海を失った世界に、暁は来る   作:ぶるぶるメタボ

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第三十章 憎しむようつくられた

「私たちは」

 

「たぶん」

 

「ゲームの外側に」

 

「来てしまったんだ」

 

戦艦棲姫の。

 

その言葉を最後に。

 

提督室は。

 

静かになった。

 

暁。

 

響。

 

雷。

 

電。

 

四人とも。

 

何を言えばいいのか。

 

分からなかった。

 

ゲーム。

 

自分たちの世界。

 

深海棲艦。

 

艦娘。

 

提督。

 

本来なら。

 

存在するはずだったもの。

 

存在しないもの。

 

子供たちには。

 

難しすぎる。

 

話だった。

 

ただ。

 

一つだけ。

 

分かった。

 

目の前にいる。

 

怖いお姉さんたちも。

 

全部を。

 

知っているわけではない。

 

むしろ。

 

自分たちと同じように。

 

分からなくなっている。

 

「……じゃあ」

 

暁が。

 

小さく。

 

口を開いた。

 

戦艦棲姫が。

 

顔を上げる。

 

「ゲームじゃないって」

 

「分かったんでしょ?」

 

「ああ」

 

「人が死んだら」

 

「戻ってこないのも」

 

「……分かった」

 

暁。

 

少しだけ。

 

安心したように。

 

息を吐く。

 

「だったら」

 

「もう」

 

「戦わなくていいんだよね?」

 

戦艦棲姫の。

 

表情が。

 

止まった。

 

周囲にいる。

 

人型の深海棲艦たちも。

 

何も。

 

言わない。

 

暁。

 

その沈黙に。

 

不安になる。

 

「……違うの?」

 

戦艦棲姫。

 

目を。

 

伏せる。

 

そして。

 

「できない」

 

「え?」

 

雷が。

 

身を乗り出す。

 

「なんでよ!」

 

「もうゲームじゃないって」

 

「分かったんでしょ!?」

 

「それでも」

 

戦艦棲姫。

 

静かに。

 

「戦いを」

 

「やめることはできない」

 

四人。

 

理解できない。

 

「どうして?」

 

響。

 

戦艦棲姫を見る。

 

「戦いたくないって」

 

「さっき言った」

 

「ああ」

 

「人間のことも」

 

「本当は嫌いじゃないって」

 

「ああ」

 

「なら」

 

響。

 

「やめればいい」

 

単純。

 

でも。

 

当然の答え。

 

戦艦棲姫は。

 

しばらく。

 

何も言わなかった。

 

やがて。

 

自分の胸へ。

 

手を当てる。

 

「……憎いんだ」

 

暁。

 

「え?」

 

「人間が」

 

声。

 

少しだけ。

 

震える。

 

「憎い」

 

「艦娘が」

 

「憎い」

 

四人。

 

固まる。

 

戦艦棲姫は。

 

続ける。

 

「何かをされたからじゃない」

 

「家族を殺されたわけでもない」

 

「大切なものを」

 

「奪われたわけでもない」

 

「理由なんて」

 

「何一つない」

 

握った拳。

 

力。

 

入る。

 

「それでも」

 

「人間を見ると」

 

「殺したくなる」

 

暁の肩が。

 

びくりと。

 

震えた。

 

「艦娘を見ると」

 

「沈めたくなる」

 

電。

 

怯えたように。

 

響へ。

 

寄る。

 

「敵だ」

 

「殺せ」

 

「沈めろ」

 

「海から」

 

「消してしまえ」

 

戦艦棲姫。

 

苦しそうに。

 

「ずっと」

 

「奥の方から」

 

「そういう感情が」

 

「湧いてくる」

 

雷。

 

恐る恐る。

 

「お姉さんも……?」

 

「私もだ」

 

即答。

 

「今だって」

 

四人。

 

見る。

 

暁。

 

息を呑む。

 

「頭では」

 

「分かっている」

 

「お前たちは」

 

「私に何もしていない」

 

「むしろ」

 

少し。

 

苦い顔。

 

「私たちが」

 

「お前たちの世界を」

 

「滅茶苦茶にした」

 

「それも」

 

「分かっている」

 

「それでも」

 

目。

 

一瞬。

 

赤く。

 

揺らぐ。

 

「消えない」

 

「…………」

 

戦艦棲姫。

 

一度。

 

目を閉じる。

 

呼吸。

 

整える。

 

そして。

 

目を開く。

 

さっきまで。

 

滲んでいた。

 

危険な何か。

 

