ではありません』

 

『国家からの』

 

『徴兵でもない』

 

『誰かが』

 

『あなた方へ』

 

『強制していい選択でもない』

 

『この選択は』

 

『あなた自身のものです』

 

海将が。

 

深く。

 

息を。

 

吸う。

 

『ですが』

 

『それでも』

 

『自分が』

 

『世界から』

 

『失われることを』

 

『理解した上で』

 

『なお』

 

『守りたいものが』

 

『あるという人が』

 

『もし』

 

『いるのなら』

 

世界。

 

誰も。

 

瞬きを。

 

忘れる。

 

『妖精へ』

 

『願ってほしい』

 

静寂。

 

『どう願えばいいのか』

 

『我々にも』

 

『分かりません』

 

『呼べば』

 

『来るのか』

 

『誰の前に』

 

『現れるのか』

 

『何も』

 

『分かりません』

 

『だから』

 

海将が。

 

小さく。

 

自嘲する。

 

『これは』

 

『作戦ではありません』

 

『ただの』

 

『願いです』

 

その時。

 

海将が。

 

一度。

 

視線を。

 

落とした。

 

そして。

 

顔を。

 

上げた。

 

『そして』

 

『一つだけ』

 

『私自身について』

 

『伝えておきます』

 

部屋。

 

海将の。

 

後ろ。

 

ざわ。

 

天龍が。

 

表情を。

 

変える。

 

海将。

 

続ける。

 

『私は』

 

『この放送が』

 

『終わった後』

 

『自分自身でも』

 

『妖精へ』

 

『願うつもりです』

 

「海将!」

 

画面の外。

 

声。

 

「おやめください!」

 

「海将まで!」

 

「指揮官が!」

 

複数。

 

部下。

 

海将は。

 

振り返らない。

 

しかし。

 

「止めるな」

 

天龍。

 

世界中の。

 

放送へ。

 

その声が。

 

入った。

 

画面。

 

少し。

 

天龍。

 

映る。

 

「こいつは」

 

「自分で決めたんだろ」

 

部下。

 

「ですが!」

 

「俺たちが」

 

「子供たちの覚悟を」

 

「勝手に取り上げちゃ」

 

「いけねぇのと」

 

「同じだ」

 

龍田も。

 

隣。

 

「代償を」

 

「全部知った上で」

 

「決めたことなら」

 

静かな。

 

声。

 

「その人の覚悟を」

 

「他人が」

 

「奪ってはいけませんよ」

 

部下たち。

 

言葉を。

 

失う。

 

海将が。

 

ほんの少し。

 

目を閉じる。

 

そして。

 

もう一度。

 

カメラ。

 

見る。

 

『ただし』

 

『誤解しないでください』

 

『私が』

 

『願うからといって』

 

『あなた方に』

 

『同じ選択を』

 

『求めるものではありません』

 

『私には』

 

『あなたの人生を』

 

『差し出せと』

 

『命令する権利などない』

 

『私が』

 

『決めるのは』

 

『私自身のことだけです』

 

世界中。

 

画面。

 

静か。

 

『だから』

 

海将が。

 

最後に。

 

言った。

 

『どうか』

 

『一人ひとり』

 

『自分で』

 

『考えてください』

 

『何を』

 

『守りたいのか』

 

『そのために』

 

『何を』

 

『失えるのか』

 

『そして』

 

『その代償を』

 

『本当に』

 

『受け入れられるのか』

 

海将。

 

深く。

 

頭を。

 

下げる。

 

『どうか』

 

『お願いします』

 

そして。

 

画面。

 

暗転。

 

放送。

 

終了。

 

世界中。

 

静かだった。

 

誰も。

 

すぐには。

 

動かなかった。

 

当然だった。

 

失う。

 

家族。

 

友人。

 

名前。

 

人生。

 

存在。

 

それを。

 

一瞬で。

 

決められるはずが。

 

ない。

 

あるシェルター。

 

一人の男。

 

家族写真。

 

見る。

 

妻。

 

娘。

 

「…………」

 

写真を。

 

胸へ。

 

押し当てる。

 

別の国。

 

女性兵士。

 

首から。

 

小さな。

 

ペンダント。

 

中。

 

両親。

 

握る。

 

老人。

 

孫。

 

抱き締める。

 

若者。

 

恋人の。

 

指輪。

 

見る。

 

誰も。

 

答えを。

 

出せない。

 

まだ。

 

そして。

 

ある場所。

 

一人の人間が。

 

ゆっくり。

 

目を。

 

閉じた。

 

地上。

 

遠く。

 

爆発。

 

天井から。

 

埃。

 

落ちる。

 

それでも。

 

静かに。

 

両手を。

 

握る。

 

そして。

 

誰にも。

 

聞こえないほど。

 

小さな声で。

 

「……もし」

 

一度。

 

息を。

 

吸う。

 

「本当に」

 

「いるなら」

 

その願いは。

 

まだ。

 

誰にも。

 

届いたとは。

 

分からなかった。

 

けれど。

 

その瞬間。

 

世界のどこかで。

 

確かに。

 

一人の人間が。

 

覚悟を。

 

決めた。

 

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