「……ていとく?」
暁の。
震える声。
「だれ……?」
その一言で。
女の。
表情が。
変わった。
ほんの僅か。
だが。
確かに。
余裕が。
崩れた。
「…………」
白い髪。
角。
青白い肌。
つい先ほどまで。
長門も。
翔鶴も。
天龍も。
龍田も。
まるで。
相手にならなかった。
怪物。
その怪物が。
暁の言葉を聞いて。
止まっている。
「……何?」
声。
低い。
今までの。
片言。
その奥。
何か。
違うものが。
混じった。
「提督ヲ」
一歩。
近づく。
「知ラナイ?」
暁。
魔獣のような艤装に。
身体を掴まれたまま。
涙。
目。
こくり。
頷く。
「……知らない」
響も。
「私も」
雷。
「そんな人、知らないわよ……!」
電。
「電も知らないのです……」
「…………」
女。
四人を。
順番に。
見る。
嘘。
そう。
判断したかった。
なのに。
四人の顔。
怯えている。
泣いている。
だが。
何も。
隠していない。
「……フザケルナ」
小さな。
声。
暁。
びくり。
女。
魔獣型艤装へ。
何か。
指示。
四人を。
掴んでいた。
異形の腕。
少し。
下がる。
そして。
女自身が。
暁へ。
歩く。
「……え?」
暁。
次の瞬間。
襟元。
掴まれる。
「きゃっ!」
身体。
少しだけ。
持ち上がる。
ただし。
強くは。
ない。
怒りに。
任せているはずなのに。
首を。
締めるほど。
力を。
入れていない。
「負ケガ」
女。
暁の顔へ。
至近距離。
「確定シテイルノニ」
目。
怒り。
「マダ」
「抗ウツモリカ!」
暁。
息を。
呑む。
怖い。
ものすごく。
怖い。
顔。
怒っている。
今にも。
自分を。
殺しそう。
でも。
「…………?」
暁。
泣きながら。
女の顔を見る。
何か。
変。
怒っている。
それだけではない。
目の下。
疲れている。
表情。
ずっと。
何かを。
我慢してきたような。
そして。
その目。
怖がっている。
「……?」
暁には。
理由など。
分からない。
ただ。
一つだけ。
感じた。
このお姉さん。
怒っているのに。
今にも。
泣きそう。
「暁を離して!」
雷。
「やめて!」
響。
「お願いなのです!」
電。
三人。
魔獣型艤装に。
掴まれたまま。
必死。
女。
視線。
三人へ。
そして。
止まる。
「…………」
電。
「ひっ……」
見られた。
ただ。
それだけで。
身体。
縮こまる。
女。
電を。
じっと。
見る。
「……ソウ言エバ」
小さく。
まるで。
独り言。
「イ級カラノ報告デハ」
「艦娘ニナッタノハ」
「コノ四人ダッタナ……」
軍人たち。
反応。
「また」
「艦娘……」
女。
聞いていない。
電へ。
向き直る。
「ナラ」
「貴様ガ」
「最初ニ選バレタ」
一拍。
「初期艦娘ダナ」
電。
「…………?」
涙。
溜めたまま。
「しょき……」
「かんむす……?」
女。
止まる。
電。
怖がりながら。
「それは」
「何なのです……?」
「…………」
女の。
顔。
変わる。
あり得ない。
そんな質問。
されるはずがない。
そう。
言っている。
「……何?」
電。
さらに。
縮こまる。
女。
暁の襟元から。
手。
離す。
「わっ……」
暁。
海ではない。
指令室の床。
何とか。
立つ。
女。
一歩。
後ろ。
「……ソンナ」
もう一歩。
「アリエナイ……」
魔獣型艤装。
主人を見る。
四人を見る。
また。
主人。
どうすれば。
いいのか。
分からない。
そんなふうに。
おろおろ。
身体を。
揺らす。
その姿。