消えている。

 

「こうやって」

 

「理性で」

 

「押さえているだけだ」

 

暁。

 

小さな声。

 

「ずっと……?」

 

「ああ」

 

「五年間?」

 

「ああ」

 

「そんなに……」

 

周囲。

 

巨大な航空艤装を持つ女が。

 

ゆっくり。

 

口を開く。

 

「私たちの中でも」

 

「理性が強い個体は」

 

「まだ耐えられる」

 

雷。

 

「あの……」

 

「私たちみたいな?」

 

「違う」

 

戦艦棲姫。

 

「私たち」

 

自分たちを。

 

指す。

 

「姫級」

 

そして。

 

周囲。

 

「鬼級」

 

暁。

 

首を傾げる。

 

「ひめ?」

 

電。

 

「おに?」

 

戦艦棲姫。

 

「深海棲艦の中でも」

 

「特に強い個体だ」

 

「力が強い」

 

「考える力も」

 

「他より強い」

 

「だから」

 

「内側から湧いてくる」

 

「憎悪にも」

 

「ある程度」

 

「抗うことができる」

 

響。

 

「イ級たちは?」

 

「難しい」

 

「ヌ級も?」

 

「同じだ」

 

戦艦棲姫。

 

苦い表情。

 

「命令で」

 

「止めることはできる」

 

「だが」

 

「憎しみそのものを」

 

「消してやることはできない」

 

「…………」

 

「溜まる」

 

「ずっと」

 

「少しずつ」

 

「そして」

 

「いつか」

 

「耐えられなくなる」

 

電。

 

小さく。

 

「それじゃあ……」

 

「みんな」

 

「いつか」

 

「そうだ」

 

戦艦棲姫。

 

「暴走する可能性がある」

 

暁。

 

五年間。

 

思い出す。

 

海。

 

何も。

 

してこなかった。

 

怪物たち。

 

「でも」

 

「五年間は」

 

「襲ってこなかったよ?」

 

戦艦棲姫。

 

空席の。

 

提督席を見る。

 

「待たせていたからだ」

 

「……?」

 

「もう少し待て」

 

「提督が来る」

 

「艦娘が来る」

 

「そうすれば」

 

「戦える」

 

「憎しみを」

 

「ぶつける相手が来る」

 

「だから」

 

「それまで耐えろ」

 

「そう言って」

 

「何とか」

 

「押さえていた」

 

響。

 

「それで」

 

「五年」

 

「ああ」

 

戦艦棲姫。

 

疲れたように。

 

「だが」

 

「限界だった」

 

部屋。

 

また。

 

静かになる。

 

雷。

 

しばらく。

 

考える。

 

そして。

 

ふと。

 

「あれ?」

 

全員。

 

雷を見る。

 

「あの空襲は?」

 

戦艦棲姫。

 

表情。

 

変わる。

 

雷。

 

続ける。

 

「ヌ級が」

 

「いっぱい出て」

 

「世界中を」

 

「攻撃したやつ」

 

「あれも」

 

「ゲームを始めるため?」

 

「…………」

 

戦艦棲姫。

 

すぐには。

 

答えない。

 

暁。

 

嫌な予感。

 

「違うの?」

 

「……違う」

 

戦艦棲姫。

 

短く。

 

「本来」

 

「攻撃する予定だったのは」

 

「日本の」

 

「一部地域だけだった」

 

四人。

 

「え?」

 

「お前たち」

 

暁たちを見る。

 

「最初の艦娘が」

 

「確認された場所」

 

「そこへ」

 

「限定的な攻撃を行い」

 

「提督を」

 

「表へ出す」

 

「その程度の」

 

「予定だった」

 

響。

 

「でも」

 

「世界中」

 

「攻撃された」

 

「ああ」

 

戦艦棲姫。

 

拳。

 

握る。

 

「あれは」

 

「一体の鬼級が」

 

「独断でやった」

 

暁。

 

「おにきゅう……?」

 

「私たちと」

 

「同じ上位個体だ」

 

「だが」

 

「そいつは」

 

「耐えられなかった」

 

戦艦棲姫。

 

低い声。

 

「憎悪に」

 

「飲まれた」

 

四人。

 

黙る。

 

「あいつは」

 

「人類全部を」

 

「敵だと判断した」

 

「提督も」

 

「艦娘も」

 

「出てこないなら」

 

「先に」

 

「全部焼けばいい」

 

「そう」

 

「考えた」

 

電。

 

震える。

 

「それで……」

 

「世界中の」

 

