海を失った世界に、暁は来る   作:ぶるぶるメタボ

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第二十六章 知らないせかい

「……ていとく?」

 

暁の。

 

震える声。

 

「だれ……?」

 

その一言で。

 

女の。

 

表情が。

 

変わった。

 

ほんの僅か。

 

だが。

 

確かに。

 

余裕が。

 

崩れた。

 

「…………」

 

白い髪。

 

角。

 

青白い肌。

 

つい先ほどまで。

 

長門も。

 

翔鶴も。

 

天龍も。

 

龍田も。

 

まるで。

 

相手にならなかった。

 

怪物。

 

その怪物が。

 

暁の言葉を聞いて。

 

止まっている。

 

「……何?」

 

声。

 

低い。

 

今までの。

 

片言。

 

その奥。

 

何か。

 

違うものが。

 

混じった。

 

「提督ヲ」

 

一歩。

 

近づく。

 

「知ラナイ?」

 

暁。

 

魔獣のような艤装に。

 

身体を掴まれたまま。

 

涙。

 

目。

 

こくり。

 

頷く。

 

「……知らない」

 

響も。

 

「私も」

 

雷。

 

「そんな人、知らないわよ……!」

 

電。

 

「電も知らないのです……」

 

「…………」

 

女。

 

四人を。

 

順番に。

 

見る。

 

嘘。

 

そう。

 

判断したかった。

 

なのに。

 

四人の顔。

 

怯えている。

 

泣いている。

 

だが。

 

何も。

 

隠していない。

 

「……フザケルナ」

 

小さな。

 

声。

 

暁。

 

びくり。

 

女。

 

魔獣型艤装へ。

 

何か。

 

指示。

 

四人を。

 

掴んでいた。

 

異形の腕。

 

少し。

 

下がる。

 

そして。

 

女自身が。

 

暁へ。

 

歩く。

 

「……え?」

 

暁。

 

次の瞬間。

 

襟元。

 

掴まれる。

 

「きゃっ!」

 

身体。

 

少しだけ。

 

持ち上がる。

 

ただし。

 

強くは。

 

ない。

 

怒りに。

 

任せているはずなのに。

 

首を。

 

締めるほど。

 

力を。

 

入れていない。

 

「負ケガ」

 

女。

 

暁の顔へ。

 

至近距離。

 

「確定シテイルノニ」

 

目。

 

怒り。

 

「マダ」

 

「抗ウツモリカ!」

 

暁。

 

息を。

 

呑む。

 

怖い。

 

ものすごく。

 

怖い。

 

顔。

 

怒っている。

 

今にも。

 

自分を。

 

殺しそう。

 

でも。

 

「…………?」

 

暁。

 

泣きながら。

 

女の顔を見る。

 

何か。

 

変。

 

怒っている。

 

それだけではない。

 

目の下。

 

疲れている。

 

表情。

 

ずっと。

 

何かを。

 

我慢してきたような。

 

そして。

 

その目。

 

怖がっている。

 

「……?」

 

暁には。

 

理由など。

 

分からない。

 

ただ。

 

一つだけ。

 

感じた。

 

このお姉さん。

 

怒っているのに。

 

今にも。

 

泣きそう。

 

「暁を離して!」

 

雷。

 

「やめて!」

 

響。

 

「お願いなのです!」

 

電。

 

三人。

 

魔獣型艤装に。

 

掴まれたまま。

 

必死。

 

女。

 

視線。

 

三人へ。

 

そして。

 

止まる。

 

「…………」

 

電。

 

「ひっ……」

 

見られた。

 

ただ。

 

それだけで。

 

身体。

 

縮こまる。

 

女。

 

電を。

 

じっと。

 

見る。

 

「……ソウ言エバ」

 

小さく。

 

まるで。

 

独り言。

 

「イ級カラノ報告デハ」

 

「艦娘ニナッタノハ」

 

「コノ四人ダッタナ……」

 

軍人たち。

 

反応。

 

