海が。
鳴った。
いや。
世界そのものが。
何かを。
認めたように。
低く。
深く。
響いた。
そして。
その瞬間。
世界中。
海の上。
陸の上。
救護所。
軍港。
海岸。
まだ傷を。
抱えたまま。
休んでいた。
少女たちの。
頭の中へ。
同じ声が。
流れ込んだ。
『提督が』
『鎮守府に』
『着任しました』
「……え?」
誰かが。
顔を上げる。
『これより』
『艦隊の』
『指揮を』
『執ります』
赤城。
弓を。
握ったまま。
目を。
見開く。
加賀。
静かだった。
その表情。
僅かに。
変わる。
金剛。
「提督……?」
扶桑。
胸へ。
手を。
当てる。
天龍。
海岸。
長門たちと。
浮上した。
巨大な鎮守府を。
見上げていた。
そして。
その声を。
聞いた。
『全艦隊』
一拍。
『鎮守府に』
『集結してください』
瞬間。
「なっ――」
天龍。
身体。
光。
包む。
龍田。
「天龍ちゃん!」
翔鶴。
長門。
同じ。
世界中。
少女たち。
一斉。
輪郭。
揺らぐ。
「待て!」
長門。
声。
遅い。
視界。
ノイズ。
ザッ――。
そして。
消える。
次。
天龍。
目を。
開く。
「……どこだ」
そこは。
広大な。
広場。
石畳。
建物。
埠頭。
倉庫。
工廠。
鎮守府。
だが。
「広すぎるだろ……」
龍田。
周囲。
見回す。
見渡す限り。
少女。
少女。
また。
少女。
扶桑。
山城。
龍驤。
球磨。
多摩。
最上。
赤城。
加賀。
蒼龍。
飛龍。
雪風。
金剛。
比叡。
榛名。
霧島。
利根。
筑摩。
伊19。
伊168。
伊58。
伊8。
そして。
名前を。
まだ。
互いに。
知らない。
数え切れない。
少女たち。
世界中から。
集まっている。
「……外から見たより」
翔鶴。
小さく。
「はるかに」
「広いですね」
長門。
空間。
見渡す。
「物理的な」
「広さではない」
「何か」
「別の仕組みで」
「内部が」
「拡張されているのか……?」
天龍。
「そんなこと」
「どうでもいい!」
顔。
上げる。
「暁たちは!」
「どこだ!」
その声。
広場。
響く。
その時。
鎮守府本館。
巨大な。
扉。
ゆっくり。
開く。
全員。
そちら。
見る。
そして。
固まる。
中から。
歩いてくる。
白い髪。
角。
青白い肌。
戦艦棲姫。
その後ろ。
世界各地で。
少女たちを。
圧倒した。
人型の。
深海棲艦たち。
「……っ!」
扶桑。
反射的に。
主砲。
向ける。
金剛。
「You……!」
赤城。
弓。
構える。
加賀。
矢。
番える。
天龍。
一歩。
前。
「てめぇ……!」
龍田。
笑顔。
消える。
長門。
主砲。
展開。
翔鶴。
弓。
引く。
そして。
その。
戦艦棲姫の。
腕。
そこ。
「……え?」
天龍。
目。
見開く。
暁。
響。
雷。
電。
四人。
抱きかかえられている。
そして。
四人の。
頭。
それぞれ。
同じ。
制帽。
艦隊司令官を。
思わせる。
提督帽。
「暁!」
「響!」
「雷!」
「電!」
天龍。
駆け出す。
龍田も。
「その子たちを」
「返して!」
同時。
「撃て!」
別方向。
誰か。
叫ぶ。
「今なら」
「陸上だ!」
「海上より」
「こちらに」
「勝機がある!」
「この前の」
「借りを返す!」
主砲。
上がる。
航空機。
展開。
魚雷。
装填。
それを。
見た。
深海棲艦側。
反応。
空母型。
艤装。
開く。
飛行場型。
航空隊。
展開。
潜水型。
足元。
影。
揺れる。
姫級。
鬼級。
一斉。
迎撃。
寸前。
戦艦棲姫。
眉。
寄せる。
「待――」
その時。
「やめて!!」
暁。
叫んだ。
瞬間。
世界。
止まる。
「……え?」
天龍。
足。
止まる。
いや。
止めた。
のではない。
動かない。
身体。
完全に。
固まっている。
「なんだ……?」
龍田。
腕。
動かない。
長門。
主砲。
引き金。
引けない。
翔鶴。
弦。
引いたまま。
指。
離れない。
扶桑。
金剛。
赤城。
全員。
同じ。
身体。
まるで。
見えない。
鎖。
絡みついたように。
動かない。
「……嘘」
雷。
暁。
四人。
自分たち。
見る。
そして。
周囲。
見る。
