暁たち四人が。
深海の底で。
自分たちのことを。
語り始めていた頃。
地上では。
別の戦いが。
始まっていた。
それは。
砲撃でも。
航空戦でもない。
傷ついた者を。
生かすための。
戦い。
そして。
忘れられた者たちが。
自分の選択を。
もう一度。
受け入れるための。
戦いだった。
世界中の海。
戦闘は。
いったん。
止んでいた。
だが。
その代わり。
海岸。
港。
軍港。
あちらこちらに。
少女たちが。
倒れていた。
艤装。
大破。
服。
破損。
身体。
傷だらけ。
意識。
ない者。
呼吸。
弱い者。
仲間に。
支えられて。
ようやく。
立っている者。
幸い。
轟沈。
確認されず。
だが。
重傷者。
多数。
人々は。
遠くから。
彼女たちを。
見ていた。
怖い。
当然だった。
昨日まで。
いなかった。
今日。
突然。
現れた。
海の上を。
走る。
少女たち。
深海棲艦と。
戦う。
人間なのか。
そうでないのか。
誰にも。
分からない。
だから。
近づけない。
ある海岸。
一人の少女が。
倒れた仲間の。
身体を。
抱えていた。
「お願い……!」
声。
掠れている。
「誰か」
「手を貸してください!」
人々。
動かない。
少女。
もう一度。
「お願いします!」
「この子」
「意識がないんです!」
「このままだと……!」
人々の中。
一人の女性が。
少女を見る。
少女も。
その女性を見る。
その瞬間。
胸。
締め付けられる。
知っている。
その顔。
忘れるはずがない。
何度も。
笑った。
何度も。
食卓を囲んだ。
何度も。
叱られた。
何度も。
抱き締められた。
母。
だった。
少女の。
喉。
震える。
呼びたい。
お母さん。
その一言。
言いたい。
でも。
言えない。
いや。
言っても。
意味がない。
母は。
自分を。
知らない。
「……お願いです」
少女。
必死に。
声を。
出す。
「この子を」
「助けてください」
母だった女性。
迷う。
そして。
一歩。
近づく。
「……何をすればいいの?」
少女。
息。
止まりそうになる。
その声。
変わらない。
なのに。
自分へ。
向けられる声は。
他人への。
声。
「ここ」
少女。
倒れた仲間の。
傷。
示す。
「圧迫してください」
「分かった」
女性。
膝。
つく。
それが。
きっかけだった。
一人。
また。
一人。
人々。
近づく。
「担架を!」
「救護所へ!」
「この子は?」
「脈あります!」
医師。
看護師。
軍人。
市民。
誰が。
誰なのか。
分からない。
それでも。
治療。
始まる。
別の場所。
一人の少女が。
腕に。
包帯を。
巻かれている。
その前。
若い男。
手。
震えながら。
包帯。
結ぶ。
「痛くない?」
少女。
笑う。
「大丈夫」
男。
少女を見る。
首を。
傾げる。
「……変だな」
少女の。
笑顔。
止まりそうになる。
「何が?」
「いや……」
男。
少女の。
顔を。
じっと。
「昔」
「どこかで」
「会ったことない?」
少女。
息。
止まる。
恋人。
だった。
約束。
した。
戦争が。
終わったら。
旅行へ。
行こう。
結婚。
その話も。
した。
全部。
自分は。
覚えている。
相手は。
覚えていない。
「…………」
少女の。
目。
熱くなる。
一度。
俯く。
そして。
笑う。
「いいえ」
男。
「……そう?」
「はい」
少女。
拳。
握る。
「初めまして」
男。
少し。
困ったように。
笑う。
「そっか」
そして。
包帯。
最後まで。
巻く。
「じゃあ」
「改めて」
少女を見る。
「助けてくれて」
「ありがとう」
少女。
耐えられない。
顔。
横へ。
「……どういたしまして」
声。
震える。
でも。
泣かない。
契約した時。
覚悟。
した。
忘れられる。
そう。
聞いた。
受け入れた。
でも。
今。
本当に。
忘れられて。
それでも。
守れてよかったと。
思う。
なら。
もう一度。
選ぶ。
この代償を。
今度は。
自分の意志で。
別の世界。
妖精。
その光景を。
見ていた。
「…………」
人間。
分からない。
前も。
そう。
思った。
でも。
今は。
少し。
違う。
契約した時。
勇気。
出した。
それだけなら。
まだ。
理解できた。
緊急。
だった。
誰かを。
助けるため。
必死。
だった。
でも。
今。
代償。
現実に。
なった。
家族。
自分を。
知らない。
恋人。
他人として。
話す。
友人。
知らない顔で。
見る。
それでも。
怒らない。
契約を。
恨まない。
守れてよかったと。
思っている。
妖精。
首。
傾げる。
「……人間って」
少し。
考える。
「代償を」
「払ったあとも」
「まだ」
「選び続けるんだ」
自分を。
失った。
それでも。
守る。
妖精。
胸。
小さく。
何か。
動く。
以前なら。
理解不能。
それだけ。
だった。
今は。
「……すごい」
小さく。
口から。
出た。
海軍基地。
その周辺。
海岸。
轟――!
海面。
大きく。
弾ける。
「遅い!」
長門。
声。
天龍。
砲撃。
避ける。
「くそっ!」
次。
翔鶴。
上空。
航空機。
「右上です!」
龍田。
即座。
回避。
機銃。
海面。
走る。
「危な……!」
長門。
腕。
組む。
「今ので」
「何度目だ」
天龍。
肩。
上下。
「数えてねぇよ!」
長門。
「なら」
「数える余裕を」
「作れ」
天龍。
「はぁ!?」
「戦場で」
「自分が」
「何をされたか」
「把握できない者から」
「死ぬ」
天龍。
黙る。
長門。
主砲。
天龍へ。
向ける。
「もう一度」
「待て待て待て!」
轟――!
