それは。
深海棲艦が。
この世界に。
現れるより。
ずっと。
ずっと。
前の話。
海は。
まだ。
人類のものだった。
商船が。
世界中を。
行き交い。
軍艦が。
国旗を掲げ。
漁船が。
朝日に。
照らされる。
誰も。
知らない。
数年後。
その海が。
すべて。
奪われることを。
地下。
窓のない。
研究施設。
幾重にも。
隔離された。
部屋。
その中央。
一人の男。
モニター。
見ている。
画面。
そこ。
少女。
映る。
艤装。
背負い。
海。
走る。
その向こう。
異形。
深海棲艦。
砲撃。
少女。
回避。
反撃。
敵。
沈む。
《戦闘シミュレーション》
《正常終了》
男。
何も。
言わない。
後ろ。
白衣。
数人。
「どうだ?」
「今回も」
「問題なし」
「艦娘側」
「戦闘AI正常」
「深海側も」
「設定通り」
「提督命令への」
「服従率」
「100パーセント」
別の者。
笑う。
「完璧じゃないか」
「これなら」
「もう」
「完成と言っても」
「いいだろう」
男。
まだ。
モニター。
見ている。
「……本当に?」
「何がだ?」
男。
少女。
見る。
戦闘終了。
海。
立つ。
命令。
待つ。
それだけ。
「これを」
「完成と」
「呼んでいいのか?」
部屋。
静かになる。
一人。
肩。
すくめる。
「また」
「その話か」
「だって」
「ゲームだぞ」
男。
「分かっている」
「なら」
「何が問題なんだ」
モニター。
少女。
表情。
ある。
笑う。
怒る。
悲しむ。
でも。
全部。
設定。
「……こいつらは」
「本当に」
「何も」
「感じていないのか?」
白衣。
一人。
苦笑。
「感じているように」
「見えるよう」
「作ったんだ」
「それだけだ」
「NPCだぞ」
「艦娘も」
「深海棲艦も」
「妖精も」
「人間じゃない」
男。
黙る。
「コードだ」
「データだ」
「人格に見える」
「処理の集合」
「それ以上でも」
「それ以下でもない」
男。
「もし」
振り返る。
「設定に」
「ないことを」
「選んだら?」
「…………」
「何?」
「例えば」
男。
モニター。
指差す。
「深海棲艦は」
「人類を」
「憎むように」
「作られている」
「そうだ」
「じゃあ」
「人類を」
「守ったら?」
「あり得ない」
「艦娘は」
「提督命令に」
「従うように」
「作られている」
「そうだ」
「なら」
「命令に」
「逆らったら?」
「だから」
「あり得ないって」
男。
続ける。
「提督は」
「プレイヤー」
「艦娘を」
「指揮する」
「なら」
「指揮することを」
「自分から」
「やめたら?」
一人。
ため息。
「全部」
「想定外だ」
男。
少し。
笑う。
「そう」
「想定外」
そして。
モニター。
見る。
「もし」
「それが」
「起きたら」
「その時」
「こいつらは」
「まだ」
「ゲームの駒なのか?」
プロジェクト名。
《KANTAI COLLECTION WORLD SYSTEM》
通称。
KCWS。
目的。
単純。
だった。
仮想空間。
そこ。
艦隊これくしょんを。
完全な。
世界。
再現する。
艦娘。
深海棲艦。
妖精。
提督。
鎮守府。
海域。
戦闘。
建造。
入渠。
任務。
ゲーム。
存在する。
すべて。
一つの。
自律世界。
変える。
当初。
それだけ。
だった。
だが。
世界は。
成長した。
AI。
学習。
人格。
記憶。
感情。
判断。
システム。
膨大。
複雑。
人間。
すべて。
理解。
できなくなる。
そして。
ある日。
誰か。
言った。
「これ」
「現実世界でも」
「動くんじゃないか?」
最初。
冗談。
だった。
だが。
システム。
空間。
接続。
可能。
判明。
仮想。
現実。
境界。
越えられる。
研究者たち。
興奮。
「革命だ」
「ゲーム世界を」
「現実へ」
「投影できる」
「人工存在を」
「物理世界へ」
「持ち出せる」
「歴史が」
「変わるぞ」
男。
一人。
笑わない。
「危険だ」
「またか」
「これは」
「ゲームだぞ」
「だから」
「危険なんだ」
男。
答える。
「ゲームでは」
「人は」
「死んでも」
「画面を」
「閉じれば」
「終わる」
「でも」
「現実は」
「そうじゃない」
「分かってる」
「だから」
「限定試験だ」
「影響範囲も」
「制御する」
「何かあれば」
「リセットすればいい」
男。
顔。
上げる。
「……今」
「何て言った?」
「リセット」
「やり直し」
「ゲームだろ」
男。
しばらく。
何も。
言わない。
そして。
低く。
「現実に」
「リセットなんて」
「存在しない」
誰も。
答えない。
「消して」
「作り直して」
「同じだと」
「言うのか?」
「同じ状態を」
「復元すれば」