「……暁が」
「止めたの?」
戦艦棲姫。
顔。
青ざめる。
「…………」
響。
自分の。
手。
見る。
「今の」
「命令?」
戦艦棲姫。
ゆっくり。
四人を見る。
「……そうだ」
四人。
固まる。
電。
「命令……?」
戦艦棲姫。
苦い顔。
「提督の」
「命令だ」
暁。
顔。
青ざめる。
「ち、違う!」
「暁」
「そんなつもりじゃ!」
雷。
「取り消す!」
「みんな」
「動いて――」
「待て」
戦艦棲姫。
低い声。
「言うな」
暁。
「でも!」
「今」
戦艦棲姫。
周囲の。
動けない。
少女たち。
見る。
「こいつらが」
「強制的に」
「止まっている」
「今しかない」
響。
「何が?」
「全員に」
「聞かせる」
戦艦棲姫。
四人。
見る。
「お前たちが」
「知ったことを」
「全部」
暁。
息。
止まる。
「……でも」
「やるしかない」
戦艦棲姫。
「そうでなければ」
「また」
「戦いになる」
暁。
天龍を見る。
天龍。
動けない。
でも。
目。
必死。
「暁……」
声。
出る。
「無事」
「だったんだな……」
暁。
目。
潤む。
「先生……」
龍田。
「話は」
「あとで」
「全部」
「聞くから」
「まず」
「こっちに」
「おいで」
暁。
答えられない。
戦艦棲姫。
四人を。
ゆっくり。
床へ。
下ろす。
四人。
並ぶ。
頭。
提督帽。
大きい。
少し。
ずれている。
それが。
余計に。
幼く。
見える。
暁。
一歩。
前。
「みんな」
声。
震える。
「聞いて」
広場。
世界中の。
少女たち。
動けないまま。
四人を見る。
「ここは」
「鎮守府って」
「いうところなんだって」
長門。
目。
細める。
暁。
続ける。
「提督と」
「艦娘が」
「いるところ」
ざわ。
声だけ。
広がる。
「艦娘?」
「今」
「何と?」
暁。
「暁たち」
「みんな」
「艦娘って」
「いうんだって」
天龍。
顔。
険しい。
暁。
そして。
自分の。
帽子。
触る。
「それで」
「暁たち四人は」
一度。
唇。
噛む。
「提督に」
「なっちゃった」
広場。
完全な。
沈黙。
長門。
目。
見開く。
翔鶴。
口元。
手。
「四人で……?」
暁。
頷く。
「よく」
「分からないの」
「寝てたら」
「何かが」
「暁たちを」
「提督だって」
「決めちゃった」
響。
「四人で」
「一人分みたい」
雷。
「だから」
「さっき」
「やめてって言ったら」
「みんな」
「動けなくなった」
電。
泣きそう。
「ごめんなさいなのです……」
天龍。
「謝んな!」
声。
強い。
「お前らが」
「悪いわけじゃねぇ!」
暁。
涙。
こらえる。
「それから」
「もっと」
「聞いてほしいことがあるの」
戦艦棲姫。
後ろ。
黙って。
立つ。
暁。
話す。
ゲーム。
艦隊これくしょん。
深海棲艦は。
その中の。
敵役。
本当は。
人間も。
艦娘も。
特別。
憎んでいなかったこと。
でも。
敵として。
作られたため。
理由もなく。
憎悪が。
湧き続けること。
五年前。
海を奪った。
それから。
提督と。
艦娘が。
現れるのを。
待ったこと。
五年間。
待ち続けたこと。
そして。
限界。
来たこと。
世界空爆。
本来。
予定では。
なかったこと。
鬼級。
一体。
憎悪へ。
飲まれ。
暴走。
世界中へ。
攻撃。
命令。
出したこと。
その個体。
今。
轟沈。
再生中。
「……そんな」
誰か。
呟く。
天龍。
戦艦棲姫。
睨む。
「信じろってのか?」
戦艦棲姫。
答える。
「信じろとは」
「言わない」
「ただ」
「全部」
「事実だ」
暁。
続ける。
「それから」
「深海棲艦は」
「死んでも」
「生き返るんだって」
ざわめき。
「でも」
「人が」
「死んだら」
「戻らないって」
「お姉さんたちは」
「知らなかった」
戦艦棲姫。
顔。
伏せる。
「今は」
「知ってる」
暁。
「だから」
「暁たち」
「もう」
「戦わないでって」
「お願いした」
電。
小さく。
「でも」
「すぐには」
「できないのです」
響。
「深海棲艦の中には」
「人間や」
「艦娘を」
「憎む感情が」
「ずっと」
「ある」
雷。
「自分でも」
「止められないくらい」