「街を……?」

 

「そうだ」

 

「配下のヌ級へ」

 

「命令を出した」

 

「私たちが」

 

「気づいた時には」

 

「もう」

 

「攻撃が始まっていた」

 

暁。

 

顔。

 

俯く。

 

燃える。

 

街。

 

幼稚園。

 

避難所。

 

お婆さん。

 

全部。

 

思い出す。

 

「……その人」

 

雷。

 

声。

 

険しい。

 

「今は?」

 

「処分した」

 

四人。

 

顔。

 

上げる。

 

「私が」

 

戦艦棲姫。

 

「轟沈させた」

 

「今は」

 

「海の底で」

 

「再生している途中だ」

 

雷。

 

「また」

 

「生き返るの?」

 

「ああ」

 

雷。

 

顔。

 

歪む。

 

「じゃあ」

 

「また同じこと」

 

「するかもしれないじゃない!」

 

「可能性はある」

 

戦艦棲姫。

 

否定しない。

 

「だから」

 

「再生したら」

 

「私たちで監視する」

 

一度。

 

目を伏せる。

 

「ただ」

 

「勘違いするな」

 

四人。

 

見る。

 

「あいつ一人が」

 

「悪かったわけじゃない」

 

「え?」

 

「あの憎悪は」

 

戦艦棲姫。

 

自分の胸へ。

 

手。

 

「私にもある」

 

周囲の。

 

女たち。

 

「ここにいる」

 

「全員にも」

 

「イ級にも」

 

「ヌ級にも」

 

「ル級にも」

 

「リ級にも」

 

「全員に」

 

「ある」

 

「たまたま」

 

「あいつが」

 

「先に壊れただけだ」

 

電。

 

「じゃあ」

 

「お姉さんも」

 

「いつか……?」

 

「分からない」

 

静か。

 

でも。

 

恐ろしい。

 

答え。

 

「今日かもしれない」

 

「明日かもしれない」

 

「百年後かもしれない」

 

「永遠に」

 

「耐えられるかもしれない」

 

「私にも」

 

「分からない」

 

暁。

 

戦艦棲姫を見る。

 

あの時。

 

胸倉を。

 

掴まれた。

 

怒った。

 

顔。

 

その奥。

 

疲れ。

 

恐怖。

 

今。

 

少し。

 

分かった。

 

この人。

 

自分自身が。

 

怖い。

 

「だから」

 

戦艦棲姫。

 

「停戦は」

 

「できない」

 

「…………」

 

「今日」

 

「私が」

 

「人間を襲わないと」

 

「約束したとしても」

 

「明日」

 

「その約束を」

 

「守れる保証がない」

 

「他の深海棲艦も」

 

「同じだ」

 

「和睦など」

 

「できる状態ではない」

 

暁。

 

悲しそうに。

 

「じゃあ」

 

「ずっと」

 

「戦うの?」

 

「終わらせる方法は」

 

戦艦棲姫。

 

提督席を見る。

 

「一つだけ」

 

「私たちが」

 

「知っている」

 

「何?」

 

響。

 

「提督を」

 

「倒すことだ」

 

四人。

 

「…………」

 

また。

 

その言葉。

 

提督。

 

戦艦棲姫。

 

続ける。

 

「ゲームでは」

 

「プレイヤーである」

 

「提督を倒せば」

 

「私たちの役割は」

 

「終わる」

 

「少なくとも」

 

「そういう」

 

「終着点がある」

 

雷。

 

「でも」

 

「この世界には」

 

「提督なんて」

 

「いないんでしょ?」

 

「そうだ」

 

戦艦棲姫。

 

力なく。

 

「だから」

 

「困ってる」

 

四人。

 

何も。

 

言えない。

 

「提督が」

 

「いない」

 

「なら」

 

戦艦棲姫。

 

自嘲するように。

 

「私たちは」

 

「いつまで」

 

「敵を」

 

「やっていればいい?」

 

暁。

 

胸。

 

痛くなる。

 

おかしい。

 

この人たちは。

 

自分たちの街を。

 

壊した。

 

たくさん。

 

人を。

 

殺した。

 

先生たちを。

 

傷つけた。

 

暁たちを。

 

戦わせることになった。

 

許せない。

 

本当なら。

 

怖いだけの。

 

悪い怪物。

 

そう。

 

思っていた。

 

でも。

 

今。

 

目の前の。

 

戦艦棲姫。

 

とても。

 

疲れている。

 

戦いたくない。

 

でも。

 