天龍。
全力。
回避。
海面。
爆発。
「正面から」
「受けようとするな!」
長門。
怒鳴る。
「お前は戦艦ではない!」
天龍。
歯。
食いしばる。
「分かってるよ!」
「分かっていない!」
長門。
一歩。
海面。
踏む。
「戦艦相手に」
「軽巡が」
「正面から」
「殴り合ってどうする!」
天龍。
止まる。
長門。
「火力で」
「勝てない」
「装甲でも」
「勝てない」
「なら」
指。
天龍。
「勝てるところで」
「戦え」
天龍。
息。
整える。
龍田。
その横。
翔鶴の。
航空隊を。
避けながら。
近づく。
「二人で」
「動いてください!」
翔鶴。
上空。
指示。
「敵の意識を」
「一人に」
「集中させない!」
龍田。
「天龍ちゃん!」
「ああ!」
二人。
左右。
分かれる。
長門。
見る。
天龍。
正面。
龍田。
後方。
「そうだ」
長門。
小さく。
笑う。
「一撃で」
「倒そうとするな」
「敵を」
「見ろ」
「動きを」
「読め」
「自分より強い相手なら」
「なおさらだ」
天龍。
拳。
握る。
あの。
白い髪。
角。
戦艦棲姫。
一撃。
何も。
できなかった。
そして。
暁。
響。
雷。
電。
奪われた。
「……次は」
天龍。
低く。
「次に」
「あいつと会ったら」
艤装。
構える。
「絶対に」
「取り返す」
龍田。
笑顔。
ない。
「ええ」
その目。
冷たい。
「今度は」
「二度と」
「この子たちに」
「触らせません」
翔鶴。
二人を見る。
そして。
少し。
優しく。
「なら」
「もっと」
「強くならないと」
天龍。
「望むところだ!」
長門。
「休憩は」
「まだだぞ」
天龍。
「鬼か!」
長門。
少し。
考える。
「今は」
「それくらいで」
「ちょうどいい」
龍田。
「ふふ」
天龍。
「笑ってる場合じゃねぇ!」
それでも。
二人。
止まらない。
疲労。
傷。
残る。
でも。
四人。
必ず。
取り戻す。
そのため。
今。
戦う方法を。
身体へ。
叩き込んでいた。
深海鎮守府。
提督室。
暁。
話す。
「それで」
「先生が」
「血だらけで」
「倒れてて……」
部屋。
静か。
戦艦棲姫。
腕。
組む。
周囲。
人型の。
上位種。
誰も。
口を。
挟まない。
響。
続ける。
「妖精が」
「来た」
一人。
航空艤装の。
女。
眉。
動く。
「妖精……」
雷。
「先生を」
「助けられるって」
「みんなも」
「守れるって」
電。
「だから」
「お願いしたのです」
戦艦棲姫。
「……契約」
暁。
頷く。
「うん」
そして。
「代償が」
「あるって」
部屋。
空気。
少し。
変わる。
「代償?」
戦艦棲姫。
見る。
暁。
「前の」
「暁たちのことを」
「みんなが」
「忘れちゃうの」
「…………」
周囲。
誰も。
動かない。
響。
「家族も」
「友達も」
「先生も」
電。
「写真も」
「記録も」
雷。
「私たちが」
「そこにいたこと」
「全部」
「なくなるの」
沈黙。
長い。
沈黙。
戦艦棲姫。
四人を見る。
「…………」
片言。
出ない。
「……待て」
暁。
「?」
戦艦棲姫。
普通の。
日本語。
「今の話」
「本当なのか?」
四人。
頷く。
周囲。
上位種たち。
顔。
変わる。
黒い航空兵装を。
持つ女。
低く。
「そんな」
「システムは」
「知らない」
飛行場のような。
艤装を持つ女。
「人間を」
「消して」
「艦娘にする?」
水の気配を。
纏う女。
「……そんな」
「ルール」
「ない」
暁。
首。
傾げる。
「るーる?」
戦艦棲姫。
聞いていない。
自分の。
知っている。
世界。
艦娘。
建造。
ドロップ。
初期艦。
そのどこにも。
人間一人。
人生。
丸ごと。
消す。
そんな。
仕組み。
ない。
「……妖精」
戦艦棲姫。
小さく。
「何を」
「やってるんだ……」
周囲。
誰も。
答えない。
暁。
不安そうに。
戦艦棲姫を見る。
「お姉さん?」
戦艦棲姫。
四人。
見る。
四歳。
五歳。
その年齢で。
家族。
名前。
人生。
全部。
捨てた。
自分たちは。
それを。
知らず。
敵。
そう。
決めつけ。
戦った。
殺そうとした。
「…………」
戦艦棲姫。
目。
伏せる。
そして。
小さく。
「……本当に」
誰へ。
言うでもなく。
「何なんだ」
「この世界……」
暁たちは。
知らない。
深海棲艦たちも。
知らない。
妖精だけが。
少しずつ。
人間を。
知り始めている。
名前。
消える。
過去。
消える。
関係。
消える。
それでも。
残るものが。
ある。
誰かを。
守りたい。
気持ち。
一緒に。
いた。
記憶。
忘れられても。
大切だった。
事実。
そして。
もう一度。
立ち上がる。
意志。
それだけは。
世界から。
消えていなかった。