暗い。
どこまでも。
暗い。
暁は。
戦艦棲姫の腕の中から。
周囲を見ていた。
上も。
下も。
全部。
海。
それなのに。
息が。
できる。
苦しくない。
身体も。
潰れていない。
「……ねえ」
暁。
小さく。
「降ろして」
戦艦棲姫。
歩いたまま。
「嫌ダ」
「なんでよ!」
雷。
「私たち」
「自分で歩けるわ!」
響も。
「その方が」
「楽じゃない?」
電。
「重くないのです?」
戦艦棲姫。
止まる。
四人を見る。
そして。
少しだけ。
口元。
歪める。
「降リタイナラ」
「降リロ」
暁。
「ほんと?」
「アア」
戦艦棲姫。
周囲。
指差す。
「ココガ」
「深海ノ底デ」
「水圧ガ」
「ドレダケアルカ」
「知ッテルナラナ」
「…………」
四人。
固まる。
雷。
恐る恐る。
「……降りたら」
戦艦棲姫。
淡々。
「潰レルゾ」
電。
「…………」
響。
「このままでいい」
暁。
「暁も」
雷。
「わ、私も!」
電。
「お願いしますなのです……」
戦艦棲姫。
小さく。
ため息。
「最初カラ」
「ソウシテロ」
再び。
歩く。
いや。
海中を。
歩いている。
足元。
海底。
黒い。
砂。
岩。
沈んだ。
船。
何年前のものか。
分からない。
残骸。
それら。
過ぎていく。
やがて。
前。
影。
「……?」
暁。
目を。
細める。
何か。
ある。
近づく。
そして。
四人。
同時。
目を。
丸くする。
「……おうち?」
深海。
その底。
そこに。
建物。
あまりにも。
不釣り合い。
地上に。
あるはずの。
建造物。
正門。
塀。
大きな。
庁舎。
木造と。
コンクリート。
混じったような。
古い。
軍港施設。
窓。
ある。
屋根。
ある。
通路。
街灯。
ある。
なのに。
その外。
全部。
深海。
「変なの」
雷。
「海の中なのに」
「普通の建物がある」
響。
戦艦棲姫。
「普通?」
暁。
「だって」
「お家みたいじゃない」
戦艦棲姫。
少し。
首。
傾げる。
「コレガ」
「普通ダ」
四人。
「…………」
戦艦棲姫。
建物を見る。
「深海鎮守府」
暁。
「ちんじゅふ?」
「私タチノ」
「本拠地ダ」
四人。
また。
顔を。
見合わせる。
鎮守府。
さっき。
戦艦棲姫に。
聞かれた。
知らない言葉。
「これが」
「ちんじゅふ……」
電。
戦艦棲姫。
一瞬。
電を見る。
そして。
また。
嫌な顔。
「……本当ニ」
「知ラナカッタノカ」
誰も。
答えない。
正門。
開く。
中。
さらに。
普通。
廊下。
部屋。
階段。
掲示板。
工廠。
倉庫。
食堂。
それら。
全部。
地上。
同じ。
ただ。
窓の外。
真っ暗な。
深海。
ときどき。
イ級。
ヌ級。
泳ぐ。
暁たち。
身体。
固くなる。
戦艦棲姫。
気づく。
「襲ワン」
暁。
「ほんと?」
「私ガ」
「連レテイル」
「今ハ」
「敵扱イサセン」
「今は?」
響。
戦艦棲姫。
「余計ナ所ヲ」
「拾ウナ」
暁。
少しだけ。
頬。
膨らませる。
だが。
戦艦棲姫。
そのまま。
歩く。
やがて。
一つの。
扉。
上。
文字。
『入渠ドック』
戦艦棲姫。
「先ニ」
「ソノ身体ヲ」
「何トカスル」
「え?」
「話ハ」
「ソレカラダ」
中。
広い。
複数の。
入渠槽。
人間から見れば。
巨大な。
風呂。
湯気。
水面。
暁。
目。
少し。
輝く。
「お風呂?」
雷。
「ほんとだ!」
電。
「暖かそうなのです」
響。
「……入りたい」
戦艦棲姫。
「ソノタメニ」
「連レテキタ」
四人を。
床へ。
下ろす。
「わっ」
久しぶり。
自分の。
足。
暁。
ふら。
戦艦棲姫。
腕。
伸ばす。
支える。
「無理スルナ」
「……ありがと」
戦艦棲姫。
一瞬。
止まる。
「…………」
そして。
何も。
言わない。
戦艦棲姫。
四人から。
傷んだ。
艤装。
破れた。
衣服。
治療の。
邪魔になるものを。
手早く。
外す。
その動き。
妙に。
慣れている。
「はい」
「入れ」
雷。
「急に普通に喋った!」
戦艦棲姫。
「……今ソコ」
「気ニスルノカ?」
響。
「ちょっと」
戦艦棲姫。
ため息。
「イイカラ」
「入レ」
四人。
入渠槽へ。
ちゃぷん。
「……あ」
暁。
「あったかい……」
雷。
「気持ちいい!」
電。
「生き返るのです……」
響。
肩まで。
沈む。