憎い。

 

憎みたくないのに。

 

憎い。

 

終わりたい。

 

でも。

 

終わる方法がない。

 

暁には。

 

全部。

 

理解できない。

 

ただ。

 

苦しそう。

 

それだけは。

 

分かった。

 

「……ごめんなさい」

 

戦艦棲姫。

 

目。

 

上げる。

 

「何?」

 

暁。

 

泣いていた。

 

「暁……」

 

「お姉さんたちは」

 

「ただの」

 

「悪い人だって」

 

「思ってた」

 

戦艦棲姫。

 

何も。

 

言わない。

 

「だって」

 

「街を壊したし」

 

「みんなを」

 

「いっぱい」

 

「傷つけたから……」

 

「それは」

 

「間違ってない」

 

戦艦棲姫。

 

「私たちは」

 

「お前たちにとって」

 

「加害者だ」

 

「謝るのは」

 

「お前じゃない」

 

「私たちの方だ」

 

「でも……」

 

暁。

 

涙。

 

拭う。

 

「嫌なのに」

 

「やってたって」

 

「知らなかった」

 

雷。

 

俯く。

 

「私」

 

「戦うのやめてって」

 

「簡単に言った」

 

「でも」

 

「やめたくても」

 

「やめられないんでしょ……?」

 

戦艦棲姫。

 

「ああ」

 

響。

 

静かに。

 

「戦ってほしくない」

 

「それは」

 

「今も変わらない」

 

「うん」

 

戦艦棲姫。

 

「変えなくていい」

 

響。

 

続ける。

 

「でも」

 

「お姉さんたちが」

 

「好きでやっているわけじゃない」

 

「それは」

 

「分かった」

 

電。

 

ずっと。

 

黙っていた。

 

そして。

 

一歩。

 

前。

 

戦艦棲姫。

 

気づく。

 

「……何をする?」

 

電。

 

さらに。

 

一歩。

 

「来るな」

 

電。

 

止まる。

 

戦艦棲姫。

 

目。

 

険しく。

 

「今」

 

「話しただろ」

 

「私の中には」

 

「お前を」

 

「敵だと」

 

「思う感情がある」

 

「完全には」

 

「消せない」

 

「だから」

 

「不用意に」

 

「近づくな」

 

電。

 

怖い。

 

足。

 

震える。

 

目の前。

 

長門たちを。

 

簡単に。

 

倒した。

 

怪物。

 

本気を。

 

出されたら。

 

自分なんて。

 

簡単に。

 

殺される。

 

それでも。

 

また。

 

一歩。

 

「電」

 

暁。

 

「大丈夫なの?」

 

電。

 

泣きながら。

 

頷く。

 

「でも」

 

戦艦棲姫。

 

「来るな!」

 

声。

 

強い。

 

電。

 

身体。

 

跳ねる。

 

それでも。

 

止まらない。

 

戦艦棲姫。

 

一歩。

 

後ろへ。

 

「おい」

 

電。

 

目の前。

 

そして。

 

抱きついた。

 

「…………」

 

戦艦棲姫。

 

完全に。

 

固まった。

 

周囲。

 

人型深海棲艦たち。

 

全員。

 

固まる。

 

電。

 

小さな腕。

 

戦艦棲姫の。

 

身体へ。

 

回している。

 

「お前……」

 

戦艦棲姫。

 

手。

 

行き場。

 

なく。

 

浮く。

 

「何を」

 

「お姉さんも」

 

電。

 

声。

 

震える。

 

「苦しかったのですね……」

 

戦艦棲姫。

 

目。

 

見開く。

 

「…………何?」

 

「嫌なのに」

 

「ずっと」

 

「戦わないと」

 

「いけなくて」

 

「終わりたくても」

 

「終われなくて」

 

電。

 

ぎゅ。

 

少し。

 

強く。

 

「ずっと」

 

「我慢してたのですね……」

 

「…………」

 

戦艦棲姫。

 

理解。

 

できない。

 

この子は。

 

自分たちに。

 

人生を。

 

壊された。

 

家族から。

 

忘れられた。

 

幼稚園。

 

失った。

 

命懸けで。

 

戦った。

 

自分は。

 

その子を。

 

さっき。

 

殺そうとした。

 

なのに。

 

何故。

 

自分を。

 

慰めている?

