海を失った世界に、暁は来る   作:ぶるぶるメタボ

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第二十八章 それでも残るもの

暁たち四人が。

 

深海の底で。

 

自分たちのことを。

 

語り始めていた頃。

 

地上では。

 

別の戦いが。

 

始まっていた。

 

それは。

 

砲撃でも。

 

航空戦でもない。

 

傷ついた者を。

 

生かすための。

 

戦い。

 

そして。

 

忘れられた者たちが。

 

自分の選択を。

 

もう一度。

 

受け入れるための。

 

戦いだった。

 

世界中の海。

 

戦闘は。

 

いったん。

 

止んでいた。

 

だが。

 

その代わり。

 

海岸。

 

港。

 

軍港。

 

あちらこちらに。

 

少女たちが。

 

倒れていた。

 

艤装。

 

大破。

 

服。

 

破損。

 

身体。

 

傷だらけ。

 

意識。

 

ない者。

 

呼吸。

 

弱い者。

 

仲間に。

 

支えられて。

 

ようやく。

 

立っている者。

 

幸い。

 

轟沈。

 

確認されず。

 

だが。

 

重傷者。

 

多数。

 

人々は。

 

遠くから。

 

彼女たちを。

 

見ていた。

 

怖い。

 

当然だった。

 

昨日まで。

 

いなかった。

 

今日。

 

突然。

 

現れた。

 

海の上を。

 

走る。

 

少女たち。

 

深海棲艦と。

 

戦う。

 

人間なのか。

 

そうでないのか。

 

誰にも。

 

分からない。

 

だから。

 

近づけない。

 

ある海岸。

 

一人の少女が。

 

倒れた仲間の。

 

身体を。

 

抱えていた。

 

「お願い……!」

 

声。

 

掠れている。

 

「誰か」

 

「手を貸してください!」

 

人々。

 

動かない。

 

少女。

 

もう一度。

 

「お願いします!」

 

「この子」

 

「意識がないんです!」

 

「このままだと……!」

 

人々の中。

 

一人の女性が。

 

少女を見る。

 

少女も。

 

その女性を見る。

 

その瞬間。

 

胸。

 

締め付けられる。

 

知っている。

 

その顔。

 

忘れるはずがない。

 

何度も。

 

笑った。

 

何度も。

 

食卓を囲んだ。

 

何度も。

 

叱られた。

 

何度も。

 

抱き締められた。

 

母。

 

だった。

 

少女の。

 

喉。

 

震える。

 

呼びたい。

 

お母さん。

 

その一言。

 

言いたい。

 

でも。

 

言えない。

 

いや。

 

言っても。

 

意味がない。

 

母は。

 

自分を。

 

知らない。

 

「……お願いです」

 

少女。

 

必死に。

 

声を。

 

出す。

 

「この子を」

 

「助けてください」

 

母だった女性。

 

迷う。

 

そして。

 

一歩。

 

近づく。

 

「……何をすればいいの?」

 

少女。

 

息。

 

止まりそうになる。

 

その声。

 

変わらない。

 

なのに。

 

自分へ。

 

向けられる声は。

 

他人への。

 

声。

 

「ここ」

 

少女。

 

倒れた仲間の。

 

傷。

 

示す。

 

「圧迫してください」

 

「分かった」

 

女性。

 

膝。

 

つく。

 

それが。

 

きっかけだった。

 

一人。

 

また。

 

一人。

 

人々。

 

近づく。

 

「担架を!」

 

「救護所へ!」

 

「この子は?」

 

「脈あります!」

 

医師。

 

看護師。

 

軍人。

 

市民。

 

誰が。

 

誰なのか。

 

分からない。

 

それでも。

 

治療。

 

始まる。

 

別の場所。

 

一人の少女が。

 

腕に。

 

包帯を。

 

巻かれている。

 

その前。

 

若い男。

 

手。

 

震えながら。

 

包帯。

 

結ぶ。

 

「痛くない?」

 

少女。

 

笑う。

 

「大丈夫」

 

男。

 

少女を見る。

 

首を。

 

傾げる。

 

「……変だな」

 

少女の。

 

笑顔。

 

止まりそうになる。

 

「何が?」

 

「いや……」

 

男。

 

少女の。

 

顔を。

 

じっと。

 

「昔」

 

「どこかで」

 

「会ったことない?」

 

少女。

 

息。

 

止まる。

 

恋人。

 

だった。

 

約束。

 

した。

 

戦争が。

 

終わったら。

 

旅行へ。

 

行こう。

 

結婚。

 

その話も。

 

した。

 

全部。

 

自分は。

 

覚えている。

 

相手は。

 

覚えていない。

 

「…………」

 

少女の。

 

目。

 

熱くなる。

 

一度。

 

俯く。

 

そして。

 

笑う。

 

「いいえ」

 

男。

 

「……そう?」

 

「はい」

 

少女。

 

拳。

 

握る。

 

「初めまして」

 

男。

 

少し。

 

困ったように。

 

笑う。

 

「そっか」

 

そして。

 

包帯。

 

最後まで。

 

巻く。

 