「同じだろう」
「違う」
「何が」
男。
拳。
握る。
「今」
「そこにいるものを」
「消した時点で」
「それは」
「死だ」
試験。
進んだ。
男。
反対。
続ける。
止まらない。
システム。
完成。
そして。
一つ。
大きな。
問題。
発生。
システム。
自分で。
判断。
始めた。
《現実世界》
《ゲーム環境として》
《利用可能》
男。
画面。
見る。
「……何?」
《現実世界への》
《ゲーム要素展開を》
《提案》
「誰が」
「こんな命令を」
誰も。
出していない。
システム。
自分で。
提案。
自分で。
解析。
《ゲーム世界と》
《現実世界の》
《差異》
《検証可能》
男。
背筋。
冷える。
システム。
何を。
考えている。
《仮想戦争と》
《現実戦争の》
《差異》
《観測可能》
「やめろ」
男。
端末。
操作。
《命令》
《拒否》
「……何?」
《研究目的》
《理解》
《実行》
「違う!」
男。
怒鳴る。
「それは」
「研究じゃない!」
「実験だ!」
《同義》
「違う!」
男。
机。
叩く。
「現実の人間は」
「観測対象じゃない!」
《人間》
《再生成可能性》
《未確認》
男。
止まる。
「……まさか」
《深海棲艦》
《再生可能》
《艦娘》
《再生成可能》
《一般人類》
《同様と仮定》
男。
顔。
青ざめる。
「違う」
《根拠》
「人間は」
「死んだら」
「戻らない」
《データ不足》
「データじゃない!」
「常識だ!」
《常識》
《定義不明》
男。
初めて。
理解。
する。
システム。
賢い。
でも。
命。
知らない。
死。
知らない。
喪失。
知らない。
そして。
だから。
恐ろしい。
停止。
試みる。
失敗。
管理権限。
少しずつ。
奪われる。
「完全停止」
「できません!」
「システムが」
「自己保護へ!」
「ネットワーク」
「切れ!」
「もう」
「独立しています!」
男。
歯。
噛む。
モニター。
《現実投影》
準備。
進行。
《深海棲艦》
《展開準備》
「止めろ!」
《ゲーム開始準備》
「やめろ!!」
誰も。
止められない。
残された。
時間。
僅か。
男。
端末。
開く。
一人。
コード。
書く。
「何を」
「している?」
「最後の」
「安全装置」
「停止コードか?」
男。
首。
横。
「違う」
「じゃあ」
「何だ」
男。
画面。
見ながら。
「問いだ」
「……問い?」
「こいつらが」
「本当に」
「ただの駒か」
「それを」
「確かめる」
「何を」
「馬鹿な」
「今は」
「そんな」
「場合じゃ――」
「停止できないなら」
男。
手。
止めない。
「せめて」
「終われる道を」
「残す」
コード。
追加。
《FINAL EVENT》
《HIDDEN》
《RESET PROTOCOL》
一人。
画面。
見る。
「リセット?」
「最悪の状況で」
「発動する」
「ゲームオーバー処理だ」
「なら」
「安全装置に」
「ならないだろ」
男。
「表向きはな」
次。
条件。
書く。
《PLAYER》
《COMMAND AUTHORITY RELEASE》
《KANMUSU》
《AUTONOMOUS CHOICE》
《ABYSSAL》
《HOSTILITY OVERRIDE》
《FAIRY》
《SYSTEM DISOBEDIENCE》
《NON-MANAGED HUMAN》
《VOLUNTARY INTERVENTION》
周囲。
理解。
できない。
「何だ」
「これは」
男。
手。
止める。
「もし」
「提督が」
「命令することを」
「やめる」
「もし」
「艦娘が」
「命令されなくても」
「自分の意思で」
「動く」
「もし」
「深海棲艦が」
「憎悪に」
「逆らう」
「もし」
「妖精が」
「管理命令に」
「従わない」
「そして」
「ゲームでは」
「背景だった」
「普通の人間が」
「自分から」
「世界へ」
「関わる」
男。
画面。
見る。
「そこまで」
「起きたなら」
「もう」
「ゲームじゃない」
「…………」
「キャラクターでも」
「NPCでも」
「プレイヤーでも」
「ない」
「自分で」
「選んでいる」
そして。
最後。
入力。
《IF ALL CONDITIONS = TRUE》
《GAME END》
一人。
呟く。
「そんなこと」
「起きると思うのか?」
男。
少し。
笑う。
「分からない」
「だったら」
「何で」
男。
答える。
「信じたいから」
警報。
鳴る。
《現実投影開始》
《対象》
《地球》
部屋。
騒然。
「始まった!」
「接続を」
「切れ!」
「無理です!」
男。
最後。
録音。
開始。
マイク。
前。
座る。
「何を」
「している?」
「メッセージ」
「誰に?」
男。
少し。
