停電が直る。
目を開けると、私はピンク色の空間で膝を抱えて座っていた。
立ち上がる。
歩く。
歩く。
歩く。
歩く。
……歩いて。
周りを見渡してみる。
棚も何もない。
テディベアも何もない。
黒い髪の少女も白い髪の少女も見当たらない。
ただ私がこここにいる。
レジのカウンターがある。
一面が薄いピンクの空間が無機質に広がる。
さっきまでお化けだったりテディベアで賑わっていた。
それが、今、誰もいなくなった。
私は手に持っているハートを見る。
“有効期限:あなた次第!”
バーコードリーダーでバーコードを読み取る。
ピッ、という音と共に目の前に黄色の扉が出現する。
私は扉を開けて中へ入った。
鏡に映っていたのは白いワンピースをきた少女だった。
髪は白い。
場所は黄色い浴槽。
目を閉じる。
鏡に映っていたのは白いワンピースを着た少女だった。
髪は白く、目はピンクで、背中に白い翼を生やしている。
場所は純白のプール。
目を閉じる。
鏡に映っていたのは制服を着こなす少女だった。
髪は黒く、ブレザーは前を開けている。
場所は暗い学校の廊下。
目を閉じる。
鏡に映っていたのは黄色い防護服を着た少女だった。
息をする度に視界が白く曇る。
場所は赤い光に包まれた病院の廊下。
目を閉じる。
鏡に映っていたのは白いスーツを着た少女だった。
髪は白く、背中に白い翼を生やし、頭上に黄色い輪がある。
場所はパソコンだらけのオフィス。
目を閉じる。
鏡に映っていたのは薄いピンクのパジャマを着た少女だった。
髪は黒く、片手に風船を持っている。
場所は赤い光に包まれたホームセンター。
目を閉じる。
鏡に映っていたのは水色の上着を着た少女だった。
髪は黒く、体のあちこちを赤く染めている。
場所は無人のシブヤの交差点の真ん中で、トラックが横転している。
目を閉じる。
鏡に映っていたのは宮女の制服を着た少女だった。
髪は黒く、ヘッドホンとスマホを持っている。
場所は教室のセカイで、誰かが私の後ろにいる。
目を閉じる。
鏡に映っていたのは顔の無い男性だった。
なんの特徴もない私服を着ている。
場所は黄色い廊下で、少し臭くて、うるさい。
後ろに針金で作った人形が立っている。
目を開ける。
鏡に映っていたのは全体的に黒い印象の少女。
髪は黒く、白い帽子と黒いネクタイをつけている。
場所は白いドアと幾つかの空間。
パソコンのソフトを起動すると、書きかけの絵があった。
それに線を加えると、部屋が完成した。
目の前に黄色い部屋のミニチュアがある。
一個ずつドミノを置いていく。
倒すと、それらは倒れることを延々と繰り返す。
目の前にキーボード。
鍵盤を叩くと、意味もなく音が反響した。
目の前にドラム。
叩いてみると、意味もなく音を刻む。
手にはベース。
弾いてみると、低い音が無意味に響く。
夢から覚めると、私は眠りにつく。
目がまだ冴えているのか、眠りにつけず、そのまま部屋の灯りを点ける。
すると、部屋の全体が明るく染まる。
パソコンで文字を打つ。
そういえば辞書で調べていた言葉があった。
Found Footage
バーコードリーダーで読み込んでみると白いドアが開く。
その輝きに刺され、曖昧に思考のままにドアの外へ踏み出す。
何もないようで何かがある。
知らない情報はどんどん知っている情報になっていく。
何も想像がまとまっていない。
思いついたものが乱雑に入れられては開花していく。
夢の中に囚われているような、でもしっかり起きているような。
生きているような死んでいるような。
不思議な感覚のままに望遠鏡を覗く。
レンズに映ったのはいつか見たしし座流星群。
美しいその景色が私を取り戻していく。
スマホを取り出す。
Untitledは名前を変えて再生されていた。
再生ボタンに向いた矢印の先には“exit”と書かれている。
私は迷うことなく、ボタンを押した。
ドミノが倒れていく。
それに連動して、道中の色んな空間が暗くなって消えていく。
浴槽が消える。
プールが消える。
学校が消える。
病院が消える。
オフィスが消える。
ホームセンターが消える。
バックヤードが消える。
裏部屋も、なくなる。
そして最後に、私は黄色い浴槽の中心に突っ立っていた。
目の前にはミクがいる。
「長かった?」
「……ようにも感じるし、そうでもなかった気もする」
「そっか」
「ねぇミク……ううん、IA」
「なぁに?」
「ここって結局なんだったの?」
「さぁ、私にも分からないよ」
「そっか」
「でも、もしかしたら……
想いや想像の墓場って言えるかもね」
「……貴方は」
聞く前に、視界が暗転する。
世界は、色を取り戻した。
……酷い夢を、見ていた気がする。
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