「また」

 

「艦娘……」

 

女。

 

聞いていない。

 

電へ。

 

向き直る。

 

「ナラ」

 

「貴様ガ」

 

「最初ニ選バレタ」

 

一拍。

 

「初期艦娘ダナ」

 

電。

 

「…………?」

 

涙。

 

溜めたまま。

 

「しょき……」

 

「かんむす……?」

 

女。

 

止まる。

 

電。

 

怖がりながら。

 

「それは」

 

「何なのです……?」

 

「…………」

 

女の。

 

顔。

 

変わる。

 

あり得ない。

 

そんな質問。

 

されるはずがない。

 

そう。

 

言っている。

 

「……何?」

 

電。

 

さらに。

 

縮こまる。

 

女。

 

暁の襟元から。

 

手。

 

離す。

 

「わっ……」

 

暁。

 

海ではない。

 

指令室の床。

 

何とか。

 

立つ。

 

女。

 

一歩。

 

後ろ。

 

「……ソンナ」

 

もう一歩。

 

「アリエナイ……」

 

魔獣型艤装。

 

主人を見る。

 

四人を見る。

 

また。

 

主人。

 

どうすれば。

 

いいのか。

 

分からない。

 

そんなふうに。

 

おろおろ。

 

身体を。

 

揺らす。

 

その姿。

 

さっきまでの。

 

恐怖そのものとは。

 

あまりにも。

 

違う。

 

「……なんだ?」

 

一人の軍人。

 

小声。

 

女。

 

急に。

 

顔を上げる。

 

四人。

 

見る。

 

「今カラ」

 

声。

 

また。

 

鋭い。

 

「言ウ言葉ニ」

 

「正直ニ答エロ!」

 

四人。

 

びくっ。

 

「嘘ヲ言ッタラ」

 

女。

 

指令室。

 

全体を見る。

 

「コノ場ニイル」

 

「全員ヲ」

 

「皆殺シニスル!」

 

空気。

 

凍る。

 

天龍。

 

倒れたまま。

 

「……てめぇ」

 

龍田。

 

起き上がろうと。

 

だが。

 

身体。

 

動かない。

 

軍人たち。

 

銃。

 

握る。

 

しかし。

 

殺気。

 

まだ。

 

動けない。

 

暁。

 

響。

 

雷。

 

電。

 

四人。

 

涙。

 

恐怖。

 

それでも。

 

頷く。

 

「……わかった」

 

女。

 

一度。

 

息を。

 

吸う。

 

「鎮守府」

 

「……?」

 

暁。

 

「なにそれ?」

 

女。

 

眉。

 

動く。

 

「大本営」

 

響。

 

「知らない」

 

「…………」

 

「建造」

 

雷。

 

「おうちを作ること?」

 

「ソウイウ意味ジャナイ!」

 

女。

 

思わず。

 

声。

 

荒げる。

 

雷。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「…………」

 

女。

 

額。

 

押さえそうになって。

 

やめる。

 

「ドロップ艦」

 

四人。

 

「…………?」

 

「大型建造」

 

「知らない」

 

「近代化改修」

 

「かいしゅう……?」

 

「デイリークエスト」

 

「でいりー?」

 

「期間限定海域」

 

「知らない」

 

女。

 

顔。

 

少しずつ。

 

青ざめる。

 

「羅針盤」

 

暁。

 

「あ!」

 

女。

 

顔。

 

上がる。

 

「知ッテルノカ!」

 

「うん!」

 

暁。

 

少し。

 

安心したように。

 

「方角を見るやつでしょ?」

 

「…………」

 

女。

 

沈黙。

 

そして。

 

「ソウイウ意味ジャナイ……」

 

今度は。

 

怒鳴らない。

 

むしろ。

 

弱い。

 

「ケッコンカッコカリ」

 

四人。

 

「…………?」

 

雷。

 

「けっこん?」

 

電。

 

「かっこ……かり?」

 

響。

 

「知らない」

 