「……これは」
「いい」
四人。
ようやく。
少し。
力。
抜ける。
今日。
朝から。
ずっと。
戦っていた。
痛かった。
怖かった。
泣いた。
それでも。
休めなかった。
だから。
温かい。
湯。
それだけで。
四人。
目。
とろん。
戦艦棲姫。
その姿。
見る。
そして。
上。
表示盤。
見る。
「…………?」
何も。
出ない。
通常。
入渠。
開始。
損傷度。
修復資材。
入渠時間。
表示。
出る。
でも。
今。
空欄。
「……何ダ?」
操作。
反応。
なし。
もう一度。
なし。
「壊レタカ?」
別の。
端末。
確認。
正常。
隣。
試験。
正常。
戦艦棲姫。
四人を見る。
暁。
湯。
手で。
すくう。
雷。
ぷか。
浮く。
響。
目。
閉じる。
電。
「ふわぁ……」
戦艦棲姫。
眉。
寄る。
「……オイ」
暁。
「なに?」
「傷」
四人。
見る。
腕。
脚。
身体。
痣。
擦り傷。
包帯。
そのまま。
戦艦棲姫。
近づく。
「出ロ」
雷。
「もう?」
「出ロ」
四人。
しぶしぶ。
上がる。
戦艦棲姫。
大きな。
タオル。
四人。
包む。
水分。
拭く。
そして。
傷。
見る。
変化。
なし。
「…………」
暁。
「どうしたの?」
戦艦棲姫。
答えない。
頭。
思考。
入渠。
効かない。
なら。
こいつらは。
通常の。
艦娘ではない。
当然。
既に。
分かっていた。
だが。
どこが。
違う?
人間。
その可能性。
元が。
人間。
そこへ。
艦娘の。
力だけ。
無理矢理。
取り付けた。
「……?」
戦艦棲姫。
四人を見る。
見た目。
少女。
身体。
傷。
疲労。
人間。
近い。
なら。
あり得る?
だが。
すぐ。
否定。
無理だ。
人間の。
身体へ。
艦艇級の。
火力。
速度。
耐久。
艤装。
そんなものを。
そのまま。
押し込めば。
骨。
筋肉。
血管。
臓器。
神経。
全部。
耐えられない。
内側から。
壊れる。
なら。
身体そのものを。
作り替える。
強化する。
だが。
そこまで。
変えれば。
それは。
もう。
人間ではない。
艦娘とも。
違う。
もっと。
別。
例えば。
自分たちのような。
「……深海棲艦?」
小さく。
口から。
出た。
暁。
「え?」
戦艦棲姫。
首。
振る。
「違ウ」
即座。
否定。
四人。
見る。
深海棲艦。
ではない。
匂い。
違う。
力。
違う。
でも。
艦娘。
とも。
違う。
「……何ナンダ」
誰へ。
聞くでもなく。
呟く。
少し。
後。
食堂。
四人。
椅子。
座る。
目の前。
皿。
そして。
補給物資。
戦艦棲姫。
「食エ」
暁。
「…………」
雷。
「…………」
響。
「…………」
電。
「…………」
戦艦棲姫。
「何ダ」
暁。
指差す。
「これ」
鋼材系。
補給食。
「食べ物なの?」
「ソウダ」
雷。
別。
燃料系。
補給資材。
見る。
「こっちは?」
「補給用燃料」
響。
ボーキサイト系。
航空資材。
「これは?」
「航空資材」
四人。
顔。
見合わせる。
そして。
暁。
「……おにぎり」
戦艦棲姫。
「何?」
「おにぎりないの?」
戦艦棲姫。
沈黙。
雷。
「普通のご飯がいい!」
電。
「電もなのです」
響。
「同意」
「…………」
戦艦棲姫。
額。
押さえる。
「艦娘ダロ」
暁。
「だから」
「その艦娘って何なのよ!」
戦艦棲姫。
「…………」
言い返せない。
厨房。
向く。
「人間用ニ近イ」
「食料ハ?」
奥。
深海棲艦。
一体。
ごそ。
ごそ。
しばらく。
皿。
握り飯。
味噌汁。
漬物。
四人。
目。
輝く。
「おにぎり!」
暁。
一つ。
持つ。
ぱく。
「おいしい!」
雷。
「ほんと!」
電。
「ほっとするのです……」
響。
静かに。
食べる。
でも。
二口目。
少し。
速い。
戦艦棲姫。
見る。
四人。
普通。
あまりにも。
普通。
鋼材。
食べない。
燃料。
欲しがらない。
ボーキサイト。
興味。
なし。
握り飯。
喜ぶ。
味噌汁。
ふーふー。
冷ます。
雷。
漬物。
少し。
苦手そう。
暁。
「レディーは」
「好き嫌いしないのよ!」
その本人。
少し。
顔。
しかめる。
戦艦棲姫。
「…………」
嫌な。
予感。
確信へ。
近づく。
自分の知る。
艦娘では。
ない。
だが。
なら。
何だ?