「じゃあ」

 

「改めて」

 

少女を見る。

 

「助けてくれて」

 

「ありがとう」

 

少女。

 

耐えられない。

 

顔。

 

横へ。

 

「……どういたしまして」

 

声。

 

震える。

 

でも。

 

泣かない。

 

契約した時。

 

覚悟。

 

した。

 

忘れられる。

 

そう。

 

聞いた。

 

受け入れた。

 

でも。

 

今。

 

本当に。

 

忘れられて。

 

それでも。

 

守れてよかったと。

 

思う。

 

なら。

 

もう一度。

 

選ぶ。

 

この代償を。

 

今度は。

 

自分の意志で。

 

別の世界。

 

妖精。

 

その光景を。

 

見ていた。

 

「…………」

 

人間。

 

分からない。

 

前も。

 

そう。

 

思った。

 

でも。

 

今は。

 

少し。

 

違う。

 

契約した時。

 

勇気。

 

出した。

 

それだけなら。

 

まだ。

 

理解できた。

 

緊急。

 

だった。

 

誰かを。

 

助けるため。

 

必死。

 

だった。

 

でも。

 

今。

 

代償。

 

現実に。

 

なった。

 

家族。

 

自分を。

 

知らない。

 

恋人。

 

他人として。

 

話す。

 

友人。

 

知らない顔で。

 

見る。

 

それでも。

 

怒らない。

 

契約を。

 

恨まない。

 

守れてよかったと。

 

思っている。

 

妖精。

 

首。

 

傾げる。

 

「……人間って」

 

少し。

 

考える。

 

「代償を」

 

「払ったあとも」

 

「まだ」

 

「選び続けるんだ」

 

自分を。

 

失った。

 

それでも。

 

守る。

 

妖精。

 

胸。

 

小さく。

 

何か。

 

動く。

 

以前なら。

 

理解不能。

 

それだけ。

 

だった。

 

今は。

 

「……すごい」

 

小さく。

 

口から。

 

出た。

 

海軍基地。

 

その周辺。

 

海岸。

 

轟――!

 

海面。

 

大きく。

 

弾ける。

 

「遅い!」

 

長門。

 

声。

 

天龍。

 

砲撃。

 

避ける。

 

「くそっ!」

 

次。

 

翔鶴。

 

上空。

 

航空機。

 

「右上です!」

 

龍田。

 

即座。

 

回避。

 

機銃。

 

海面。

 

走る。

 

「危な……!」

 

長門。

 

腕。

 

組む。

 

「今ので」

 

「何度目だ」

 

天龍。

 

肩。

 

上下。

 

「数えてねぇよ!」

 

長門。

 

「なら」

 

「数える余裕を」

 

「作れ」

 

天龍。

 

「はぁ!?」

 

「戦場で」

 

「自分が」

 

「何をされたか」

 

「把握できない者から」

 

「死ぬ」

 

天龍。

 

黙る。

 

長門。

 

主砲。

 

天龍へ。

 

向ける。

 

「もう一度」

 

「待て待て待て!」

 

轟――!

 

天龍。

 

全力。

 

回避。

 

海面。

 

爆発。

 

「正面から」

 

「受けようとするな!」

 

長門。

 

怒鳴る。

 

「お前は戦艦ではない!」

 

天龍。

 

歯。

 

食いしばる。

 

「分かってるよ!」

 

「分かっていない!」

 

長門。

 

一歩。

 

海面。

 

踏む。

 

「戦艦相手に」

 

「軽巡が」

 

「正面から」

 

「殴り合ってどうする!」

 

天龍。

 

止まる。

 

長門。

 

「火力で」

 

「勝てない」

 

「装甲でも」

 

「勝てない」

 

「なら」

 

指。

 

天龍。

 

「勝てるところで」

 

「戦え」

 

天龍。

 

息。

 

整える。

 

龍田。

 

その横。

 

翔鶴の。

 

航空隊を。

 

避けながら。

 

近づく。

 

「二人で」

 

「動いてください!」

 

翔鶴。

 

上空。

 

指示。

 

「敵の意識を」

 

「一人に」

 

「集中させない!」

 

龍田。

 

「天龍ちゃん!」

 

「ああ!」

 

二人。

 

左右。

 

分かれる。

 

長門。

 

見る。

 

天龍。

 

正面。

 

龍田。

 

後方。

 

「そうだ」

 

長門。

 

小さく。

 

笑う。

 

「一撃で」

 

「倒そうとするな」

 

「敵を」

 

「見ろ」

 

「動きを」

 

「読め」

 

「自分より強い相手なら」

 

「なおさらだ」

 

天龍。

 

拳。

 

握る。

 

あの。

 

白い髪。

 

角。

 

戦艦棲姫。

 

一撃。

 

何も。

 

できなかった。

 

そして。

 

暁。

 

響。

 

雷。

 

電。

 

奪われた。

 

「……次は」

 

天龍。

 

低く。

 

「次に」

 

「あいつと会ったら」

 

艤装。

 

構える。

 

「絶対に」

 

「取り返す」

 

龍田。

 