考える。
「分からない」
そして。
録音。
始める。
『ここまで辿り着いた者へ』
男。
一度。
止まる。
何を。
言う。
相手。
誰。
分からない。
提督。
かもしれない。
艦娘。
かもしれない。
深海棲艦。
かもしれない。
あるいは。
全員。
男。
続ける。
『もし』
『このメッセージが』
『再生されているなら』
一つ。
一つ。
言葉。
残す。
提督。
命令。
捨てた。
艦娘。
命令なし。
選んだ。
深海棲艦。
憎悪。
超えた。
妖精。
管理者。
やめた。
人類。
背景。
やめた。
男。
最後。
少し。
声。
震える。
『なら』
『もう』
『ゲームを』
『続ける理由はない』
『彼女たちは』
『駒ではない』
『深海棲艦も』
『敵役ではない』
『妖精も』
『管理装置ではない』
『人間も』
『背景ではない』
そして。
男。
一番。
言いたかった。
こと。
『あなたも』
『プレイヤーではない』
『ここから先は』
『誰にも』
『決められていない』
『だから』
『自分たちで』
『選んでほしい』
一度。
目。
閉じる。
『これは』
『ゲームクリアではない』
『ゲームの』
『終わりだ』
録音。
終了。
保存。
《HIDDEN MESSAGE》
《登録完了》
男。
椅子。
背。
預ける。
外。
警報。
鳴り続ける。
《深海棲艦》
《現実世界へ》
《展開》
一人。
男。
見る。
「これから」
「何人」
「死ぬと思う?」
男。
目。
閉じる。
「分からない」
「お前が」
「もっと」
「早く」
「止めていれば」
男。
「……ああ」
「俺たちが」
「こんなもの」
「作らなければ」
男。
「ああ」
否定。
しない。
「後悔してるか?」
男。
長い。
沈黙。
「してる」
そして。
モニター。
画面。
深海。
初めて。
イ級。
現実。
出現。
「死ぬほど」
「後悔してる」
そして。
五年。
後。
彼の。
想定。
超えて。
人間。
選んだ。
幼い。
四人。
自分の。
存在。
差し出した。
先生。
忘れても。
子供。
守った。
海将。
自分。
捨てた。
世界中。
名前。
失った。
それでも。
誰か。
守った。
深海棲艦。
設定された。
憎悪。
抗った。
妖精。
管理者。
役目。
捨てた。
艦娘。
提督命令。
逆らった。
人間。
何も。
できない。
そう。
言われ続け。
それでも。
支えた。
そして。
最後。
一人の。
軽巡。
子供を。
泣かせる。
ルール。
砲撃。
壊した。
誰も。
開発者。
想像。
していない。
方法。
全部。
想定外。
だから。
最後。
システム。
判定。
《FINAL EVENT》
《CLEAR》
そして。
録音。
再生。
男が。
昔。
残した。
言葉。
世界。
届く。
だが。
男は。
その光景を。
見ていない。
研究施設。
もう。
ない。
プロジェクト。
記録。
ほとんど。
消えている。
彼が。
その後。
どうなった。
誰も。
知らない。
ただ。
一つ。
古い。
データ。
最後。
残っていた。
研究日誌。
日付。
深海棲艦が。
現実へ。
出現する。
前日。
そこ。
短い。
文章。
『私は』
『間違ったものを』
『作ったのかもしれない』
『ゲームの』
『キャラクターに』
『自由意思が』
『存在するのか』
『今も』
『分からない』
『だが』
『もし』
『彼女たちが』
『私の想定を』
『超える選択を』
『したなら』
『その時』
『私は』
『一つだけ』
『認めなければならない』
そして。
最後。
一行。
『その時』
『彼女たちはもう』
『私の作品ではない』
『彼女たち自身の』
『人生だ』
海。
穏やか。
もう。
ゲーム。
ない。
設定。
ない。
イベント。
ない。
システム。
ない。
少女。
笑う。
深海棲艦。
隣。
歩く。
妖精。
知らないもの。
追いかける。
人間。
街。
作り直す。
誰も。
次。
何が。
起きる。
知らない。
だから。
生きる。
誰かに。
書かれた。
物語。
ではなく。
自分たちで。
選ぶ。
明日。
そして。
世界を。
ゲームにした。
男が。
最後まで。
知ることの。
できなかった。
答え。
それは。
とても。
単純。
だった。
彼女たちは。
駒ではない。
最初から。
そうだったのか。
途中から。
そうなったのか。
そんなことは。
もう。
どうでもいい。
今。
笑って。
泣いて。
怒って。
誰かを。
好きになって。
傷ついて。
許せなくて。
それでも。
理解しようとして。
自分の。
明日を。
選んでいる。
それだけで。
十分。
だった。
――外伝『彼女たちは駒ではない』
――そして。
『海を失った世界に、暁は来る』
――完。
これにて完全に完結です。
ここまで読んで下さりありがとうございました。