 

「……私は」

 

戦艦棲姫。

 

掠れた声。

 

「お前の」

 

「敵だぞ」

 

「はいなのです」

 

「お前を」

 

「殺したいという感情も」

 

「私の中には」

 

「あるんだぞ」

 

電。

 

小さく。

 

震える。

 

「怖いのです」

 

戦艦棲姫。

 

「なら!」

 

「でも」

 

電。

 

顔。

 

上げる。

 

涙。

 

いっぱい。

 

それでも。

 

「お姉さんが」

 

「自分で」

 

「それを止めようとしてるのも」

 

「分かったのです」

 

戦艦棲姫。

 

何も。

 

言えない。

 

暁。

 

その光景。

 

見る。

 

そして。

 

鼻。

 

啜る。

 

「……暁も」

 

戦艦棲姫。

 

「は?」

 

暁。

 

近づく。

 

「ちょ」

 

抱きつく。

 

反対側。

 

「おい!」

 

雷。

 

「だったら私も!」

 

「待て!」

 

三人目。

 

響。

 

最後。

 

少しだけ。

 

迷う。

 

そして。

 

「……仕方ない」

 

四人目。

 

戦艦棲姫。

 

四方向。

 

囲まれる。

 

「…………」

 

周囲。

 

姫。

 

鬼。

 

上位の。

 

深海棲艦たち。

 

呆然。

 

空母型の女。

 

小さく。

 

「何だ」

 

「これは……」

 

誰も。

 

答えられない。

 

暁。

 

戦艦棲姫。

 

抱きながら。

 

「戦うのは」

 

「やめてほしい」

 

「今でも」

 

「そう思ってる」

 

戦艦棲姫。

 

「……ああ」

 

「死んじゃった人も」

 

「戻ってこない」

 

「暁たちの」

 

「前のことも」

 

「戻らない」

 

「……ああ」

 

暁。

 

涙。

 

「だから」

 

「許したわけじゃないよ」

 

戦艦棲姫。

 

少し。

 

目。

 

見開く。

 

「うん」

 

響。

 

「でも」

 

「事情は」

 

「分かった」

 

雷。

 

「全部は」

 

「分からないけどね!」

 

電。

 

「お姉さんたちも」

 

「苦しんでいることは」

 

「少し」

 

「分かったのです」

 

「…………」

 

戦艦棲姫。

 

手。

 

まだ。

 

宙。

 

浮いている。

 

どうすれば。

 

いい?

 

抱き返す?

 

そんな。

 

行動。

 

設定。

 

ない。

 

敵を。

 

殺す。

 

艦娘を。

 

沈める。

 

そういう。

 

行動なら。

 

分かる。

 

でも。

 

自分を。

 

怖がっている。

 

子供を。

 

抱き返す。

 

そんな。

 

命令。

 

どこにも。

 

ない。

 

だから。

 

戦艦棲姫は。

 

初めて。

 

自分で。

 

考えた。

 

そして。

 

恐る恐る。

 

手。

 

下ろす。

 

四人の。

 

小さな背中へ。

 

触れる。

 

「…………」

 

何も。

 

起こらない。

 

憎悪。

 

まだ。

 

ある。

 

消えていない。

 

殺せ。

 

敵だ。

 

沈めろ。

 

奥。

 

声。

 

する。

 

でも。

 

その声より。

 

今。

 

腕の中。

 

四人。

 

温かい。

 

「……人間って」

 

戦艦棲姫。

 

小さく。

 

「分からないな」

 

暁。

 

戦艦棲姫の。

 

服。

 

掴んだまま。

 

「暁も」

 

「お姉さんたちのこと」

 

「まだ」

 

「よく分からないよ」

 

「そうか」

 

「うん」

 

「……なら」

 

戦艦棲姫。

 

ほんの少し。

 

笑った。

 

「同じだな」

 

その言葉。

 

深海棲艦として。

 

決められた。

 

台詞ではなかった。

 

誰かに。

 

書かれた。

 

設定でも。

 

なかった。

 

戦艦棲姫自身が。

 

初めて。

 

人間へ。

 

向けて選んだ。

 

言葉だった。

 

提督室。

 

誰も座らない。

 

椅子。

 

その前。

 

敵と。

 

敵。

 

だったはずの。

 

存在。

 

戦争。

 

まだ。

 

終わらない。

 

憎しみも。

 

消えていない。

 

死んだ人も。

 

戻らない。

 

許されても。

 

いない。

 

それでも。

 

ほんの少し。

 

互いを。

 

知った。

 

憎しむように。

 

作られた者たちが。

 

初めて。

 

その憎しみとは。

 

別の感情を。

 

自分自身で。

 

選び始めていた。

 

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