さっきまでの。
恐怖そのものとは。
あまりにも。
違う。
「……なんだ?」
一人の軍人。
小声。
女。
急に。
顔を上げる。
四人。
見る。
「今カラ」
声。
また。
鋭い。
「言ウ言葉ニ」
「正直ニ答エロ!」
四人。
びくっ。
「嘘ヲ言ッタラ」
女。
指令室。
全体を見る。
「コノ場ニイル」
「全員ヲ」
「皆殺シニスル!」
空気。
凍る。
天龍。
倒れたまま。
「……てめぇ」
龍田。
起き上がろうと。
だが。
身体。
動かない。
軍人たち。
銃。
握る。
しかし。
殺気。
まだ。
動けない。
暁。
響。
雷。
電。
四人。
涙。
恐怖。
それでも。
頷く。
「……わかった」
女。
一度。
息を。
吸う。
「鎮守府」
「……?」
暁。
「なにそれ?」
女。
眉。
動く。
「大本営」
響。
「知らない」
「…………」
「建造」
雷。
「おうちを作ること?」
「ソウイウ意味ジャナイ!」
女。
思わず。
声。
荒げる。
雷。
「ご、ごめんなさい!」
「…………」
女。
額。
押さえそうになって。
やめる。
「ドロップ艦」
四人。
「…………?」
「大型建造」
「知らない」
「近代化改修」
「かいしゅう……?」
「デイリークエスト」
「でいりー?」
「期間限定海域」
「知らない」
女。
顔。
少しずつ。
青ざめる。
「羅針盤」
暁。
「あ!」
女。
顔。
上がる。
「知ッテルノカ!」
「うん!」
暁。
少し。
安心したように。
「方角を見るやつでしょ?」
「…………」
女。
沈黙。
そして。
「ソウイウ意味ジャナイ……」
今度は。
怒鳴らない。
むしろ。
弱い。
「ケッコンカッコカリ」
四人。
「…………?」
雷。
「けっこん?」
電。
「かっこ……かり?」
響。
「知らない」
女。
一歩。
後ずさる。
「……艦これ」
沈黙。
四人。
顔を。
見合わせる。
「知らない」
女。
唇。
震える。
最後。
まるで。
これだけは。
知っていてくれ。
そう。
願うように。
「艦隊これくしょん」
四人。
誰も。
答えない。
女。
待つ。
暁。
恐る恐る。
「……それ」
「なに?」
時間。
止まる。
女。
動かない。
魔獣型艤装も。
動かない。
軍人。
天龍。
龍田。
全員。
女を見る。
そして。
口。
開く。
「……うそだろ」
誰も。
すぐには。
気づかなかった。
違う。
喋り方。
今までの。
片言ではない。
普通の。
流暢な。
日本語。
「……え?」
暁。
女。
もう。
聞いていない。
「うそだろ……」
よろ。
一歩。
「そんな……」
そして。
両膝。
床へ。
「おい」
天龍。
呆然。
「なんなんだよ……」
女。
頭。
抱える。
「ありえない……」
「提督がいない」
「初期艦も知らない」
「鎮守府も」
「建造も」
「何も……」
軍人たち。
困惑。
「……口調」
「変わったぞ」
「演技だったのか?」
女。
顔を。
上げない。
魔獣型艤装。
四人。
掴んでいた腕を。
そっと。
下ろす。
「わっ」
四人。
床へ。
魔獣。
女へ。
近づく。
頭らしき部分。
横。
傾ける。
「…………」
おろおろ。
している。
暁。
泣きながら。
それを見る。
怖い。
はず。
なのに。
少しだけ。
変な気持ち。
さっきまで。
自分たちを。
殺しそうだった。
怪物。
今。
困っている。
女。
しばらく。
動かない。
そして。
突然。
立つ。
「……決めた」
天龍。
警戒。
「何を」
女。
四人を見る。
もう。
殺気。
ない。
「何もかもが」
「おかしい」
「こいつらも」