女。

 

一歩。

 

後ずさる。

 

「……艦これ」

 

沈黙。

 

四人。

 

顔を。

 

見合わせる。

 

「知らない」

 

女。

 

唇。

 

震える。

 

最後。

 

まるで。

 

これだけは。

 

知っていてくれ。

 

そう。

 

願うように。

 

「艦隊これくしょん」

 

四人。

 

誰も。

 

答えない。

 

女。

 

待つ。

 

暁。

 

恐る恐る。

 

「……それ」

 

「なに?」

 

時間。

 

止まる。

 

女。

 

動かない。

 

魔獣型艤装も。

 

動かない。

 

軍人。

 

天龍。

 

龍田。

 

全員。

 

女を見る。

 

そして。

 

口。

 

開く。

 

「……うそだろ」

 

誰も。

 

すぐには。

 

気づかなかった。

 

違う。

 

喋り方。

 

今までの。

 

片言ではない。

 

普通の。

 

流暢な。

 

日本語。

 

「……え?」

 

暁。

 

女。

 

もう。

 

聞いていない。

 

「うそだろ……」

 

よろ。

 

一歩。

 

「そんな……」

 

そして。

 

両膝。

 

床へ。

 

「おい」

 

天龍。

 

呆然。

 

「なんなんだよ……」

 

女。

 

頭。

 

抱える。

 

「ありえない……」

 

「提督がいない」

 

「初期艦も知らない」

 

「鎮守府も」

 

「建造も」

 

「何も……」

 

軍人たち。

 

困惑。

 

「……口調」

 

「変わったぞ」

 

「演技だったのか?」

 

女。

 

顔を。

 

上げない。

 

魔獣型艤装。

 

四人。

 

掴んでいた腕を。

 

そっと。

 

下ろす。

 

「わっ」

 

四人。

 

床へ。

 

魔獣。

 

女へ。

 

近づく。

 

頭らしき部分。

 

横。

 

傾ける。

 

「…………」

 

おろおろ。

 

している。

 

暁。

 

泣きながら。

 

それを見る。

 

怖い。

 

はず。

 

なのに。

 

少しだけ。

 

変な気持ち。

 

さっきまで。

 

自分たちを。

 

殺しそうだった。

 

怪物。

 

今。

 

困っている。

 

女。

 

しばらく。

 

動かない。

 

そして。

 

突然。

 

立つ。

 

「……決めた」

 

天龍。

 

警戒。

 

「何を」

 

女。

 

四人を見る。

 

もう。

 

殺気。

 

ない。

 

「何もかもが」

 

「おかしい」

 

「こいつらも」

 

「この世界も」

 

「想定と合わない」

 

軍人。

 

「想定……?」

 

女。

 

無視。

 

暁たちへ。

 

歩く。

 

「ひっ」

 

暁。

 

後ろ。

 

下がろうとする。

 

女。

 

しゃがむ。

 

次の瞬間。

 

四人。

 

まとめて。

 

抱き上げる。

 

「きゃあ!」

 

「何するのよ!」

 

「降ろして!」

 

「やめるのです!」

 

天龍。

 

「おい!」

 

女。

 

四人を。

 

落とさないよう。

 

抱える。

 

先ほどとは。

 

力の入れ方。

 

全く。

 

違う。

 

「暴れるな」

 

「落ちるぞ」

 

暁。

 

「どこに連れてくの!?」

 

女。

 

答える。

 

「本拠地」

 

指令室。

 

凍る。

 

「……何?」

 

龍田。

 

女。

 

四人。

 

見下ろす。

 

「こいつらは」

 

「この世界で」

 

「最初に現れた」

 

「艦娘なんだろ」

 

暁。

 

「かんむすって何なのよ!」

 

「それを」

 

女。

 

少し。

 

疲れた顔。

 

「こっちが」

 

「聞きたいんだよ……」

 

一瞬。

 

暁。

 

言葉。

 

なくなる。

 

女。

 