笑顔。

 

ない。

 

「ええ」

 

その目。

 

冷たい。

 

「今度は」

 

「二度と」

 

「この子たちに」

 

「触らせません」

 

翔鶴。

 

二人を見る。

 

そして。

 

少し。

 

優しく。

 

「なら」

 

「もっと」

 

「強くならないと」

 

天龍。

 

「望むところだ!」

 

長門。

 

「休憩は」

 

「まだだぞ」

 

天龍。

 

「鬼か!」

 

長門。

 

少し。

 

考える。

 

「今は」

 

「それくらいで」

 

「ちょうどいい」

 

龍田。

 

「ふふ」

 

天龍。

 

「笑ってる場合じゃねぇ!」

 

それでも。

 

二人。

 

止まらない。

 

疲労。

 

傷。

 

残る。

 

でも。

 

四人。

 

必ず。

 

取り戻す。

 

そのため。

 

今。

 

戦う方法を。

 

身体へ。

 

叩き込んでいた。

 

深海鎮守府。

 

提督室。

 

暁。

 

話す。

 

「それで」

 

「先生が」

 

「血だらけで」

 

「倒れてて……」

 

部屋。

 

静か。

 

戦艦棲姫。

 

腕。

 

組む。

 

周囲。

 

人型の。

 

上位種。

 

誰も。

 

口を。

 

挟まない。

 

響。

 

続ける。

 

「妖精が」

 

「来た」

 

一人。

 

航空艤装の。

 

女。

 

眉。

 

動く。

 

「妖精……」

 

雷。

 

「先生を」

 

「助けられるって」

 

「みんなも」

 

「守れるって」

 

電。

 

「だから」

 

「お願いしたのです」

 

戦艦棲姫。

 

「……契約」

 

暁。

 

頷く。

 

「うん」

 

そして。

 

「代償が」

 

「あるって」

 

部屋。

 

空気。

 

少し。

 

変わる。

 

「代償?」

 

戦艦棲姫。

 

見る。

 

暁。

 

「前の」

 

「暁たちのことを」

 

「みんなが」

 

「忘れちゃうの」

 

「…………」

 

周囲。

 

誰も。

 

動かない。

 

響。

 

「家族も」

 

「友達も」

 

「先生も」

 

電。

 

「写真も」

 

「記録も」

 

雷。

 

「私たちが」

 

「そこにいたこと」

 

「全部」

 

「なくなるの」

 

沈黙。

 

長い。

 

沈黙。

 

戦艦棲姫。

 

四人を見る。

 

「…………」

 

片言。

 

出ない。

 

「……待て」

 

暁。

 

「?」

 

戦艦棲姫。

 

普通の。

 

日本語。

 

「今の話」

 

「本当なのか?」

 

四人。

 

頷く。

 

周囲。

 

上位種たち。

 

顔。

 

変わる。

 

黒い航空兵装を。

 

持つ女。

 

低く。

 

「そんな」

 

「システムは」

 

「知らない」

 

飛行場のような。

 

艤装を持つ女。

 

「人間を」

 

「消して」

 

「艦娘にする?」

 

水の気配を。

 

纏う女。

 

「……そんな」

 

「ルール」

 

「ない」

 

暁。

 

首。

 

傾げる。

 

「るーる?」

 

戦艦棲姫。

 

聞いていない。

 

自分の。

 

知っている。

 

世界。

 

艦娘。

 

建造。

 

ドロップ。

 

初期艦。

 

そのどこにも。

 

人間一人。

 

人生。

 

丸ごと。

 

消す。

 

そんな。

 

仕組み。

 

ない。

 

「……妖精」

 

戦艦棲姫。

 

小さく。

 

「何を」

 

「やってるんだ……」

 

周囲。

 

誰も。

 

答えない。

 

暁。

 

不安そうに。

 

戦艦棲姫を見る。

 

「お姉さん?」

 

戦艦棲姫。

 

四人。

 

見る。

 

四歳。

 

五歳。

 

その年齢で。

 

家族。

 

名前。

 

人生。

 

全部。

 

捨てた。

 

自分たちは。

 

それを。

 

知らず。

 

敵。

 

そう。

 

決めつけ。

 

戦った。

 

殺そうとした。

 

「…………」

 

戦艦棲姫。

 

目。

 

伏せる。

 

そして。

 

小さく。

 

「……本当に」

 

誰へ。

 

言うでもなく。

 

「何なんだ」

 

「この世界……」

 

暁たちは。

 

知らない。

 

深海棲艦たちも。

 

知らない。

 

妖精だけが。

 

少しずつ。

 

人間を。

 

知り始めている。

 

名前。

 

消える。

 

過去。

 

消える。

 

関係。

 

消える。

 

それでも。

 

残るものが。

 

ある。

 

誰かを。

 

守りたい。

 

気持ち。

 

一緒に。

 

いた。

 

記憶。

 

忘れられても。

 

大切だった。

 

事実。

 

そして。

 

もう一度。

 

立ち上がる。

 

意志。

 

それだけは。

 

世界から。

 

消えていなかった。

 

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