「この世界も」
「想定と合わない」
軍人。
「想定……?」
女。
無視。
暁たちへ。
歩く。
「ひっ」
暁。
後ろ。
下がろうとする。
女。
しゃがむ。
次の瞬間。
四人。
まとめて。
抱き上げる。
「きゃあ!」
「何するのよ!」
「降ろして!」
「やめるのです!」
天龍。
「おい!」
女。
四人を。
落とさないよう。
抱える。
先ほどとは。
力の入れ方。
全く。
違う。
「暴れるな」
「落ちるぞ」
暁。
「どこに連れてくの!?」
女。
答える。
「本拠地」
指令室。
凍る。
「……何?」
龍田。
女。
四人。
見下ろす。
「こいつらは」
「この世界で」
「最初に現れた」
「艦娘なんだろ」
暁。
「かんむすって何なのよ!」
「それを」
女。
少し。
疲れた顔。
「こっちが」
「聞きたいんだよ……」
一瞬。
暁。
言葉。
なくなる。
女。
続ける。
「ここで」
「私一人が考えても」
「答えは出ない」
「だから」
四人。
少し。
抱え直す。
「お前たちを」
「連れて」
「一旦」
「本拠地に戻る」
「待て!」
天龍。
身体。
起こそうとする。
「そいつらを」
「連れてくな!」
龍田。
「その子たちを」
「返して……!」
軍人。
ついに。
身体。
動く。
「撃て!」
銃口。
女へ。
向く。
女。
振り返る。
だが。
怒らない。
ただ。
少し。
面倒そうに。
「悪いな」
天龍。
目。
見開く。
謝った。
あの。
怪物が。
「こいつらを」
「殺すつもりはない」
「確かめたいだけだ」
「信じられるか!」
「だろうな」
女。
即答。
「私でも」
「信じない」
魔獣型艤装。
女の。
後ろ。
寄る。
女。
四人を見る。
「少し」
「目を閉じてろ」
「え?」
その瞬間。
世界。
ノイズ。
ザザッ――。
暁の。
視界。
白と黒。
砂嵐。
響。
雷。
電。
同じ。
天龍。
腕。
伸ばす。
「暁!」
「響!」
「雷!」
「電!」
龍田。
「待って!」
軍人。
発砲。
する。
だが。
ザッ――。
次。
静寂。
銃弾。
壁。
当たる。
指令室。
女。
いない。
魔獣型艤装。
いない。
そして。
暁。
響。
雷。
電。
四人。
いない。
「…………」
誰も。
動かない。
天龍。
床。
爪。
立てる。
「……返せ」
声。
震える。
龍田。
顔。
青い。
「返して……」
返事。
ない。
巨大モニター。
世界各地。
まだ。
戦闘。
続いている。
なのに。
この部屋。
人類最初の。
四人。
消えた。
一方。
暁は。
目を。
開けた。
「…………え?」
知らない。
場所。
空。
暗い。
海。
黒い。
遠く。
巨大な。
影。
建造物。
なのか。
艦。
なのか。
島。
なのか。
分からない。
深海。
そのものが。
形を。
持ったような。
世界。
響。
雷。
電。
四人。
いる。
そして。
隣。
白い髪。
角の女。
魔獣型艤装。
暁。
声。
震える。
「……ここ」
「どこ?」
女。
少しだけ。
四人を見る。
そして。
遠く。
黒い海。
その先。
本拠地。
見る。
「私たちの」
一拍。
「帰る場所だ」
暁。
理解。
できない。
それは。
四人にとって。
初めて見る。
知らない世界。
だが。
女にとっても。
本当は。
同じだった。
自分が。
知っているはずの。
世界。
決められているはずの。
物語。
始まっているはずの。
ゲーム。
そのどれとも。
何一つ。
噛み合わない。
知らない世界。
その中心へ。
今。
敵と。
人類最初の四人が。
一緒に。
向かおうとしていた。