続ける。

 

「ここで」

 

「私一人が考えても」

 

「答えは出ない」

 

「だから」

 

四人。

 

少し。

 

抱え直す。

 

「お前たちを」

 

「連れて」

 

「一旦」

 

「本拠地に戻る」

 

「待て!」

 

天龍。

 

身体。

 

起こそうとする。

 

「そいつらを」

 

「連れてくな!」

 

龍田。

 

「その子たちを」

 

「返して……!」

 

軍人。

 

ついに。

 

身体。

 

動く。

 

「撃て!」

 

銃口。

 

女へ。

 

向く。

 

女。

 

振り返る。

 

だが。

 

怒らない。

 

ただ。

 

少し。

 

面倒そうに。

 

「悪いな」

 

天龍。

 

目。

 

見開く。

 

謝った。

 

あの。

 

怪物が。

 

「こいつらを」

 

「殺すつもりはない」

 

「確かめたいだけだ」

 

「信じられるか!」

 

「だろうな」

 

女。

 

即答。

 

「私でも」

 

「信じない」

 

魔獣型艤装。

 

女の。

 

後ろ。

 

寄る。

 

女。

 

四人を見る。

 

「少し」

 

「目を閉じてろ」

 

「え?」

 

その瞬間。

 

世界。

 

ノイズ。

 

ザザッ――。

 

暁の。

 

視界。

 

白と黒。

 

砂嵐。

 

響。

 

雷。

 

電。

 

同じ。

 

天龍。

 

腕。

 

伸ばす。

 

「暁!」

 

「響!」

 

「雷!」

 

「電!」

 

龍田。

 

「待って!」

 

軍人。

 

発砲。

 

する。

 

だが。

 

ザッ――。

 

次。

 

静寂。

 

銃弾。

 

壁。

 

当たる。

 

指令室。

 

女。

 

いない。

 

魔獣型艤装。

 

いない。

 

そして。

 

暁。

 

響。

 

雷。

 

電。

 

四人。

 

いない。

 

「…………」

 

誰も。

 

動かない。

 

天龍。

 

床。

 

爪。

 

立てる。

 

「……返せ」

 

声。

 

震える。

 

龍田。

 

顔。

 

青い。

 

「返して……」

 

返事。

 

ない。

 

巨大モニター。

 

世界各地。

 

まだ。

 

戦闘。

 

続いている。

 

なのに。

 

この部屋。

 

人類最初の。

 

四人。

 

消えた。

 

一方。

 

暁は。

 

目を。

 

開けた。

 

「…………え?」

 

知らない。

 

場所。

 

空。

 

暗い。

 

海。

 

黒い。

 

遠く。

 

巨大な。

 

影。

 

建造物。

 

なのか。

 

艦。

 

なのか。

 

島。

 

なのか。

 

分からない。

 

深海。

 

そのものが。

 

形を。

 

持ったような。

 

世界。

 

響。

 

雷。

 

電。

 

四人。

 

いる。

 

そして。

 

隣。

 

白い髪。

 

角の女。

 

魔獣型艤装。

 

暁。

 

声。

 

震える。

 

「……ここ」

 

「どこ?」

 

女。

 

少しだけ。

 

四人を見る。

 

そして。

 

遠く。

 

黒い海。

 

その先。

 

本拠地。

 

見る。

 

「私たちの」

 

一拍。

 

「帰る場所だ」

 

暁。

 

理解。

 

できない。

 

それは。

 

四人にとって。

 

初めて見る。

 

知らない世界。

 

だが。

 

女にとっても。

 

本当は。

 

同じだった。

 

自分が。

 

知っているはずの。

 

世界。

 

決められているはずの。

 

物語。

 

始まっているはずの。

 

ゲーム。

 

そのどれとも。

 

何一つ。

 

噛み合わない。

 

知らない世界。

 

その中心へ。

 

今。

 

敵と。

 

人類最初の四人が。

 

一緒に。

 

向かおうとしていた。

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