「強いんだって」
「姫とか」
「鬼っていう」
「強い人たちは」
「何とか」
「我慢できるけど」
「他の子たちは」
「いつか」
「耐えられなくなるかもしれない」
長門。
目。
閉じる。
全て。
繋がる。
天龍。
歯。
噛む。
「じゃあ」
「結局」
「戦争は」
「続くってことかよ」
暁。
俯く。
「……うん」
一拍。
「でも」
顔。
上げる。
「終わらせる」
天龍。
「……何?」
暁。
四人。
見る。
響。
雷。
電。
全員。
頷く。
暁。
もう一度。
前。
見る。
「ゲームを」
「終わらせる」
長門。
嫌な。
予感。
「どうやって」
暁。
答え。
すぐには。
出ない。
唇。
震える。
雷。
手。
握る。
電。
目。
潤む。
響。
暁の。
手。
掴む。
四人。
手。
繋ぐ。
そして。
暁。
「提督を」
声。
掠れる。
「深海棲艦が」
「倒せば」
広場。
空気。
止まる。
「ゲームは」
「終わるんだって」
天龍。
顔。
変わる。
「…………は?」
暁。
涙。
溢れる。
「だから」
「暁たちは」
「決めたの」
「このゲームを」
「終わらせる」
「みんな」
「もう」
「戦わなくて」
「いいように」
「もう」
「誰も」
「死なないように」
雷。
泣きながら。
「私たちが」
「提督なら」
電。
「私たちが」
「終わらせれば」
響。
「終わる」
暁。
最後。
「だから」
「暁たちは」
「深海棲艦に」
「殺してもらう」
「――ふざけんな!!!」
天龍。
絶叫。
身体。
動かない。
それでも。
動かす。
「ぐっ……!」
筋肉。
軋む。
関節。
悲鳴。
「天龍ちゃん!」
龍田。
同じ。
無理矢理。
腕。
動かす。
「そんな」
「命令」
「聞けませんよ……!」
暁。
「先生……」
天龍。
一歩。
足。
動く。
ほんの。
数センチ。
それだけ。
なのに。
皮膚。
裂ける。
血。
足元。
落ちる。
「命令だから」
「止まれって?」
もう一歩。
「知るかよ……!」
「俺は」
「先生なんだぞ!」
龍田。
膝。
震える。
それでも。
前。
「提督だろうと」
「何だろうと」
「園児を」
「死なせる先生なんて」
「先生じゃ」
「ありません……!」
長門。
歯。
食いしばる。
「身体」
「動け!」
肩。
震える。
「私は」
「何のために」
「あの子たちに」
「頭を下げた!」
翔鶴。
指。
少しずつ。
動かす。
「暁ちゃんたちが」
「死ぬために」
「私たちは」
「ここへ」
「来たわけでは」
「ありません……!」
扶桑。
山城。
赤城。
加賀。
金剛。
全員。
同じ。
命令。
絶対。
それでも。
身体。
壊しながら。
動こうとする。
暁。
泣く。
「やめて!」
瞬間。
全員。
さらに。
強く。
止まる。
天龍。
膝。
落ちる。
「っ……!」
暁。
両手。
口。
押さえる。
「ごめんなさい!」
「ごめんなさい……!」
戦艦棲姫。
暁。
見る。
苦しい。
自分も。
分かる。
提督。
見つかった。
終了条件。
成立。
五年間。
待った。
やっと。
終われる。
なのに。
その提督は。
暁。
響。
雷。
電。
抱きしめられた。
四人。
自分を。
敵だと。
知りながら。
苦しんでいたのですね。
そう。
言った。
四人。
「戦艦棲姫」
後ろ。
声。
別の。
人型。
上位種。
一人。
前へ。
出る。
「条件ハ」
「整ッタ」
戦艦棲姫。
「…………」
「終ワラセル」
暁。
その女を。
見る。
怖い。
足。
震える。
でも。
逃げない。
響。
隣。
雷。
電。
四人。
並ぶ。
天龍。
「やめろ……」
声。
掠れる。
「頼む」
「やめてくれ……」
女。
暁たちの。
前。
立つ。
腕。
上げる。
その腕。
人間の。
首。
簡単に。
断てる。
暁。
目。
閉じる。
「……先生」
天龍。
「暁!」
「ごめんね」
響。
目。
閉じる。
雷。
涙。
頬。
電。
震えながら。
三人の。
手。
握る。
「みんな」
「一緒なのです」
戦艦棲姫。
顔。
歪む。
「…………」
腕。
振り上がる。
天龍。
全身。
無理矢理。
動かそうとする。
筋肉。
裂ける。
血。
「やめろおおおおおおおおッ!!!」
女の。
腕。
振り下ろされた。