食事。
終了。
戦艦棲姫。
四人。
再び。
連れていく。
今度。
歩ける。
鎮守府内。
廊下。
暁。
戦艦棲姫の。
少し。
後ろ。
雷。
左右。
きょろ。
きょろ。
響。
静か。
電。
暁の。
服。
少し。
掴む。
廊下。
その先。
一つの。
扉。
文字。
『提督室』
暁。
止まる。
「……ていとく」
戦艦棲姫。
「アア」
雷。
「でも」
扉。
見る。
「提督って」
「誰なの?」
戦艦棲姫。
答えない。
ただ。
扉。
見る。
何度。
この部屋を。
見ただろう。
用意。
されている。
机。
椅子。
海図。
作戦室。
でも。
提督。
いない。
五年間。
ずっと。
「……入ルゾ」
扉。
開く。
四人。
中。
そして。
固まる。
広い。
部屋。
中央。
大きな。
机。
その奥。
椅子。
誰も。
座っていない。
そして。
その周囲。
人。
いや。
人ではない。
女たち。
一人。
巨大な。
航空艤装。
冷たい。
瞳。
一人。
さらに。
異様な。
黒い。
航空兵装。
一人。
飛行場。
そのものを。
背負ったような。
巨大な。
異形艤装。
そして。
もう一人。
水。
深海。
その気配を。
纏う。
女。
世界の海。
少女たちを。
圧倒した。
存在。
その全員。
ここ。
いる。
暁。
「…………」
雷。
暁の。
腕。
掴む。
電。
響へ。
寄る。
響。
顔。
強張る。
「怖いお姉さん」
「いっぱい……」
戦艦棲姫。
「聞コエテルゾ」
暁。
「ご、ごめんなさい!」
一人の女。
少し。
笑う。
別の女。
興味。
薄そう。
飛行場のような。
異形。
四人を。
観察。
水の気配。
女。
何も。
言わない。
戦艦棲姫。
部屋。
中央へ。
「連レテキタ」
航空艤装の女。
四人を見る。
「……コレガ?」
「アア」
「最初ニ」
「現レタ」
「四人ダ」
黒い航空兵装。
女。
「幼イナ」
戦艦棲姫。
「見タ目ヨリ」
「モット幼イ」
暁。
少し。
むっと。
「暁は」
「一人前のレディーよ」
部屋。
少し。
沈黙。
戦艦棲姫。
「……ソウカ」
何故か。
否定。
しない。
そして。
四人。
見る。
「話シテモラウ」
暁。
「何を?」
戦艦棲姫。
誰も座っていない。
提督席。
一瞬。
見る。
「全部ダ」
「オ前達ガ」
「何者ナノカ」
「何処カラ」
「来タノカ」
「ドウヤッテ」
「ソノ姿ニナッタノカ」
「コノ世界デ」
「何ガ起キタノカ」
一拍。
「最初カラ」
「全部」
暁。
響。
雷。
電。
顔。
見合わせる。
怖い。
敵。
しかも。
ものすごく。
強い。
お姉さんたち。
でも。
さっきまで。
殺そうとしていた。
戦艦棲姫。
今。
殺気。
ない。
ただ。
知りたがっている。
暁。
小さく。
息。
吸う。
そして。
話し始める。
「……暁たちは」
一度。
言葉。
止める。
「幼稚園に」
「いたの」
人型深海棲艦たち。
誰も。
動かない。
戦艦棲姫。
目。
細める。
暁。
続ける。
「先生が」
「二人いて」
「みんなで」
「一緒にいたの」
深海鎮守府。
提督室。
本来。
艦娘と。
深海棲艦。
敵と。
敵。
絶対に。
同じ場所へ。
座るはずのない。
存在。
その両者が。
今。
誰もいない。
提督の部屋で。
一つの。
世界の真実を。
知ろうとしていた